こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント)のブログ別館。1,500字程度の読書記録の集まり。

2016年04月

財団法人海外職業訓練協会『インドの日系企業が直面した問題と対処事例』


インドの日系企業が直面した問題と対処事例インドの日系企業が直面した問題と対処事例

財団法人海外職業訓練協会 2008-03


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 少し古い書籍だが、インドに進出した日本企業が実際に直面した経営上の問題とその解決策(解決できなかった場合は教訓)が具体的に書かれている。インドはイギリスの植民地だったこともあり、資本主義と民主主義が根づいているとてっきり思い込んでいたのだが、実際にはちょっと違うようだ。インド独立の父マハトマ・ガンディーは、原初的な共産社会を目指していた。1947年にインドが独立した際には、社会主義と資本主義を組み合わせた混合経済体制で出発した。

 そのためか、インドの労働法には労働者を手厚く保護する規定がある一方で、使用者に非常に有利な規定もある。ちなみに、インドの労働関連法規は中央レベルだけで50以上に上り、州レベルのものも合わせると150を超えるという。

 <労働者にとって有利なこと>
 ・ディワリ(ヒンドゥ教で最も大きな祭り。10月または11月のどちらかに、2日間に渡り開催される)の際には、社員にボーナスを支給するのが慣例である。
 ・インドで最も過激な労働組合はCITU(Centre of Indian Trade Unions)である。
 ・大規模な企業の労働組合は上部政治団体と密接に結びついていることが多い。労働争議を政治の道具として利用されることがある。
 ・労働争議に共産党が介入し、事態の収拾がより困難になることがある。
 ・インドには労働争議のプロがおり、彼らが介入すると企業側の努力のみで解決することが非常に困難になる。
 ・従業員の解雇、レイオフ、事業所の閉鎖の際、50人以上を雇用する事業所は所管政府への届出が、100人以上を雇用する事業所は所管政府からの許可の取得が義務である。しかし、実際には政府からの許可はほとんど下りない。
 ・インド憲法は、労働者による経営参加の促進を定めており、これまでに経営参加の制度化が何度か試みられている(ただし、法制化には至っていない)。
 ・前述のように、インドの労働関連法規は非常に多く、日本では労使間の協議で決定するような事項も法律で細かく定められている。

 <使用者(経営者)にとって有利なこと>
 ・労働組合を設立する場合には、登録する労働者7名以上で、かつ当該組織・産業に従事する労働者の10%または100人以上のいずれか少ない人数の組織化が必要である。これにより、小規模の組織は労働組合が登録できなくなった(単純に考えれば、70人以上の組織でないと労働組合が作れない)。
 ・インドでは使用者の先制的なロックアウト(労働争議が発生した際に、使用者側が事務所、工場、店舗などの作業所を一時的に閉鎖(封鎖)して労働者の就業を拒み、賃金を支払わないことで、争議行為に対抗すること)が一定条件の下に認められている。
 ・インドでは、「承認組合」との誠実な団体交渉の拒否が不当労働行為とされている。しかし、インドでは少なくとも中央レベルにおいては組合承認に関する規定がない。このため、使用者は団体交渉の相手を恣意的に選ぶことができる。
 ・実は、労働法制が定める労働者保護の恩恵を受けるのは、就業人口の1割に上るかどうかという、インドのごく一部の労働者にすぎない。相対的に労働条件が劣っている小規模組織や未組織部門には適用されない労働法が多い。

久保田政純『設備投資計画の立て方』


設備投資計画の立て方 (日経文庫)設備投資計画の立て方 (日経文庫)
久保田 政純

日本経済新聞社 1999-03

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 ブログ本館の記事「中小企業診断士の試験&実務補習とコンサルティング現場の5つの違い(1)(2)」で、中小企業診断士は財務を苦手にしてはいけないと書いたが、かく言う私も決して財務が得意なわけではない(苦笑)。改めて設備投資における投資回収の計算について勉強したいと思い、本書を読んだ。

 本書では、設備投資が回収できるかどうかを判断する方法として、主に回収期間法、DCF法、ROIを用いる方法、ROAを用いる方法という4つの方法が解説されている。回収期間法とDCF法では、キャッシュフローを投資金額で割る。回収期間法の場合は年間キャッシュフローを、DCF法の場合は将来的に発生が見込まれる累積キャッシュ・フローを現在価値に割り戻した額を割る。

