こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント・トレーナー)のブログ別館。2,000字程度の読書記録の集まり。

2016年01月


金惠京『柔らかな海峡―日本・韓国 和解への道』


柔らかな海峡 日本・韓国 和解への道柔らかな海峡 日本・韓国 和解への道
金 惠京

集英社インターナショナル 2015-11-26

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 本書で言及されているが、昨年安倍総理が「安倍談話」を発表するにあたって下敷きとした「20世紀を振り返り21世紀の世界秩序と日本の役割を構想するための有識者懇談会報告書」には、次のような文章がある。
 韓国政府が歴史認識問題において「ゴールポスト」を動かしてきた経緯にかんがみれば、永続する和解を成し遂げるための手段について、韓国政府も一緒になって考えてもらう必要がある。
 本書の著者の金惠京氏は日本、韓国、アメリカでの生活経験があるため、日本人と韓国人双方のものの考え方、さらに、慰安婦問題に代表されるような日韓の対立がアメリカでどのように受け止められているのかについても理解がある。日本からすると、韓国がゴールポストを動かしている=交渉のゴールを流動させている=腹の底で何を考えているのか解らない、ということになるが、韓国サイドから見れば、日本もゴールポストを動かしていると映るようだ。

 例えば、安倍総理は2014年3月14日、河野談話の見直しは考えていないと発言した。ところが、同時に菅官房長官は、河野談話作成の過程を検証する必要があると指摘している。また、安倍総理は村山談話を継承するという立場を明らかにしておきながら、他方で「侵略の定義は学界的にも国際的にも定まっていない」と述べたり、靖国神社を参拝したりする。こうした行動が、著者ら韓国人にとっては一貫性がないと感じ取られる。

 2015年7月5日、ユネスコ世界遺産委員会において、「明治日本の産業革命遺産」として23の施設が世界遺産に登録された。これらの施設において戦時中に強制徴用が行われたとの指摘が韓国からなされ、「強制労働(forced labor)」という文言を使用するか否かで日韓が激しい応酬を行った。交渉の結果、佐藤地ユネスコ大使は「働かされた(forced to work)」という表現を用いることとした。だが、日本政府はこれについて、「強制労働ではない」と弁明した。

 著者は、forced to workという表現からして、これを「強制労働ではない」と解釈するには無理があると苦言を呈している。また、日本の歴史教科書の多くが、戦時中の日本が朝鮮半島から多くの人を連行して厳しい条件の下で労働させたと記述していることとの矛盾も指摘する。日本によるこうしたゴールポストの移動は、国際社会における日本の信用を貶める恐れがあると著者は心配している。

 昨年末、日韓は慰安婦問題について最終的かつ不可逆的に解決したということで合意した。これにより、両国の関係は未来志向の新時代に突入すると安倍総理は期待している。日本が韓国を必要とする理由は何だろうか?朝鮮半島には、大雑把に言って3つのシナリオがある。すなわち、共産主義国として統一する、資本主義国として統一する、現状維持の3つである。

 日本にとって最悪なのは、朝鮮半島が共産主義国として統一されることである。巨大国家・中国をバックに、共産主義の脅威が日本の目前まで迫ることを意味する。さらに、韓国の資本力が北朝鮮の核開発につぎ込まれるようなことがあれば、朝鮮半島に非常に危険な核保有国が誕生する。ただ、中国も朝鮮半島の共産主義化に本気かどうか不明である。北朝鮮の核が中国にとって脅威であるように、朝鮮半島の新国家が必ずしも中国に従順になるとは限らないからだ。ロシアと対立した過去がある中国なら、そのことはよく解っているはずである。

 朝鮮半島が資本主義国として統一された場合はどうか?日本から見れば、共産主義の脅威が中国側に後退することになるが、実はアメリカがそれを望んでいないように思える。朝鮮半島が資本主義国となれば、アメリカは朝鮮を通じて、巨大な共産主義国である中国と正面から対峙しなければならない(逆に言えば、中国も巨大なアメリカと対峙することになり、中国にとっても望ましくない)。

