こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント・トレーナー)のブログ別館。2,000字程度の読書記録の集まり。

2016年04月

財団法人海外職業訓練協会『インドの日系企業が直面した問題と対処事例』


インドの日系企業が直面した問題と対処事例インドの日系企業が直面した問題と対処事例

財団法人海外職業訓練協会 2008-03


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 少し古い書籍だが、インドに進出した日本企業が実際に直面した経営上の問題とその解決策(解決できなかった場合は教訓)が具体的に書かれている。インドはイギリスの植民地だったこともあり、資本主義と民主主義が根づいているとてっきり思い込んでいたのだが、実際にはちょっと違うようだ。インド独立の父マハトマ・ガンディーは、原初的な共産社会を目指していた。1947年にインドが独立した際には、社会主義と資本主義を組み合わせた混合経済体制で出発した。

 そのためか、インドの労働法には労働者を手厚く保護する規定がある一方で、使用者に非常に有利な規定もある。ちなみに、インドの労働関連法規は中央レベルだけで50以上に上り、州レベルのものも合わせると150を超えるという。

 <労働者にとって有利なこと>
 ・ディワリ(ヒンドゥ教で最も大きな祭り。10月または11月のどちらかに、2日間に渡り開催される)の際には、社員にボーナスを支給するのが慣例である。
 ・インドで最も過激な労働組合はCITU(Centre of Indian Trade Unions)である。
 ・大規模な企業の労働組合は上部政治団体と密接に結びついていることが多い。労働争議を政治の道具として利用されることがある。
 ・労働争議に共産党が介入し、事態の収拾がより困難になることがある。
 ・インドには労働争議のプロがおり、彼らが介入すると企業側の努力のみで解決することが非常に困難になる。
 ・従業員の解雇、レイオフ、事業所の閉鎖の際、50人以上を雇用する事業所は所管政府への届出が、100人以上を雇用する事業所は所管政府からの許可の取得が義務である。しかし、実際には政府からの許可はほとんど下りない。
 ・インド憲法は、労働者による経営参加の促進を定めており、これまでに経営参加の制度化が何度か試みられている(ただし、法制化には至っていない)。
 ・前述のように、インドの労働関連法規は非常に多く、日本では労使間の協議で決定するような事項も法律で細かく定められている。

 <使用者(経営者)にとって有利なこと>
 ・労働組合を設立する場合には、登録する労働者7名以上で、かつ当該組織・産業に従事する労働者の10%または100人以上のいずれか少ない人数の組織化が必要である。これにより、小規模の組織は労働組合が登録できなくなった(単純に考えれば、70人以上の組織でないと労働組合が作れない)。
 ・インドでは使用者の先制的なロックアウト(労働争議が発生した際に、使用者側が事務所、工場、店舗などの作業所を一時的に閉鎖(封鎖)して労働者の就業を拒み、賃金を支払わないことで、争議行為に対抗すること)が一定条件の下に認められている。
 ・インドでは、「承認組合」との誠実な団体交渉の拒否が不当労働行為とされている。しかし、インドでは少なくとも中央レベルにおいては組合承認に関する規定がない。このため、使用者は団体交渉の相手を恣意的に選ぶことができる。
 ・実は、労働法制が定める労働者保護の恩恵を受けるのは、就業人口の1割に上るかどうかという、インドのごく一部の労働者にすぎない。相対的に労働条件が劣っている小規模組織や未組織部門には適用されない労働法が多い。

久保田政純『設備投資計画の立て方』


設備投資計画の立て方 (日経文庫)設備投資計画の立て方 (日経文庫)
久保田 政純

日本経済新聞社 1999-03

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 ブログ本館の記事「中小企業診断士の試験&実務補習とコンサルティング現場の5つの違い(1)(2)」で、中小企業診断士は財務を苦手にしてはいけないと書いたが、かく言う私も決して財務が得意なわけではない(苦笑)。改めて設備投資における投資回収の計算について勉強したいと思い、本書を読んだ。

 本書では、設備投資が回収できるかどうかを判断する方法として、主に回収期間法、DCF法、ROIを用いる方法、ROAを用いる方法という4つの方法が解説されている。回収期間法とDCF法では、キャッシュフローを投資金額で割る。回収期間法の場合は年間キャッシュフローを、DCF法の場合は将来的に発生が見込まれる累積キャッシュ・フローを現在価値に割り戻した額を割る。

