こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント・トレーナー)のブログ別館。2,000字程度の読書記録の集まり。

2015年07月


坂本光司『日本でいちばん大切にしたい会社4』


日本でいちばん大切にしたい会社4日本でいちばん大切にしたい会社4
坂本 光司

あさ出版 2013-11-18

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 《本書で紹介されている企業》
 株式会社小松製菓(岩手県二戸市)
 株式会社坂東太郎(茨城県古河市)
 株式会社協和(東京都千代田区)
 東海バネ工業株式会社(大阪府大阪市)
 株式会社障がい者つくし厚生会(福岡県大野城市)

 《『日本でいちばん大切にしたい会社』シリーズ》
 坂本光司『日本でいちばん大切にしたい会社』
 坂本光司『日本でいちばん大切にしたい会社2』―採用・給与に関する2つの提言案(前半)(後半)(※ブログ本館)
 坂本光司『日本でいちばん大切にしたい会社3』

 著者の坂本光司教授は、最近は障がい者雇用に注目しているということを何かの記事で読んだ覚えがある。その影響の表れなのか、この「日本でいちばん大切にしたい会社」シリーズも後半になると、障がい者雇用に積極的な企業が数多く登場する。本書では、ランドセルメーカーの株式会社協和や、不燃性一般廃棄物の処理を行う株式会社障がい者つくし厚生会が紹介されている。
 統計によると、今、日本には障がい者が740万人います。日本の人口は1億2700万人ですから、その約6%が障がいをもつ方々になる計算です。その中で一般就労されている方、つまり普通の会社に勤めている人はどれくらいいるのかというと、たったの30万人です。残りの圧倒的多数の方たちは、自宅で過ごしているか、グループホームにいるか、いわゆるA型、B型といわれる施設に通って訓練や作業をするかしています。でも人は、働かないで、果たして幸せになれるものでしょうか。
 企業の社会的責任(CSR)の重要性が指摘されるようになって久しいが、企業が社会的責任を果たすには、大きく分けて2つの方法があると思う。1つは社会的な製品・サービスを提供することであり、もう1つは社会的な手段で製品・サービスを生産・販売することである。

 社会的な製品・サービスとは、基本的な衣食住などのニーズが充足されていない社会的弱者のための製品・サービスを意味する。また、社会的な手段で生産・販売するとは、労働力や資本を持続可能な方法で利用することである。具体的には、社員を使い捨てにしない、未だ十分に活用されていない女性・高齢者・障がい者などの労働力を活用する、環境負荷の低減につながる製造プロセスを確立する、地球資源の再利用率を高める、などといったことである。

 一般的にCSRと言うと、社会的な手段で製品・サービスを生産・販売することを指すことの方が多いように思える。だが、究極のCSRとは、社会的な製品・サービスを、社会的な手段で生産・販売することではないだろうか?例えば、障がい者を積極的に雇用して、障がい者の固有ニーズに応えるための製品・サービスを提供する、といった事業のことである。

 もしこれができたら、坂本教授は「日本で”本当に”いちばん大切にしたい会社」として絶賛するに違いない。また、こういう事業は、マイケル・ポーターが近年提唱しているCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)を体現することにもなる。ポーターは経済的価値と社会的価値の統合を主張し、社会的価値の実現を通じて経済的価値を最大化することが企業の究極の目標であるとしている。

 ただ、1つ注意しなければならないのは、「障がい者を積極的に雇用して、障がい者の固有ニーズに応えるための製品・サービスを提供する」と言っても、健常者と障がい者を切り離し、障がい者主体の企業を作って、障がい者向け製品・サービスに特化した事業を展開すればよいというわけではない、ということである。そのような区別は、結局のところ差別を温存するだけであろう。

 そうではなく、健常者の社員の中に障がい者の社員が混じり、かつ健常者向けの製品・サービスに交じって障がい者向けの製品・サービスが存在する状態が望ましい。しかも、障がい者の社員が健常者向けの製品・サービスを扱ったり、健常者の社員が障がい者向けの製品・サービスを扱ったりするような、”クロス”の取り組みを積極的に推進するべきである。そうすれば、健常者と障がい者が相互に理解を深め、共存する優れた企業になると思う。