 両者のキャッシュ・フローにの考え方には、以下の通り微妙な違いがある。
 年間キャッシュ・フロー
 =税引後利益+減価償却費-社外分配金(配当+役員賞与)・・・①
 キャッシュ・フロー=営業利益+減価償却費-法人税等・・・②
 式だけを見ても覚えにくいので、このように考えてはどうだろうか?企業は設備投資の際に外部から資金を調達するが、資金調達にはコストがかかる。金融機関からの借入金に対しては支払利息が発生するし、株主には配当を還元しなければならない。これらを合わせて資本コストと呼ぶ。

 また、企業は社会に存在するだけで、社会的なコストを発生させる。具体的には、企業の経済活動を支える物理的・制度的インフラの整備、競争ルールの徹底、紛争の解決処理、不当に競争が歪められた場合の是正措置などに要する行政コストである。これらのコストが法人税として徴収される。

 資本コストや法人税は、企業がいくら利益を出そうと必ず負担しなければならない。よって、投資額の返済原資となるのは、営業利益から資本コストと法人税を除いた金額となる。ただし、営業利益を計算するにあたってコストとして扱った減価償却費に限っては、実際には社外に流出したお金ではないため、営業利益に上乗せして返済の原資に充てることができる。①の式は、次のように言い換えるとよい(役員賞与の扱いだけはよく解りませんでした・・・)。
 年間キャッシュ・フロー
 =営業利益+減価償却費-(支払利息+配当+法人税等)・・・①’
 ①(①’)と②の違いは、キャッシュ・フローを計算するにあたって、支払利息と配当を引くか引かないかという点である。DCF法の場合、将来のキャッシュ・フローを一定の利率で割り引いて現在価値に換算する。その一定の利率として、資本コスト(WACC:加重平均資本コスト)が用いられるのが一般的である。キャッシュ・フローは資本コストによって割り引かれるのだから、割り引かれる前のキャッシュ・フローから支払利息と配当金を除いてしまっては都合が悪い。したがって、②は①と異なり支払利息と配当を控除せず、上記のような式となる。

 ROIとROAは次のように計算される。
 投下資本利益率(ROI)
 =予想収益(年平均)÷投下資本
 =予想償却後利益(年平均)÷(設備資金+増加運転資本)
 総資産収益率(ROA)
 =利益÷(投資前の使用総資産+設備投資額+増加運転資本)
 増加運転資本とは、月商増加額×(売上債権回転期間+棚卸資産回転期間)によって求められる。ROIとROAに関してよく解らなかったのは次の2点である。1点目は、分母に増加運転資本を加えなければならない理由である。営業利益をベースに返済すべき設備投資額に対して、運転資本は日々の業務の中で返済すべき性質のものである。本書の著者は、それでも増加運転資本を分母に入れるべきだと主張していたが、十分に理解できなかった(汗)。

 2つ目は、ROIとROAをそれぞれ求めることの意味である。投資が回収できるかどうかを判断するためであれば、ROIを計算すれば足りるはずだ。それに加えてROAも計算しなければならないのはなぜだろうか?本書にはこの点があまり説明されていないと感じたが、私なりに考えた結果、次のような結論に至った。すなわち、ROIが設備投資前のROAを上回れば、その設備投資を実行する(設備投資後のROAは改善される)。逆に、下回る場合は投資しない(仮に投資すると、ROAが悪化する)。この判断をするために用いるのではないだろうか?

 ところで、やや話は逸れるが、「平成27年度補正ものづくり・商業・サービス新展開補助金」では、5か年の事業計画の「根拠」を明示するようにと、公募要領の中で明確に指示された。逆に言うと、平成24年度補正予算から始まったものづくり補助金は、平成26年度補正予算までの3年間、事業計画の数字の根拠を要求していなかった。これは何とも恐ろしい話である。投資回収の見込みがあるかどうか十分に確認せずに、1社あたり最高で1,000万円という補助金を支払っていたわけだ。これでは世間からバラマキと批判されても仕方がない。

