こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント・トレーナー)のブログ別館。2,000字程度の読書記録の集まり。


岡田尊司『パーソナリティ障害―いかに接し、どう克服するか』


パーソナリティ障害―いかに接し、どう克服するか (PHP新書)パーソナリティ障害―いかに接し、どう克服するか (PHP新書)
岡田 尊司

PHP研究所 2004-06-01

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 パーソナリティ障害とは、認知(ものの捉え方や考え方)や感情、衝動コントロール、対人関係といった広い範囲のパーソナリティ(性格)機能の偏りから生じる障害を指す。大多数の人とは違う反応や行動をすることで本人が苦しんでいたり、周りが困ったりするケースで診断される精神疾患である。パーソナリティ障害には下記の10のタイプがあり、本書はそれぞれの障害の概要と治療方法、さらにその障害を持つ人に対する周囲の接し方について解説したものである。

 境界性パーソナリティ障害
 自己愛性パーソナリティ障害
 演技性パーソナリティ障害
 反社会性パーソナリティ障害
 妄想性パーソナリティ障害
 失調型パーソナリティ障害
 シゾイドパーソナリティ障害
 回避性パーソナリティ障害
 依存性パーソナリティ障害
 強迫性パーソナリティ障害

 非常に安直な発想だが、パーソナリティ障害は性格の特定部分が極端に発露したものであるから、性格のタイプとパーソナリティ障害の種類を紐づけて考えられるような気がした。性格を分類する考え方の1つに、「エニアグラム」というものがある。エニアグラムでは、人間の性格を9つのタイプに分ける。

 (1)改革する人
 【特徴】職人。完全主義者。鑑識力が高い。神経質。融通が利かない。欲求不満。正義感が強い。生真面目な努力家。節度がある。文句が多い。
 ⇒【行きすぎると・・・】理想を絶対視し、それを他人にも押しつける。ルールが全てであり、それ以外の考えを認めない。他者のミスを執拗に責める。
 ⇒強迫性パーソナリティ障害

 (2)人を助ける人
 【特徴】人助け。細かい気遣い。八方美人。押しつけがましい。世話好き。同情心がある。自己犠牲。人を操作したがる。
 ⇒【行きすぎると・・・】相手がそれほど困っていなくても介入したがる。支援に対する過度な見返りを要求する。介入を拒否されると強い嫌悪感を示す。
 ⇒(該当するパーソナリティ障害が思いつかなかった)

 (3)達成する人
 【特徴】成功。計画実行。行動的。計算高い。リーダー。仕事に熱心。マネジメントを重視。競争心が強い。能率重視。人を駒のように扱う。
 ⇒【行きすぎると・・・】目標を達成するためには手段を選ばなくなる。規範を無視する。他人は自分にとって単なる道具であると考え、人を使い捨てにする。
 ⇒反社会性パーソナリティ障害

 (4)個性的な人
 【特徴】天才。孤高の志士。一番病。感受性が鋭い。ナルシスト。豊かな創造力。浪漫主義者。
 ⇒【行きすぎると・・・】演劇的、性的誘惑による行動によって、常に周りの注目を浴びたがる。周囲から評価されるためであれば、嘘をついたり、虚像を作り上げたりすることもいとわない。大げさな言動が多くなる。
 ⇒演技性パーソナリティ障害

 (5)調べる人
 【特徴】博士。学究肌。分析屋。内向的。皮肉屋。思慮深い。冷静沈着。探究心旺盛。有益性を重んじる。
 ⇒【行きすぎると・・・】人と深く関わることによって自分と相手が変化することを怖れる。相手に飲みこまれ、自分の独立性を失ってしまう恐怖におびえる。自分の世界を重視するあまり、人との交流が少なくなる。
 ⇒シゾイドパーソナリティ障害

 (6)忠実な人
 【特徴】安全第一。石橋を叩いて壊す。新しい物事への拒絶。規則を厳守。責任感が強い。権威に弱い。疑い深い。
 ⇒【行きすぎると・・・】組織のルール・前例に固執する。少しでも今までと違うことを命じられると、強い不安を感じ、拒絶を示す。最初は組織に順応していたのに、やがて組織内で疎んじられるようになり、孤立する。
 ⇒回避性パーソナリティ障害