 両者のキャッシュ・フローにの考え方には、以下の通り微妙な違いがある。
 年間キャッシュ・フロー
 =税引後利益+減価償却費-社外分配金(配当+役員賞与)・・・①
 キャッシュ・フロー=営業利益+減価償却費-法人税等・・・②
 式だけを見ても覚えにくいので、このように考えてはどうだろうか?企業は設備投資の際に外部から資金を調達するが、資金調達にはコストがかかる。金融機関からの借入金に対しては支払利息が発生するし、株主には配当を還元しなければならない。これらを合わせて資本コストと呼ぶ。

 また、企業は社会に存在するだけで、社会的なコストを発生させる。具体的には、企業の経済活動を支える物理的・制度的インフラの整備、競争ルールの徹底、紛争の解決処理、不当に競争が歪められた場合の是正措置などに要する行政コストである。これらのコストが法人税として徴収される。

 資本コストや法人税は、企業がいくら利益を出そうと必ず負担しなければならない。よって、投資額の返済原資となるのは、営業利益から資本コストと法人税を除いた金額となる。ただし、営業利益を計算するにあたってコストとして扱った減価償却費に限っては、実際には社外に流出したお金ではないため、営業利益に上乗せして返済の原資に充てることができる。①の式は、次のように言い換えるとよい(役員賞与の扱いだけはよく解りませんでした・・・)。
 年間キャッシュ・フロー
 =営業利益+減価償却費-(支払利息+配当+法人税等)・・・①’
 ①(①’)と②の違いは、キャッシュ・フローを計算するにあたって、支払利息と配当を引くか引かないかという点である。DCF法の場合、将来のキャッシュ・フローを一定の利率で割り引いて現在価値に換算する。その一定の利率として、資本コスト(WACC:加重平均資本コスト)が用いられるのが一般的である。キャッシュ・フローは資本コストによって割り引かれるのだから、割り引かれる前のキャッシュ・フローから支払利息と配当金を除いてしまっては都合が悪い。したがって、②は①と異なり支払利息と配当を控除せず、上記のような式となる。

 ROIとROAは次のように計算される。
 投下資本利益率(ROI)
 =予想収益(年平均)÷投下資本
 =予想償却後利益(年平均)÷(設備資金+増加運転資本)
 総資産収益率(ROA)
 =利益÷(投資前の使用総資産+設備投資額+増加運転資本)
 増加運転資本とは、月商増加額×(売上債権回転期間+棚卸資産回転期間)によって求められる。ROIとROAに関してよく解らなかったのは次の2点である。1点目は、分母に増加運転資本を加えなければならない理由である。営業利益をベースに返済すべき設備投資額に対して、運転資本は日々の業務の中で返済すべき性質のものである。本書の著者は、それでも増加運転資本を分母に入れるべきだと主張していたが、十分に理解できなかった(汗)。

 2つ目は、ROIとROAをそれぞれ求めることの意味である。投資が回収できるかどうかを判断するためであれば、ROIを計算すれば足りるはずだ。それに加えてROAも計算しなければならないのはなぜだろうか?本書にはこの点があまり説明されていないと感じたが、私なりに考えた結果、次のような結論に至った。すなわち、ROIが設備投資前のROAを上回れば、その設備投資を実行する(設備投資後のROAは改善される)。逆に、下回る場合は投資しない(仮に投資すると、ROAが悪化する)。この判断をするために用いるのではないだろうか?

 ところで、やや話は逸れるが、「平成27年度補正ものづくり・商業・サービス新展開補助金」では、5か年の事業計画の「根拠」を明示するようにと、公募要領の中で明確に指示された。逆に言うと、平成24年度補正予算から始まったものづくり補助金は、平成26年度補正予算までの3年間、事業計画の数字の根拠を要求していなかった。これは何とも恐ろしい話である。投資回収の見込みがあるかどうか十分に確認せずに、1社あたり最高で1,000万円という補助金を支払っていたわけだ。これでは世間からバラマキと批判されても仕方がない。

