こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント)のブログ別館。1,500字程度の読書記録の集まり。

2016年02月

イアン・ブレマー『スーパーパワー―Gゼロ時代のアメリカの選択』


スーパーパワー ―Gゼロ時代のアメリカの選択スーパーパワー ―Gゼロ時代のアメリカの選択
イアン・ブレマー 奥村 準

日本経済新聞出版社 2015-12-19

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 著者によれば、アメリカの選択肢には以下の3つがあるという。

 ①独立するアメリカ
 ・世界で起こる様々な問題(武力衝突や歴史問題など)の解決は当事国に任せ、アメリカは自国の問題に専念する。
 ・軍事支出や他国への資金援助を削減する。その分の予算を、自国の公共インフラや教育への投資に回す。

 ②マネーボール・アメリカ
 『マネーボール』は、弱小貧乏球団オークランド・アスレチックスが統計学を用いた合理的な手法で常勝チームを築き上げたストーリーである。それに倣い、マネーボール外交政策は、納税者へのリターンを最大化するため、世界でのアメリカの役割を定義し直し、利益中心のアプローチを行う。

 ・世界的な課題において、積極的にコストとリスクを共有する国がなければ、アメリカは引き下がる。
 ・脅威となる外国政府には、戦争より安上がりで効果的な経済制裁を用いる。

 ③必要不可欠なアメリカ
 ・世界の安全と繁栄を永続させるため、アメリカが主導して、世界経済の成長を推進し、紛争を処理する。
 ・非軍事的手段(貿易、制裁、サイバー能力、道徳心への訴えなど)だけでなく、軍事力も引き続き強化する。

 著者が「アメリカにとって最善の道は何か?」と問うた時、著者は迷わず「③必要不可欠なアメリカ」を選択すると私は思った。だが、著者が選んだのは「①独立するアメリカ」である。他国を民主化に向かわせるために政治システムに直接介入するのではなく、アメリカの民主主義を今よりも効果的なものにする。また、アフガニスタンやイラクなどに投資している資金を自国の教育やインフラに回し、アメリカ国民の手元に残る所得を増やすべきだと主張する。つまり、アメリカ自身がもっと魅力的な国になれば、他国はアメリカに憧れて自己変革を行う。それが、アメリカにとっても他国にとっても最も低リスク、低コストであるというわけだ。

 もし本書がアメリカで売れているのならば(売れていなければ日本で邦訳されない)、アメリカは随分と内向きになってしまったと感じる。この傾向が続けば、尖閣諸島を中国が乗っ取ろうとしても、南シナ海で中国とASEANが衝突しても、朝鮮半島で有事が発生しても、アメリカには大した役割を期待できない。また、中東問題は非常に中途半端となり、ロシアのさらなる介入を許すことになるだろう。そして、EUの難民問題に対して、アメリカは何の責任も持たない(そもそも、中東で難民が発生した原因の一端はアメリカにある)。

 かつて、ブログ本館の記事「ドネラ・H・メドウズ『世界はシステムで動く』―アメリカは「つながりすぎたシステム」から一度手を引いてみてはどうか?」で、アメリカは世界の色々な問題に自ら首を突っ込んで事態を複雑化させているから、身を引くことを覚えてはどうか?と書いた。しかし、この記事を書いた時点では、大国と小国の政治的スタンスの違いに考えが及んでいなかった。日本のような小国は、自国が上手くいっていれば、わざわざ他国に介入する必要などないと考える。しかし大国は、大国でありながら、実は常に他国(特に他の大国)からの侵略に怯えている。よって、防波堤を築くために他国に介入し、味方を作ろうとする。

 だが、今アメリカがやろうとしているのは、世界のあらゆる地域に身を乗り出して他国(+テロ組織)との対立を引き起こしておきながら、「やっぱり(お金と労力がかかるので)アメリカは撤退します」と舞台から飛び降りるようなものである。極言すれば、散らかすだけ散らかしておいて、後片づけもろくにせずにその場を去ろうとしているわけだ。アメリカはまだしばらくの間、「③必要不可欠なアメリカ」で頑張る責任があるのではないだろうか?