『「最後のフロンティア」アフリカ われわれは何を学ぶのか(『一橋ビジネスレビュー』2015年SUM.63巻1号)』


一橋ビジネスレビュー 2015年SUM.63巻1号一橋ビジネスレビュー 2015年SUM.63巻1号
一橋大学イノベーション研究センター

東洋経済新報社 2015-06-12

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 アフリカ特集の論文の他に、株式会社エニグモのケーススタディが収録されていた。エニグモは、「海外在住の個人の出品者から世界中のブランド品をお得に購入できる」というソーシャルショッピングサイト「BUYMA」を運営するベンチャー企業である。上場に至るまでの様々な苦労が記述されていたのだが、まるで私の前職のベンチャー企業(教育研修&組織開発・人材育成コンサルティング会社)のことを読んでいるかのようであった。

 もっとも、エニグモは苦難を乗り越えて2012年に株式公開に至ったのに対し、私の前職の会社は今はどうなっているかも解らないので、雲泥の差であるが・・・。

 (1)創業当初、BUYMAのシステムを構築するにあたって、値段が最も安く、上場企業であるという理由で、大手の某IT企業に決まった。ところが、システムの完成が遅れに遅れた上、そのIT企業の下請会社が夜逃げしたという理由で、システムを完成させることができなくなった。

 ⇒コア業務を安易に外注してはならない。BUYMAは、ユーザーとバイヤーをマッチングするITシステムがサービスのカギであるから、やはりITシステムは内製するべきだった。なお、現在のエニグモには、システム担当者が配置されている。

 私の前職の企業でも、携帯電話を使って研修後の現場学習をフォローするシステムを構築しようとした時があった。だが、社内には開発スキルを持った人などいないので、外注先に丸投げしていた。案の定、システムは使い物にならなった。一応、納品はしてもらったものの、その後外注先の下請企業が倒産したという理由で、システムの保守・改修をできる人が誰もいなくなってしまった。

 (2)BUYMAの事業はなかなか軌道に乗らなかった。そこで、収益源を確保するために、「プレスブログ」(企業が発表した製品やイベントの情報などを消費者がブログで紹介し、一定の条件を満たしていれば報酬を支払うサービス)を立ち上げた。BUYMAの位置づけが不明確になりそうだったが、社内で議論した結果、BUYMAを「ゆっくり育てて大きく刈る」事業という位置づけにし、育てている間、新しい収益源を開発することに決まった。

 ⇒前職の会社では、大きく分けて「自己啓発系(キャリア開発、リーダー育成など)」と、「ビジネススキル系(営業など)」という2種類の研修サービスがあった。社長としては前者を前面に打ち出したかったようだが、残念ながら全く売れていなかった。売れているのは後者ばかりで(私が扱っていたのも後者であった)、後者の利益を全部突っ込んでも足りないぐらい、前者は大幅な赤字を計上していた。

 こういう状況にもかかわらず、社長は前者を「我が社の主力サービス」と公言し(儲けが出ていないサービスを「主力」と呼べるのだろうか?)、後者は必要悪であるかのような扱いをした。サービス全体像の中で後者のサービスをどのように位置づけるのか?前者のサービスはいつまでに黒字化させるのか?そのための資金をカバーするために、後者のサービスはいくら売り上げる必要があるのか?こういった点をもっとはっきりさせるべきだったと思う。

 (3)エニグモは当初から上場を目指していたので、上場準備の経験がある人材をCFOとして招聘していた。しかし、BUYMAが大幅な赤字を計上し続けた影響で、上場を一旦断念した。この方針転換により、CFOは退職した。CEOの須田将啓氏は、「上場が明確になってからスペシャリストに頼った方がよい。そうしないと社長はファイナンスの知識も増えないし、依存したままになってしまう。もちろん、せっかくのスペシャリストの能力が十分に活かされない」と語っている。

 ⇒前職の会社も上場を目指していた。エニグモのように、様々なWebサービスを提供しており、そのための投資が必要な企業であれば上場する意義もあるだろう。ところが、前職の企業は労働集約型であり、人件費以外に特に大きな投資を必要としなかった。そもそも上場する目的が不明確であったのに、「上場する」という目標だけが独り歩きしており、上場準備のための人材まで採用していた。だが、深刻な業績不振になって上場を断念すると、程なくその人は会社を去った。

