こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント・トレーナー)のブログ別館。2,000字程度の読書記録の集まり。

2016年02月

イアン・ブレマー『スーパーパワー―Gゼロ時代のアメリカの選択』


スーパーパワー ―Gゼロ時代のアメリカの選択スーパーパワー ―Gゼロ時代のアメリカの選択
イアン・ブレマー 奥村 準

日本経済新聞出版社 2015-12-19

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 著者によれば、アメリカの選択肢には以下の3つがあるという。

 ①独立するアメリカ
 ・世界で起こる様々な問題(武力衝突や歴史問題など)の解決は当事国に任せ、アメリカは自国の問題に専念する。
 ・軍事支出や他国への資金援助を削減する。その分の予算を、自国の公共インフラや教育への投資に回す。

 ②マネーボール・アメリカ
 『マネーボール』は、弱小貧乏球団オークランド・アスレチックスが統計学を用いた合理的な手法で常勝チームを築き上げたストーリーである。それに倣い、マネーボール外交政策は、納税者へのリターンを最大化するため、世界でのアメリカの役割を定義し直し、利益中心のアプローチを行う。

 ・世界的な課題において、積極的にコストとリスクを共有する国がなければ、アメリカは引き下がる。
 ・脅威となる外国政府には、戦争より安上がりで効果的な経済制裁を用いる。

 ③必要不可欠なアメリカ
 ・世界の安全と繁栄を永続させるため、アメリカが主導して、世界経済の成長を推進し、紛争を処理する。
 ・非軍事的手段(貿易、制裁、サイバー能力、道徳心への訴えなど)だけでなく、軍事力も引き続き強化する。

 著者が「アメリカにとって最善の道は何か?」と問うた時、著者は迷わず「③必要不可欠なアメリカ」を選択すると私は思った。だが、著者が選んだのは「①独立するアメリカ」である。他国を民主化に向かわせるために政治システムに直接介入するのではなく、アメリカの民主主義を今よりも効果的なものにする。また、アフガニスタンやイラクなどに投資している資金を自国の教育やインフラに回し、アメリカ国民の手元に残る所得を増やすべきだと主張する。つまり、アメリカ自身がもっと魅力的な国になれば、他国はアメリカに憧れて自己変革を行う。それが、アメリカにとっても他国にとっても最も低リスク、低コストであるというわけだ。

 もし本書がアメリカで売れているのならば(売れていなければ日本で邦訳されない)、アメリカは随分と内向きになってしまったと感じる。この傾向が続けば、尖閣諸島を中国が乗っ取ろうとしても、南シナ海で中国とASEANが衝突しても、朝鮮半島で有事が発生しても、アメリカには大した役割を期待できない。また、中東問題は非常に中途半端となり、ロシアのさらなる介入を許すことになるだろう。そして、EUの難民問題に対して、アメリカは何の責任も持たない(そもそも、中東で難民が発生した原因の一端はアメリカにある)。

 かつて、ブログ本館の記事「ドネラ・H・メドウズ『世界はシステムで動く』―アメリカは「つながりすぎたシステム」から一度手を引いてみてはどうか?」で、アメリカは世界の色々な問題に自ら首を突っ込んで事態を複雑化させているから、身を引くことを覚えてはどうか?と書いた。しかし、この記事を書いた時点では、大国と小国の政治的スタンスの違いに考えが及んでいなかった。日本のような小国は、自国が上手くいっていれば、わざわざ他国に介入する必要などないと考える。しかし大国は、大国でありながら、実は常に他国(特に他の大国)からの侵略に怯えている。よって、防波堤を築くために他国に介入し、味方を作ろうとする。

 だが、今アメリカがやろうとしているのは、世界のあらゆる地域に身を乗り出して他国(+テロ組織)との対立を引き起こしておきながら、「やっぱり(お金と労力がかかるので)アメリカは撤退します」と舞台から飛び降りるようなものである。極言すれば、散らかすだけ散らかしておいて、後片づけもろくにせずにその場を去ろうとしているわけだ。アメリカはまだしばらくの間、「③必要不可欠なアメリカ」で頑張る責任があるのではないだろうか?

小林雅一『AIの衝撃―人工知能は人類の敵か』


AIの衝撃 人工知能は人類の敵か (講談社現代新書)AIの衝撃 人工知能は人類の敵か (講談社現代新書)
小林雅一

講談社 2015-03-20

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 これら複雑に込み入った難問を解決するためには10個や20個の変数ではとても間に合いません。最低でも数百から数千、ときには数万から数十万個もの変数を指定する必要があります。これを人間の手に任せていたのでは膨大な時間がかかりますし、うっかり間違った変数を選んでしまう危険性も十分あります。ディープラーニングは、この面倒な作業を人間に代わってやってくれる最初のAIになるのです。
 意思決定とは、複数の変数と、それらの変数を結ぶ数式からなる関数である。ブログ本館の記事「『意思決定を極める(DHBR2014年3月号)』―敢えて言おう、不確実性が高い環境でこそ「歴史に固執せよ」と」では、意思決定を以下の4つのパターンに分けた。

