こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント・トレーナー)のブログ別館。2,000字程度の読書記録の集まり。


工藤年博『1時間でわかる 図解ミャンマー早わかり』


1時間でわかる図解ミャンマー早わかり1時間でわかる図解ミャンマー早わかり
工藤 年博

中経出版 2013-03

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 テイン・セイン氏の下で民主化が進んでいるミャンマーだが、依然として軍人の影響は強いようである。ミャンマーの議会は、人民代表院(下院)と民族代表院(上院)から構成され、両院を合わせて連邦議会と呼ぶ。議席数は人民代表院が440、民族代表院が224であるが、両院ともその4分の1は、国軍司令官の指名した軍人議員が占めることになっている。つまり、人民代表院の110議席、民族代表院の56議席は、軍人議員が選挙を経ずに選ばれる。

 ミャンマーの大統領は、3人の大統領候補から選ばれる。人民代表院の民選議員から1人、民族代表院の民選議員から1人、両院の軍人議員の中から1人、候補が選出される。連邦議会の議員全員で、3人の中から1人を大統領に選ぶ。そして、落選した2人が自動的に副大統領になる。したがって、大統領と副大統領のうち必ず1人は軍人議員出身となり、国軍の影響力が及ぶこととなる。

 2015年に行われる総選挙では、アウンサンスーチー氏が率いるNLD(国民民主連盟)が勝利すると予測されている。しかし、現行憲法では、両親、配偶者、子ども、子どもの配偶者が外国籍である者は大統領候補の資格がないと定められており、息子がイギリス国籍を持つアウンサンスーチー氏は大統領になれない。

 そこで、憲法を改正する必要があるのだが、ここでも国軍の壁が立ちはだかる。憲法改正には4分の3を超える議員の賛成が必要と定められている。ところが、前述の通り4分の1は軍人議員であるから、軍人議員の中から憲法改正に賛成する議員が出ないことには、憲法改正ができない仕組みになっている。

 軍人議員を指名する国軍司令官は、非常に大きな権力を持っている。まず、組閣に関して、国防大臣、国境大臣、内務大臣の3人は、大統領ではなく国軍司令官が任命することになっている。

 国軍司令官は、大統領が国防治安評議会の提案・承認を受けて任命する。国防治安評議会は、大統領、2人の副大統領、両院議長、国軍司令官、国軍副司令官、国防大臣、外務大臣、内務大臣、国境大臣の11人で構成されている。このうち過半数の6人が、国軍司令官の指名する人間によって占められている。つまり、国防治安評議会の議決には、国防司令官の意向が強く反映される。

 国防治安評議会は、国家の独立が失われる危機があった場合などに、非常事態宣言を出すことができる。非常事態宣言が出されると、全権が大統領から国防司令官に移譲される。国防司令官は、自分が影響力を持つ国防治安評議会に非常事態宣言を出させることで、大統領から全権を奪うことも可能ということになる。この仕組みが、「ミャンマーでは国軍が合法的にクーデターを起こすことができる」と批判されるゆえんである。

下川裕治『本社はわかってくれない 東南アジア駐在員はつらいよ』


本社はわかってくれない 東南アジア駐在員はつらいよ (講談社現代新書)本社はわかってくれない 東南アジア駐在員はつらいよ (講談社現代新書)
下川 裕治

講談社 2015-03-19

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 ブログ本館の「【シリーズ】ベンチャー失敗の教訓」であれこれと愚痴(?)を書いたけれども、本書を読んだら自分の悩みがすごくちっぽけなことに思えてきた。

 東南アジア、特にASEANは2015年末までにASEAN経済共同体(AEC)が発足し、約6億人の単一市場が誕生して事業機会が増えると言われる。だが、海外展開はそんなに甘くない。東京の企業が埼玉や千葉に進出するような感覚で海外に出たいと言う中小企業を時々見かけるが、国内の販路拡大と海外展開は全くの別物である。同じ製品・サービスを海外に持っていくだけでも、全くの新規事業立ち上げと同じ、いやそれ以上にリスク・難易度が高いと思った方がよい。

 <フィリピン>
 ・フィリピン・プロバスケットボール・リーグ(PBA)は、アメリカのNBAに次いで長い歴史があり、フィリピン人はバスケットボールに熱い。ある日系企業が社内イベントとしてバスケットボール大会をフィリピン人に企画させたら、参加企業100社、大会期間3か月というとんでもないイベントになってしまった。
 ・フィリピンは、おそらく東南アジアで最も拳銃が氾濫している国である。拳銃を購入すると、フィリピン国家警察への登録が義務づけられているが、密売された未登録拳銃も相当数出回っている。

