こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント)のブログ別館。1,000字程度の読書記録などの集まり。

ピープルフォーカスコンサルティング『グローバル組織開発ハンドブック』―共通価値観とダイバーシティの関係


グローバル組織開発ハンドブックグローバル組織開発ハンドブック
ピープルフォーカスコンサルティング

東洋経済新報社 2016-11-18

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 本書は、グローバル企業の組織開発の視点として、①チーム、②ダイバーシティ、③バリューズ、④チェンジ、⑤リーダーシップ、という5つの視点を提供している。しかしながら、②ダイバーシティと③バリューズは一見すると矛盾する。というのも、一方では企業として全社員が共有すべき価値観(バリューズ)を明らかにすべきだと言いながら、他方では多様な価値観を持った社員を迎え入れなければならないと主張しているからだ。

 企業が固定的な一部の市場セグメントのみを相手にビジネスをしているのであれば、共有価値観のみで十分である。その顧客に対してどのような価値を提供するのか、その価値を提供するために、我が社の社員はどのような行動規範に従うべきなのかを明らかにしていく。その行動規範こそが、共有価値観である。別の言い方をすると、日常業務においてありとあらゆる意思決定をする際のよりどころとなるルールである。共有価値観は業務プロセスや組織のデザイン、そして、業務プロセスや組織に対して経営資源を投入するIT、人事制度、購買制度、予算制度などに反映される。そのルールの量は大小合わせると膨大になるだろう。それをマニュアルに落とし込めば、無印良品のMUJIGRAMのようになる。

 しかし、企業は持続的に成長するために、ターゲット顧客を拡張していかなければならない。また、従来から的を絞っているセグメントの質がいつまでも不変であるとは限らない。そうした市場の変化を先取りするために、従来の社員とは異なる考え方を持つ社員を採用し、社員構成を多様化していく。社会学者のニクラス・ルーマンは、組織が外部の複雑性に対応する方法は、組織自体を複雑化することであると述べた。これがダイバーシティ・マネジメントの目的である。

 ここにおいて企業は、前述の共有価値観のうち、企業として絶対に譲れないものと、環境変化に応じて柔軟な解釈をすべきものを峻別する必要性に迫られる。そして、後者に関しては、従来からの社員と、新しい価値観を持った社員との間で、建設的な対立を促す。これが第1の学習である。新しい顧客にとって最善の価値を提供するために、我々はどのように行動すべきかと問う。このコンフリクトをいかにマネジメントできるかが、ダイバーシティ・マネジメントの成功のカギである。これからの社員には、違いを認める寛容さ、自分とは異なる相手を包容する対話力、違いから新たな意味を導く創造力が求められる。

 新たに生まれた価値観は、古い価値観を上書きする。無印良品が強いのは、堅牢なマニュアルを作ったからではなく、日々の現場の発見に基づいて、あの膨大なマニュアルを、全体の整合性を保ちながら更新し続けているからである。

 もっとダイバーシティ・マネジメントが進んだ企業では、第2の学習が生じる。すなわち、企業として絶対に譲れないものとされてきた価値観に対して挑戦する。企業が深刻な業績不振に陥った時、企業を取り巻く外部環境が著しく変化した時には、これまで多くの社員を引きつけてきた共有価値観ですら無力となる。その場合に、多様な考え方を持った社員が知恵を出し合って(「知恵を出し合って」と書くときれいに聞こえるが、実際には非難、中傷、下品な言葉などが入り混じった暴力的なコミュニケーションになる)、新しい現実に適合した新しい共有価値観を打ち立てなければならない。従来、こうした変革はトップの強いリーダーシップに委ねられていた。しかし、今後は、ダイバーシティ・マネジメントがこの課題をどのように克服していくべきかが問われるであろう。

日沖健『マネジャーのロジカルな対話術』―話し方が下手くそな診断士への警告、他


マネジャーのロジカルな対話術マネジャーのロジカルな対話術
日沖 健

すばる舎 2017-03-17

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 中小企業診断士の日沖健先生の最新著書。日沖先生とは最近知り合ったのだが、既に20冊も本を書いているとのことで、凄い方である。私なんか、ブログで原稿用紙1万枚分ぐらい文章を書いているにもかかわらず、出版社から本を書いてほしいという依頼を受けたことは一度もないというのに(嘆き)。