 朝鮮半島が南北に分裂しているうちは、アメリカと中国の対立を、韓国対北朝鮮という枠内に抑えることができる。だから、日本、アメリカ、中国にとって望ましいのは、現状維持である。したがって、韓国との外交は、将来もこの点を念頭に置いたものになるに違いない。

 では、韓国にとって日本は必要なのだろうか?かつて、日本は政治面でも経済面でも韓国のお手本であった。ところが、課題は残るもののある程度の民主化を達成し、経済的にも1人あたりGDPが日本を上回りそうなところまで成長した韓国にとって、教師としての日本の価値は薄れている。

 前述の通り、朝鮮半島は現状維持が最善であるとすれば、韓国はこの先も北朝鮮と対峙し続ける。もしかすると、韓国が北朝鮮に対抗するためには、韓米同盟があれば十分かもしれない。韓国の執拗な歴史問題攻撃にうんざりしている日本人は、ここに来て急に慰安婦問題の解決を提案してきた韓国を見て、「やっぱり韓国は日本がいなければダメな国なのだ」と、どこか上から目線で見ている節がある。だが、日本が勝手に優越感に浸っているだけであって、韓国が日本をあっさり捨てるというシナリオも想定しておかなければならないと感じる。

吉田隆『コンサルタントの現場と実践 インドネシア会社経営』/『インドネシア税務Q&A』


コンサルタントの現場と実践 インドネシア会社経営コンサルタントの現場と実践 インドネシア会社経営
吉田 隆

ジャパン・アジア・コンサルタンツ 2014-06-09

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コンサルタントの現場と実践 インドネシア税務Q&Aコンサルタントの現場と実践 インドネシア税務Q&A
吉田 隆

ジャパン・アジア・コンサルタンツ 2014-12-05

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 (1)
 【Q54】輸入業者であり、毎回の輸入時に払う輸入に伴う前払い所得税PPH22の2.5%が毎年還付申請をしなければならない状況になってしまいます。(以下略)
 『コンサルタントの現場と実践 インドネシア税務Q&A』は252の事例に即してインドネシアの税務を学ぶことができる1冊である。この本を読むと、「還付申請をしなければならない」という表現が随所に登場する。税金が還ってくるのだから喜ばしいことではないのかと思ってしまうのだが、そう簡単な話ではないようだ。

 インドネシアで還付申請をすると、必ず税務調査を受けなければならない。しかも、新興国ではありがちなことだが、インドネシアの税務調査は担当者によってルールの運用がバラバラで、時にルールよりも厳しい注文をつけてくることがあるという。その結果、損金算入した経費が否認され、還付申請をしたのに、逆に追徴課税を受けてしまったという事例もあるそうだ。とりわけ、接待交際費や親会社へのロイヤリティー支払いは否認されやすい。また、減価償却についても、8年ではなく16年で償却せよといった指摘が入る。

 著者によれば、インドネシアではできるだけ税務署職員を遠ざけることがカギだという。そのためには、還付申請をしなくてもいいように、毎年少しずつ着実に利益を増やすこと、すなわち、予納税金額よりも多い法人所得税を出して確定納付する税務体質にする必要がある。インドネシアの税務署が税金を取ることに躍起になっているのは、インドネシアの財政状況が苦しく、政府が税収増の目標をかなり高く設定していることが影響しているそうだ。

 (2)チャイナ・プラスワン戦略の候補地として注目されるASEAN諸国だが、ここ数年は最低賃金が毎年10%単位で上昇している国も少なくない。インドネシアもその国の1つである。さらに、インドネシアの労働法は労働者寄りの規定が多い。

 例えば、労働法第88条1項には「すべての労働者は、人間として適正な生活需要を満たす収入を得る権利を有する」と定められているが、「適正な生活需要を満たす収入」とは、労働者が1日3,000キロカロリーを確保する生活水準を維持するための食料品、衣服、家賃など60種目で構成される「適切な生活水準(KHL:Kebutuhan Hidup Layak)」を参考に決定される。

