こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント・トレーナー)のブログ別館。2,000字程度の読書記録の集まり。

2015年02月


JETRO『アジア新興国のビジネス環境比較―カンボジア、ラオス、ミャンマー、バングラデシュ、パキスタン、スリランカ編』


アジア新興国のビジネス環境比較―カンボジア、ラオス、ミャンマー、バングラデシュ、パキスタン、スリランカ編 (海外調査シリーズ)アジア新興国のビジネス環境比較―カンボジア、ラオス、ミャンマー、バングラデシュ、パキスタン、スリランカ編 (海外調査シリーズ)
ジェトロ

日本貿易振興機構 2013-04

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 ASEAN10か国(ブルネイ、シンガポール、フィリピン、タイ、インドネシア、マレーシア、ベトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマー)のうち、カンボジア、ラオス、ミャンマーは今後大きな成長が見込めるとして、3か国の頭文字を取ってCLMと呼ばれる。CLMの現状について知りたくて本書を読んだ。

 私の完全なる主観だが、3か国の中ではカンボジアが最もビジネスがしやすいように思えた。事実、世界銀行が出している「ビジネス環境の国別・項目別順位」を見ると、3か国の中ではカンボジアの順位が最も高い。ただし、世界的に見れば3か国とも順位が低い点には注意が必要だろう。また、カンボジアはポル・ポト政権下で知識階級が徹底的に排除された結果、国民の識字率が非常に低い(15歳以上の識字率が74%)ことも見過ごせない。

○ビジネス環境の国別・項目別順位(※数値は得点ではなく順位)
ビジネス環境の国別・項目別順位
(※The World Bank, "Doing Business 2014"より作成)

 以下、本書で私が気になったことのメモ書き。ただし、あくまでも本書が出版された2013年4月時点での情報であることをご了承いただきたい。

○進出形態・外資規制
 ※3か国とも、製造業は原則100%外資参入が可能。
 【カンボジア】
 ・卸・小売業への100%外資参入が可能。

 【ラオス】
 ・卸売業はラオス国籍投資家との合弁であれば参入可。
 ・小規模卸・小売業は合弁でも不可。

 【ミャンマー】
 ・外資は商業(卸・小売業、貿易、金融・保険業)への参入ができない。
 (ただし、細則で卸・小売業への参入を条件付きで認めたとされる)
 ※大和総研は、2015年にミャンマー初となる証券取引所「ヤンゴン証券取引所」の開業を目指すと発表。また、2014年10月にミャンマー政府は外国銀行9行に銀行免許を下ろし、そのうちの3行は三菱東京UFJ、三井住友、みずほであった。
(CNET Japan「諸外国がビジネス展開を狙う「ミャンマー」―その理由とは」〔2015年2月11日〕より)

○労働事情
 【カンボジア】
 ・労働生産性は中国の5~7割。
 ・有期雇用契約者の解雇は無期雇用契約者よりも難しい。

 【ラオス】
 ・労働生産性は中国の5~7割。
 ・外国人労働者の割合は、知的労働の場合20%、肉体労働の場合10%にしなければならない。

 【ミャンマー】
 ・労働者に占めるミャンマー人の割合を、熟練労働者の場合は2年以内に25%、次の2年以内に50%、さらに次の2年以内に75%にしなければならない。
 ・非熟練労働者はミャンマー人のみ。

○税制・税務手続き
 【カンボジア】
 ・売上高をベースに一定税率を徴収される。
 ・VAT(付加価値税)登録していない事業者への支払いは源泉徴収(15%)する必要があるが、現実には税金を肩代わりしていることも多い。