 (7)熱中する人
 【特徴】楽天家。好奇心旺盛。自由人。飽きっぽい。情熱家。快楽主義。柔軟性がある。気分転換が上手。
 ⇒【行きすぎると・・・】自分は優れていて素晴らしく特別で偉大な存在でなければならないと思い込む。ありのままの自分を受け入れられず、イメージで作り上げた独創的な理想像にしがみつく。その自己像に酔いしれる。
 ⇒自己愛性パーソナリティ障害

 (8)挑戦する人
 【特徴】唯我独尊。理想主義者。自信家。他人に操られるのを嫌う。挑戦者。決断力がある。逆境に強い。統率力がある。
 ⇒【行きすぎると・・・】周囲の人は自分を陥れようとしているのではないかと疑い深くなる。周りからちょっと意見されただけで、自分をひどく傷つけられたかのように感じ、過度な仕返しを行う。自分が攻撃されているような妄想を抱く。
 ⇒妄想性パーソナリティ障害

 (9)平和をもたらす人
 【特徴】平和主義者。マイペース。器用な経営者。葛藤を嫌う。逃避。怠慢。友好的。無欲。器が大きい。
 ⇒【行きすぎると・・・】相手の顔色を常にうかがうようになる。相手に依存しなければ自分を保てない。ささいなことであっても自分では意思決定を下すことができず、周囲の意見に盲目的に追従する。
 ⇒依存性パーソナリティ障害

 「(2)人を助ける人」については、関連するパーソナリティ障害が解らなかった。もしかすると、何か新しいパーソナリティ障害がありうるのかもしれない(一方で、以前の記事「クリストファー・レーン『乱造される心の病』」でも書いたように、こうやって言葉をこねくり回すことで新しい精神疾患が生まれるのだろうとも感じた)。

クリストファー・レーン『乱造される心の病』


乱造される心の病乱造される心の病
クリストファー・レーン 寺西 のぶ子

河出書房新社 2009-08-22

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 現在の精神疾患治療には、大きく2つの問題がある。1つ目は、DSM(精神障害の診断と統計マニュアル)についてである。DSMは不定期に改定され、現在はDSM-5(2014年発行)となっている。しかし、改定を重ねるごとに精神疾患が増え、我々の何でもない日常的な反応までもが病気と定義されている。

 本書では「社会不安障害」が取り上げられているが、批判されるのが怖い、パーティーへの参加は避ける、知らない人と話をするのが怖い、権力を持っている人と話すのは避ける、他人の前で身震いしたり手足が震えたりするのが自分にとって苦痛だ、などといった症状にいくつかあてはまれば、立派な「社会不安障害」と診断され、精神病薬のお世話にならなければならない。

 本当に治療が必要な社会不安障害とは、その人が日常生活で何をするにも強い不安を感じる場合である。特定の2、3の状況で限定的に不安を感じる程度であれば、どんな人にもありうることであって、何の病気でもない。そんなケースまでも病気の定義に放り込んでいるのは、精神病薬の市場拡大を狙う製薬会社の影響が大きい。しかも、不思議なことに、病気の数は増えても、結局はパキシル(SSRIと呼ばれる抗うつ病薬)など、特定の精神病薬を飲むように勧められる。パキシルをたくさん売りたい製薬会社の意向以外の何物でもないだろう。

 ブログ本館の記事「戦略を立案する7つの視点(アンゾフの成長ベクトルを拡張して)(1)(2)」で、以下のような図を用いた。製薬会社の戦略は、⑤新市場開拓戦略に該当するのかもしれない。つまり、パキシルという既存の薬を、うつ病患者という既存のマーケットに販売するのではなく、別の精神疾患というセグメントを創造することで、売上拡大を狙う戦略である。表面的に見れば見事な成功例なのだが、顧客にとって本当に価値があるかどうかという点から考えると、手放しで成功例と認めるわけにはいかない。

戦略を立案する7つの視点

 もう1つの問題は、精神疾患の原因を単純に捉えすぎているという点である。因果関係をできるだけ単純化しようとするアメリカ的思考の弊害である。うつ病をはじめとする多くの精神疾患の原因は、脳内伝達物質であるセロトニンの不調であるとされる。ところが、以前の記事「功刀浩『研修医・コメディカルのための精神疾患の薬物療法講義』」でも述べたように、この仮説は臨床的に証明されていない。それどころか、本書によれば、精神疾患の原因を、何でもかんでも生物学的要因に帰着させるのは無理があるという。

