こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント)のブログ別館。1,000字程度の読書記録などの集まり。

『「孫家」の教え/成功する・失敗するM&A(『週刊ダイヤモンド』2017年4月22日号)』―劣等感の塊から成功した起業家を見てみたい


週刊ダイヤモンド 2017年 4/22 号 [雑誌] (「孫家」の教え)週刊ダイヤモンド 2017年 4/22 号 [雑誌] (「孫家」の教え)

ダイヤモンド社 2017-04-17

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 「孫子の兵法」の特集だと思って読み始めたら、「孫(正義)家の教え」だった。中国古典をちょっと勉強するつもりが、孫家の家訓を勉強することになってしまった。ダイヤモンド社に上手く騙された感じ。まさに「兵は詭道なり」。

 人間には大きく分けると「固定思考」と「成長思考」という2つのタイプがいて、起業家として成功するのは後者であり、前者から後者にマインド転換するためには「自己効力感」が重要である、という記述があった。詳しい研究のことは私にはよく解らないが、ブログ本館の記事「『しなやかな交渉術(DHBR2016年5月号)』―「固定型」のアメリカ、「成長型」の日本、他」で書いたように、アメリカ人は幼少の頃に自分が人生で成し遂げたい使命を設定する「固定型」であり、逆に日本人は環境変化に身を委ねながら自己を変化させていく「成長型」だと私は思う。

 しかも、アメリカ人が自ら設定した使命に向かって邁進するエネルギーは、成功体験に裏打ちされた自己効力感であるのに対し、日本人の場合は環境に翻弄され、幾度も失敗を重ねながら、「自分は何と出来の悪い人間なのだ」と打ちひしがれる劣等感に突き動かされているのではないかとも考えている。この辺りについては、ブログ本館の記事「『未来をひらく(『致知』2015年2月号)』―日本人を奮い立たせるのは「劣等感」と「永遠に遠ざかるゴール」」で書いた。

 アメリカ人は先天的に楽観志向であり、日本人は悲観志向であるという研究もある(色んな研究結果を自分の都合のいいように利用するなとお𠮟りを受けそうだが)。遺伝子の中に、「セロトニントランスポーター遺伝子」というものがある。セロトニンの分泌に関わる遺伝子であり、これが不足するとうつ病の原因となり、十分ならば安心感を覚える。この遺伝子には、不安を感じやすい心配性のS型と、おおらかで楽観的なL型がある。遺伝子は両親から半分ずつ受け継ぐため、S/S型、L/L型、その中間となるS/L型のどれかになる。

 どのタイプが多いかは国や人種によって異なっており、日本人はこの遺伝子に大きな偏りがあることが解っている。アメリカ人の場合は楽観的なL/L型が30%を超えるのに対し、日本人はわずか1.7%しかいない。裏を返せば、心配性のS型を持つ割合(S/S型またはS/L型)が98%に達しているのだという(『週刊ダイヤモンド』2017年4月15日号より)。

週刊ダイヤモンド 2017年 4/15 号 [雑誌] (思わず誰かに話したくなる 速習! 日本経済)週刊ダイヤモンド 2017年 4/15 号 [雑誌] (思わず誰かに話したくなる 速習! 日本経済)

ダイヤモンド社 2017-04-10

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 アメリカ人のように、人生の早い段階で野心的なゴールを設定し、それに向かって成功体験を重ね、自己効力感を高めながら、遂にそのゴールを達成するというストーリーは、確かにすがすがしいものがある。だが、それは楽観的なアメリカ人だからできることであって、日本人には日本人の悲観的な遺伝子に合った成功物語があってもいいのではないかと感じる。

 具体的には、「自分には大した取り柄がない」という劣等感から出発し、取り柄がないために何度も失敗を繰り返し、それでも他人を見返してやりたい、こんな自分でも世の中の人々のためになりたいという思いから自分の弱点をカバーする秘策を研究し、試行錯誤の連続の果てに、ようやく慎ましい成功を収めるというストーリーである。それなのに、当の本人は、周りが成功者と認めるようになっても、「まだまだ自分には道の探求が足りない」と言って研究に没頭する。

 例えて言えば、元楽天監督の野村克也氏のような物語である。いつもボヤいてばかりの悲観的なノムさんは、アメリカではおそらく通用しなかっただろう。だが、日本においては、ノムさんが弱者の戦法で現代プロ野球の礎を築いた功労者であることは誰もが認めるところだ。辛口の元中日監督・落合博満氏が名監督の1人として挙げるほどである。そのノムさんの監督としての生涯成績は1565勝1563敗で、貯金はたった2である。何と慎ましい、日本人らしい成功ではないか!