 本書は、マネジャーと部下のロジカルな対話の方法を35のケースを用いて解説したものである。ロジカルな対話とは結局のところ、「問題の発見⇒原因の分析⇒解決策の検討⇒解決策の評価・絞り込み」という順番で進む対話のことである。それぞれのフェーズにおける論理的な考え方のポイントを紹介するとともに、各フェーズの「場」作りで配慮すべきことについても解説されている。

 例えば、「問題の発見」では、いきなり問題を部下にぶつけても、部下の注意を引かないかもしれない。そこで、問題に関連した話題を振って、徐々に問題へと意識を向けさせるような工夫が例示されている。また、「原因の分析」では、往々にして責任のなすりつけ合い、感情的な対立が生じる。どうすれば当事者が冷静になって事実に着目することができるかについても書かれている。

 話はやや逸れるが、ブログ本館の記事「中小企業診断士が断ち切るべき5つの因習」でも書いたように、「社長を騙くらかす口達者になれ」と吹聴するような診断士を私は軽蔑しているし、「【賛否両論】中小企業診断士(コンサルタント)に必要なのは「ドキュメンテーション力」か「プレゼンテーション力」か?」でも書いた通り、プレゼンテーション力よりもドキュメンテーション力を重視している。ただ、あまりにも話し方が下手くそというのも、それはそれで考えものである。そして、最近、話し方が下手くそな診断士が増えているように思えるのである。

 「えー・・・、あのー・・・、えーっと・・・」
 ⇒こういう言葉を「ドッグワード」と呼ぶ。話の練習をせずに話し始めると、次に話すべきことを考えている間の時間を埋めるためにドッグワードが出てしまう。ドッグワードをなくすためには、ひたすら練習を積むしかない。

 「・・・というのがまず1つ。それからもう1つは・・・」
 ⇒「まだ1つ目だったのかよ」、「まだ続きがあるのかよ」と突っ込みを入れたくなる。話のポイントを整理できていない証拠である。

 「・・・、あと・・・、ついでに・・・、それから・・・」
 ⇒これも話の内容を事前に整理することができいていないケースである。いつまで話が続くのか、聞いていてイライラする。

 「・・・のですね、・・・をですね、・・・についてですね・・・」
 ⇒本人は丁寧に話しているつもりだろうが、「ですね、ですね」とうるさい。

 「・・・ちょっと・・・して、・・・ちょっと・・・考えてみて・・・」
 ⇒何が「ちょっと」なのか不明。ちょっとしかしてくれないのかと言いたくなる。

 日沖先生は大学院などで中小企業診断士養成課程(※)の講師を務めていらっしゃるのだが、最近ある先生から大学院の養成課程についてよからぬ話を聞いた。というのは、大学院の養成課程はお金さえ払えばほぼ誰でも入学することができてしまうため、学生の質の低下が著しいのだと言う。その先生は、「最近の学生は高校生レベルの学力もない」と嘆いていらっしゃった。確かに、私の周りを見渡しても、どこの卒業生とは言わないが、ある大学院の卒業生で診断士になった人は、仕事がろくすっぽできないと感じることが多い。こうした事態を受けてか、養成課程のあり方を見直す大学院も出てきている。現に、中京大学は養成課程を廃止することを決定したそうだ。

 さらに悪いことに、大学院によってはMBAも同時に付与しているから、低能のMBAホルダーを輩出する結果になる。だから、日本のMBAは価値が低いと言われてしまう。日本でMBAを取得した人には大変申し訳ないが、私は日本のMBAは英検2級だと思っている。つまり、お金と時間さえあれば、多少頑張ればほぼ間違いなく取得できる割に、実務ではほとんど役に立たないという意味である。

 (※)通常、中小企業診断士になるには、2次試験(論述)とその後の実務補習を受ける必要があるのだが、経済産業大臣に登録された登録養成機関で一定期間の養成課程(座学+実習)を受けると、2次試験と実務補習が免除される。