 <マレーシア>
 ・マレーシアには、マレー人の雇用などを優遇するブミプトラ政策がある。そのためか、マレー人は経済状況がよくなってから、親の過保護で育った人が多い。また、いざとなったら政府が何とかしてくれるという依存心もある。よって、ちょっと厳しく接すると会社を辞めてしまう。
 ・マレーシアは、400万人以上の外国人労働者を抱える。これは人口の約1割に相当する。問題は、出入国管理局が慢性的な人手不足に陥っていて、小規模の会社の外国人雇用ビザの手続きに手が回らない、ということである。申請から取得までに1~2年待たされることも覚悟しなければならない。

 <タイ>
 ・タイに駐在する際にはBビザ(ノンイミグラントビザ)が必要になる。Bビザはタイ国内で取得できず、ラオスかシンガポールのタイ大使館で申請する。その時に持参する書類が膨大で、会社の登記簿、英文の招聘状、過去数年分の損益帳簿に法人税証明書、従業員名簿など、ちょっとした電話帳ぐらいの厚さになる。しかし、書類のチェックは担当者によってまちまちであり、裁量の幅が広い。
 ・敬虔な仏教徒が多いタイでは、日本人が趣味とする釣りは無益な不殺生と映り敬遠される。ただし、漁師は仕事だから許される。
 ・タイの男性は出家して1人前という発想がある。出家といってもずっと寺で暮らすわけではなく、2週間から3か月ほどが一般的である。現地の企業では、就業規則で「出家休暇」が定められていることがある。
 ・タイでは自分の子どもを職場に連れてくるのが普通である。社外に出なければならない時は、社内にいるスタッフが面倒を見る。これがタイ式の子育てだ。

 <ベトナム>
 ・ベトナム仏教では月に2回、旧暦の1日と15日が不殺生の日とされている。この日は肉や魚を食べてはいけないため、野菜と果物を購入する人々で道路は大渋滞になる。その影響を受けて、社員の遅刻は当たり前となる。
 ・ベトナムでは家を建てる時、毎日家族の誰かが建築現場に立ち会わなければならない。建築材をごまかしていないか、作業員は休まずに働いているか、設計図通りに仕事が進んでいるかを細かくチェックする。釘やレンガの数まで調べるという。そのため、家を建てるからという理由で辞める社員がいる。
 ・ベトナムは公安のチェックが厳しい。外資系企業はお金を持っているということで、格好のターゲットとなる。公安のさじ加減で営業停止になることもあるので、袖の下が欠かせない。ベトナム人社員に公安対応を依頼したら、公安への賄賂の一部がその社員にキックバックされていた、ということもある。

 <カンボジア>
 ・カンボジアで盗難証明書を発行してもらうことは難しい。外国人がカンボジアで盗難に遭った数は、各エリアの警察署内でまとめられ、国際的な安全度をチェックする国際機関に報告される。よって、盗難の数が多くなると、アンコール・ワットの治安が悪い、警察官がちゃんと見回っていないということになり、都合が悪い。そのため、盗難ではなく紛失で処理されることが多い。
 ・カンボジアでは毎月決算を税務署に申告しなければならない。しかも、そのたびに袖の下が必要になる。袖の下がないと、税金を支払わせてくれない。

 <ラオス>
 ・国民の8割が農業に従事しているラオス人の農民気質は、他力本願な部分が多い。雨水はお天道様次第である。そんな性格が仕事にも反映される。今日お腹が痛かったら、仕事は明日に回せばよい。雨で濡れるのも嫌だから、今日は出社しなくてよい。こう考えるのがラオス人である。
 ・ラオスでは、一般的に一部屋に3~4人で寝る雑魚寝が普通である。よって、ラオス人が自分の知らない土地に出張する時は、ホテルに1人で寝ることができない。同行している日本人社員に「一緒に寝てくれないか?」と頼んでくる。日本の男性社員がラオスの女性社員と一緒に寝れば大問題だし、男性社員と一緒に寝ればそっち系の人と思われかねない。
 ・ラオス人には「清算」という考えがないらしい。会社から出張費を渡されて出張に行った後、領収書を会社に提出して残金を返すという習慣がない。会社からもらった出張費は自分のものであり、余ったお金はもらってよいと考えている。

 <ミャンマー>
 ・人口6,000万人のうち、500万人が海外で働いている。それだけ自国がまだ貧しいということだ。優秀な人材ほど海外に流出する。エンジニアやITスキルがある人はシンガポールやドバイ、カタールを目指す。したがって、ミャンマー国内では高度人材や管理職クラスの人材が圧倒的に不足している。
 ・ミャンマーでは、不動産に関する法律が十分に整備されておらず、不動産の所有者の権利が圧倒的に強い。オフィスビルとして建築が始まり、入居の契約がまとまった物件でも、完成間近になってオーナーの心変わりでホテルに変更される、などということがある。
 ・日本企業が中心となって開発を進めているティラワ工業団地は、工業用地の契約が70年で、しかも賃料を50年分前払いせよという、とんでもない条件になっているらしい。しかも、明確な開発プランがあるわけでもなく、解っているのは水道が2018年に通るということだけである。
 ・外国からの投資を奨励しているように見えて、実態は逆である。外国企業にはミャンマー人を雇用する義務があり、雇用保険、税金などは現地企業の倍以上を支払わなければならない。