小林雅一『AIの衝撃―人工知能は人類の敵か』


AIの衝撃 人工知能は人類の敵か (講談社現代新書)AIの衝撃 人工知能は人類の敵か (講談社現代新書)
小林雅一

講談社 2015-03-20

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 これら複雑に込み入った難問を解決するためには10個や20個の変数ではとても間に合いません。最低でも数百から数千、ときには数万から数十万個もの変数を指定する必要があります。これを人間の手に任せていたのでは膨大な時間がかかりますし、うっかり間違った変数を選んでしまう危険性も十分あります。ディープラーニングは、この面倒な作業を人間に代わってやってくれる最初のAIになるのです。
 意思決定とは、複数の変数と、それらの変数を結ぶ数式からなる関数である。ブログ本館の記事「『意思決定を極める(DHBR2014年3月号)』―敢えて言おう、不確実性が高い環境でこそ「歴史に固執せよ」と」では、意思決定を以下の4つのパターンに分けた。

 ①式も変数の値も解っている場合。
 ②式は解っているが、変数の値が解らない場合。
 ③変数の値は解っているが、式が解らない場合。
 ④式も変数の値も解らない場合。

 詳細はリンク先の記事に譲るが、人間が自分でできるのは①と②である。③は変数の値を集めることは人間でもできるものの、あらゆる数式の可能性を試すのはコンピュータの方が早い。そして、④に関しては、シナリオプランニングが妥当ではないかと書いた。これは、無数に考えうる変数のうち、結果に重大な影響を与えると思われる2つの因子を取り出し、その2因子で2軸のマトリクスを作成して、大まかに4つのパターンを想定するものである。

 だが、冒頭の引用文にあるディープラーニングを使えば、④のような状況であっても、AI自身が膨大なデータの中から変数を特定してくれるのだという。近年、ビッグデータに注目が集まるとともに、データの収集・分析を主導する「データサイエンティスト」という職種が今後は重宝されると言われている。だが、ディープラーニングが発達すると、データサイエンティストが出る幕はなさそうである。

 ブログ本館の別の記事「『ビッグデータ競争元年(DHBR2013年2月号)』―逆説的に重視されるようになる「直観」」では、データを分類する軸が増えれば増えるほど、データをプロットする空間は指数関数的に複雑化すると書いた。つまり、2軸であれば2×2=4次元であるが、10軸になると2の10乗=1,024次元になる。これだけ複雑な次元にデータをプロットしても、中身はスカスカになってしまう。いたずらに変数を増やせばよいというわけではない。

 だから、データのまとまりに着目して、意味のある軸(変数)を設定する作業は、結局は人間の直観に頼らざるを得ない、むしろ、この点で人間が活躍できるのではと私は考えていた。ところが、冒頭の引用文によれば、ディープラーニングは入力されたデータに基づいて、自分で意味のある変数を創造できるという。人間がAIに完全に仕事を奪われるのではないかと戦慄を覚えるのもむべなるかな。

『円高襲来!為替と通貨の新常識/ANA国際線急拡大の野望と死角(『週刊ダイヤモンド』2016年2月27日号)』


週刊ダイヤモンド 2016年 2/27 号 [雑誌] (円高襲来!  為替と通貨の新常識)週刊ダイヤモンド 2016年 2/27 号 [雑誌] (円高襲来! 為替と通貨の新常識)

ダイヤモンド社 2016-02-22

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 (1)慣例となっていた6年間の任期を超えて社長続投を宣言した伊藤忠商事の岡藤正広氏。資本提携を結ぶCITIC(中国中信集団)、CP(タイ財閥のチャロン・ポカパン)との関係を軌道に乗せ、今年9月に控えたファミリーマートとユニーの経営統合を失敗させないために、敢えて続投を決意したのだという。そして、岡藤社長が翻意したきっかけは、野球のあの試合だった。
 そういうときに思い出したのが、(昨年11月の)ワールド・ベースボール・クラシック。準決勝で日本の大谷翔平投手が7回に交代した後、韓国に逆転負けした。後の投手に能力があっても、波に乗れないこともある。6年が慣例だから辞めますというのは、あの野球と一緒。定石通りに7回で交代していたら、大変なことになった。
 なお、記事中で「ワールド・ベースボール・クラシック」となっているのは「プレミア12」の誤りである。プレミア12の知名度もまだまだ低いのだと感じてしまった。

