ゼロからわかる医療機器・介護機器ビジネスのしくみ 溝上幸伸 ぱる出版 2014-05-23 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
国内の医療機器市場全体2兆3860億円のうち、外資が1兆584億円と半分近くを占めている。また、外資の治療機器は6460億円と、治療機器全体のほぼ半分を占めている。国内企業が約500社に対して、外資は90社程度しかないのに、シェアは5割なのだ。日本市場で存在感がある外資とは、GE、フィリップス、シーメンス、J&J、メドトロニック、コヴィディエン、ボストンサイエンティフィックなどである。ブログ本館の記事「『ベンチャーとIPOの研究(一橋ビジネスレビュー2014年AUT.62巻2号)』―マクロデータから見る事業・起業機会のラフな分析」でも書いたが、医療機器市場は大幅な輸入超過であり、日本企業にチャンスがある。
また、市場規模は2兆円超と大きいものの、本書によれば品目数が約60万あり、1つ1つの製品の市場は非常に小さい。そのため、中小企業が参入しやすい分野である。『日本でいちばん大切にしたい会社』シリーズの著者である坂本光司教授は、業績不振で悩んでいると漏らす中小企業の社長に対し、「医療機器市場は成長することが明らかである。それなのに、なぜ医療分野に挑戦しないのか?」と発破をかけている(ブログ本館の記事「『ファミリービジネス その強さとリスク(『一橋ビジネスレビュー』2015年AUT.63巻2号)』」を参照)。
たとえば、ある医師が治療機器でこういうタイプのものが欲しいと要望する。たとえば電気メスの刃の長さや角度を変えるとかだ。そうすると日本の企業はそんなものはできない、と改良をためらう。その医師の個人的な使いやすさで製造ラインを変えることはできないのだ。確かにそれは一理あって、医師というのはわがままなもので、あくまでそれは個人的な要求であるから、改良したら別の医師から苦情が来ることもあるわけだ。(中略)医療機器分野で日本が劣勢なのは、日本企業が診断系機器に注力しており、治療系機器に熱心ではないことが挙げられる(逆に、外資系企業は治療系機器に強い)。診断系機器とは異なり、治療系機器は人間の体内に入れるものなので、その分リスクが高い。よって、日本企業が及び腰になっている。加えて、本書の著者は、日本企業と外資企業の違いについて、次のように分析している。
それに対して、大手の外資はすぐ請け負って、要望に沿った新しいものを持ってくるのだという。
しばしば、「大企業は組織が大きすぎて顧客への対応が鈍く、市場の変化について行けない。逆に、中小企業は小回りが利くのできめ細かい対応が可能である」とされる。だが、上記の引用文を読むと、必ずしもそうとは言い切れない。
内視鏡で世界のトップシェアを占めるオリンパスの開発ストーリーは、山口翔太郎、清水洋「ビジネスケースNo.122 オリンパス 胃カメラとファイバースコープの開発」(『一橋ビジネスレビュー 2015年AUT.63巻2号』)で読むことができる。オリンパスの開発陣は、数名の医師に深く潜り込んで、ニーズを丹念に拾い上げ、製品に反映させた。医師の要求があまりに高いので、オリンパスは開発を断念しかけたこともあったが、医師の熱意にほだされて完成までこぎつけた。
一橋ビジネスレビュー 2015年AUT.63巻2号: ファミリービジネス その強さとリスク 一橋大学イノベーション研究センター 東洋経済新報社 2015-09-11 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
仕事柄、あまり中小企業のことを悪く言いたくないのだが、私の経験上、中小企業の中にも動きが鈍い企業は決して少なくない。こちらからメールを送っても平気で1週間以上返信がなかったり、電話した相手が留守だったので折り返し連絡をもらえるようにメッセージを残しても、折り返しの電話がなかったりする(そういう企業に限って、自分の方に何か用事がある時は、昼休みの時間にまでしつこく電話をかけてきたり、「明日すぐに来い」と無理なことを言ってきたりする)。
逆に、大企業でも仕事が早いところはあって、深夜2時でも必要な資料をメールで送ってくれるところがある(もちろん、そういう働き方を推奨はしないが)。Amazonは、企業規模が大きくなるほど、配達時間が短くなっている(その裏で、社員がこき使われ、物流業者が締め上げられている可能性は容易に想像できるが)。結局、顧客対応力があるかないかは、企業の規模の大小とは無関係だ。
ところで、本書の著者は介護機器に関しては次のように書いており、先ほどの内容と若干矛盾していると感じた。
介護機器は個人レベルの需要の集積だから、個別対応的な要素が強く、そのため、外資系企業の参入余地は少ない。彼らはでき上がった商品を大量に扱うのは得意だが、ユーザーのニーズに合わせて製品を改良し改善していくのは決して得意ではない。