こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント・トレーナー)のブログ別館。2,000字程度の読書記録の集まり。

2015年08月


島田裕巳『神道はなぜ教えがないのか』


神道はなぜ教えがないのか (ベスト新書)神道はなぜ教えがないのか (ベスト新書)
島田 裕巳

ベストセラーズ 2013-01-09

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 ブログ本館の記事「竹田恒泰『日本人はなぜ日本のことを知らないのか』―よくも悪くも「何となく、何とかしてしまう」のが日本人」で、日本人というのは明確な目標を最初に掲げ、それに向かって突き進むよりも、その時々の状況に応じてコロコロと方向性を変えながら前進する国民である、ということを書いた。周りから見ると、短期的、場当たり的、日和見的なのだが、実は非常に現実的、状況適応的であるのが日本人である。本書を読むと、そういう日本人の気質は、神道(神祇信仰)にもよく表れているような気がした。

 キリスト教やユダヤ教の創世記に見られるように、世界の神話ではたいてい、天地を創造した主体が描かれている。ところが、神道の場合は、誰が世界を造ったのか不明のままだ。天地はいきなり出現する。神々が次々と生み出されていく舞台となった高天原という空間も、いつの間にか出現している。

 神社の起源もよく解っていない。近年、弥生時代を代表する遺跡である登呂遺跡(静岡県)や吉野ヶ里遺跡(佐賀県)に、大規模な祭殿が復元されている。しかし、本書の著者は、弥生時代にそのような祭殿があったとは考えにくいと否定する。吉野ヶ里遺跡は、邪馬台国九州説の有力な証拠とされる遺跡だ。そして、邪馬台国については、中国の『魏志倭人伝』に記述がある。その『魏志倭人伝』に、吉野ケ里遺跡の祭殿のことが一切登場しないのはおかしい、というわけである。

 それぞれの神社には「社伝」というものがあり、創建の時期に言及している場合がある。社伝によれば、最も古い神社は、神武天皇1年(紀元前660年頃)に造られた鹿島神宮(茨城県鹿嶋市)になるそうだ。また、社殿の造営について最も古い記述は、熊野本宮大社(和歌山県田辺市)についてのものだという。造営の時期は、崇神天皇(在位紀元前97~29年)とされている。しかし、これらの記述についても、著者は信憑性に疑問が残るとして退けている。

 結局のところ、神社がどのように形成されたのかは、よく解らない。神道研究者の第一人者である岡田荘司氏でさえ、「古代の律令期以降、つぎつぎと神社神殿が創建されていったと推定されるが」と曖昧な書き方をしていることが本書では紹介されている。言い換えれば、いつの間にか、何となくでき上がったのが神社なのである。ちなみに、現存する神社建築で、最も古いのは宇治平等院の近くにある宇治上神社の本殿だそうだ。建立は平安時代中期の11世紀後半とされる。

 最後に余談。
 イスラム教には、神道と共通する「ない宗教」としての側面が多々見られるのである。まず、イスラム教では、偶像崇拝を徹底して禁じており、神の像は造られない。造ってはならないとされ、ムハンマドの姿さえ描かれない。
 イスラム教と神道は全然違うと思う。イスラム教で偶像崇拝が禁じられているのは、絶対性を有する完全無欠の神を、罪でけがれた不完全な人間が描くのは不敬極まりないとされるからだ。一方、神道の神が描かれないのは、単に誰も積極的に描かなかったからにすぎない(もちろん、なぜ描こうとしなかったのかを探る必要はあるが)。描こうと思えばいつでも描けたわけであり、現に天照大御神などは今ではマンガにすらなっている(イスラム教では考えられないことだ)。
 (キリスト教は)原則はユダヤ教と同じはずだが、三位一体の教義が生まれ、父なる神とイエス・キリスト、そして聖霊とが同一の存在であるとされた。この三位一体の教義は、神学的には難解なものだが、3つの神格を認める点で、多神教への道を開くものでもあった。
 三位一体説はアタナシオス派が提唱したものであり、325年のニカイア公会議でアタナシオス派と対立したアリウス派を退けて、キリスト教の正統な教義となった。だが、これが「多神教への道を開く」というのは疑問である。

 神、イエス・キリスト、聖霊は、それぞれが神格を持つと同時に1つの神格である。根源は1つの神格に他ならず、それが現世においては3つの神格となって表れた、というのが三位一体説である。仮に三位一体説が多神教への道を開いたのならば、例えばゲルマンのケルト信仰のような、ヨーロッパ土着の多神教的な信仰をキリスト教が葬り去った点が説明できない。「神がたくさんいるなんておかしい。神はイエス・キリストだけだ」という一神教の排他主義が、ケルト信仰を抑圧したと考えるのが自然ではないだろうか?

