こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント・トレーナー)のブログ別館。2,000字程度の読書記録の集まり。

2015年05月


竹内洋『社会学の名著30』


社会学の名著30 (ちくま新書)社会学の名著30 (ちくま新書)
竹内 洋

筑摩書房 2008-04

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 『社会学の名著30』というタイトルがついているが、社会学というのは基本的に社会現象を取り上げれば何でもOKという学問であり、研究対象が非常に幅広い。よって、「この研究だけは押さえておきたい」というコンセンサスを形成するのが難しいようだ。Amazonのレビューを見ても、「○○という本/社会学者が紹介されていないのはおかしい」という意見があるし、知り合いの研究者に聞いても似たような声が返ってくる。そう言われてみると確かに、竹内洋氏が個人的に思い入れのある研究者を取り上げているように見える箇所もある。

 私がブログを始めてちょうど10年になるが、最初の7~8年は経営・マネジメントを中心に比較的オーソドックスな内容を書いてきた。ただ、それは悪く言えば教科書的であり、個性のない文章が大半であったとも言える。ようやく自分らしさが出せるようになったと思うのはここ2~3年のことだ。今まで追い求めてきたアメリカ的な経営に対して、日本的経営とは何かを少しずつ提示できるようになった。例えば、次のようなことである

 (a)トップは社員に対して明確な経営ビジョンを示さなければならない。
 ⇔日本企業には、必ずしも明確な経営ビジョンは必要ないのではないか?
 (「果たして日本企業に「明確なビジョン」は必要なのだろうか?(1)(2)(補足)」を参照)

 (b)意思決定のスピードアップを図るために、組織をフラット化する必要がある。
 ⇔日本の組織は、階層が多い方がむしろ安定するのではないか?
 (「相澤理『東大のディープな日本史』―権力の多重構造がシステムを安定化させる不思議(1)(2)」、「山本七平『山本七平の日本の歴史(上)』(2)―権力構造を多重化することで安定を図る日本人」、「渋沢栄一、竹内均『渋沢栄一「論語」の読み方』―階層を増やそうとする日本、減らそうとするアメリカ」を参照)

 (c)((b)とも関連するが)組織内の権力を減らせば減らすほど減らすほど(トップから現場に権限を委譲するほど)、現場の社員は自由に振る舞える。
 ⇔日本人は、上からの権力を受けることによって、かえって自由になるのではないか?自由とは権力からの自由ではなく、権力の中での自由ではないか?
 (「加茂利男他『現代政治学(有斐閣アルマ)』―「全体主義」と「民主主義」の間の「権威主義」ももっと評価すべきではないか?」、「山本七平『危機の日本人』―「日本は課題先進国になる」は幻想だと思う、他」を参照)

 (d)ピーター・ドラッカーがGEのジャック・ウェルチに「市場シェアが1位か2位以外の事業からは撤退すべきだ」と助言したように、市場では常にトップを目指さなければならない。トップ以外には意味がない。そして、トップになるためには、競合他社を直接攻撃することもいとわない。
 ⇔市場には多様な企業による多様な製品・サービスがあってしかるべきではないか?また、競合他社は攻撃の対象ではなく、ともに研鑽し市場を拡大するための運命共同体ではないか?
 (「日本とアメリカの「市場主義」の違いに関する一考」、「新雅史『商店街はなぜ滅びるのか』―競合他社を法律で排除した商店街は、競争力を鍛える機会を自ら潰した」、「山本七平『「孫子」の読み方』―日本企業は競争戦略で競合を倒すより、競合との共存を目指すべきでは?」を参照)

 これらのことは、一般的な考え方=アメリカ的な考え方とはあまりに異なるため、本当に正しいかどうか自分でも懐疑的になることがある。しかし、社会学というのは、一見おかしいと思うことであっても、よくよく論理を詰めていくと、実は正しいと言えるようなことを発見するのが仕事である。ピーター・バーガーの『社会学への招待』がそのことを教えてくれた。
 公式的見解や表明の背後にある構造が見通され、「ものごとはみかけどおりではない」として現実感が一変する知的興奮である、という。社会学は遠い国の奇妙な習俗を発見する文化人類学のような、まったく見知らぬものに出会う時の興奮ではない。

