こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント・トレーナー)のブログ別館。2,000字程度の読書記録の集まり。

2016年02月


溝上幸伸『ゼロからわかる医療機器・介護機器ビジネスのしくみ』


ゼロからわかる医療機器・介護機器ビジネスのしくみゼロからわかる医療機器・介護機器ビジネスのしくみ
溝上幸伸

ぱる出版 2014-05-23

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 国内の医療機器市場全体2兆3860億円のうち、外資が1兆584億円と半分近くを占めている。また、外資の治療機器は6460億円と、治療機器全体のほぼ半分を占めている。国内企業が約500社に対して、外資は90社程度しかないのに、シェアは5割なのだ。
 日本市場で存在感がある外資とは、GE、フィリップス、シーメンス、J&J、メドトロニック、コヴィディエン、ボストンサイエンティフィックなどである。ブログ本館の記事「『ベンチャーとIPOの研究(一橋ビジネスレビュー2014年AUT.62巻2号)』―マクロデータから見る事業・起業機会のラフな分析」でも書いたが、医療機器市場は大幅な輸入超過であり、日本企業にチャンスがある。

 また、市場規模は2兆円超と大きいものの、本書によれば品目数が約60万あり、1つ1つの製品の市場は非常に小さい。そのため、中小企業が参入しやすい分野である。『日本でいちばん大切にしたい会社』シリーズの著者である坂本光司教授は、業績不振で悩んでいると漏らす中小企業の社長に対し、「医療機器市場は成長することが明らかである。それなのに、なぜ医療分野に挑戦しないのか?」と発破をかけている(ブログ本館の記事「『ファミリービジネス その強さとリスク(『一橋ビジネスレビュー』2015年AUT.63巻2号)』」を参照)。

 たとえば、ある医師が治療機器でこういうタイプのものが欲しいと要望する。たとえば電気メスの刃の長さや角度を変えるとかだ。そうすると日本の企業はそんなものはできない、と改良をためらう。その医師の個人的な使いやすさで製造ラインを変えることはできないのだ。確かにそれは一理あって、医師というのはわがままなもので、あくまでそれは個人的な要求であるから、改良したら別の医師から苦情が来ることもあるわけだ。(中略)

 それに対して、大手の外資はすぐ請け負って、要望に沿った新しいものを持ってくるのだという。
 医療機器分野で日本が劣勢なのは、日本企業が診断系機器に注力しており、治療系機器に熱心ではないことが挙げられる(逆に、外資系企業は治療系機器に強い)。診断系機器とは異なり、治療系機器は人間の体内に入れるものなので、その分リスクが高い。よって、日本企業が及び腰になっている。加えて、本書の著者は、日本企業と外資企業の違いについて、次のように分析している。

 しばしば、「大企業は組織が大きすぎて顧客への対応が鈍く、市場の変化について行けない。逆に、中小企業は小回りが利くのできめ細かい対応が可能である」とされる。だが、上記の引用文を読むと、必ずしもそうとは言い切れない。

 内視鏡で世界のトップシェアを占めるオリンパスの開発ストーリーは、山口翔太郎、清水洋「ビジネスケースNo.122 オリンパス 胃カメラとファイバースコープの開発」(『一橋ビジネスレビュー 2015年AUT.63巻2号』)で読むことができる。オリンパスの開発陣は、数名の医師に深く潜り込んで、ニーズを丹念に拾い上げ、製品に反映させた。医師の要求があまりに高いので、オリンパスは開発を断念しかけたこともあったが、医師の熱意にほだされて完成までこぎつけた。

一橋ビジネスレビュー 2015年AUT.63巻2号: ファミリービジネス その強さとリスク一橋ビジネスレビュー 2015年AUT.63巻2号: ファミリービジネス その強さとリスク
一橋大学イノベーション研究センター

東洋経済新報社 2015-09-11

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 仕事柄、あまり中小企業のことを悪く言いたくないのだが、私の経験上、中小企業の中にも動きが鈍い企業は決して少なくない。こちらからメールを送っても平気で1週間以上返信がなかったり、電話した相手が留守だったので折り返し連絡をもらえるようにメッセージを残しても、折り返しの電話がなかったりする(そういう企業に限って、自分の方に何か用事がある時は、昼休みの時間にまでしつこく電話をかけてきたり、「明日すぐに来い」と無理なことを言ってきたりする)。

 逆に、大企業でも仕事が早いところはあって、深夜2時でも必要な資料をメールで送ってくれるところがある(もちろん、そういう働き方を推奨はしないが)。Amazonは、企業規模が大きくなるほど、配達時間が短くなっている(その裏で、社員がこき使われ、物流業者が締め上げられている可能性は容易に想像できるが)。結局、顧客対応力があるかないかは、企業の規模の大小とは無関係だ。

