こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント・トレーナー)のブログ別館。2,000字程度の読書記録の集まり。

2015年03月


森哲志『こんなはずじゃなかったミャンマー』


こんなはずじゃなかったミャンマーこんなはずじゃなかったミャンマー
森 哲志

芙蓉書房出版 2014-07-18

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 ミャンマーの駐日大使館がある品川御殿山は、ミャンマー人にはあまり好かれていないらしい。それは以下の2つの理由による。

 (1)日本で働くミャンマー人は、大使館に税金を納めなければならない。この制度は1989年に創設されたと言われる。前年に「血の8888事件」が起きて軍事政権が誕生したのを契機に海外からの経済援助がストップし、ただでさえ悪い財政がさらに悪化した。こうした国内の状況を嫌った人々は、次々と海外出稼ぎに出るようになった。政府としてもこの流れを止めることができず、収入の10%を税金として納めることを条件に、出稼ぎを容認するようになった。経済援助を打ち切られたミャンマー政府にとって、外貨獲得のための苦肉の策であった。

 ところが、ミャンマー人は、その税収は国庫に入っていないと見ている。大使館は使途不明なアングラマネーを集めているということで、ミャンマー人からは嫌われているのである。税金は軍事政権の資金源になっている疑いもあった。なお、この税制は、民主化の流れの中で2012年1月にようやく廃止された。

 (2)もう1つの理由は、ミャンマー大使館をめぐり、バブル時代に土地売買で巨額の資金が動き、軍事政権を支える原動力となったことである。軍事政権発足当初、大使館の敷地はもっと広大で、御殿山に1万6,000平方メートルほどあった。その6割近い9,300平方メートルを、1990年1月に銀座の不動産会社に340億円で売却した。この不動産会社はマンションを建設する予定だったが、第一種住居専用地域のため、建物建設には10メートルの高度制限があった。それをクリアするため、空中権としてさらに240億円を支払った。

 不動産会社に購入資金を融資したのは、大手金融機関であった。富士銀行が260億円、第一勧業銀行と日本長期信用銀行系の長銀インターナショナルリースがそれぞれ140億円、三菱銀行が100億円(銀行名称はいずれも当時)である。問題は、これがバブル崩壊直前の融資であったことだ。当時の大蔵省は、バブル崩壊を予測して、不動産向けの大型融資を控えるように通達を出していた。それに反して融資をしたのだから、マスコミは「ずさん融資」と書き立てた。

 果たしてバブルは崩壊し、融資は不良債権化した。その後、損失処理のため、共同債権買取機構に売却された。不動産会社は資金難に陥り、マンション建設も中止に追い込まれた。御殿山は10年以上も更地で放置されることになった。ミャンマー人にとって大使館は「不健全」の象徴であり、親しみを持てないのだ。

工藤年博『1時間でわかる 図解ミャンマー早わかり』


1時間でわかる図解ミャンマー早わかり1時間でわかる図解ミャンマー早わかり
工藤 年博

中経出版 2013-03

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 テイン・セイン氏の下で民主化が進んでいるミャンマーだが、依然として軍人の影響は強いようである。ミャンマーの議会は、人民代表院(下院)と民族代表院(上院)から構成され、両院を合わせて連邦議会と呼ぶ。議席数は人民代表院が440、民族代表院が224であるが、両院ともその4分の1は、国軍司令官の指名した軍人議員が占めることになっている。つまり、人民代表院の110議席、民族代表院の56議席は、軍人議員が選挙を経ずに選ばれる。

 ミャンマーの大統領は、3人の大統領候補から選ばれる。人民代表院の民選議員から1人、民族代表院の民選議員から1人、両院の軍人議員の中から1人、候補が選出される。連邦議会の議員全員で、3人の中から1人を大統領に選ぶ。そして、落選した2人が自動的に副大統領になる。したがって、大統領と副大統領のうち必ず1人は軍人議員出身となり、国軍の影響力が及ぶこととなる。

 2015年に行われる総選挙では、アウンサンスーチー氏が率いるNLD(国民民主連盟)が勝利すると予測されている。しかし、現行憲法では、両親、配偶者、子ども、子どもの配偶者が外国籍である者は大統領候補の資格がないと定められており、息子がイギリス国籍を持つアウンサンスーチー氏は大統領になれない。