山本純一『メキシコから世界が見える』


メキシコから世界が見える (集英社新書)メキシコから世界が見える (集英社新書)
山本 純一

集英社 2004-02

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 以前の記事「中畑貴雄『メキシコ経済の基礎知識』」でメキシコ経済・社会の問題点を整理したが、本書ではメキシコ企業を経営する日本人社長の生々しい声(というか悲痛な叫び)が紹介されていた。この社長は、NMX(NM Visual Systems de Mexico)という、NECと三菱の合弁会社を経営していた(ただし、2002年8月末をもって生産は中止、工場は閉鎖されている)。
 ①メキシコ人マネージャーには責任感が欠如している。
 ②①に関連して、メキシコ人マネージャーの給与水準と能力にはギャップがある。例えば、前任地のマレーシアの場合、マネージャーの給与は2000ドル/月であったが、ここでは4000~5000ドルと倍以上である。
 ③日本人の比率が多すぎるので、18人から現在(2001年3月)には9人に減らし、さらに9月以降は5人にして、メキシコ人マネージャーに仕事を任せるようにする。
 ④メキシコ国内ではジャストインタイム(JIT)対応ができない。
 ⑤生産コストが下がらないのは労賃が高いのが原因である。例えば、福利厚生を含むメキシコ人労働者の給与は平均500ドル/月で、これは東南アジアの2.5倍にあたる。

 以上のように、H社長の見解は非常に悲観的なものであった。そしてH社長の、メキシコでの工場経営はマレーシアの数倍難しい、マレーシアが難易度Aとすれば、メキシコはC難易度だ、といった言葉が印象に残った。
 本書は、メキシコ南部のチアパスに拠点を置く「サパティスタ(zapatista)」についても詳しく記述されていた。歴史を振り返ると、1810年、メキシコはスペインに対する独立戦争を開始した。それ以降、中米地域の他の植民地も独立を果たしたが、チアパスは植民地時代にグアテマラ総督領に属していたため、新たにメキシコに帰属するのか、それともグアテマラに残るのかで激しい議論が巻き上がった。紆余曲折を経て、チアパス最南部のソコヌコス地方が現在のチアパス州の一部となったのは1842年のことであった。



 独立後も、インディオの反乱は後を絶たなかった。1867~70年に起きたクスカットの乱の原因は、自由主義的な近代化政策の一環としてインディオ共有地の私有地化が進み、多くのインディオが土地を売ったり、騙し取られたりした結果、農奴化したことである、と言われている。その後も、ポルフィリオ・ディアス独裁政権下(1877~1911年)にあって、メキシコの資本主義化とインディオ共有地の解体が促進され、大土地所有者による土地収奪が急速に進んだ。

 ディアス独裁体制を打倒するため、1910年に始まったメキシコ革命は、当初はブルジョア階層の政治的支配権争いであったが、次第に農民を巻き込む一大社会変革運動となった。そして、メキシコシティ南のモレーロス州を本拠地とする貧農エミリアーノ・サパータが訴えた「農民に土地と自由を」のスローガンが1914年の革命綱領に結実し、その後全国で行われる農地革命の思想的基盤になった。

 サパティスタとは、サパータ主義者、つまりサパータの思想に殉じる者という意味である。もっとも、革命時のサパティスタが「自由と土地」を求めたのに対し、現在のサパティスタは、これに加えて、先住民の文化と権利の擁護やメキシコン真の民主化を掲げ、経済的なグローバリゼーションに反対している。メキシコに2度目の革命を起こそうとしているのが、サパティスタ国民解放軍(EZLN)である。

 本書はそのEZLNの実態や、サパティスタを支援する様々な団体の活動に迫る1冊だ。さらに、メキシコ先住民を支援する組織への取材も試みられている。我々はアメリカの影響を受けて、「資本主義+民主主義」、すなわち経済的な自由(=政治への自由参加)と政治的な自由(=財産の私有)を両方とも享受できることこそが普遍的な価値だと信じている。ところが、本書を読むと、世界にはそのような考え方が通用しない地域があることを思い知らされる。サパティスタは、政治的な自由と経済的な不自由(=財産の共有)の両立を志向しているようだ。
 「なぜチアパスの先住民共同体で連帯経済が生まれたのか」
 「連帯経済は必要から生まれた。先住民が貧しかったから、忘れ去られた存在だったから生まれたのだ」(中略)

 「連帯経済の土台である協同労働を担う人間像には、フレイレの教育思想やエルネスト・チェバラの『新しい人間』の影響があるように思えるが?」
 「フレイレは、人が常に未完成、成長途上であることを強調し、人が成長するための相互教育を重視した。協同労働は相互教育を実践し、各人が未完成な存在であることを認識する学校なんだ。ゲバラは、真の社会主義を建設するための『新しい人間』のビジョンを提示した」

