こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント)のブログ別館。1,500字程度の読書記録の集まり。

久繁哲之介『商店街再生の罠―売りたいモノから、顧客がしたいコトへ』―「レトロ商店街」、「テーマパーク型商店街」などは十中八九失敗する


商店街再生の罠:売りたいモノから、顧客がしたいコトへ (ちくま新書)商店街再生の罠:売りたいモノから、顧客がしたいコトへ (ちくま新書)
久繁 哲之介

筑摩書房 2013-08-07

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 著者は地方自治体から商店街活性化の仕事を随分と請け負っているようだが、本書の中で行政の担当者を滅多切りにしている。商店街を活性化しなければならないと口では言いながら、通勤する時はマイカー通勤で商店街を見ることもなく、昼には市役所の安い食堂で食事を済ませる。著者を招いた勉強会の後には、商店街で懇親会をするのではなく、市役所の会議室でウーロン茶で乾杯をする(マイカー通勤をしているためである)。こんな市役所の担当者に商店街のことが解るわけがない、彼らが立てる商店街活性化計画など、役所にありがちな美しい文章にすぎないと味噌くそに言っている。一応、著者にとって行政は顧客にあたるはずなのだが、その顧客をここまでけなすということは、仕事を切られてもいいと思うほどはらわたが煮えくり返る経験をしたのだろう。

 著者は、最近の商店街活性化の取り組みのうち、「レトロ商店街」、「テーマパーク型商店街」、「B級グルメ商店街」の事例をことごとく批判している。私も著者の考えには基本的に賛成である。

製品・サービスの4分類(大まかな分類)

製品・サービスの4分類(各象限の具体例)

 ブログ本館の記事「【シリーズ】現代アメリカ企業戦略論」などで私が頻繁に用いている上図に従うと、商店街は左下の<象限①>に該当する。ところが、商店街をレトロ商店街化するといった取り組みは、簡単に言えば商店街を観光地化しようとするものであるから、商店街を<象限①>から<象限③>に移行させる取り組みである。何度も書いている通り、<象限③>はイノベーションの領域であり、顧客の需要を一から創造しなければならない。資金力のある企業が多数のエバンジェリスト(伝道者)を派遣し、自社のイノベーションの魅力を訴求して、顧客を洗脳する。イノベーションが成功を収めれば莫大な富を手にすることができる。イノベーターは、成功した後は市場からさっさと身を引き、悠々自適のセカンドライフを送る。しかし、そんなことができるイノベーターはごく少数である。

 自らがイノベーションを創出する代わりに、イノベーションのプラットフォームを用意するという選択肢もある。GoogleやAppleのスマートフォンアプリ、定額音楽配信サービスのプラットフォームなどがその代表例である。そして、無数のイノベーションをランキング化し、何が顧客にとって最良のイノベーションかを顧客自身に決めさせる。イノベーション単体の寿命よりも、プラットフォームの寿命の方が長いため、賢いイノベーターはこのプラットフォーム型の戦略に転向している。

 仮にも「地域商店街活性化法(商店街の活性化のための地域住民の需要に応じた事業活動の促進に関する法律)」が「地域住民の生活の向上及び交流の促進に寄与してきた商店街」として、永続的存続を前提としている商店街を<象限③>の博打にさらすのは、私にとっては狂気の沙汰としか思えない。また、前述のプラットフォーム型の戦略も万能ではない。プラットフォーム自体が寿命を迎えることがあるためだ。例えば、今日本ではB級グルメのグランプリが各地で開催されており、商店街がこぞってB級グルメを出品しているが、ランクインするB級グルメが「焼きそば」に偏っていることを著者は本書の中で指摘している。そのランキングを見た人々は、早晩B級グルメから離れていくことだろう。このように、商店街のビジネスは<象限③>と非常に相性が悪いのである。

 商店街は原点に戻って、<象限①>のビジネスに徹するべきである。<象限①>は必需品の領域であるから、顧客ニーズが顕在化しているし、人口や世帯数によって市場規模もある程度見える。だから、やるべきことをやっていれば、<象限③>ほどの派手な成功はなくとも、成果は後からついてくる。ここで言う「やるべきこと」とは、顧客の生の声に耳を傾ける、競合他社を観察し弱点を発見する、自社の差別化要因をはっきりさせるといった、ビジネスとしては当たり前のことに他ならない。本書では「リピート客を作る5つの方法」が紹介されていたのて引用しておく。これすらできないと言う商店街は、座して死を待つのみである。