 ①式も変数の値も解っている場合。
 ②式は解っているが、変数の値が解らない場合。
 ③変数の値は解っているが、式が解らない場合。
 ④式も変数の値も解らない場合。

 詳細はリンク先の記事に譲るが、人間が自分でできるのは①と②である。③は変数の値を集めることは人間でもできるものの、あらゆる数式の可能性を試すのはコンピュータの方が早い。そして、④に関しては、シナリオプランニングが妥当ではないかと書いた。これは、無数に考えうる変数のうち、結果に重大な影響を与えると思われる2つの因子を取り出し、その2因子で2軸のマトリクスを作成して、大まかに4つのパターンを想定するものである。

 だが、冒頭の引用文にあるディープラーニングを使えば、④のような状況であっても、AI自身が膨大なデータの中から変数を特定してくれるのだという。近年、ビッグデータに注目が集まるとともに、データの収集・分析を主導する「データサイエンティスト」という職種が今後は重宝されると言われている。だが、ディープラーニングが発達すると、データサイエンティストが出る幕はなさそうである。

 ブログ本館の別の記事「『ビッグデータ競争元年(DHBR2013年2月号)』―逆説的に重視されるようになる「直観」」では、データを分類する軸が増えれば増えるほど、データをプロットする空間は指数関数的に複雑化すると書いた。つまり、2軸であれば2×2=4次元であるが、10軸になると2の10乗=1,024次元になる。これだけ複雑な次元にデータをプロットしても、中身はスカスカになってしまう。いたずらに変数を増やせばよいというわけではない。

 だから、データのまとまりに着目して、意味のある軸(変数)を設定する作業は、結局は人間の直観に頼らざるを得ない、むしろ、この点で人間が活躍できるのではと私は考えていた。ところが、冒頭の引用文によれば、ディープラーニングは入力されたデータに基づいて、自分で意味のある変数を創造できるという。人間がAIに完全に仕事を奪われるのではないかと戦慄を覚えるのもむべなるかな。

『円高襲来!為替と通貨の新常識/ANA国際線急拡大の野望と死角(『週刊ダイヤモンド』2016年2月27日号)』


週刊ダイヤモンド 2016年 2/27 号 [雑誌] (円高襲来!  為替と通貨の新常識)週刊ダイヤモンド 2016年 2/27 号 [雑誌] (円高襲来! 為替と通貨の新常識)

ダイヤモンド社 2016-02-22

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 (1)慣例となっていた6年間の任期を超えて社長続投を宣言した伊藤忠商事の岡藤正広氏。資本提携を結ぶCITIC(中国中信集団)、CP(タイ財閥のチャロン・ポカパン)との関係を軌道に乗せ、今年9月に控えたファミリーマートとユニーの経営統合を失敗させないために、敢えて続投を決意したのだという。そして、岡藤社長が翻意したきっかけは、野球のあの試合だった。
 そういうときに思い出したのが、(昨年11月の)ワールド・ベースボール・クラシック。準決勝で日本の大谷翔平投手が7回に交代した後、韓国に逆転負けした。後の投手に能力があっても、波に乗れないこともある。6年が慣例だから辞めますというのは、あの野球と一緒。定石通りに7回で交代していたら、大変なことになった。
 なお、記事中で「ワールド・ベースボール・クラシック」となっているのは「プレミア12」の誤りである。プレミア12の知名度もまだまだ低いのだと感じてしまった。

 (2)本号の特集は為替である。アメリカは基軸通貨国であるから、どんなに借金を抱えても自国でドルを刷って問題を解決できる。アメリカは圧倒的な経済力を持って、他国の経済システムに介入し、アメリカにとって都合のよい自由主義的なシステムに転換させる。これは、アメリカが普遍的価値としている自由、平等、資本主義、民主主義を世界に普及させる一環である。

 アメリカは、他国に対して「自由主義的な経済システムを導入せよ」と言い続けるだけではない。そんなやわな方法では全く効果がないことなど重々承知している。本号を読んで、アメリカは主に2つの方法を用い、中長期的かつ乱暴に他国の経済システムをひっくり返す戦略を持っているように感じた。

 通常、先進国においては、アメリカとの為替レートは変動相場制で決まる。これに対し、新興国・途上国に対しては、貨幣の信用がまだ低いという理由で固定相場制を採らせる。この固定相場制には2パターンが存在する。

 1つは純粋な固定相場制で、かつての日本が1ドル=360円に固定していたようなケースを指す。円安ドル高で輸出に有利であるから、日本からアメリカへの輸出がどんどん増える。だが、アメリカは基軸通貨国であり、自分でドルを刷ることができるので、日本の製品をいくらでも購入することが可能だ。しかし、さすがに日本企業の勢いに押されてアメリカ企業の業績が傾き始めると、日本バッシングが起こり、円安を批判し始める。そこで、円安を是正し、自由主義的な通貨取引を行うように日本に圧力をかける。これが1985年のプラザ合意であった。