 ところで、本書の著者は介護機器に関しては次のように書いており、先ほどの内容と若干矛盾していると感じた。
 介護機器は個人レベルの需要の集積だから、個別対応的な要素が強く、そのため、外資系企業の参入余地は少ない。彼らはでき上がった商品を大量に扱うのは得意だが、ユーザーのニーズに合わせて製品を改良し改善していくのは決して得意ではない。

福森哲也『ベトナムのことがマンガで3時間でわかる本―中国の隣にチャンスがある!』


ベトナムのことがマンガで3時間でわかる本 (アスカビジネス)ベトナムのことがマンガで3時間でわかる本 (アスカビジネス)
福森 哲也

明日香出版社 2010-11-19

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 ブログ本館の記事「千野境子『日本はASEANとどう付き合うか―米中攻防時代の新戦略』―日本はASEANの「ちゃんぽん戦略」に学ぶことができる」で、ASEANの中でもベトナムは「ちゃんぽん戦略」が上手い印象があると書いた。ベトナムの外交は「八方美人外交」と呼ばれる(揶揄される?)そうだ。本書ではベトナムの歴史を簡単に学んだだけだが、時と場合に応じて味方となる国をコロコロと変えるしたたかな外交をうかがい知ることができた。

 ベトナムは歴史的に見て長らく中国の支配下にあった。だから、中国に対しては複雑な感情を抱いている。ベトナム民主共和国(北ベトナム)が勝利したベトナム戦争(1960~1975年)の後も、後ろ盾となった中国とソ連のうち、ソ連との関係を重視した。当時の中国はカンボジアと深い関係にあった。一方、ソ連とつながるベトナムは、カンボジアのポル・ポト政権と対立し、1978年にはカンボジアとの国交を断絶、1979年にはカンボジアに侵攻し、中越戦争を引き起こした。

 1991年にソ連が崩壊すると、ベトナムは重要なサポーターを失った。そこで、かつて対立した中国やアメリカに接近するようになる。アメリカはベトナム戦争の敵国であり、300万人もの自国民を殺されたにもかかわらず、である。ベトナムは1995年、アメリカと和解して国交を回復した。

 中国とは1991年に国交を正常化した。その後、ベトナムはASEANへの加盟を狙ったが、カンボジア問題が解決していないとして、中国がこれに反対した。中国とベトナムの間を取り持ったのはインドネシアである。そのおかげで、ベトナムは1995年にASEANに加盟することができた。もともと、反共産主義のための地域連合として発足したASEANは、ベトナムという共産主義国を加えることによって、政治・経済面での包括的な連携を促す組織へと変貌する。

 ベトナムは中国と国交を正常化したとはいえ、現在は南沙諸島をめぐる領土問題で中国と対立している。ベトナムは安全保障の観点から、アメリカと軍事面で協力関係にあり、合同で軍事演習も実施している。社会主義国が資本主義国と手を組むという不思議な構図である。ソ連崩壊後、関係が希薄になっていたロシアとも、近年は関係を再び強化している。ロシアは潜水艦をベトナムに売却したり、ベトナムの原発・地下鉄工事などを受注したりしている。

 かといって、ベトナムは中国との関係を軽視しているわけではない。中国がAIIB(アジアインフラ投資銀行)の立ち上げを発表した時、ASEANは10か国とも加入を表明したが、とりわけ熱心だったのが「陸のASEAN」であった。陸のASEANとは、インドシナ半島に位置するベトナム、ラオス、カンボジア、タイ、ミャンマーの5か国である。陸のASEANは、どの国もインフラ整備が喫緊の課題であり、その解決をAIIBに期待した。ベトナムもしかりである。

 これに対し、ブルネイ、シンガポール、フィリピン、マレーシア、インドネシアの5か国は「海のASEAN」と呼ばれる。海のASEANの中には、中国と深刻な領土問題を抱える国が多い。AIIBへの参加は「渋々」だったと言われる。

 私の勝手な印象だが、中国やソ連を見ていると、社会主義国はどこか教条的なところがある。だが、社会主義であるベトナムが大国を相手にこれだけ柔軟に振る舞うことができるのは、「ホーチミン思想」にヒントがあるのかもしれない。
 ホーチミン思想の厳密な定義は、いろいろ解釈があって小難しいのですが、「ベトナム民族の自由と独立、尊厳と幸福が一番大事であり、そのためには社会主義も共産主義も柔軟に変えていく」思想なのだと思います。ベトナム民族が世界の中で確固たる地位を築いて幸せになるのであれば、資本主義的政策も推進するし、ロシアや中国よりも先に日本を訪問するし、仇敵米国にも接近するのです。