 仮に、前職の会社が上場に値する事業を行っていたとして、首尾よく上場できただろうかと考えてみると、実は無理だったのではないかと思う。須田氏のコメントから察するに、上場時には経営陣がファイナンスの知識を相当勉強しなければならない。ところが、前職の社長は、自分で勉強するという姿勢がなかった。

 社長は何か新しいことを思いつくと、その分野に詳しそうな人を外部から引っ張ってきて、その人に任せきりにしていた。そして、進捗が芳しくないと、「なぜできないんだ」と叱責するばかりであった。そういうマネジメントスタイルもあるのかもしれないが、社長もその分野のことを勉強して、担当者と一緒に議論したり、担当者を側面支援したりすれば、もっと違う結果が得られたのではないかと感じる。

デイヴィッド・ゲレス『マインドフル・ワーク―「瞑想の脳科学」があなたの働き方を変える』


マインドフル・ワーク―「瞑想の脳科学」があなたの働き方を変えるマインドフル・ワーク―「瞑想の脳科学」があなたの働き方を変える
デイヴィッド・ゲレス 岩下 慶一

NHK出版 2015-05-22

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 以前の記事「エドガー・シャイン『問いかける技術―確かな人間関係と優れた組織をつくる』他」で「マインドフルネス」に触れたが、本書はその実践書である。
 マインドフルネスとは、「完全に現在に存在すること」だ。過去の思いに囚われたり、未来を夢見たりすることなく、この時、この場所に存在することだ。マインドフルになるとは、自分の身体の感覚を感じ取ることだ。たとえそれが不快なものであっても、それに執着したり、消え去るよう望んだりしないことだ。
 マインドフルネスは、心や身体の中で、また私たちを取り囲む世界で今起こっていることについて、最も基礎的なレベルで気づきを深めることだ。これらの動きに気づくこと、現実をありのままに受け入れることだ。そして、マインドフルネスを養うのに最も優れた方法が、瞑想だ。
 マインドフルネスのポイントを私なりに整理すると、①未来ではなく「今、ここ」に集中すること、②私と世界を一体のものとしてとらえること、である。この考え方は欧米流の合理主義に対するアンチテーゼである。

 欧米(特にアメリカ)においては、まずは未来から出発する。未来のある地点において、「私は何を実現したいか?」というビジョンを明確に掲げる。そして、そこから遡って、「私はいつまでに何をするべきか?」という目標を細かく分割して設定する。こういうバックキャスティング的な発想をするのが欧米流である。

 マインドフルネスに到達する最も効果的な方法が瞑想であることからも解るように、マインドフルネスは東洋の影響を強く受けている。東洋思想は、未来ではなく現在、分割ではなく統合を特徴とする。だが、マインドフルネスには、東洋思想のもう1つ重要な視点が抜け落ちている気がする。それは「他者」の存在である。

 マインドフルネスにおいては、ややもすると瞑想によって自分の世界に閉じこもれば、世界に直接アクセスできるかのような印象がある。それはちょうど、物理学者デイビッド・ボームが精神の働きを考察した際に、人間が意識のレベルを引き上げれば、宇宙全体を統合的に支える「内蔵秩序」とつながることができると説いたのと同じ話である(ブログ本館の記事「オットー・シャーマー『U理論』―デイビッド・ボームの「内蔵秩序」を知らないとこの本の理解は難しい」などを参照)。

 しかし、他者のいない世界は存在しない。よって、世界の理解には他者理解が不可欠である。本当にマインドフルネスを獲得するためには、他者との相互作用を欠くことができない。確かに、ボームの内臓秩序の話から発展した「U理論」では、集団が意識を統合していくストーリーが描かれている。しかし、その過程において他者とどのような交流がなされたのかが十分に解明されていない。個人的にはその点が非常に不満である(ブログ本館の記事「安岡正篤『活字活眼』―U理論では他者の存在がないがしろにされている気がする?」を参照)。
プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。これまでの主な実績はこちらを参照。

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、2,000字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
シャイン経営研究所HP
シャイン経営研究所
 (私の個人事務所)

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