池上彰、佐藤優『新・戦争論―僕らのインテリジェンスの磨き方』


新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方 (文春新書)新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方 (文春新書)
池上 彰 佐藤 優

文藝春秋 2014-11-20

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 以前の記事「武田善憲『ロシアの論理―復活した大国は何を目指すか』」で、「武田善憲氏が言うロシアのルールでは、ロシアがクリミア半島を編入した理由を説明できない」というようなことを書いたのだが、本書を読んだらロシアの行動の意味が多少理解できた。
 池上:それを私流に言うと、「過去の栄光よ、もう一度」ということです。たとえば、ソ連が崩壊してロシアになってしまいましたが、旧ソ連のクリミア半島の権益を守りたい、という気持ちが、やはりプーチン大統領にはあるでしょう。

 中国が今、南シナ海からさらにインド洋まで進出しようとするのも、明の鄭和の大航海であの辺を開拓したからだ、というわけです。南シナ海がなぜ中国のものなのか。何の理論的な根拠も出せない。「いや、鄭和があのあたりを開拓したからだ」と言うばかりです。(中略)チベットも、清の時代にあそこまで支配していたのであり、新疆ウイグル自治区も、清の時代に取った土地です。過去に統治した土地は、すべて自分のものだ、という考えですね。

 イラクの「イスラム国」は、2020年までに、東はインド、西はスペインまで取り戻す、と言っています。スペインというのは、つまり、イスラム王朝が支配していた土地を15世紀にキリスト教徒のレコンキスタ(国土回復運動)で取り返されたのをもう一度、取り戻す、という意味ですね。東では、17世紀から18世紀にかけて、インド大陸の大半を支配していたムガール帝国を取り戻すのだ、と言っているのです。過去のイスラムの栄光を再び、という発想です。
 つまり、過去の帝国主義によって獲得し、その後独立運動によって手放した土地を取り返そうというわけである。ただし、昔の帝国主義と異なり、戦争も植民地支配もしないという点で、佐藤優氏は「新帝国主義」と呼んでいる。

 帝国主義が起こる理由については、主に3つの学説があるらしい。1つ目はジョン・アトキンソン・ホブソンの説である。端的に言えば、国内の供給能力が需要を上回るため、市場としての植民地を求めるというものである。例えば、産業革命に成功したイギリスは、靴下をたくさん作るようになる。しかし、顧客が1人あたり20足も靴下を所有するようになると、新たに靴下を買わなくなる。そこで、新たな市場として植民地を開拓する。ところが、その植民地でも同様に靴下は飽和状態になる。そのため、さらに新たな植民地を作る、ということが繰り返される。

 2つ目はウラディミール・レーニンの説であり、ホブソンの説を補完するものである。資本主義が進むと競争が激化し、弱い企業はどんどんと買収され、もしくは倒産する。最終的には、一部の巨大企業(巨大コンツェルン)だけが勝ち残る。同時に、銀行でも同じような淘汰現象が起こる。こうして、生き残った巨大企業と巨大銀行が密接に結合し、独占資本が完成する。独占資本は、不当に賃金を下げ、過剰に製品を生産させる。後の流れは、ホブソンと同じである。

 3つ目はジョセフ・シュンペーターの説である。シュンペーターは、帝国主義の動機を市場の開拓に求めない。帝国主義は、例えば通貨が十分に流通していないアフリカ諸国など、市場としての価値が低い国も取り込んでいる。よって、帝国主義は、ローマ帝国や神聖ローマ帝国など、古代から続く膨張主義の延長線上にあると考えるのが自然である。帝国主義とは、古代の人が畑のない荒野、雪山など、全く使えない土地を意味もなくほしがったように、ただ単に国を大きくしようとする伝統的な古臭い思考にすぎない。

 これ以外にも、例えば軍事的な要所を抑える、自国が外国に過度に依存している資源を取り込む、といった理由で帝国主義に走ることが考えられる。だが、新帝国主義は、シュンペーターの説でしか説明できないと思う。ロシアがクリミアをほしがるのは、クリミアの市場性や天然資源に着目したからというより、単に「かつて支配していたから」という理由しか考えられない。そして、おそらく同じような理由で、ロシアは次にウクライナを狙っていることだろう。昔から領土的な野心をほとんど持たなかった日本人には、およそ理解できない心理である。
プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。これまでの主な実績はこちらを参照。

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、2,000字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
シャイン経営研究所HP
シャイン経営研究所
 (私の個人事務所)

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