アジア新興国のビジネス環境比較―カンボジア、ラオス、ミャンマー、バングラデシュ、パキスタン、スリランカ編 (海外調査シリーズ) ジェトロ 日本貿易振興機構 2013-04 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ASEAN10か国(ブルネイ、シンガポール、フィリピン、タイ、インドネシア、マレーシア、ベトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマー)のうち、カンボジア、ラオス、ミャンマーは今後大きな成長が見込めるとして、3か国の頭文字を取ってCLMと呼ばれる。CLMの現状について知りたくて本書を読んだ。
私の完全なる主観だが、3か国の中ではカンボジアが最もビジネスがしやすいように思えた。事実、世界銀行が出している「ビジネス環境の国別・項目別順位」を見ると、3か国の中ではカンボジアの順位が最も高い。ただし、世界的に見れば3か国とも順位が低い点には注意が必要だろう。また、カンボジアはポル・ポト政権下で知識階級が徹底的に排除された結果、国民の識字率が非常に低い(15歳以上の識字率が74%)ことも見過ごせない。
○ビジネス環境の国別・項目別順位(※数値は得点ではなく順位)
(※The World Bank, "Doing Business 2014"より作成)
以下、本書で私が気になったことのメモ書き。ただし、あくまでも本書が出版された2013年4月時点での情報であることをご了承いただきたい。
○進出形態・外資規制
※3か国とも、製造業は原則100%外資参入が可能。
【カンボジア】
・卸・小売業への100%外資参入が可能。
【ラオス】
・卸売業はラオス国籍投資家との合弁であれば参入可。
・小規模卸・小売業は合弁でも不可。
【ミャンマー】
・外資は商業(卸・小売業、貿易、金融・保険業)への参入ができない。
(ただし、細則で卸・小売業への参入を条件付きで認めたとされる)
※大和総研は、2015年にミャンマー初となる証券取引所「ヤンゴン証券取引所」の開業を目指すと発表。また、2014年10月にミャンマー政府は外国銀行9行に銀行免許を下ろし、そのうちの3行は三菱東京UFJ、三井住友、みずほであった。
(CNET Japan「諸外国がビジネス展開を狙う「ミャンマー」―その理由とは」〔2015年2月11日〕より)
○労働事情
【カンボジア】
・労働生産性は中国の5~7割。
・有期雇用契約者の解雇は無期雇用契約者よりも難しい。
【ラオス】
・労働生産性は中国の5~7割。
・外国人労働者の割合は、知的労働の場合20%、肉体労働の場合10%にしなければならない。
【ミャンマー】
・労働者に占めるミャンマー人の割合を、熟練労働者の場合は2年以内に25%、次の2年以内に50%、さらに次の2年以内に75%にしなければならない。
・非熟練労働者はミャンマー人のみ。
○税制・税務手続き
【カンボジア】
・売上高をベースに一定税率を徴収される。
・VAT(付加価値税)登録していない事業者への支払いは源泉徴収(15%)する必要があるが、現実には税金を肩代わりしていることも多い。
【ラオス】
・優遇税制は地域・事業によって9段階に分かれている。減税率が大きいのは地方>都市。
【ミャンマー】
・居住外国人は全世界所得が課税対象。
・非居住外国人はミャンマー国内の所得のみ。
○金融・外国為替
【カンボジア】
・ドルが流通。ただし、政府はリエルの使用を促進する方針。
・決済手段は小切手。
・海外送金も柔軟にできる。
【ラオス】
・決済通貨は現地通貨(キープ)。
・決済手段は小切手。
・海外送金は中央銀行の許可が必要。
【ミャンマー】
・決済通貨は現地通貨(チャット)。
・決済手段は現金。銀行の決済ネットワークが脆弱。
・海外送金は中央銀行&ミャンマー投資委員会(MIC)の許可が必要。
○貿易・通関制度
※3か国とも、「後発開発途上国(LDC)に対する特別特恵措置」により、日本輸入時の関税は免除。
【カンボジア】
・商業省に登録すれば輸出入は自由。
【ラオス】
・輸出入時に事前許可が必要な品目がある。
・タイから物品を運ぶと国境で輸出入両方の手続きが必要(現在、一本化に向けて作業中である)。
【ミャンマー】
・全ての品目についてインボイスごとに輸出入ライセンスが必要。
○インフラ(電力・物流・工業団地)
【カンボジア】
・電力自給率が35.8%。
・シハヌークビル港から日本までの直行便はなく、シンガポール、香港で積み替えが必要。
【ラオス】
・水力発電は十分可能だが、乾季にはタイから輸入している。
・陸路がある分、物流コストがどうしても跳ね上がる(ハノイ―ダナン間のブンアン港の利用に期待がかかる)。
【ミャンマー】
・ヤンゴン港、ティラワ港は水深が浅いため、国際航路はシンガポール―マレーシア間をフィーダー船でつなぎ、積み替えが必要。
・工業団地の空きがない状況。