清好延『インド人とのつきあい方―インドの常識とビジネスの奥義』


インド人とのつきあい方―インドの常識とビジネスの奥義インド人とのつきあい方―インドの常識とビジネスの奥義
清好 延

ダイヤモンド社 2009-07-17

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 著者はインド滞在が22年にも及ぶとあって、さすがに濃密な内容であった。インドの食事に関して言うと、ヒンドゥー教が牛を神聖な動物としており、イスラームが豚を不浄の動物としていることから、インド人と食事をする際には野菜中心の食事にするべきだと多くの本には書かれている。しかし、本書には、牛や豚については例外もあることが書かれている。

 また、野菜なら安全と考えるのも問題だという。空衣派のジャイナ教は最も厳しいベジタリアンであり、根菜を食べない。根菜を収穫する際に、地中の虫や細菌を傷つけるからというのがその理由である。野菜と鶏の無精卵は食べるが、有精卵は食べないというグループもあるし、卵までならOKというグループもある。

 魚に関しては、淡水魚は食べるが海の魚は食べないという人たちがいる。インド人は海、特に南西の海を悪魔の世界と考えているためである(よって、インドの南東にあるスリランカ(セイロン島)は、古来から悪魔が住む島とされてきた。このエピソードが日本に伝わって、桃太郎の鬼ヶ島の話ができたと言われる)。

 ヒンドゥー教では牛が神聖な動物と位置づけられるが、牛乳や乳製品は全てのインド人にとってOKであるらしい。牛乳の他に、バター、ヨーグルト、チーズなどは日常的に使われる。生きている牛から収穫できる牛乳を原料としているから問題ないというのがその理由である。逆に言えば、牛を殺した後に作られるヘッド(油)はNGである(同じ理由で、豚肉から作られるラードも使用不可である)。

 本書をざっと読むと、インド人はアメリカ人とよく似ていると感じる。自己責任で行動しなければならない、自己主張が強い、議論を好む、タフな交渉を仕掛けてくる、訴訟大国である、などである。インドもアメリカと同様に多様性に富んだ国である。別の本を読んでいたら、インドは1つの国というよりも、国際連合やEUのような集合体であると表現されていた。多様性に富んだ社会では、自分が何者であるかをはっきりと主張しなければならない。また、誰がいつ何時攻撃をしてくるかわからないから、自分の身は自分で守る必要がある。

 ただ、本書をよく読むと、インドとアメリカの間には1つ決定的な違いがあるのではないかとの考えに至った。アメリカの場合は、他者の存在を強く意識しており、他者に対する恐れ(fear)が根底にある。これは、アングロサクソン系の民族によく見られる傾向である(ブログ本館の記事「「日本と欧米の経営、ガバナンス、リスクマネジメントの違い」について教えてもらったこと」を参照)。

 一方、インド人の場合は、他者に対する恐れというものがない。逆に、他者に限りなく接近していく。いや、他者という存在そのものをあまり意識しておらず、自分のペースで延々と物事を進めているのかもしれない。象徴的な例を本書から取り上げると、インド人同士の対人距離感は約50cmと非常に近い(日本人の場合は約1.5mである)。インドでは、男性同士が手をつないで歩くことも普通らしい。

 インド人は多弁である。インド人に道を聞くと、こちらが望んでいないことまであれこれと教えてくれる。インド人はインド人なりに、一生懸命こちらを喜ばせようとしている。だが、こちらのニーズをくみ取って、必要な情報を端的に伝えるという意識がやや乏しいのかもしれない。インド人との議論や交渉は長時間に及ぶ。しかも、言っていることが途中でコロコロ変わる。この辺りが、アメリカ人の交渉との違いである。インド人は、相手の主張との間で妥結点を探るというよりも、とにかくその時に言いたいと思ったことを口にしているとも考えられる。

 インド人は話も長ければ文章も長いようだ。インド人の部下にパワーポイントで資料を作らせると、小さい文字の英語でびっしりと文章を書いたものを持ってくる。これも、自分が書きたいことを何でもいいから全部詰め込めばいいという発想の表れなのだろう。そこで、日本人が箇条書きでポイントを絞って書き直すと、「そんなまとめ方があったのか」と非常に喜ばれるという。