 ①【顧客の不満】
  店へ何回行っても、大勢の中の無名な一人として扱われる。
 ⇒【顧客ニーズ】
  「常連客(できれば、たった一人の私)」として接客されたい。
 ⇒【リピート客を作る方法例】
  いつも、ご来店ありがとうの気持ちが伝わる「言葉と表情」を示す。

 ②【顧客の不満】
  商品の価値は値段しか書かれていない。売りたい下心しか伝わってこない。
 ⇒【顧客ニーズ】
  商品価値を、顧客ごとの立場・生活シーンに即して伝えてほしい。
 ⇒【リピート客を作る方法例】
  顧客情報(購入履歴、会話履歴)を踏まえて、顧客ごとに商品価値説明や利用方法提案を示す。さらに、顧客情報を踏まえた仕入・生産を行い、メールや電話で「あなたに相応しい商品が入りましたよ」と連絡するとなおよい。

 ③【顧客の不満】
  店に入りにくい(ほしいものがなかった場合、何も買わずに店を出にくい)。
 ⇒【顧客ニーズ】
  気軽に入店したい(必ず、何かを買うわけではない)。
 ⇒【リピート客を作る方法例】
  「試着や試食をして、気に入ったら買ってください」という情報発信を行う。

 ④【顧客の不満】
  少量・一品では買いにくい。
 ⇒【顧客ニーズ】
  少量・一つでも気兼ねなく買いたい。
 ⇒【リピート客を作る方法例】
  少量・一つでも喜んで売りますという情報発信を行う。

 ④【顧客の不満】
  惣菜など揚げ物・焼き物のでき上がり時間が解らない。
 ⇒【顧客ニーズ】
  でき立ての美味しい状態で食べたい。
 ⇒【リピート客を作る方法例】
  でき上がり時間を店舗掲示や店員の声かけなどで伝える。

辻井啓作『なぜ繁栄している商店街は1%しかないのか』―商店街の組合は商店街全体のマーケティング部門になれないか?


なぜ繁栄している商店街は1%しかないのかなぜ繁栄している商店街は1%しかないのか
辻井 啓作

CCCメディアハウス 2013-11-27

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 腐っても中小企業診断士である私は、同業の診断士が書いた本に対してはどうしても厳しい目を向けてしまうという悪癖がある。本書でも、内容が矛盾している箇所を3か所見つけてしまった。

 1つ目は、著者が個別商店や企業の経営を手伝う場合には、「いかに差別化して、心理的な独占状態を作り出し、高い値段で売るか」を重視していると言うのに対し、別の箇所では商店街が物価の安定に貢献していると述べていることである。一般に、スーパーマーケットは商店街よりも安い価格で商品を販売しているというイメージが定着している。だが、スーパーマーケットにも得手不得手があって、必ずしも低価格ではない商品もある。商店街の個店はそこに目をつけて、その商品を低価格で販売する。すると、別の個店もその価格につられて値下げをする。この繰り返しによって適正な価格競争が生まれるというのである。これは、著者が言っている経営支援の方向性とは正反対である。

 2つ目は、既存の商店と新規の商店の関係である。著者は、既存の商店にはあまり期待していないようである。これまで成長できなかった商店が簡単に成長してよい店になることはまずないとはっきり断言している。著者は商店街の意義を、若者が起業しやすい場を提供できることに認めている。意欲のある若者が空き店舗などを利用して創業し、その地域でよい店になれば、その店に惹きつけられるようにして新たな創業が誘発されるというわけである。ところが、本書の最後は、新規の店舗が繁盛店になることができるのならば、既存の店舗にもできないはずがないといった言葉で締めくくられている。これは明らかに変な話である。