 【ラオス】
 ・優遇税制は地域・事業によって9段階に分かれている。減税率が大きいのは地方>都市。

 【ミャンマー】
 ・居住外国人は全世界所得が課税対象。
 ・非居住外国人はミャンマー国内の所得のみ。

○金融・外国為替
 【カンボジア】
 ・ドルが流通。ただし、政府はリエルの使用を促進する方針。
 ・決済手段は小切手。
 ・海外送金も柔軟にできる。

 【ラオス】
 ・決済通貨は現地通貨(キープ)。
 ・決済手段は小切手。
 ・海外送金は中央銀行の許可が必要。

 【ミャンマー】
 ・決済通貨は現地通貨(チャット)。
 ・決済手段は現金。銀行の決済ネットワークが脆弱。
 ・海外送金は中央銀行&ミャンマー投資委員会(MIC)の許可が必要。

○貿易・通関制度
 ※3か国とも、「後発開発途上国(LDC)に対する特別特恵措置」により、日本輸入時の関税は免除。
 【カンボジア】
 ・商業省に登録すれば輸出入は自由。

 【ラオス】
 ・輸出入時に事前許可が必要な品目がある。
 ・タイから物品を運ぶと国境で輸出入両方の手続きが必要(現在、一本化に向けて作業中である)。

 【ミャンマー】
 ・全ての品目についてインボイスごとに輸出入ライセンスが必要。

○インフラ(電力・物流・工業団地)
 【カンボジア】
 ・電力自給率が35.8%。
 ・シハヌークビル港から日本までの直行便はなく、シンガポール、香港で積み替えが必要。

 【ラオス】
 ・水力発電は十分可能だが、乾季にはタイから輸入している。
 ・陸路がある分、物流コストがどうしても跳ね上がる(ハノイ―ダナン間のブンアン港の利用に期待がかかる)。

 【ミャンマー】
 ・ヤンゴン港、ティラワ港は水深が浅いため、国際航路はシンガポール―マレーシア間をフィーダー船でつなぎ、積み替えが必要。
 ・工業団地の空きがない状況。

ウイリアム・マーサー社『A&R―優秀人材の囲い込み戦略』


A&R優秀人材の囲い込み戦略A&R優秀人材の囲い込み戦略
ウイリアム・マーサー社

東洋経済新報社 2001-08

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 本書で紹介されているA&R(Attraction and Retention:優秀人材の囲い込み)施策の一覧。

 ・給与、賞与、ストックオプション
 ・契約金・支度金(サイン・オン・ボーナス)
 ・退職金・年金改革
 ・紹介ボーナス(リファーラル・ボーナス)
 ・リテンション・ボーナス
 ・社内託児所
 ・キャリア女性のためのポジティブ・アクション
 ・キャリア女性のためのメンター・社内ネットワーク
 ・キャリア・パス・プランニング
 ・最先端の仕事
 ・社内フリー・エージェント制(キャリア・オプション)
 ・フリーランス契約(コントラクター)
 ・フレックス勤務、在宅勤務
 ・特別休暇
 ・シック・リーブ(私傷病休暇)
 ・教育環境(コーポレート・ユニバーシティ)
 ・インターネットMBAコース
 ・大学院への短期留学(エグゼクティブ・コース)
 ・学費返還制度
 ・インターンシップ
 ・部下による上司評価(多面評価)
 ・上司への教育
 ・レコグニション(認知)
 ・ポイント累積型カフェテリア・プラン
 ・企業文化の変革
 ・24時間電話カウンセリング
 ・ペット同伴
 ・社員割引価格での自社製品の提供
 ・私用・友人用メールアカウント
 ・コンシェルジュ・サービス
 ・社内マッサージ・サービス