 日本人が1日に摂取する平均カロリーは1,800~2,200キロカロリーと言われる。日本人とインドネシア人を単純に比較してはいけないのかもしれないが、それにしても3,000キロカロリーというのは少々多すぎる気もする。

 食事に関してもう1つ言うと、インドネシアでは「1,400キロカロリーの食事支給」が義務づけられている。労働大臣決定「KEP.102/MEN/VI/2004」(2004年6月25日)では、3時間以上の時間外労働を行わせる場合、使用者には十分な休憩と1,400キロカロリー以上の飲食物を提供する義務が生じる。また、労働法第76条では、女性労働者を23時~7時までの時間帯に労働させるためには、1,400キロカロリー以上の飲食の提供と職場の安全を確保しなければならないとされる。

 1,400キロカロリーは1回の食事で摂取するには多すぎるエネルギー量である。工場の社員食堂では一体どのように対応しているのだろうか?

アルバロ・フェルナンデス、エルコノン・ゴールドバーグ、パスカル・マイケロン『脳を最適化する ブレインフィットネス完全ガイド』


脳を最適化する ブレインフィットネス完全ガイド脳を最適化する ブレインフィットネス完全ガイド
アルバロ・フェルナンデス エルコノン・ゴールドバーグ パスカル・マイケロン 山田雅久

CCCメディアハウス 2015-10-22

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 明けましておめでとうございます。昨年から始めたこのブログ別館、昨年は91本の記事を書きましたが、今年は100本以上書くことを目標にやっていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 新年一発目はこの本。食事、人間関係、運動など、あらゆる側面から脳の機能を高める「ブレインフィットネス(=脳の最適化)」について解説した1冊。この本で紹介された方法は、どうやらユダヤの健康法に影響を受けている気がした。

ユダヤに伝わる健康長寿のすごい知恵 (最新医学でわかった聖書の真実)ユダヤに伝わる健康長寿のすごい知恵 (最新医学でわかった聖書の真実)
石角 完爾 石原 結實

マキノ出版 2014-04-15

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 石角完爾、石原結實『ユダヤに伝わる健康長寿のすごい知恵』によると、ユダヤには次のような健康の教義が伝わっているという。

 ・穀菜、フルーツ、ナッツを中心とした食生活を送る。こうした食生活は、コレステロールを減らし、肥満やがんを避け、頭脳が明晰になるなどの効果がある。

 ・病気の元になる動物の血や脂肪を食べない。肉を食べる時には、血と脂肪を取り除く料理法を徹底する(「コーシェル」は旧約聖書に基づいて作られたユダヤ教の食事規定であり、食べてよいもの食べていけないもの、一緒に食べてはいけない食物の組み合わせ、動物の屠り方、調理法などに関する規定が定められている。ちなみに、イスラームではイスラームの教えに則った食品を「ハラル(許された)食品」、非ハラル食品のことを「ハラム食品」と呼ぶ)。

 ・貝類、軟体動物、甲殻類など、海底の生き物を食べない。これによって、現代では産業活動による化学物質などの影響を最も受ける、近海の底生海産物を避けることができる。

 ・断食を行う。断食は内臓を休ませ、宿便(腸に残る便などの排泄物)を出しやすくする効果がある(ユダヤ教では、年に6回(ヨム・キプル、ティシュアー・ベ=アーブ、ゲダリヤの断食、テベトの10日、タンムズの17日、エステルの断食)の断食を行う。ヨム・キプル(贖罪の日)は1年のうち最大の休日である。ちなみに、イスラームではラマダーン(ヒジュラ暦の第9月)の約1か月間断食をする)。

 ・週に一度の「安息日」を大事にする。仕事をせず、人と語らい、リラックスすることで、心を休ませることができる。

 ・祈りを頻繁に行う。調査によれば、宗教活動をしている人の方が、そうでない人よりも健康で長寿の傾向があるという。
プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。これまでの主な実績はこちらを参照。

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、2,000字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
シャイン経営研究所HP
シャイン経営研究所
 (私の個人事務所)

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