 (2)本号の特集は為替である。アメリカは基軸通貨国であるから、どんなに借金を抱えても自国でドルを刷って問題を解決できる。アメリカは圧倒的な経済力を持って、他国の経済システムに介入し、アメリカにとって都合のよい自由主義的なシステムに転換させる。これは、アメリカが普遍的価値としている自由、平等、資本主義、民主主義を世界に普及させる一環である。

 アメリカは、他国に対して「自由主義的な経済システムを導入せよ」と言い続けるだけではない。そんなやわな方法では全く効果がないことなど重々承知している。本号を読んで、アメリカは主に2つの方法を用い、中長期的かつ乱暴に他国の経済システムをひっくり返す戦略を持っているように感じた。

 通常、先進国においては、アメリカとの為替レートは変動相場制で決まる。これに対し、新興国・途上国に対しては、貨幣の信用がまだ低いという理由で固定相場制を採らせる。この固定相場制には2パターンが存在する。

 1つは純粋な固定相場制で、かつての日本が1ドル=360円に固定していたようなケースを指す。円安ドル高で輸出に有利であるから、日本からアメリカへの輸出がどんどん増える。だが、アメリカは基軸通貨国であり、自分でドルを刷ることができるので、日本の製品をいくらでも購入することが可能だ。しかし、さすがに日本企業の勢いに押されてアメリカ企業の業績が傾き始めると、日本バッシングが起こり、円安を批判し始める。そこで、円安を是正し、自由主義的な通貨取引を行うように日本に圧力をかける。これが1985年のプラザ合意であった。

 もう1つはドル・ペッグ制である。この場合、基本的にドルの価値に応じて自国通貨の価値が決まる(完全に連動することもあれば、一部変動相場制のようになっていることもある)。ドル高なら自国通貨高、ドル安なら自国通貨安になる。かつて、ASEANの多くの国はドル・ペッグ制を採用していた。輸出で稼がなければならない新興国にとって、ドル高の場合は自国通貨高となり輸出に不利に働く。しかし、ドル高であればアメリカ経済も好調なので、新興国の製品を買ってくれる。

 ここで、新興国通貨がその国の実力よりも過大に評価されているのではないかという疑惑が出てくる。いくら新興国の経済がアメリカに引っ張られて好調であっても、経済規模やレベルが違いすぎるから、アメリカの通貨と同じスピードで新興国の通貨が強くなることは考えにくい。ここで登場するのがヘッジファンドである。彼らは、将来的に新興国通貨が安くなると予想して、大量に新興国通貨を売り浴びせる。すると、突然新興国は通貨安となる。

 慌てた政府はレートを維持するため、自国通貨を買い戻す。逆に言えば、ドルを放出する。その原資は、輸出でため込んだ外貨準備金である。だが、ヘッジファンドの空売りが巨額であるため、外貨準備金はあっという間に底をつく(ヘッジファンドの資産に比べれば、新興国の外貨準備金など大した額ではない)。こうして通貨危機が起きる。1997年にターゲットとなったのがタイのバーツであった。そして、そこから連鎖して韓国も危機に陥った。大不況に陥ったアジア各国は、アメリカが主導するIMFの下で再建を行い、自由主義的な経済システムを導入した。

 他国に「自由主義的な経済システムにしましょう」とやんわりアドバイスするのではなく、相手を泳がせるだけ泳がせておいて、突然危機を引き起こし、「おたくのシステムが悪いからこうなったのだ。だから、これからはアメリカの言うことを聞け」と頭ごなしに説教する。相手国も、この大ピンチを切り抜けて助かるにはアメリカに従うしかない、と思ってしまう。これがアメリカの狙いなのだろう。

 中国の元はドル・ペッグ制である。中国からアメリカへの輸出は急増しているが、ドル・ペッグ制のために元高である。しかし、世界的には元は割高だと認識されつつある。それに気づいた中国は、何度か元の切り下げを行った。だが、もしアメリカが1997年のアジア通貨危機のようなことを狙うのであれば、そろそろヘッジファンドが巨額の元空売りに乗り出すのかもしれない。ただし、今回の相手はタイではなく、中国という巨大国家である。ため込んでいる外貨準備金はタイの比ではない。それでもヘッジファンドは中国に挑戦を仕掛けるだろうか?