 本書は2001年に出版されたやや古い本である。当時はまだソニーも元気があったので、本書にはソニーの事例がいくつか登場する。
 日本企業でもソニーなどはさすがというべきで、たとえば同社は2001年から従来形式の堅苦しい「入社式」を廃止し、代わってパーティー形式の「入社イベント」を行うことにした。ソニーの新入社員たちは東京臨海副都心のライブ・イベント会場で、出井会長や安藤社長をはじめとする経営陣と語らいながら楽しい時を一緒に過ごす。入社早々にこのような体験をした若者たちが、ソニーをどれだけ愛するか。ソニーで働くことにどれほどの喜びと誇りを感じるか。きっとワクワクする体験だったに違いない。
 ソニーでは、「新しいことを考えて、失敗した人」のほうが「失敗はしなかったが、新しいことも考えなかった人」よりも高い評価を受けるルールが形成されている。それが同社の「リスクを恐れずチャレンジする文化」を生んでいる。
 組織に縛られたくない、独立志向の強い人のなかにはユニークな発想ができたり型破りな行動力を持つ人材が時折いる。そういう人材を企業が獲得・活用するために、あえてフリーの契約社員という形で雇用するというのもひとつの方法だ。(中略)ソニーも1998年からIT技術者を対象に契約社員制度を導入しているし・・・(以下略)
 ソニーも2001年4月、東京本社近くに「ソニー・ユニバーシティ」を開設した。同社は海外グループ企業の管理職に外国人(主に現地人)を多数登用しているが、彼等を将来的に本社の主要ポストに据えることも視野に入れ、日本国内はもちろん、世界中から集まった幹部候補生を対象に教育・研修を行う。一度に500名を集め、2週間程度の研修を年に十数回実施する。授業はもちろん英語だ。実務教育にも力を入れるが、最も重視するのはソニーの企業DNA(遺伝子)の継承だという。
 最近よく使うこの図(まだ不完全だが)に照らし合わせると、ソニーは左上の「必需品ではない&製品・サービスの欠陥が顧客の生命に与えるリスクが小さい」という象限に属すると思う(PSPの大規模ネットワーク障害が起きても、「顧客の生命に与えるリスクが小さい」と言えるかどうかは議論の余地があるだろうが)。

製品・サービスの4分類

 《参考記事(ブログ本館)》
 『一流に学ぶハードワーク(DHBR2014年9月号)』―「失敗すると命にかかわる製品・サービス」とそうでない製品・サービスの戦略的違いについて
 『創造性VS生産性(DHBR2014年11月号)』―創造的な製品・サービスは、敢えて「非効率」や「不自由」を取り込んでみる

 日本企業が元来強いのは右下の象限である。この領域では、市場規模や顧客ニーズを正確に予測し、それに基づいて事業戦略・事業計画を立ててPDCAサイクルを着実に回すという、いわゆる一般的なマネジメントが通用する。

 一方で、左上の象限を得意とするのがアメリカ企業である。この領域は、顧客の好みや文化に大きく左右されるため、需要予測が難しく、流行り廃りが激しい。右下の象限とは異なり、顧客も自分が何を欲しているのかよく解っていない。

 そのため、作り手が強い想いやストーリーを込めた製品・サービスを市場に投入し、それに共感するファンを集めるという手順になる。別の言い方をすると、「私(企業側の開発者)自身が欲しいと思う製品・サービスを作ってみた。きっとあなた(市場・顧客)も気に入るはずだ」というマーケティングを展開することになる。しかも、何がヒットするか事前に予測できないから、企業としては次々と製品・サービスを投入して、市場の反応を見なければならない。

 果たして21世紀のソニーは、こういう経営ができていたのだろうか?ソニー凋落の要因については様々な人が色々と論じているのでここでは詳しく書かないが、私が1つ聞いた話では、EVA(Economic Value Added:経済的付加価値)の導入が、ソニーのイノベーション精神を蝕んだらしい。

 EVAでは、プロジェクトの開始前に将来的な収益を試算し、プロジェクトの取捨選択を行う。ところが、前述のように、左上の象限に属するソニーでは、プロジェクトがヒットするかどうかは「やってみないと解らない」のであって、それを事前に推測するのは困難である。EVAが上がらないからという理由で却下されたプロジェクトの中には、実は大変なお宝があったかもしれない。机上の計算だけで自分のアイデアが却下されてしまうのならば、技術者もやりがいを失うだろう。