室谷克実、三橋貴明『韓国人がタブーにする韓国経済の真実』


韓国人がタブーにする韓国経済の真実韓国人がタブーにする韓国経済の真実
室谷 克実 三橋 貴明

PHP研究所 2011-06-18

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 室谷克実氏によると、韓国には「外華内貧」と言って、表面は美しく繕うけれど、内部に関しては極めて無頓着な傾向が見られるという。

 ・かつての韓国の大企業は、本業以外はもちろん、グループ内各社の売上高を、連結ではなく単純加算した数字をもって、「『フォーチュン』誌で世界の500大企業にランクインした」と主張していた。企業の生み出した利益や付加価値額ではなく、単純に売上高を合計して誇っていた。

 ・日本の技術者が韓国の工場に技術指導に行って、「その機械はこっちに置いた方がスムーズな製造ラインができる」と指摘しても、「この機械は目立つところに置きたい。そうしないと外から見学に来た人が『立派な工場だ』と思わない」という答えが返ってくる。見てくれのいい機会を前面に出して、格好をつけたがる。

 ・韓国人はテレビであれパソコンであれ、外見を格好よく見せたい。だから、内部の部品には興味がない。部品メーカーを育てる発想もない。日本から部品を買い、見た目に格好よく組み立てて、海外で派手に売ればいいと考えている。

 ・韓国の建物は外観が立派でも内部は粗雑で、特に水回りが悪い。高級マンションでも水回りから壊れていき、15年も経てば住めなくなってしまう。日本では築40年でも上下水道管を替え、外装を塗り替えればちゃんと住めるマンションがたくさんあるのとは大違いである。

 ・2006年にペ・ヨンジュンが高級韓国料理と銘打って日本にレストランを開いたが、2011年12月に「休業」することになった。その理由は、「設備が古くなったから」だという。日本ではわずか5年で設備が老朽化することは考えられない。

 ・儒教では「身体髮膚これを父母に受く、あえて毀傷せざるは孝の始めなり」と言う。人間の体は全て父母からもらったものだから、傷つけないようにするのが親孝行の始めという意味だが、韓国人は平気で整形する。

 何の本だったか忘れてしまったのだが、「昔は左派というと賢いインテリのイメージがあった。ところが、今の左派は完全に堕落してしまい、右派の方が賢くなっている」といった文章を読んだことがある。次のくだりはまさにその一例だろう。
 たとえば彼らは「外国人だって税金を払っている。参政権を得るのは当然だ」という。私が「税金支払いの有無で参政権を決めるなら、所得税を払っていない生活保護者からは参政権を取り上げるのか。子供だって消費税を払っているが、子供にも参政権を与えるのか」というと、とたんに論理が破綻して「韓国には外国人参政権がある」という。

 そこで「韓国にいる外国人がどれほど少ないか知っているか。日本とは比較にならない」と反論すると、最後には「外国人がかわいそうだ」という感情論になる。こちらが反論するたびに理由が変わる。やはり「論拠なし。ただし、結論ありき」なのです。
 「オランダは外国人参政権を認めている」という人もいますが、そのオランダがいまどうなっているかというと、ゴッホの弟のひ孫の映画監督が、イスラム教徒に暗殺されるなど、国内が大混乱に陥った。「シンガポールは移民を積極的に認め、参政権も与えている」という人もいますが、シンガポールでは外国人労働者が妊娠すると、強制送還させられます。外国の事例を持ち出す人は、現実をどこまで知っているのか。
 通常、左派の論理には、右派にない美しさがある。右派は歴史や伝統を重んじる。歴史や伝統というのは、必ずしも合理的とは限らない人間の行動の積み重ねによって形成される。右派はそれを何とか論理的に説明しようとするため、必然的に一定の無理を内包する。一方、左派は歴史や伝統から離れ、合理的な思考に基づいて、あるべき社会像や人間像を描写する。まっさらなキャンバスの上に、理性を駆使して自由に論理を展開できるので、美しく描けるに決まっている。

 スタート地点で有利に立っているはずの左派が論理的危機に陥っているのは、由々しき事態である。右派は左派がなくなることなど望んでいない。
プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。これまでの主な実績はこちらを参照。

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、2,000字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
シャイン経営研究所HP
シャイン経営研究所
 (私の個人事務所)

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