中国は腹の底で日本をどう思っているのか メディアが語らない東アジア情勢の新潮流 (PHP新書) 富坂 聰 PHP研究所 2015-06-15 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
『中国は腹の底で日本をどう思っているのか』というタイトルがついているが、中国に限らず、韓国、北朝鮮、ロシア、ASEAN諸国などをめぐる国際情勢に関する1冊であった。ブログ本館の記事「齋藤純一『公共性』―二項「対立」のアメリカ、二項「混合」の日本」などで書いたが、アメリカは共和党対民主党という構図に代表されるように、物事を二項対立で把握する。これに対して日本は、かつての自民党が派閥によって右から左まで広く政治家を内包していたように、対立項を自分の中に取り込んで共存させる傾向がある。
ところが、最近の日本はアメリカ的な発想に影響されているせいか、二項対立的な物の見方が増えてきた。マスメディアに見られる善悪二分論はその典型である。小泉純一郎元首相は、「民営化か否か」と迫って自民党を二分した。また、一時的ではあったが、自民党対民主党という2大政党制が成立した。国際情勢においては、日本の味方となる国と敵となる国を明確に峻別する傾向がある。関係国を敵―味方に分けるのは、同盟関係を軸とした考え方である。
日本にとっては、アメリカが親友で、中国や北朝鮮は敵である。最近は韓国も敵扱いかもしれない。だが、当の中国や北朝鮮・韓国は、どうやら単純な敵―味方二分論には染まっていないようだ。例えば、中国はベトナムやフィリピンと南シナ海で領有権争いをしている。しかし、中国はその両国からAIIBへの賛同を引き出している。とりわけベトナムは、自国のインフラ整備に中国が貢献してくれることを期待しており、AIIBに好意的である。
韓国と北朝鮮は、北緯38度線で軍事的緊張を高めているものの、様々な場面で関係深化を図っている。北朝鮮は韓国で開催された仁川アジア大会にNo2を送り込んだ。一方の韓国は、北朝鮮の共産主義をよく研究しており、国内には親北朝鮮派が増えているという。中国は北朝鮮・韓国とバランスよくつき合っている。中国がイデオロギー的に対立する韓国と国交を樹立したことは、北朝鮮にとって屈辱であったはずだ。しかし、中国は北朝鮮の核実験を非難することはあっても、北朝鮮と手を切ることは考えていない。
(ちょっと余談。本書では、朝鮮半島が2国に分裂したままであることが中国の国益にかなうと書かれていた。ただ私は、中国が韓国を利用して朝鮮半島を統一するというシナリオがあるのではないかと考えている。
北朝鮮には朝鮮半島を統一するだけの力がない。一方で、韓国は北朝鮮研究によって左傾化が進んでいる。そこで、中国が韓国を使って朝鮮半島を共産主義化するわけである。韓国の経済力をつぎ込んで北朝鮮の核を強化すれば、日本にとって大きな脅威となる。そんなことをすればアメリカが黙ってはいないはずなのだが、朝鮮半島に巨大な核が生まれ、さらにバックにも核を持つ中国がいては、アメリカもそう簡単に手出しができない)
国際政治の舞台では、相手国を単純に敵―味方に分けるのではなく、敵の懐に上手く飛び込むことが重要である。言い換えれば、「右手のこぶしを振り上げながら、左手で握手をする」のが国際政治のルールなのである。ある人とは両手でがっちり握手をし、別の人に対しては両手を振り上げるような外交をしているのは、日本(とアメリカ)ぐらいかもしれない。
最近、中国と北朝鮮が日本にすり寄ってきたと言われる。中国も北朝鮮も国内経済が失速しており、情勢打開のために日本に支援を求めてきたというわけだ。敵―味方二分論に染まっている日本は、「中国や北朝鮮は、やはり日本がいなければ立ち行かない」などと、どこかこの2か国を見下している。しかし、彼らが日本に接近しているのは、右手のこぶしを振り上げながら、左手で握手を求めているだけのことであって、決して日本に頭を下げようと考えているわけではない。