久野康成公認会計士事務所、株式会社東京コンサルティングファーム『メキシコの投資・M&A・会社法・会計税務・労務』


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久野康成公認会計士事務所 株式会社東京コンサルティングファーム 久野康成

出版文化社 2015-04-28

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 以前の記事「中畑貴雄『メキシコ経済の基礎知識』」で、メキシコの旧態依然とした労働法が問題になっていると書いたが、本書でメキシコの労働法についてもう少しだけ調べてみた。メキシコは社会主義運動が盛んであった影響か、労働者の権利が強く保護されている。日本では考えられないメキシコの労務管理のポイントを3点ほどまとめておく。

 (1)労働者利益分配金(PTU)
 会社は、税引前当期純利益の10%を労働者に分配しなければならない。算定されたPTUの総支給額のうち、半分は社員の勤務日数で按分し、残り半分は社員の給与に基づいて案分する。

 メキシコでは、PTUを回避するために多くの会社があるスキームを利用している。それは、新規で進出する際に、オペレーションを行う会社とは別に派遣会社を設立し、その派遣会社で雇用された者を、オペレーションを行う会社へと派遣するというスキームである。法律では、PTUを受け取ることができるのは直接雇用されている者と定められているため、派遣社員は該当しないというわけだ。

 ここで、売上高1.5億円、社員10人、人件費総額1億円、人件費以外の経費2,000万円という労働集約的な企業A社を考えてみる。

 【ケース①:派遣会社を使わない場合】
 A社の税引前当期純利益=1.5億円-(1億円+2,000万円)=3,000万円となり、3,000万円の10%=300万円を社員10人に分配しなければならない。実質的に、A社の税引前当期純利益は3,000万円-300万円=2,700万円となる。

 【ケース②:派遣会社を使う場合】
 A社の全社員を派遣会社B社から派遣させるものとする。B社は、年間総額1億円で10名の社員をA社に派遣する。B社はA社から1億円の売上を獲得するものの、全額が派遣社員の給与などに消えるため、税引前当期純利益はゼロであり、PTUの支払いは発生しない。また、A社の税引前当期純利益はケース①と同じく3,000万円だが、社員がいないためPTUを回避できる。A社とB社の税引前当期純利益を合計すると3,000万円となり、ケース②の方が有利となる。

 国立統計地理情報院(INEGI)によると、非正規雇用比率は雇用全体の6割を超えており、2000年代半ばから改善されていない(日本の非正規雇用の割合は2014年で37.4%)。これは、PTUに関連する上記スキームも影響しているだろう。

 ただし、2012年12月の労働法改正により、PTUの適用範囲が、直接雇用されているとみなされる者にまで広がった。つまり、労働者の派遣や出向という形をとっていても、派遣先企業において直接雇用しているとみなされる場合には、PTUを支払う可能性が出てきた。これにより多くの企業が影響を受けることになり、本書によれば2015年現在でも混乱が続いているという。

 (2)有給休暇ボーナス
 社員が有給休暇を取得した場合には、通常の給与の支払の他に、25%の有給休暇ボーナスが発生する。つまり、有給使用1日につき、基本給100%に加え、割増の有給休暇ボーナス25%が支払われる。

 メキシコの労働法では、勤続年数1年を経過した日において6日間、2年経過日において8日、3年経過日において10日、4年経過日において12日、5年経過日以降は、5年経過するごとに2日の有給休暇が与えられる。この点だけを取り上げると、むしろ日本の労働法の方が手厚い。

 (3)アギナルド(クリスマス手当)
 アギナルドは、クリスマスボーナスに該当するメキシコ特有の法定賞与である。事業者は、12月20日まで(基本的には12月15日の給与時)に社員に対し、日給の15日分に相当するアギナルドを支払わなければならない。

 だが、INEGIにの数字によれば、メキシコの労働者約4,400万人のうち、アギナルドをもらうのは18%の800万人超にすぎない、という記事もある(「メキシコ大統領の年末ボーナス|なんでメキシコ?だってメキシコ!」を参照)。