 そこで、憲法を改正する必要があるのだが、ここでも国軍の壁が立ちはだかる。憲法改正には4分の3を超える議員の賛成が必要と定められている。ところが、前述の通り4分の1は軍人議員であるから、軍人議員の中から憲法改正に賛成する議員が出ないことには、憲法改正ができない仕組みになっている。

 軍人議員を指名する国軍司令官は、非常に大きな権力を持っている。まず、組閣に関して、国防大臣、国境大臣、内務大臣の3人は、大統領ではなく国軍司令官が任命することになっている。

 国軍司令官は、大統領が国防治安評議会の提案・承認を受けて任命する。国防治安評議会は、大統領、2人の副大統領、両院議長、国軍司令官、国軍副司令官、国防大臣、外務大臣、内務大臣、国境大臣の11人で構成されている。このうち過半数の6人が、国軍司令官の指名する人間によって占められている。つまり、国防治安評議会の議決には、国防司令官の意向が強く反映される。

 国防治安評議会は、国家の独立が失われる危機があった場合などに、非常事態宣言を出すことができる。非常事態宣言が出されると、全権が大統領から国防司令官に移譲される。国防司令官は、自分が影響力を持つ国防治安評議会に非常事態宣言を出させることで、大統領から全権を奪うことも可能ということになる。この仕組みが、「ミャンマーでは国軍が合法的にクーデターを起こすことができる」と批判されるゆえんである。

下川裕治『本社はわかってくれない 東南アジア駐在員はつらいよ』


本社はわかってくれない 東南アジア駐在員はつらいよ (講談社現代新書)本社はわかってくれない 東南アジア駐在員はつらいよ (講談社現代新書)
下川 裕治

講談社 2015-03-19

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 ブログ本館の「【シリーズ】ベンチャー失敗の教訓」であれこれと愚痴(?)を書いたけれども、本書を読んだら自分の悩みがすごくちっぽけなことに思えてきた。

 東南アジア、特にASEANは2015年末までにASEAN経済共同体(AEC)が発足し、約6億人の単一市場が誕生して事業機会が増えると言われる。だが、海外展開はそんなに甘くない。東京の企業が埼玉や千葉に進出するような感覚で海外に出たいと言う中小企業を時々見かけるが、国内の販路拡大と海外展開は全くの別物である。同じ製品・サービスを海外に持っていくだけでも、全くの新規事業立ち上げと同じ、いやそれ以上にリスク・難易度が高いと思った方がよい。

 <フィリピン>
 ・フィリピン・プロバスケットボール・リーグ(PBA)は、アメリカのNBAに次いで長い歴史があり、フィリピン人はバスケットボールに熱い。ある日系企業が社内イベントとしてバスケットボール大会をフィリピン人に企画させたら、参加企業100社、大会期間3か月というとんでもないイベントになってしまった。
 ・フィリピンは、おそらく東南アジアで最も拳銃が氾濫している国である。拳銃を購入すると、フィリピン国家警察への登録が義務づけられているが、密売された未登録拳銃も相当数出回っている。

 <マレーシア>
 ・マレーシアには、マレー人の雇用などを優遇するブミプトラ政策がある。そのためか、マレー人は経済状況がよくなってから、親の過保護で育った人が多い。また、いざとなったら政府が何とかしてくれるという依存心もある。よって、ちょっと厳しく接すると会社を辞めてしまう。
 ・マレーシアは、400万人以上の外国人労働者を抱える。これは人口の約1割に相当する。問題は、出入国管理局が慢性的な人手不足に陥っていて、小規模の会社の外国人雇用ビザの手続きに手が回らない、ということである。申請から取得までに1~2年待たされることも覚悟しなければならない。

 <タイ>
 ・タイに駐在する際にはBビザ(ノンイミグラントビザ)が必要になる。Bビザはタイ国内で取得できず、ラオスかシンガポールのタイ大使館で申請する。その時に持参する書類が膨大で、会社の登記簿、英文の招聘状、過去数年分の損益帳簿に法人税証明書、従業員名簿など、ちょっとした電話帳ぐらいの厚さになる。しかし、書類のチェックは担当者によってまちまちであり、裁量の幅が広い。
 ・敬虔な仏教徒が多いタイでは、日本人が趣味とする釣りは無益な不殺生と映り敬遠される。ただし、漁師は仕事だから許される。
 ・タイの男性は出家して1人前という発想がある。出家といってもずっと寺で暮らすわけではなく、2週間から3か月ほどが一般的である。現地の企業では、就業規則で「出家休暇」が定められていることがある。
 ・タイでは自分の子どもを職場に連れてくるのが普通である。社外に出なければならない時は、社内にいるスタッフが面倒を見る。これがタイ式の子育てだ。