 インドの企業には、日本のように「お客様は神様」という考え方はない。だから、インド人の店員は、日本人から見るとぶっきらぼうな対応をする。インド人は、自分が商品を売りたいから店を開いていると考える。だから、顧客が商品を買ってくれても「ありがとう」とは思わない。むしろ、お礼を言うのは顧客側である。

 インドでは慈悲が盛んに行われる。慈悲の恩恵にあずかる人は、慈悲を施してくれた人に対して「ありがとう」とは思わない。慈悲を施すのは、その人が慈悲を施したいと考えているからだというわけである。だから、慈悲を受ける人は、慈悲を施す人に媚びることがない。このように、インド社会というのは、万事において他者の存在が影を潜め、自己を中心として回っているようなのである。

 13億人が自分軸を中心に回っている世界で立ち回るにはどうすればよいか?著者は、日本人も「自分の判断の基準軸」を持つことが大切だという。そうすれば、インド人と対等につき合うことができ、インドが好きになる。逆に、自分軸がない日本人がインドに行くと、周りにぶんぶん振り回されて嫌気が差す。私が色々な人から聞いた話では、インドの駐在経験がある日本人は、インドが大好きになるか、大嫌いになるか、どちらかにはっきり分かれるという。その差は、その人に自分軸があるかないかに起因するのではないかと考えられる。


 《2016年4月28日追記》
 八代京子他『異文化トレーニング』(三修社、2009年)に、インド人を題材としたケーススタディが載っていた。日本人高校生のAさんは、近所に引っ越してきたインド人と知り合いになった。インド人はAさんに、是非日本語を教えてほしいとお願いしてきた。Aさんも外国人の友人ができることは嬉しいことだし、Aさんもインド人から英語を教えてもらいたいと思ったので、快く快諾した。

 次の日以降、そのインド人はAさんの自宅によく遊びに来た。ここまでは想定の範囲内だったのだが、そのインド人はやがて、自分の友人である別のインド人を次々と連れて来るようになった。Aさんは大勢のインド人が頻繁に訪れることに困惑た。自分が思ったほど英語の勉強ができないどころか、英語以外の科目の勉強にも支障をきたすようになった。期末試験の成績が悪かったAさんはとうとう、そのインド人に対して、もうこれ以上家に来ないでほしいと言ってしまった。

 このインド人は、「自分が仲良くなった人が自分とだけ仲良くするのはもったいない。だから、他のインド人も紹介してあげよう」と思ったのだろう。しかし、そこにはAさんの視点が抜けている。これも、どちらかと言うと他者の存在が一歩後退し、自分軸で動くインド人の行動特性が表れている事例なのかもしれない。


異文化トレーニング異文化トレーニング
八代 京子 町恵理子 小池浩子 吉田友子

三修社 2009-10-21

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経済産業省『中小企業のための海外リスクマネジメントガイドブック』


中小企業のための海外リスクマネジメントガイドブック中小企業のための海外リスクマネジメントガイドブック

経済産業省 2016-03-14


中小企業基盤整備機構HPで詳しく見る by G-Tools

 これは書籍ではないのだが、非常に役に立つ内容だったので紹介させていただく。中小企業が海外に進出する際に直面することが多いリスクを、進出計画段階、進出手続き段階、操業段階に分けて解説し、対応策を整理した冊子である。自社の潜在リスクを確認するチェックリストもついている。

 リスクマネジメントの一般論に加えて、国別、特にアジア各国に固有のリスクをまとめた表もあり、大変有益であった。今回の記事では、その国別リスクの中から、特に参考になった部分をまとめておく。

 ①中国
 「外国人を狙った誘拐事件は多くなく、狙われる対象は主に富裕層の中国人である」。この点は少々意外であった。金持ちだと思われている日本人は、海外では誘拐のターゲットになりやすい。誘拐犯は”ビジネスとして”誘拐を行うため、用意周到に誘拐の計画を立てる。この辺りについては、ブログ本館の記事「中央支部国際部セミナー「ここがポイント!中小企業の海外展開―海外案件経験診断士からのメッセージ」に参加してきた」で書いた。

 ②香港
 「団体交渉権、標準労働時間等が法制化されていない」。1997年に中国に返還される前には、香港では法律により労働者の基本的な権利である団結権、団体交渉権、争議権が保障されていたが、返還後に権利が剥奪されたらしい。