八城政基『よみがえれ!日本企業―グローバル・スタンダードへの転換』


よみがえれ!日本企業―グローバル・スタンダードへの転換よみがえれ!日本企業―グローバル・スタンダードへの転換
八城 政基

日本経済新聞社 1997-02

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 以前本ブログで取り上げた『日本の経営 アメリカの経営』と同じ八城政基氏の著書。著者がシティバンクの日本代表をしていた1990年代、シティバンクが外資企業という理由だけで金融機関の業界団体に加入させてもらえず、当時急速に整備されていたATMのネットワーク化に乗り遅れてしまったという。
 業態それぞれが共同して行ってきたATMの開発、相互利用に参加できないばかりでなく、各業態間の提携・相互相乗りからも排除され、カヤの外に置かれるわけです。日本の金融機関同士では、現在、各業態間のCD/ATMのオンライン提携が出来上がり、信用金庫、信用組合を含めた全国約7000の金融機関のATMが結びつき、消費者の利便性が飛躍的に向上しています。しかしシティバンクは、銀行法によって認可を受けた銀行でありながら外銀であるために、いちいちそれぞれの業態の好意にすがりながら、根気のいる交渉を粘り強く行い、はじめて提携をしてもらえるわけです。
 これまでの日本の行政は市場メカニズムを重視せず、業者行政に政策の中心を置いてきました。既存業者にとっては、競争者が増えればそれだけ既得権益を侵されますから本能的に新規参入を嫌います。新規参入が自由で、市場メカニズムが十分に機能している米国から日本に進出した企業からすると、業界と行政が一体となって既得権益を守ろうとしている日本はきわめて排他的な国に見えるわけです。
 日本の特徴の1つに「業界団体」の存在が挙げられる。どの業界にもほぼ例外なく業界団体が存在するし、業界内、あるいは業界を超えて何か新しい製品・サービスの開発に乗り出す時などにも、たいていは新しい業界団体が設立される。業界団体の代表が経団連である。経団連は参加企業間の利害を調整するだけでなく、ロビー活動を通じて業界のパイの大きさそのものを拡大しようとする。

 アメリカの場合は、日本のような業界団体が存在しない。一応、日本の経団連に該当する組織としては、1972年に設立された"Business Roundtable"がある。しかし、経団連には1,329の企業、製造業やサービス業などの主要な業種別全国団体109団体、地方別経済団体47団体などが加入しているのに対し、Business Roundtableの会員数はたった200企業にすぎない。アメリカでは、個々の企業がロビー活動を行うのが普通である(医療業界におけるロビー活動については、以前の記事「堤未果『沈みゆく大国アメリカ』」で少し触れた)。

 ブログ本館で、(かなり独り善がりな)日米の経営比較をあれこれと書いているが、新製品開発やイノベーションにおいても際立った違いがあると思う。日本企業は、最終製品メーカーと部品メーカー(親会社と下請会社)の垂直的関係や、最終製品メーカー同士の水平定期関係を利用して、新製品を開発するケースが多い。そして、プレイヤー間の提携や協業を促す仕組みとして、業界団体が存在する。他方、アメリカでは、そもそも日本のような重層的な垂直関係が見られず、また最終製品メーカーは単独で新製品開発を完結させる傾向がある。

 これは全くの仮説なので、例えば自動車業界の構造を分析してみると、興味深い結果が得られるかもしれない。日本の自動車業界は、最近では崩れてきたとはいえ、未だに系列関係が支配的である。また、垂直・水平いずれの関係においても、企業間の連携がしばしば見られる。これに対してアメリカの自動車業界は、日本ほど裾野が広くなく、最終製品メーカーが部品も製造していることが多い。

 アメリカの最終製品メーカーが自前で新製品を開発する姿勢は、"NIH(Not Invented Here)症候群"という言葉によく表れている。NIHとは、新しい技術が現れた時に「これは自社で開発されたものではない」という理由で、外部の技術の活用を見送ってしまうことを指す。最近でこそ、P&Gの「コネクト&ディベロップメント」に代表されるようなオープン・イノベーションの重要性が強調されるようになったが、裏を返せば、それまでのアメリカ企業には外部のリソースを幅広く積極的に活用しようとしていなかったことを意味する。

 日本の業界団体は本書の著者が指摘するように排他的であるという問題は抱えているものの、オープン・イノベーションという言葉が日本に入ってくる前から、業界団体を通じて”準”オープン・イノベーションを実施していたと思う。個人的には、オープン・イノベーションという言葉を初めて聞いた時、「これは日本で既に行われていることではないか?」と感じた。その疑問は、業界団体という存在を介して上手く説明できるように思える。

 ただし、ここで注意が必要なのは、業界団体が加盟企業全ての利害を公平に実現しようとすると失敗しやすい、ということだ。日本の業界団体は会員数が多いため、利害調整はどうしても複雑になる。業界団体が”準”オープン・イノベーションの場として成功するのは、業界団体は多様なプレイヤーが集まる”場”に徹する場合であろう。すなわち、業界団体としては、各プレイヤー同士の顔つなぎや、技術・ノウハウに関する情報交換を促すにとどまり、技術的なシーズとニーズを持つ企業同士が自発的に手を結ぶのに任せるのが望ましいと考える。
プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。これまでの主な実績はこちらを参照。

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、2,000字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
シャイン経営研究所HP
シャイン経営研究所
 (私の個人事務所)

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