 <ベトナム>
 ・ベトナム仏教では月に2回、旧暦の1日と15日が不殺生の日とされている。この日は肉や魚を食べてはいけないため、野菜と果物を購入する人々で道路は大渋滞になる。その影響を受けて、社員の遅刻は当たり前となる。
 ・ベトナムでは家を建てる時、毎日家族の誰かが建築現場に立ち会わなければならない。建築材をごまかしていないか、作業員は休まずに働いているか、設計図通りに仕事が進んでいるかを細かくチェックする。釘やレンガの数まで調べるという。そのため、家を建てるからという理由で辞める社員がいる。
 ・ベトナムは公安のチェックが厳しい。外資系企業はお金を持っているということで、格好のターゲットとなる。公安のさじ加減で営業停止になることもあるので、袖の下が欠かせない。ベトナム人社員に公安対応を依頼したら、公安への賄賂の一部がその社員にキックバックされていた、ということもある。

 <カンボジア>
 ・カンボジアで盗難証明書を発行してもらうことは難しい。外国人がカンボジアで盗難に遭った数は、各エリアの警察署内でまとめられ、国際的な安全度をチェックする国際機関に報告される。よって、盗難の数が多くなると、アンコール・ワットの治安が悪い、警察官がちゃんと見回っていないということになり、都合が悪い。そのため、盗難ではなく紛失で処理されることが多い。
 ・カンボジアでは毎月決算を税務署に申告しなければならない。しかも、そのたびに袖の下が必要になる。袖の下がないと、税金を支払わせてくれない。

 <ラオス>
 ・国民の8割が農業に従事しているラオス人の農民気質は、他力本願な部分が多い。雨水はお天道様次第である。そんな性格が仕事にも反映される。今日お腹が痛かったら、仕事は明日に回せばよい。雨で濡れるのも嫌だから、今日は出社しなくてよい。こう考えるのがラオス人である。
 ・ラオスでは、一般的に一部屋に3~4人で寝る雑魚寝が普通である。よって、ラオス人が自分の知らない土地に出張する時は、ホテルに1人で寝ることができない。同行している日本人社員に「一緒に寝てくれないか?」と頼んでくる。日本の男性社員がラオスの女性社員と一緒に寝れば大問題だし、男性社員と一緒に寝ればそっち系の人と思われかねない。
 ・ラオス人には「清算」という考えがないらしい。会社から出張費を渡されて出張に行った後、領収書を会社に提出して残金を返すという習慣がない。会社からもらった出張費は自分のものであり、余ったお金はもらってよいと考えている。

 <ミャンマー>
 ・人口6,000万人のうち、500万人が海外で働いている。それだけ自国がまだ貧しいということだ。優秀な人材ほど海外に流出する。エンジニアやITスキルがある人はシンガポールやドバイ、カタールを目指す。したがって、ミャンマー国内では高度人材や管理職クラスの人材が圧倒的に不足している。
 ・ミャンマーでは、不動産に関する法律が十分に整備されておらず、不動産の所有者の権利が圧倒的に強い。オフィスビルとして建築が始まり、入居の契約がまとまった物件でも、完成間近になってオーナーの心変わりでホテルに変更される、などということがある。
 ・日本企業が中心となって開発を進めているティラワ工業団地は、工業用地の契約が70年で、しかも賃料を50年分前払いせよという、とんでもない条件になっているらしい。しかも、明確な開発プランがあるわけでもなく、解っているのは水道が2018年に通るということだけである。
 ・外国からの投資を奨励しているように見えて、実態は逆である。外国企業にはミャンマー人を雇用する義務があり、雇用保険、税金などは現地企業の倍以上を支払わなければならない。
プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。これまでの主な実績はこちらを参照。

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、2,000字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
シャイン経営研究所HP
シャイン経営研究所
 (私の個人事務所)

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