 以上の2つはまだ”軽微な”矛盾である。私が最大の矛盾と感じたのは、商店街振興組合とは別に、商店街活性化組織(本書では「商店街エリア活性化機構(仮称)」とされている)を立ち上げ、様々なイベントを実施して商店街への注目を高め、新たな出店を促すと述べている箇所である。私はそれほど商店街支援の経験があるわけではないのだが、商店街のイベントには相当否定的である。

 たいていの商店街では、組合の役員が、単に昔からやっているからという理由で、あるいはもっとひどいケースになると行政が補助金を出してくれるからという理由で、イベントを手弁当で実施している。こんなイベントが成功するはずがない。それでも善意ある商店はイベントに協力して、イベントの日には特別に商品を仕入れたりする。だが、このことは逆に言えば、その商店には商店街に来る人がほしいと思う商品が普段置かれていないことを暴露しているのに等しい。

 こんなイベントを専門とする部隊を立ち上げたところで、一体何になると言うのか?組合の役員がやりたがらないイベントを単にアウトソーシングしているだけではないのか?もちろん、周到に企画されたイベントであれば、商店街内の回遊性を高め、顧客に商店街の価値を認識してもらい、商店街のファンを増やすことも可能かもしれない。しかし、そういうイベントをどのように企画すればよいかについては一切論じられていない。組合との利害を断ち切るために、組合とは別組織にして、外部から専門家を引っ張ってくるべきだとしか書かれていない。

 私は常々、商店街の経営はショッピングセンターの経営を参考にできないものかと考えている。ショッピングセンターの場合、運営会社がテナントに対して経営支援を行うのが普通である。商店街の組合も、役員がイベントや会報の発行を手弁当で行うボランティアみたいな組織から、個店の経営支援を行うマーケティング部門へと脱皮できないだろうか?言うまでもないことだが、企業経営には市場調査と競合他社分析が不可欠である。しかし、商店街の個々の店舗は、日々の業務に忙しく、これらの調査を行うことが難しい。仮にできたとしても、各店舗がバラバラに調査をしていては非効率である。そこで、組合がこれらの調査を一手に引き受け、そこから得られた知見を活かして個店の経営をサポートする。

 そのためには、人員と費用が必要である。中小企業庁「平成27年度商店街実態調査報告書」によると、1商店街の平均店舗数は54.3である。また、J-Net21「商店街振興組合の会費額の相場と事業資金の調達方法を教えてください」によると、月額会費の平均は4,854円(事業協同組合・任意団体を加えた平均)である。商店街は規模も会費もバラバラなので、あまり平均値に頼るのはよくないのだが、これ以外に使える数値がないので、ひとまずこの数字を使うことにする。商店街の店舗数が約50、月額会費が約5,000円だとすると、組合の予算は月約25万円である。これではとても人を採用することができない。

 そこで、月額会費を2.5万円に引き上げる。すると、組合の予算は約125万円となり、100万円増加する。この増加分で人を2人雇用する。1人あたりの人件費は50万円となり、悪くない条件である。雇用された2人は、商店街の外部環境調査を行うと同時に、25店舗ずつを担当して個店の経営支援に回る。これでショッピングセンターに近い運営をすることができるようになる。

 無論、いきなり会費を5倍に引き上げるのが無謀なのは百も承知である。そこで、最初の数年間は値上げの代わりに補助金を使う。商店街のイベントには数百万円の、街路灯などのインフラ整備には数億円の補助金がつぎ込まれている。それらを一旦全て止めて、組合の人件費へ回す。個店には、将来的に月額会費を上げることを前提として、経営支援を受けてもらう。経営支援の効果を認めてくれる店舗が多い商店街では、補助金終了後に月額会費の値上げに成功して、ショッピングセンターのような運営が実現する。他方、経営支援の効果を認めず、月額会費の値上げにも反対する店舗が多い商店街では、継続的な人員雇用が困難となるから、その時点で元の組合体制に戻せばよい。

 組合に雇用される人材にこそ、中小企業診断士が相応しい。全国には約1.2万の商店街(中小企業庁「FAQ「小売商業対策について」」より。商業統計では、小売店、飲食店、サービス業を営む事業所が近接して30店舗以上あるものを1つの商店街と定義される)があるそうだから、かなりの雇用効果が見込める。診断士の商店街支援活動というと、イベント運営側の人手が足りないから手伝ってくれというケースが多いと聞くが、そんなアルバイトでもできそうな仕事をやるために我々は国家資格を取得しているわけではない。