石川幸一、助川成也、清水一史『ASEAN経済共同体と日本―巨大統合市場の誕生』―6億人の単一市場と見ることが苦手な日本企業


ASEAN経済共同体と日本: 巨大統合市場の誕生ASEAN経済共同体と日本: 巨大統合市場の誕生
石川 幸一 助川 成也 清水 一史

文眞堂 2013-12-13

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 2015年12月31日にASEAN経済共同体(AEC:ASEAN Economic Community)が発足した。主たる目的はASEAN域内の関税をなくし、単一市場・単一生産拠点を実現することにある。AECにより、EUの約5億人を上回る約6億人の巨大な市場が誕生する。もっとも、ASEANでは以前からAFTA(ASEAN自由貿易地域)の交渉を通じて関税撤廃が進んでおり、CLMV(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)を除く6か国では既に関税ゼロが実現している。残りの4か国についても、2018年をめどに関税が撤廃される予定である。

 一般的に、企業の国際化には大きく4つの段階がある。まずは、①ある1つの国・地域に進出する。②①が上手くいけば、複数の国・地域に進出し、各国・地域の事情に合わせた製品・サービスを提供する。③さらなる成長を目指すには、規模の経済を活かすために、グローバル規模で標準化された製品・サービスを開発し、世界中に展開する、④グローバル市場が成熟してくると、各国・地域の細かいニーズを取り込んでローカライゼーションを行う、というものである。

 ところが、最近のグローバル企業は、①や②をすっ飛ばして、いきなり③から始めることが多い。アメリカのグローバル企業はその典型である。他にも、北欧(デンマーク、ノルウェー、フィンランド、スウェーデン)の企業は③から始めることがある。北欧はいずれも人口規模が小さいため(4か国を合わせても約2,500万人しかいない)、企業は国内市場をあてにせず、すぐに海外に向かう。その際、シンプルなデザインに価値を置き、ローカライズをほとんどしない。デザインがシンプルで、カスタマイズをしないわけだから、低コスト・高収益経営が可能となる。イケアがその一例である(『週刊ダイヤモンド』2015年3月14日号より)。

週刊ダイヤモンド 2015年3/14号 [雑誌]週刊ダイヤモンド 2015年3/14号 [雑誌]
ダイヤモンド社 週刊ダイヤモンド編集部

ダイヤモンド社 2015-03-09

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 意外なところで③から始めるのが上手なのがイスラエルの企業である。イスラエルのグローバル企業は、大規模な多国籍企業が魅力と感じず、地元企業が十分に対応できないといった機会が存在する国や地域に標準を合わせる。別の言い方をすると、ニッチすぎて大企業の関心を引かないが、全世界の各市場をつなぎ合わせると相当規模のチャンスになるようなセグメントを選択する。そして、目立たないやり方でゆっくりと、この中間領域に浸透していく。

 イスラエルの企業にこのようなグローバル経営が可能なのは、経営幹部の多くがイスラエル国防軍(IDF)出身であり、高度な戦術に長けていることも関係している(ジョナサン・フリードリッヒ、アミット・ノーム、エリー・オフェック「多国籍企業と地元企業が不在の「中間領域」を支配する グローバル化の秘訣はイスラエル企業に学べ」〔『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2015年2月号〕より)。

Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2015年 02月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2015年 02月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2015-01-10

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 翻って日本企業のことを考えてみると、日本企業はいきなり③から始めるのが非常に苦手なのではないかと感じる。日本企業は、市場にべったりと張りつき、顧客に密着して個別ニーズに丁寧に対応していく傾向がある。したがって、海外展開する場合も、1か国ずつ着実に進める道を選択する。近年よく耳にする、「チャイナ・プラスワン戦略」、「タイ・プラスワン戦略」といった言葉がそれをよく表している。いきなり③から始めるには、個別の顧客ニーズの相当部分を犠牲にして製品・サービスを標準化する必要があるが、日本企業の文化からしてそれはなかなか受け入れられない。だから、AECによってASEANが単一市場になっても、日本企業は相も変わらず1か国ずつ攻略することになるのだろうと思う。