 (3)「ものつくるひと」という連載コーナーに、ローソンの「グリーンスムージー」を開発した担当者の記事が掲載されていた。役員プレゼンでは大して注目もされず、販売当初は店舗に数本しか陳列されなかったが、あれよあれよと言う間に評判が広がり、現在では累計販売本数が約1,800万本に達しているという。

 おそらくこの記事の組み立て方が悪いのだと思うのだが、私が読んだ印象では、商品開発担当者が仕事と子育てを上手く両立させるために「毎日手軽に野菜を摂取することはできないものか」と考え、既存のジュースバーを何か所か飲み比べ、これだと思ったジュースバーの商品をローソンの協力メーカーにも飲ませて同じような商品を作ってもらった、というストーリーにも見える。

 そこには、市場調査をどのように行ったのか?潜在顧客からはどのような声を拾ったのか?原材料となる野菜などは何にこだわり、どの地域からどのように調達したのか?目指す味や食感の実現に向けて、製造工程にどんな工夫を施したのか?物流の途中で品質が劣化しないよう、物流はどのように設計したのか?店舗内で鮮度を保つために、陳列棚に何か改善を施したのか?などといった話がない。つまり、「ものづくり」の匂いがしないのだ。

 ついでにもう1つ。近年のコンビニはPB商品に注力しており、飲料、おにぎり、パン、菓子、弁当、惣菜、冷凍食品など、あらゆるジャンルがPB化されている。私の独りよがりな考えかもしれないが、PB化のせいでコンビニは非常につまらなくなった。昔は、色んなメーカーの商品があの狭い空間の中にぎゅっと詰まっていて、見比べるのが楽しかった。ところが、PB商品はパッケージデザインが統一されている。もちろん、作っているメーカーはそれぞれ違うものの、コンビニ全体のコンセプトに合うように味が調整されている気がする。どうも面白みがないのである。

溝上幸伸『ゼロからわかる医療機器・介護機器ビジネスのしくみ』


ゼロからわかる医療機器・介護機器ビジネスのしくみゼロからわかる医療機器・介護機器ビジネスのしくみ
溝上幸伸

ぱる出版 2014-05-23

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 国内の医療機器市場全体2兆3860億円のうち、外資が1兆584億円と半分近くを占めている。また、外資の治療機器は6460億円と、治療機器全体のほぼ半分を占めている。国内企業が約500社に対して、外資は90社程度しかないのに、シェアは5割なのだ。
 日本市場で存在感がある外資とは、GE、フィリップス、シーメンス、J&J、メドトロニック、コヴィディエン、ボストンサイエンティフィックなどである。ブログ本館の記事「『ベンチャーとIPOの研究(一橋ビジネスレビュー2014年AUT.62巻2号)』―マクロデータから見る事業・起業機会のラフな分析」でも書いたが、医療機器市場は大幅な輸入超過であり、日本企業にチャンスがある。

 また、市場規模は2兆円超と大きいものの、本書によれば品目数が約60万あり、1つ1つの製品の市場は非常に小さい。そのため、中小企業が参入しやすい分野である。『日本でいちばん大切にしたい会社』シリーズの著者である坂本光司教授は、業績不振で悩んでいると漏らす中小企業の社長に対し、「医療機器市場は成長することが明らかである。それなのに、なぜ医療分野に挑戦しないのか?」と発破をかけている(ブログ本館の記事「『ファミリービジネス その強さとリスク(『一橋ビジネスレビュー』2015年AUT.63巻2号)』」を参照)。

 たとえば、ある医師が治療機器でこういうタイプのものが欲しいと要望する。たとえば電気メスの刃の長さや角度を変えるとかだ。そうすると日本の企業はそんなものはできない、と改良をためらう。その医師の個人的な使いやすさで製造ラインを変えることはできないのだ。確かにそれは一理あって、医師というのはわがままなもので、あくまでそれは個人的な要求であるから、改良したら別の医師から苦情が来ることもあるわけだ。(中略)