 標準労働時間が規定されていないとは恐ろしい話である。経営者は社員を何時間でも働かせることができる。現在、政府は標準労働時間や残業代支払に関する規定の導入を検討しているようだが、企業にとってはコスト増となり、「中小企業約7,000社が赤字に陥る可能性」があるとも言われる(日本の人事部「香港 標準労働時間導入で企業の人件費が大幅増」〔2015年8月28日〕を参照)。

 ③台湾
 「即答することを美徳とする傾向が強くあり、対応が早い反面内容が正しくない場合がある」。これは台湾に限らず、アジア各国でよく見られる傾向である。ベトナム人も「できます」と即答するが、いざやらせてみるとできないことが多い。その理由を問うと、「半年後にはできるようになります」などと反論してくる。

 タイ人もすぐに「はい」と言う傾向がある。ただし、これは目上の人からの命令を断っては失礼にあたると考えているためだ。インド人は仕事の進捗を確認すると、「ノープロブレム」と答える。だが、実際には問題だらけであることが後から発覚する。インド人にとって「ノープロブレム」とは、「問題と思われることが発見できない」ということであり、「問題がない」という意味ではない。

 ④韓国
 「高い人口密度・都市化率の中、経済成長を遂げた結果、大気汚染・水質汚染を中心とした環境汚染が深刻化している。世界的にもまれな多種多様な賦課金があり、環境保護を達成する目的の一方で行政機関の貴重な財源となっており、注意が必要である」。例えば、資源リサイクル法で定められた製品・包装材(レジ袋も含まれる)のリサイクル基準を達成できない場合は、所定の算出式に基づいて賦課金が徴収される。

 ⑤タイ
 「企業が振り出す小切手は何度不渡りを出しても、日本のように銀行取引停止にはならない為、小切手での取引は回収不能となる恐れがある。この為銀行が保証する預金小切手の利用やCOD(Cash On Delivery:受渡し時現金)とする、できるだけ銀行振り込みとする等の対策が必要である」。すごい国だ・・・。

 「公務員が社会的儀礼・慣習として利益を受領することが許容される場合があり、年末に監督官庁へバスケット(日本の歳暮に相当する詰め合わせの品)を贈る習慣が残っている」。汚職の問題はアジア共通である。日本の公務員はよく高給取りだと批判の対象となるのに対し、アジアの多くの国では公務員は特権階級である。彼らが許認可を出したり、規制を緩和したりしてくれなければ、企業はビジネスを展開できない。公務員の仕事は、国民や企業に対するサービスである。だから、サービスの対価(=賄賂)をもらうのは当然だとされるわけだ。

 ⑥ベトナム
 「ベトナムは贈答社会といわれ、人や仕事を紹介した場合、必ずお礼をする習慣がある。仲介者・紹介者へのキックバックやマージン等の手数料が発生する場合がある点に注意が必要である」。

 ⑦インドネシア
 「法人税予納制度による実績確定後の還付請求の際、必ず税務調査が実施され、結果的に還付を認められないケースが多い。また、税務調査において、親会社の提供する経営指導や債務保証に対する対価をすべて配当とみなす、ロイヤリティー・ブランドフィーを否認するなどの運用が明確な根拠なくなされる場合がある」。日本国内であれば還付申告は喜んで実施するだろうが、インドネシアでは「どうすれば還付申告を受けずに済むか?」を考えなければならない。

 引用文にある通り、還付申告をすると必ず税務調査が実施される。すると、損金が否認されて、還付どころか追徴課税を受けてしまうことがある。だから、還付申告をしなくてもいいように、源泉税などで前払いした税金を上回る税金を確定申告時に納められるようにする必要がある。端的に言えば、それだけ高い利益率が求められるということだ(以前の記事「吉田隆『コンサルタントの現場と実践 インドネシア会社経営』/『インドネシア税務Q&A』」を参照)。

 ⑧ミャンマー
 「原則として国内での代金決済は現地通貨チャット建である。国内の決済システムの電子化は殆ど進んでいない為、現金決済が主流であるが、小切手の使用や口座振り込みも可能である」。ミャンマーは金融機関のシステムが十分ではなく、窓口に大量の紙幣を持ち込んで手続きをしている写真を見たことがある。