小堀景一郎、政岡英樹他『アセアン諸国の労務管理ハンドブック―加盟10ヵ国の経済環境と労働・社会保障関係法令のポイント』―ブルネイのポイント


アセアン諸国の労務管理ハンドブック―加盟10ヵ国の経済環境と労働・社会保障関係法令のポイントアセアン諸国の労務管理ハンドブック―加盟10ヵ国の経済環境と労働・社会保障関係法令のポイント
小堀 景一郎 政岡 英樹 山田 恵子 大野 壮八郎 太田 育宏 中村 洋子 山地 ゆう子

清文社 2012-01-25

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 ブルネイ(ブルネイ・ダルサラーム国)は、人口が約40万人、面積が約5,770平方キロメートル(三重県とほぼ同じ)、経済の中心が石油産業という小国であり、日本企業もほとんど進出していないことから、ASEANの解説本からは外されることが多いのだが、本書はブルネイについても触れており興味深かった。そのブルネイの労務管理のポイントについてのメモ書き。

 ・政府は2011年、180日以上働いている、ブルネイ法により合法的に結婚している公務員の女性に対する産休を8週間から産前2週間産後13週間の15週間に延長した。同規則は、民間部門におけるブルネイの市民と永住者の女性に対しても適用される。国際労働機関(ILO)の勧告では、2000年6月に12週間の出産休暇を14週間に引き上げたが、ブルネイの15週間はこの基準を上回っている。

 ・労働組合法では、団結権、団体交渉権について規定されているが、団体行動権については明記がない。これは日本で言うところの労働関係調整法にあたる法律が存在しないことが影響している。そもそもブルネイには労働組合がほとんど存在せず、ストライキも発生していない。

 ・ブルネイ市民の半数は政府機関に勤務しており、労働条件も国で定められているため、労働紛争の対象となるのは外国人労働者が多数となる。2009年より労働法の改正を行った結果、外国人労働者の紛争案件が改善されて、未払い賃金などの労働紛争が激減している。

 ・よく知られていることだが、ブルネイには個人所得税がない。また、無料の教育・医療制度が特色で、年金制度は北欧並みの社会保障と言われる制度の中で運用されている。法人税はあるが、進出企業は申請を行えば、法人所得税、機械輸入税、原材料輸入税が最大11年間免除となる。

 ・ブルネイの医療保険制度の下では、ブルネイ市民は無料で医療サービスを受けることができ、外国人従業員も最小限の料金を支払えばよい。ブルネイで利用できない医療は、政府の費用負担で海外(シンガポールが多い)で実施される。また、病院がない農村部では、ヘリコプターで最寄りの病院に患者を移送するフライング医療サービスがあるなど、至れり尽くせりの制度となっている。

 ・ブルネイには失業保険がない(ASEANには失業保険がない国が多い。失業保険があるのは、タイとベトナムぐらい)。ただし、雇用はブルネイ市民が優先されるため、失業状態が継続することも少なく、また国王の国民支持率が100%であることを鑑みると、失業ということが市民の生活不安には直結していない。

 ・ブルネイは石油産業によって成り立っている国であるが、いつまでも石油に依存するわけにもいかないため、石油産業以外の産業を育成することが課題となっている。政府は、求職者の能力を向上させるための技術や職業訓練機関を増強しており、ブルネイ工科大学は、石油化学、土木工学、機械工学やコンピュータ研究などの職業訓練システムを212年までに完了させ、2018年にはそれぞれの学科で最小40名、最大80名の学生が卒業できる計画を進行中である。

 また、2011年には、学校職業訓練制度が地元企業との連携に成功し、6か月のOJTを受け、失業者に雇用能力を身につけてもらおうという試みがなされるなど、職業訓練に積極的に取り組んでいる。
お問い合わせ
お問い合わせ
プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、1,000字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
所属組織など
◆個人事務所
 「シャイン経営研究所」◆ シャイン経営研究所ロゴ

(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長、および国際部員を務めています)

NPOビジネスサポート特定非営利活動法人NPOビジネスサポート
(監事を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)

Experian海外企業信用調査 海外企業信用調査(Experian)
(一緒にお仕事をさせていただいている「コンサルビューション株式会社」は、世界最大の信用調査会社Experianの正規代理店です)

中小企業診断士の安い通信講座なら「資格スクエア」資格スクエア
(以下の資格の講師をしています。
 ―ITパスポート
 ―情報セキュリティマネジメント
 ―経営学検定(初級・中級)
 ―中小企業診断士(企業経営理論、経営情報システム、中小企業経営・中小企業政策)
 谷藤友彦と株式会社サイトビジット代表取締役・鬼頭政人氏の対談動画(1)(2)(3)
最新記事
  • ライブドアブログ