 それに対して、大手の外資はすぐ請け負って、要望に沿った新しいものを持ってくるのだという。
 医療機器分野で日本が劣勢なのは、日本企業が診断系機器に注力しており、治療系機器に熱心ではないことが挙げられる(逆に、外資系企業は治療系機器に強い)。診断系機器とは異なり、治療系機器は人間の体内に入れるものなので、その分リスクが高い。よって、日本企業が及び腰になっている。加えて、本書の著者は、日本企業と外資企業の違いについて、次のように分析している。

 しばしば、「大企業は組織が大きすぎて顧客への対応が鈍く、市場の変化について行けない。逆に、中小企業は小回りが利くのできめ細かい対応が可能である」とされる。だが、上記の引用文を読むと、必ずしもそうとは言い切れない。

 内視鏡で世界のトップシェアを占めるオリンパスの開発ストーリーは、山口翔太郎、清水洋「ビジネスケースNo.122 オリンパス 胃カメラとファイバースコープの開発」(『一橋ビジネスレビュー 2015年AUT.63巻2号』)で読むことができる。オリンパスの開発陣は、数名の医師に深く潜り込んで、ニーズを丹念に拾い上げ、製品に反映させた。医師の要求があまりに高いので、オリンパスは開発を断念しかけたこともあったが、医師の熱意にほだされて完成までこぎつけた。

一橋ビジネスレビュー 2015年AUT.63巻2号: ファミリービジネス その強さとリスク一橋ビジネスレビュー 2015年AUT.63巻2号: ファミリービジネス その強さとリスク
一橋大学イノベーション研究センター

東洋経済新報社 2015-09-11

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 仕事柄、あまり中小企業のことを悪く言いたくないのだが、私の経験上、中小企業の中にも動きが鈍い企業は決して少なくない。こちらからメールを送っても平気で1週間以上返信がなかったり、電話した相手が留守だったので折り返し連絡をもらえるようにメッセージを残しても、折り返しの電話がなかったりする(そういう企業に限って、自分の方に何か用事がある時は、昼休みの時間にまでしつこく電話をかけてきたり、「明日すぐに来い」と無理なことを言ってきたりする)。

 逆に、大企業でも仕事が早いところはあって、深夜2時でも必要な資料をメールで送ってくれるところがある(もちろん、そういう働き方を推奨はしないが)。Amazonは、企業規模が大きくなるほど、配達時間が短くなっている(その裏で、社員がこき使われ、物流業者が締め上げられている可能性は容易に想像できるが)。結局、顧客対応力があるかないかは、企業の規模の大小とは無関係だ。

 ところで、本書の著者は介護機器に関しては次のように書いており、先ほどの内容と若干矛盾していると感じた。
 介護機器は個人レベルの需要の集積だから、個別対応的な要素が強く、そのため、外資系企業の参入余地は少ない。彼らはでき上がった商品を大量に扱うのは得意だが、ユーザーのニーズに合わせて製品を改良し改善していくのは決して得意ではない。

福森哲也『ベトナムのことがマンガで3時間でわかる本―中国の隣にチャンスがある!』


ベトナムのことがマンガで3時間でわかる本 (アスカビジネス)ベトナムのことがマンガで3時間でわかる本 (アスカビジネス)
福森 哲也

明日香出版社 2010-11-19

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 ブログ本館の記事「千野境子『日本はASEANとどう付き合うか―米中攻防時代の新戦略』―日本はASEANの「ちゃんぽん戦略」に学ぶことができる」で、ASEANの中でもベトナムは「ちゃんぽん戦略」が上手い印象があると書いた。ベトナムの外交は「八方美人外交」と呼ばれる(揶揄される?)そうだ。本書ではベトナムの歴史を簡単に学んだだけだが、時と場合に応じて味方となる国をコロコロと変えるしたたかな外交をうかがい知ることができた。

