国債を刷れ!「国の借金は税金で返せ」のウソ 廣宮 孝信 彩図社 2009-02-18 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
国の借金は個人の貯蓄でカバーできているから問題ないというのがよくある楽観論であるが、本書ではもう少し踏み込んで、日本国家全体のバランスシート(貸借対照表)を示し、日本は決して債務超過に陥っているわけではないことを明らかにしている。一見すると、負債の額に比べて純資産の額が少なく、いわゆる「負債比率」という指標を使うと、危険領域に足を突っ込んでいるようにも感じる。しかし、実はバブル期から比べて純資産の額・割合は増加しているという。
○国のバランスシート(2007年)本書の結論は、タイトルにもあるように、「GDPを増やしたければ国債をもっと発行せよ(もっと借金せよ)」という一言に尽きる。アメリカは日本よりも高い経済成長率を維持しているが、裏ではせっせとドル紙幣を印刷している。一般に、通貨量が増えると急激なインフレになると言われる。ところが、アメリカが大量にドルを刷っても、インフレ率は緩やかである。サブプライムローンで痛手を被ったにもかかわらず、相変わらずアメリカ人は借金をして消費を膨らましている。
《資産の部》
政府:510兆円
政府以外:5,353兆円(うち個人:1,490兆円)
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資産合計:5,863兆円
《負債の部》
政府:962兆円
政府以外:4,619兆円(うち個人:386兆円)
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負債合計:5,581兆円
《純資産》
政府:-452兆円
政府以外:734兆円(うち個人:1,103兆円)
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純資産合計:282兆円
日本人は、借金を悪とする風潮が根強い。これは、子どもの頃の日本史の勉強が影響していると考える。日本史では、新井白石、松平定信などのように倹約財政を断行した人物が賞賛され、逆に通貨量を増やした荻原秀重、田沼意次などの政策は改悪と評される。こういう教育を受けているから、「借金をして経済(企業)を成長させる」ことに対して無意識のうちに抵抗する。
あの稲森和夫氏ですら、創業直後は借金をすると企業の成長の足かせになると考えていたぐらいだ(ブログ本館の記事「『稲森和夫の経営論(DHBR2015年9月号)』―「人間として何が正しいのか?」という判断軸」を参照)。
ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2015年 09 月号 [雑誌] ダイヤモンド社 2015-08-10 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
『一橋ビジネスレビュー(2014年WIN.62巻3号)』の中で、一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授・伊藤友則氏が「最適資本構成」に言及している記事があった。引用文の記述は、大方の日本人の感覚をよく表していると思う。金融のプロである伊藤友則氏ですら、キャリアの最初の頃は「借金が企業価値を増大させる」という考えに当惑していたというのが興味深い。
ファイナンスの理論のなかでも、特に「最適資本構成」の理論は、その当時日本で常識と考えられていた財務理論とは大きく異なり、面食らったのを覚えている。借金をすることが価値を創造する、借金がないというのは非効率な資本構成である、という理論があるのを知りびっくりした。
(伊藤友則「最適資本構成は「最適」か」より)
一橋ビジネスレビュー 2014年WIN.62巻3号: 特集:小さくても強い国のイノベーション力 一橋大学イノベーション研究センター 東洋経済新報社 2014-12-12 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
『国債を刷れ!「国の借金は税金で返せ」のウソ』に話を戻すと、同書には「通貨発行益(シニョリッジ)」という言葉が出てくる。例えば1万円札を1枚発行すると、日銀は印刷コスト約16円を除いた9,984円の利益を得る。カナダ中央銀行のHPでは、政府の資金調達手段の1つとして通貨発行益が認められている。だから、日本もカナダと同様に、1万円札をどんどん刷れば借金の問題は解決する。
しかし、本書では1万円札の増刷よりも、国債の発行の方が推奨されている。なぜ、国債の発行という、ワンクッションを置いた方法が採用されているのか不思議だったのだが、フランスの政治学者エマニュエル・トッドの著書『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告』を読んだら、少しその理由が解った。
人は政府債務というものをたいてい借りる側に目をつけて眺め、借りる側が見境もなく支出したのが悪いと判断します。諸国民は支払う義務を負っている、なぜなら掛け買いで暮らしてきたのだから、というわけです。
ところが、債務の出発点のところにいるのは、これはもう基本的に借り手ではなく、自分たちの余剰資金をどこかに預託したい貸し手たちです。
マルクスが『ルイ・ボナパルトのブリュメール十八日』で明察したように、金持ちたちは政府債務が大好きなのですの!借金をする国家は、法的拘束の専有のおかげで、金持ちたちが彼らのお金を最大限安全に保有し、蓄積できるようにしてやる国家なのです。
「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告 (文春新書) エマニュエル・トッド 堀 茂樹 文藝春秋 2015-05-20 Amazonで詳しく見る by G-Tools |