 EVAはアメリカのスターンスチュアート社が提唱した概念(同社が商標登録している)であるが、「破壊的イノベーション」で知られるクレイトン・クリステンセンなどは、上記と同じような理由でEVAを批判している。

『オフィスの生産性(『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2015年3月号)』


ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2015年 03 月号 [雑誌]ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2015年 03 月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2015-02-10

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 多くのサプライヤーが取る対応が、価格の引き下げである。だが実は、このやり方は購買担当マネジャーの仕事を増やすことになりかねない。多くの場合、他の最終候補にも再び声をかけて、彼らにも価格引き下げの機会を提供し、妥当な範囲に価格を再調整する必要があるからだ。

 そうして価格が無事に引き下げられた後、購買担当マネジャーは再度「さらなる何か」を求めることになる。これは不思議なことではない。可能な限り安価で購入することだけが目標であるなら、企業は購買担当マネジャーを置く必要があるだろうか。
(ジェームズ・C・アンダーソン、ジェームズ・A・ナルス、マルク・ウォータース「価格や性能は決め手にならない 法人営業で顧客に最後の最後で選ばれる方法」)
 非戦略的購買、すなわち、企業がそのサプライヤーの製品・サービスを購入しても、自社製品・サービスの競争力強化に直結するとは限らないものの購買に関する論文である。非戦略的購買に関しては、購買担当マネジャーもサプライヤーも、取引を効率的に進めたいと思い、値引きという安易な手段に出やすい。だが、一度価格を下げてしまうと、その価格が次回以降の取引の基準になる。

 私の知り合いで法人営業の研修をやっている人は、価格交渉の罠を避けるためには、商談の主導権を絶対に相手に渡さないことが重要であると言っていた。主導権を渡さないというのは、例えば以下のような行動の積み重ねである。

 ・次回の商談の日程を顧客側に設定させない。こちらから3つ程度の候補を示し、顧客に選択させる。顧客に設定させると、顧客の都合に振り回されてしまい、別の顧客の商談との関係で非効率な営業活動を強いられることになる。

 ・見積書は絶対にこちらから提示せず、顧客側からお願いさせる。「よろしければ見積書だけでも出させていただけないでしょうか?」は禁句である。これを言った瞬間、相手はこちら側の弱気を読み取って、価格交渉に持ち込んでくる。

 その上で、交渉のカードを増やすことが重要であるという話もしていた。言い換えれば、価格以外に妥協可能な選択肢をたくさん持っておく、ということである。具体的には、仕様、数量、納品場所、納期、支払方法、オプション品、サービスなど、価格以外の面で融通を図る。「価格はこれ以上下げられませんが、代わりに納期を2週間短くするのはいかがでしょうか?その分、御社は業務を早く開始できます」といった具合に、相手の注意を価格面から上手に逸らすとよい。
 ある大手害虫駆除会社の食品安全部門が、まさにこうした状況だった。(中略)やっかいなのは、古いリース期間が終了し、新しい契約に切り替わる移行期間に、その部門がリース料を二重に支払わなければならないことだった。これは当該部門の向こう3か月間の業績に悪影響を及ぼし、結果として、業務担当マネジャーのボーナスに響く。

 購買担当マネジャーは、最終候補リストのなかから、自社と特に良好な取引関係にある1社に目星をつけ、「どうすれば、このリース契約期間の重複と二重払いを避けられるだろうか」と持ちかけた。サプライヤーは、36か月払いを33か月払いに統合して、新規リースの支払いを3か月遅らせることを提案してきた。

 その場合、実際に支払う総額は同じだが、同時に2枚の請求書が来ることは避けられ、業務担当マネジャーはボーナスを手にすることができる。
 こういう一工夫で、価格交渉を回避し、受注につなげることができるのである。
プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。これまでの主な実績はこちらを参照。

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、2,000字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
シャイン経営研究所HP
シャイン経営研究所
 (私の個人事務所)

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