 ベトナムは歴史的に見て長らく中国の支配下にあった。だから、中国に対しては複雑な感情を抱いている。ベトナム民主共和国(北ベトナム)が勝利したベトナム戦争(1960~1975年)の後も、後ろ盾となった中国とソ連のうち、ソ連との関係を重視した。当時の中国はカンボジアと深い関係にあった。一方、ソ連とつながるベトナムは、カンボジアのポル・ポト政権と対立し、1978年にはカンボジアとの国交を断絶、1979年にはカンボジアに侵攻し、中越戦争を引き起こした。

 1991年にソ連が崩壊すると、ベトナムは重要なサポーターを失った。そこで、かつて対立した中国やアメリカに接近するようになる。アメリカはベトナム戦争の敵国であり、300万人もの自国民を殺されたにもかかわらず、である。ベトナムは1995年、アメリカと和解して国交を回復した。

 中国とは1991年に国交を正常化した。その後、ベトナムはASEANへの加盟を狙ったが、カンボジア問題が解決していないとして、中国がこれに反対した。中国とベトナムの間を取り持ったのはインドネシアである。そのおかげで、ベトナムは1995年にASEANに加盟することができた。もともと、反共産主義のための地域連合として発足したASEANは、ベトナムという共産主義国を加えることによって、政治・経済面での包括的な連携を促す組織へと変貌する。

 ベトナムは中国と国交を正常化したとはいえ、現在は南沙諸島をめぐる領土問題で中国と対立している。ベトナムは安全保障の観点から、アメリカと軍事面で協力関係にあり、合同で軍事演習も実施している。社会主義国が資本主義国と手を組むという不思議な構図である。ソ連崩壊後、関係が希薄になっていたロシアとも、近年は関係を再び強化している。ロシアは潜水艦をベトナムに売却したり、ベトナムの原発・地下鉄工事などを受注したりしている。

 かといって、ベトナムは中国との関係を軽視しているわけではない。中国がAIIB(アジアインフラ投資銀行)の立ち上げを発表した時、ASEANは10か国とも加入を表明したが、とりわけ熱心だったのが「陸のASEAN」であった。陸のASEANとは、インドシナ半島に位置するベトナム、ラオス、カンボジア、タイ、ミャンマーの5か国である。陸のASEANは、どの国もインフラ整備が喫緊の課題であり、その解決をAIIBに期待した。ベトナムもしかりである。

 これに対し、ブルネイ、シンガポール、フィリピン、マレーシア、インドネシアの5か国は「海のASEAN」と呼ばれる。海のASEANの中には、中国と深刻な領土問題を抱える国が多い。AIIBへの参加は「渋々」だったと言われる。

 私の勝手な印象だが、中国やソ連を見ていると、社会主義国はどこか教条的なところがある。だが、社会主義であるベトナムが大国を相手にこれだけ柔軟に振る舞うことができるのは、「ホーチミン思想」にヒントがあるのかもしれない。
 ホーチミン思想の厳密な定義は、いろいろ解釈があって小難しいのですが、「ベトナム民族の自由と独立、尊厳と幸福が一番大事であり、そのためには社会主義も共産主義も柔軟に変えていく」思想なのだと思います。ベトナム民族が世界の中で確固たる地位を築いて幸せになるのであれば、資本主義的政策も推進するし、ロシアや中国よりも先に日本を訪問するし、仇敵米国にも接近するのです。
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プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、1,000字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
所属組織など
◆個人事務所
 「シャイン経営研究所」◆ シャイン経営研究所ロゴ

(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長、および国際部員を務めています)

NPOビジネスサポート特定非営利活動法人NPOビジネスサポート
(監事を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)

Experian海外企業信用調査 海外企業信用調査(Experian)
(一緒にお仕事をさせていただいている「コンサルビューション株式会社」は、世界最大の信用調査会社Experianの正規代理店です)

【中小企業診断士は独学で取れる】中小企業診断士に独学で合格するなら「資格スクエア」中小企業診断士の安い通信講座なら「資格スクエア」
(以下の資格の講師をしています。
 ―ITパスポート
 ―情報セキュリティマネジメント
 ―経営学検定(初級・中級)
 ―中小企業診断士(企業経営理論、経営情報システム、中小企業経営・中小企業政策)
 谷藤友彦と株式会社サイトビジット代表取締役・鬼頭政人氏の対談動画(1)(2)(3)
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