 本書では、DSMが精神疾患の原因を多面的に把握するフロイト的な発想を排除し、原因を生物学的に特定するクレペリンの研究を下敷きにしていることが紹介されている。その証拠に、フロイトが発見した「神経症」はDSMで採用されていない。それどころか、DSMの編集メンバーは、神経症に関するフロイトの研究を侮蔑していたらしい。著者は、精神疾患を生物学的な要因だけでなく、心理的、社会的、環境的要因など、様々な角度から分析するべきだと警鐘を鳴らす。
 議論は、辞書や類義語辞典のなかから必死に言葉を探す場となってしまい、臨床試験や科学的調査で明らかになった明確な分析結果を採用する場とはなっていなかった。
 DSMには何百もの精神疾患が掲載されているが、あの手この手で日常生活の不調を病気と定義する言葉遊びになっている節がある。臨床的なデータに基づいて議論するのではなく、理論的に考えうるケースを想定し、適当な言葉を辞書の中から探り当てて、精神疾患を創造しているのである。

 話は変わるが、現実のことをあまり見ずに、机上の推論だけでマニュアルや社内文書を作る困った人に、私は今までに1人だけ出くわしたことがある。こういう人と一緒に仕事をすると非常に大変だ。その人は無尽蔵にルールを作り出しては、マニュアルをどんどん分厚くしていく。そのルールが適用される例が現実にどの程度存在するのかは、その人にとって関係ない。あくまでも、全体を網羅していることが重要なのである。DSMの編集メンバーも似たところがあるのかもしれない。

山本浩二『野球と広島』


野球と広島 (角川新書)野球と広島 (角川新書)
山本浩二

KADOKAWA / 角川書店 2015-08-10

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 1969年広島東洋カープ入団から、2013年WBC日本代表監督まで、40年以上に渡るキャリアを振り返った1冊。2013年WBCでは準決勝でプエルトリコに1-3で敗れ、大会3連覇を逃したわけだが、その時のことも書かれていた。

 あの試合では、8回裏に2番井端と3番内川の連続安打で1死1、2塁とチャンスを作り、4番阿部の時にダブルスチールを敢行した。ところが、2塁走者の井端は3塁をうかがうもスタートは切らず、突進してきた内川が1、2塁間に挟まれて、追いかけてきた捕手にタッチされてしまった。この場面でリスクの高いダブルスチールのサインを出したことをマスコミは一斉に批判し、それが随分堪えたと山本氏は振り返っている。一方で、労をねぎらうファンも多かったことに感謝も述べていた。

 ネット上では、メジャー組がほとんど参加しない中で3連覇を目指せと無理難題を突きつけられた山本氏に同情する人がたくさんいた。プエルトリコ戦に関しても、ダブルスチールのサイン自体が悪いのではなく、試合の終盤でダブルスチールを試みなければならないほど追いつめられた状況を作ってしまったのが悪かったと指摘する声が多かったと記憶している。

 山本氏は、1975年に広島東洋カープが初優勝した時のことを、次のように振り返っている。
 選手それぞれに体力的な限界を感じはじめると、「誰かなんとかしてくれ」という気持ちにもなりやすいところだが、そうはならなかったのがこの年のカープだった。みんながみんな、「オレがやる!」「オレが決める!」という気持ちで、「あいつがつらい分は俺がカバーする」となっていたのだ。それによって、どんどんチームがひとつにまとまり、軍団へと変貌していった。
 最近、セリーグの野球に顕著なのだが、スモールベースボールがちょっと行きすぎているように感じる。ソフトバンクや西武の強力打線と比べると、セリーグの打線は迫力に欠ける。無死1塁では必ずバントをしたり、ランナーがいる場面では進塁打を打つことをよしとしたりする傾向がある。

 その根底には、「後ろの○○さんにつなげば何とかしてくれる」という気持ちがあるのではないだろうか?自分が前面に出るのではなく、後ろにつないでいくことがチームプレイであり、利他主義であると解されている。

 「ここで自分が決めればヒーローになれる」、「年俸が上がる」、「あいつを蹴落として自分がレギュラーになれる」といった利己主義は確かに問題があるかもしれない。野球はチームスポーツである以上、自分の欲よりもチームの勝利を優先しなければならない。しかし、あまりにも自分を押し殺した利他主義というのもまた考え物ではないだろうか?「ここで自分がチームのために決めてやる」という強い気持ちこそが、真の利他主義であるように思える。
プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。これまでの主な実績はこちらを参照。

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、2,000字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
シャイン経営研究所HP
シャイン経営研究所
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