 やや話は逸れるが、中小企業診断士の実務補習に、日本銀行のOBが参加されたことがあった。その方は海外事務所での勤務も非常に長く、なぜ今さら診断士の資格が必要なのか不思議だった。話を聞いてみると、定年退職後は中小企業のお役に立ちたいという、非常に高邁な志をお持ちの方であった。実務補習を終えて診断士になった後、しばらくは国内の中小企業の支援をしていたが、日銀出身というキャリアもあってか、ミャンマーからお声がかかり、現在はミャンマーで金融システム構築の支援をされているという。つくづく凄い方である。

 ⑨インド
 「人口・生産年齢人口共に多く、かつ増加しているが、教育水準の高い層は一部に限られ、国全体の識字率は7割を下回る。この為、一定の教育水準を持った労働力を確保するのは容易ではない」。インド人は英語ができてITに強く、優秀な人材が多いというイメージがあるが、人口の約7割は未だに農村部に住んでいる。また、英語ができるのは、人口の1~3割程度にすぎないと言われている。

 ⑩フィリピン
 「小切手決済が主流で、不渡りへの罰則規定がなく、先日付小切手の取扱いに注意が必要である。代金回収方法の1つとしてコレクションエージェントと呼ばれる代金回収業者があり、利用頻度が高い。不渡りになった場合の対応として、法人の場合は訴訟に持ち込むケースが多い」。

 ⑪マレーシア
 「マレーシアには支払手形が無く、銀行取引停止のシステムも無い。このため、期日内に支払う習慣が浸透しておらず、支払いにルーズな会社が多い」。タイ、フィリピン、マレーシアは支払手形や小切手が不渡りになった場合の債権回収リスクが高そうである(ちなみに、手形と小切手の違いについては「手形と小切手の違いを正しく理解していますか?手形と小切手の特徴を解説」を参照)。

 ⑫シンガポール
 「税率が低いため、日本のタックスヘイブン対策税制(現地法人の所得を日本親会社の所得に合算して課税する制度)の適用を受ける可能性がある。低課税を期待して進出したにもかかわらず、同税制の適用除外基準の判断誤りなどにより、後々高額な税負担となるケースがある」。タックスヘイブン対策税制については、JETRO「タックスヘイブン対策税制:日本」を参照。

嵯峨生馬『プロボノ―新しい社会貢献新しい働き方』


プロボノ―新しい社会貢献新しい働き方プロボノ―新しい社会貢献新しい働き方
嵯峨 生馬

勁草書房 2011-04-20

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 アメリカにはTaproot という組織があり、プロボノと非営利法人とのマッチングを行っている。2001年設立されたTaprootは、過去13年の間に、1,900以上の非営利法人に対して、7,500人以上のプロボノを派遣し、140万時間を費やして、戦略、マーケティング、人事、ITなどの分野で2,500以上のプロジェクトを遂行した。プロジェクトの価値を金額換算すると、1億4,000万ドル以上になるという("REVIEW OUR 2015-2017 STRATEGIC PLAN EXECUTIVE SUMMARY"より)。
 帰国後、(Taprootの)アーロンにお礼のメールを出すと、すぐさま彼から「ブループリント」という資料が届いた。そこには、筆者の想定をはるかに上回る緻密さと正確さで、プロボノのプロジェクトの進め方が記述されていた。(中略)プロジェクトをフェーズ(期間)ごとに区切り、それぞれのフェーズの中でもさらに細かくステップが分かれ、それぞれのステップの中で開かれるミーティングについては出席者とその役割、進行の順序、決定すべき事項などが書き込まれている。全部で80ページ以上にわたる資料には、プロジェクトを立ち上げてから最終的に完了させるまでの文字通りすべての出来事が網羅されていた。
 いかにもアメリカらしいやり方だと感じた。Taprootには、日頃は様々な企業や組織で働く人々が集まる。バックグラウンドや価値観、参加の動機が異なる彼らを短期間のうちにチームとしてまとめ上げて、高い成果を出すためには、どうしても標準化された手法が必要である。そして、この標準的なパッケージは、Taprootがアメリカ以外の国に進出する際にも強力な武器となる。