『世界』2017年11月号『北朝鮮危機/誰のための働き方改革?』―朝日新聞が「ファクトチェック」をしているという愚、他


世界 2017年 11 月号 [雑誌]世界 2017年 11 月号 [雑誌]

岩波書店 2017-10-07

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 (1)特集1のタイトルが「北朝鮮危機―解決策は対話しかない」となっているのを見た時、これはおそらく中身がない特集だろうと推測したのだが、果たしてその予感は的中した。どの記事を読んでも、「アメリカ(もしくは日本)と北朝鮮が対話をすべきだ」ということ以上のことは書かれていなかった。「対話をすべきだ」と主張するからには、いつ、どこで、誰がどのようなチャネルを通じて北朝鮮の誰と会い、具体的にどんな話をするのか、という点にまで踏み込まなければ意味がない。そのようなことに一切触れずに、ただ単に対話が重要だと言うだけであれば、単身で北朝鮮に乗り込んでいったアントニオ猪木議員以下である。

 ロシア外相が「幼稚園の子どものけんか」と呼んだ米朝間の緊張について、対話の重要性を説くリベラルは、まるで日本が親のように振る舞って、暴れん坊の子どもをなだめることができると信じているらしい。だが、アメリカも北朝鮮も実際には子どもなどではない。むしろ暴力団の抗争に例える方が適切だろう。日本では、山口組が本部のある神戸市の住民に対してハロウィンイベントでお菓子を配るなど、住民の間に溶け込む努力をしている。しかし、いくら山口組が神戸市民と良好な関係を築いているからと言って、神戸市民が山口組と住吉会の抗争を対話で止めさせようとはしない。それと同様に、日本がアメリカと同盟関係にあるからと言って、米朝の間に入ってできることなど、残念ながら現実的にはない。

 神戸市民が山口組と住吉会の抗争に巻き込まれないように身を守るのと同様に、日本も北朝鮮からミサイルが飛んできた場合を想定した国民の防衛策を真剣に検討すべき段階に来ている。永世中立国のスイスに倣って、公共のあらゆる場に急ピッチで地下シェルターを作るのも一手であろう。

 (2)欧米では最近、「ファクトチェック」と呼ばれる活動が活発になっているそうだ。これは、政治家など公的な立場にある人間が発する言葉やネット上に流れる様々な情報について事実か否かを確認し、その結果を指摘する作業のことである。虚偽の情報を意図的に流すフェイクニュースがネット上にあふれる中で、それに対抗する手段として登場してきたものである(立岩陽一郎「フェイクニュースとの闘い―ファクトチェックの現在」)。

 思わず笑ってしまったのは、日本でファクトチェックに注力しているのが朝日新聞だということである。最初に記事を掲載したのは2016年10月24日で、同年9月29日の安倍総理の発言を検証している。安倍総理は「参議院選挙において街頭演説などで私は必ず必ず、平和安全法制についてお話をさせていただきました」と発言していた。だが、朝日新聞が確認した64か所の街頭演説のうち、「平和安全法制」という言葉を使ったのは20か所だったため、「誇張」と判定した。

 また、2017年1月に憲法改正について安倍総理が「どのような条文をどう変えていくかということについて、私の考えは述べていないはずであります」と発言した点について、過去の国会の議事録を検証して「誤り」と指摘している。議事録で確認したところ、憲法96条について「3分の1をちょっと超える国会議員が反対をすれば、指一本触れることができないということはおかしいだろうという常識であります。まずここから変えていくべきではないかというのが私の考え方だ」と答弁していたことが判明したというのがその理由である。

 吉田清治の妄言を信じて世界中に従軍慰安婦のフェイクニュースをまき散らし、日本国民の名誉を著しく傷つけた朝日新聞が、こんな枝葉末節なチェックをしているとは噴飯物である。朝日新聞は、他人の情報よりも、自社が発信する情報が事実かどうかを検証する社内体制をもっと強化すべきではないだろうか?
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プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、1,500字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
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