椋野美智子、田中耕太郎『はじめての社会保障―福祉を学ぶ人へ』


はじめての社会保障--福祉を学ぶ人へ 第12版 (有斐閣アルマ >)はじめての社会保障--福祉を学ぶ人へ 第12版 (有斐閣アルマ >)
椋野 美智子 田中 耕太郎

有斐閣 2015-03-26

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 1985年の第1次医療法改正で、医療機関の地域的な適正配置を進めるため、都道府県ごとに医療計画を定めることとなった。その中で、地域ごとに一般病床、療養病床、精神・結核・感染症病床など、病床の種類ごとの必要病床数を定め、これを超えて病院の新設または増設の申請があった場合には、知事が勧告し、さらにこの勧告に従わない場合には、保険医療機関の指定を行わないことができる。
 介護保険では、市町村は3年ごとに介護保険事業計画をつくることになっている。この計画では各年度ごとの介護サービスの見込み量を定め、それをどうやって確保するかの方策も定めることになっている。(中略)市町村の介護保険事業を支援するために、都道府県は介護保険事業支援計画を定める。これも、市町村の介護保険事業計画と同じに、3年ごとにつくられる。この計画では、介護サービスの中でも地域密着型でない施設にとくに重点が置かれている。
 ピーター・ドラッカーは、「人口構造の変化は外部環境の変化の中でも最も予測がしやすく、対応が容易である」と常々述べていた。年齢別に見た各種疾病の割合や、要介護レベルに応じた介護サービスの需要量に関しては、これまでに蓄積された大量のデータからある程度正確に予測することが可能であろう。したがって、それらの情報に基づいて、都道府県や市町村が医療計画や介護保険事業計画を策定することは理に適っている。

 ただ、ここで私が1つ疑問に思うことは、こうした計画が自治体の産業振興計画や子育て・保健推進計画などと適切に連携しているのか?ということである。つまり、福祉部門が単独で、自治体が特に何も施策を行わなかった場合に予測される人口推移に従って計画を作成しているのではないかという疑問である。

 何かとその縦割りを批判される行政組織であるから、福祉部門と産業部門、保健部門が連携していないことは十分に考えられる。産業振興計画や子育て・保健推進計画によって、自治体の人口数や人口構成は変化する。医療計画や介護保険事業計画がそれに対応していなければ、計画は画餅に終わる(これはあくまでも私の推測である。どこかの自治体の医療計画などをちゃんと読んでからこういう批判を書けよと怒られそうだが・・・)。

 どこの自治体も、放っておけば人口が減少するのと同時に社会保障費が増大し、財政が苦しくなるのは目に見えている。そこで、税収を増やすための施策を色々と検討している。税収を増やす方法は大きく分けて2つある。(1)人口を増やすか、(2)企業を増やすかである。

 (1)人口を増やすためには、①幼稚園・保育園や初等・中等教育の充実を通じて子育て世帯(20代後半~40代夫婦の家族)を増やす、②大学・研究機関の移転を通じて大学生を増やす、③医療機関・介護施設の充実を通じて高齢者を増やす(ただし、財政的支出も増える)、といったことが考えられる。

 (2)企業を増やすには、①地域密着型企業(小規模の商業・サービス業など)、②広域型企業(製造業、卸売業、多店舗展開の小売業など特定の市町村、都道府県の範囲を超えて事業を行う企業)、③海外需要獲得型(輸出、インバウンド対応など)といった企業の種類別に適切な施策を検討する。工業団地を整備するのと、商店街の環境を高度化するのとでは、達成される効果がまるで異なる。

 もちろん、企業が増えれば働き手である子育て世帯も増えるし、人口が増えれば日常生活のニーズを満たす地域密着型企業への期待も高まる。よって、自治体の人口は、(1)①~③、(2)①~③が相互に影響し合う複雑な関数によって決まる。自治体は、(1)①~③、(2)①~③の施策をどのように組み合わせると、将来の人口にどんな影響が現れるのかを予測する必要がある(ブログ本館の記事「「創業促進フォーラム」に出席して思ったこと」を参照)。そして、その予測の上に立って、医療計画や介護保険事業計画を策定しなければならないと思う。
プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。これまでの主な実績はこちらを参照。

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、2,000字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
シャイン経営研究所HP
シャイン経営研究所
 (私の個人事務所)

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