 もう1つ、アメリカらしいと感じたのが次の箇所である。
 米国のタップルートでは、ウェブサイトは5万ドル、経営戦略の策定は7万ドルなど、それぞれのプロボノのサービスの価値をドル換算して公開している。NPOに対しても、その数字を伝え、プロボノによる支援が、仮に有償でそのサービスを受けたとしたらきわめて高価なものになりうることを伝えているのだ。
 何でも金額換算しなければ気が済まないのは、アメリカ人の性なのだろう。ただ、Webサイト構築が5万ドルもするのは高すぎる気がする。日本の場合、顧客管理機能やEC機能などがない簡単なWebサイトであれば、50万円も出せば作れる。逆に、戦略立案が7万ドルというのはちょっと安いように感じる。コンサルティングファームが戦略立案プロジェクトを手掛ける場合、クライアント企業の規模にもよるが、フィーは1,000万円単位になることが多い。

 冒頭で、Taprootはこれまでに140万時間以上を費やして1億4,000万ドル以上の価値を生み出したと書いた。単純に計算すると、Taprootはプロボノ1時間あたり100ドルの価値があると考えているようだ。

 近年、マイケル・ポーターがCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)をCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)へと発展させている。CSVでは、経済的価値と社会的価値の融合が目標である。ただ、アメリカは伝統的に、経済的価値と社会的価値を対立項としてとらえており、現在もその流れはあまり変わっていないと思う。企業は経済的価値を極限まで追求する。そして、築き上げた巨万の富の一部を社会セクターに回し、社会的価値の実現をサポートする。だから、アメリカには30兆円を超える”寄付金市場”が存在する。

 ブログ本館の記事「齋藤純一『公共性』―二項「対立」のアメリカ、二項「混合」の日本」の言葉を借りれば、共約可能なニーズを扱うのが企業であり、共約不可能なニーズを扱うのが社会セクターの役割である。別の言い方をすると、私的領域を扱うのが企業であり、公的領域を扱うのが社会セクターであるとも言える。いずれにしても、両者の役割ははっきり分かれている。

 一方、日本の場合は、共約可能なニーズと共約不能なニーズ、私的領域と公的領域をあまり区別しないのが特徴である。すなわち、いい意味で公私混同が起きている。企業の戦略は、単に顧客のニーズを満たすだけでなく、地域社会の様々な利害関係者に配慮することが求められる。また、一昔前の企業は、社員に手厚い福利厚生を提供していた。社員旅行はおろか、社員の家族も参加可能な社内運動会までやっている企業があった。つまり、企業が家族の面倒をある程度見ていたのである(もちろん、社員に長時間残業をさせて家族の領域を侵食していたという負の側面も見過ごせないのだが)。

 先ほど紹介したブログ本館の記事でも書いたように、日本人は相反する2つの項を明確に分けて対立構造に置くよりも、何となくその二項が混合している状態を心地よいと感じる。近年、企業はコストカットの一環として福利厚生をどんどん減らしているが、これは企業が共約可能なニーズ、私的領域に特化することを意味しており、あまり望ましい傾向ではないと考える。

 現在、中高年社員の増加に伴って、ガンで離職する社員、親の介護のために離職する社員が増えている。つまり、新しいタイプの共約不能なニーズ、公的領域の問題が生じている。日本企業はこうした問題を社会セクターに任せ切りにせず、自らの問題として取り組む必要があるだろう(この点については、以前の記事「北見昌朗『小さな会社が中途採用を行なう前に読む本』」でも少し触れた)。
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プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、1,000字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
所属組織など
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(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長、および国際部員を務めています)

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(監事を務めています)

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(一緒にお仕事をさせていただいている「コンサルビューション株式会社」は、世界最大の信用調査会社Experianの正規代理店です)

【中小企業診断士は独学で取れる】中小企業診断士に独学で合格するなら「資格スクエア」中小企業診断士の安い通信講座なら「資格スクエア」
(以下の資格の講師をしています。
 ―ITパスポート
 ―情報セキュリティマネジメント
 ―経営学検定(初級・中級)
 ―中小企業診断士(企業経営理論、経営情報システム、中小企業経営・中小企業政策)
 谷藤友彦と株式会社サイトビジット代表取締役・鬼頭政人氏の対談動画(1)(2)(3)
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