谷口靖美、牧正人『リスク・コントロール・セルフ・アセスメント』ー市場調査かファシリテーションの本かと見間違えるほどだった


リスク・コントロール・セルフ・アセスメントリスク・コントロール・セルフ・アセスメント
谷口 靖美 牧 正人 プロティビティLLC

同文舘出版 2015-12-10

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 CSA(Control Self Assessment:統制自己評価)とは、業務スタッフを監査手続に巻き込む手法のことである。CSAにより、効率のよい内部監査が期待できる。CSAは1987年石油関連の企業Gulf Canadaの内部監査チームが開発したと言われている。企業の中で独立した組織である内部監査部門が、客観的視点で組織の内部統制を評価するという、いわゆる内部監査は以前から行われていた。これに対して、CSAでは、その業務をよく知る管理者と業務担当者を集めて、特定の問題や業務プロセスについて議論し自己評価する。本書では、リスクマネジメントの観点からCSAを行うという意味で、RCSAという用語が使われている。

 RCSAにおいては、どのような切り口でリスクを抽出・整理するのかという点を本書には期待していたのだが、本書の大部分は業務部門に配布する質問票・アンケートの設計方法や、業務スタッフを集めて行われるワークショップの進め方に費やされていたのが残念であった。定量的市場調査の解説本か、ファシリテーションのハウツー本を読んでいるかのような気分になってしまった。

 ただ、それでも一応参考になったことはある。まず、現場でRCSAを実施する場合には、最初に業務プロセスを可視化する。次に、業務プロセスを眺めながら、想定されるリスクを洗い出す。例えば、営業部門であれば、「売上が適切に計上されない」、「営業担当者の裁量で過度な値引きが行われる」、「不当なリベートを要求される」、「納期が遵守できない」、「債権が適切に回収されない」、「営業担当者が不当なキックバックを要求する」などといったリスクがある。これらのリスクを踏まえて、講ずるべき対応策(コントロール)を書いていく。

 「売上が適切に計上されない」というリスクについては、「営業課長が案件の進捗状況を毎日確認する」、「注文書・契約書の内容を営業部長が確認し、営業事務にデータを入力させる」、「営業事務が入力したデータはダブルチェックをかける」などといった対応策が考えられる。こうして出てきた対応策をずらりと並べて、現場で実行されているかをアンケートやワークショップで確認する。この辺りのやり方については、本書よりも以下の本の方が詳しい。

内部統制の入門と実践―フローチャート式ですぐに使える内部統制の入門と実践―フローチャート式ですぐに使える
佐々野 未知

中央経済社 2007-05-01

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 経営陣がRCSAを実施する場合、現場と同じレベル感で行っていては大変である。経営陣は現場の細かい業務レベルではなく、全社レベルの視点に立ってRCSAを実施する。内部統制のCOSOモデルから発展したモデルとして、「ERM(Enterprise Risk Management)モデル」というものがある。COSOモデルでは内部統制の目的を業務、報告、コンプライアンスの3つとしているが、ERMモデルではこれに戦略が加わり4つとなる。また、COSOモデルでは、構成要素として統制環境、リスクの評価と対応、統制活動、情報の伝達、監視活動の5つが挙げられているが、ERMモデルでは、内部環境、目的の設定、事象の特定、リスクの評価、リスクへの対応策、統制活動、情報の伝達、監視活動の8つとなる。

 この8つの要素ごとに質問をまとめたものが、日本内部監査協会、CIAフォーラム ERM研究会「使えるERM(全社的リスクマネジメント)導入チェックポイント集~一目でわかるERMと内部統制の基本的要素の具体例 ~」(2006年4月)として公開されている。経営陣がRCSAを行う際には、これが参考になる。ただし、項目数が非常に多いため、アンケートではなくワークショップ形式で実施する場合には、特に重要な項目に絞って議論をすることになると思う。
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プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、1,000字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
所属組織など
◆個人事務所
 「シャイン経営研究所」◆ シャイン経営研究所ロゴ

(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長、および国際部員を務めています)

NPOビジネスサポート特定非営利活動法人NPOビジネスサポート
(監事を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)

Experian海外企業信用調査 海外企業信用調査(Experian)
(一緒にお仕事をさせていただいている「コンサルビューション株式会社」は、世界最大の信用調査会社Experianの正規代理店です)

中小企業診断士の安い通信講座なら「資格スクエア」資格スクエア
(以下の資格の講師をしています。
 ―ITパスポート
 ―情報セキュリティマネジメント
 ―経営学検定(初級・中級)
 ―中小企業診断士(企業経営理論、経営情報システム、中小企業経営・中小企業政策)
 谷藤友彦と株式会社サイトビジット代表取締役・鬼頭政人氏の対談動画(1)(2)(3)
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