 もう1つはドル・ペッグ制である。この場合、基本的にドルの価値に応じて自国通貨の価値が決まる(完全に連動することもあれば、一部変動相場制のようになっていることもある)。ドル高なら自国通貨高、ドル安なら自国通貨安になる。かつて、ASEANの多くの国はドル・ペッグ制を採用していた。輸出で稼がなければならない新興国にとって、ドル高の場合は自国通貨高となり輸出に不利に働く。しかし、ドル高であればアメリカ経済も好調なので、新興国の製品を買ってくれる。

 ここで、新興国通貨がその国の実力よりも過大に評価されているのではないかという疑惑が出てくる。いくら新興国の経済がアメリカに引っ張られて好調であっても、経済規模やレベルが違いすぎるから、アメリカの通貨と同じスピードで新興国の通貨が強くなることは考えにくい。ここで登場するのがヘッジファンドである。彼らは、将来的に新興国通貨が安くなると予想して、大量に新興国通貨を売り浴びせる。すると、突然新興国は通貨安となる。

 慌てた政府はレートを維持するため、自国通貨を買い戻す。逆に言えば、ドルを放出する。その原資は、輸出でため込んだ外貨準備金である。だが、ヘッジファンドの空売りが巨額であるため、外貨準備金はあっという間に底をつく(ヘッジファンドの資産に比べれば、新興国の外貨準備金など大した額ではない)。こうして通貨危機が起きる。1997年にターゲットとなったのがタイのバーツであった。そして、そこから連鎖して韓国も危機に陥った。大不況に陥ったアジア各国は、アメリカが主導するIMFの下で再建を行い、自由主義的な経済システムを導入した。

 他国に「自由主義的な経済システムにしましょう」とやんわりアドバイスするのではなく、相手を泳がせるだけ泳がせておいて、突然危機を引き起こし、「おたくのシステムが悪いからこうなったのだ。だから、これからはアメリカの言うことを聞け」と頭ごなしに説教する。相手国も、この大ピンチを切り抜けて助かるにはアメリカに従うしかない、と思ってしまう。これがアメリカの狙いなのだろう。

 中国の元はドル・ペッグ制である。中国からアメリカへの輸出は急増しているが、ドル・ペッグ制のために元高である。しかし、世界的には元は割高だと認識されつつある。それに気づいた中国は、何度か元の切り下げを行った。だが、もしアメリカが1997年のアジア通貨危機のようなことを狙うのであれば、そろそろヘッジファンドが巨額の元空売りに乗り出すのかもしれない。ただし、今回の相手はタイではなく、中国という巨大国家である。ため込んでいる外貨準備金はタイの比ではない。それでもヘッジファンドは中国に挑戦を仕掛けるだろうか?

 (3)「ものつくるひと」という連載コーナーに、ローソンの「グリーンスムージー」を開発した担当者の記事が掲載されていた。役員プレゼンでは大して注目もされず、販売当初は店舗に数本しか陳列されなかったが、あれよあれよと言う間に評判が広がり、現在では累計販売本数が約1,800万本に達しているという。

 おそらくこの記事の組み立て方が悪いのだと思うのだが、私が読んだ印象では、商品開発担当者が仕事と子育てを上手く両立させるために「毎日手軽に野菜を摂取することはできないものか」と考え、既存のジュースバーを何か所か飲み比べ、これだと思ったジュースバーの商品をローソンの協力メーカーにも飲ませて同じような商品を作ってもらった、というストーリーにも見える。

 そこには、市場調査をどのように行ったのか?潜在顧客からはどのような声を拾ったのか?原材料となる野菜などは何にこだわり、どの地域からどのように調達したのか?目指す味や食感の実現に向けて、製造工程にどんな工夫を施したのか?物流の途中で品質が劣化しないよう、物流はどのように設計したのか?店舗内で鮮度を保つために、陳列棚に何か改善を施したのか?などといった話がない。つまり、「ものづくり」の匂いがしないのだ。

 ついでにもう1つ。近年のコンビニはPB商品に注力しており、飲料、おにぎり、パン、菓子、弁当、惣菜、冷凍食品など、あらゆるジャンルがPB化されている。私の独りよがりな考えかもしれないが、PB化のせいでコンビニは非常につまらなくなった。昔は、色んなメーカーの商品があの狭い空間の中にぎゅっと詰まっていて、見比べるのが楽しかった。ところが、PB商品はパッケージデザインが統一されている。もちろん、作っているメーカーはそれぞれ違うものの、コンビニ全体のコンセプトに合うように味が調整されている気がする。どうも面白みがないのである。
お問い合わせ
お問い合わせ
プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。これまでの主な実績はこちらを参照。

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、2,000字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
Facebookページ
シャイン経営研究所
 (私の個人事務所)
シャイン経営研究所ロゴ
人気ブログランキング
にほんブログ村 本ブログ
FC2ブログランキング
ブログ王ランキング
BlogPeople
ブログのまど
被リンク無料
  • ライブドアブログ