清好延『インド人とのつきあい方―インドの常識とビジネスの奥義』


インド人とのつきあい方―インドの常識とビジネスの奥義インド人とのつきあい方―インドの常識とビジネスの奥義
清好 延

ダイヤモンド社 2009-07-17

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 著者はインド滞在が22年にも及ぶとあって、さすがに濃密な内容であった。インドの食事に関して言うと、ヒンドゥー教が牛を神聖な動物としており、イスラームが豚を不浄の動物としていることから、インド人と食事をする際には野菜中心の食事にするべきだと多くの本には書かれている。しかし、本書には、牛や豚については例外もあることが書かれている。

 また、野菜なら安全と考えるのも問題だという。空衣派のジャイナ教は最も厳しいベジタリアンであり、根菜を食べない。根菜を収穫する際に、地中の虫や細菌を傷つけるからというのがその理由である。野菜と鶏の無精卵は食べるが、有精卵は食べないというグループもあるし、卵までならOKというグループもある。

 魚に関しては、淡水魚は食べるが海の魚は食べないという人たちがいる。インド人は海、特に南西の海を悪魔の世界と考えているためである(よって、インドの南東にあるスリランカ(セイロン島)は、古来から悪魔が住む島とされてきた。このエピソードが日本に伝わって、桃太郎の鬼ヶ島の話ができたと言われる)。

 ヒンドゥー教では牛が神聖な動物と位置づけられるが、牛乳や乳製品は全てのインド人にとってOKであるらしい。牛乳の他に、バター、ヨーグルト、チーズなどは日常的に使われる。生きている牛から収穫できる牛乳を原料としているから問題ないというのがその理由である。逆に言えば、牛を殺した後に作られるヘッド(油)はNGである(同じ理由で、豚肉から作られるラードも使用不可である)。

 本書をざっと読むと、インド人はアメリカ人とよく似ていると感じる。自己責任で行動しなければならない、自己主張が強い、議論を好む、タフな交渉を仕掛けてくる、訴訟大国である、などである。インドもアメリカと同様に多様性に富んだ国である。別の本を読んでいたら、インドは1つの国というよりも、国際連合やEUのような集合体であると表現されていた。多様性に富んだ社会では、自分が何者であるかをはっきりと主張しなければならない。また、誰がいつ何時攻撃をしてくるかわからないから、自分の身は自分で守る必要がある。

 ただ、本書をよく読むと、インドとアメリカの間には1つ決定的な違いがあるのではないかとの考えに至った。アメリカの場合は、他者の存在を強く意識しており、他者に対する恐れ(fear)が根底にある。これは、アングロサクソン系の民族によく見られる傾向である(ブログ本館の記事「「日本と欧米の経営、ガバナンス、リスクマネジメントの違い」について教えてもらったこと」を参照)。

 一方、インド人の場合は、他者に対する恐れというものがない。逆に、他者に限りなく接近していく。いや、他者という存在そのものをあまり意識しておらず、自分のペースで延々と物事を進めているのかもしれない。象徴的な例を本書から取り上げると、インド人同士の対人距離感は約50cmと非常に近い(日本人の場合は約1.5mである)。インドでは、男性同士が手をつないで歩くことも普通らしい。

 インド人は多弁である。インド人に道を聞くと、こちらが望んでいないことまであれこれと教えてくれる。インド人はインド人なりに、一生懸命こちらを喜ばせようとしている。だが、こちらのニーズをくみ取って、必要な情報を端的に伝えるという意識がやや乏しいのかもしれない。インド人との議論や交渉は長時間に及ぶ。しかも、言っていることが途中でコロコロ変わる。この辺りが、アメリカ人の交渉との違いである。インド人は、相手の主張との間で妥結点を探るというよりも、とにかくその時に言いたいと思ったことを口にしているとも考えられる。

 インド人は話も長ければ文章も長いようだ。インド人の部下にパワーポイントで資料を作らせると、小さい文字の英語でびっしりと文章を書いたものを持ってくる。これも、自分が書きたいことを何でもいいから全部詰め込めばいいという発想の表れなのだろう。そこで、日本人が箇条書きでポイントを絞って書き直すと、「そんなまとめ方があったのか」と非常に喜ばれるという。

 インドの企業には、日本のように「お客様は神様」という考え方はない。だから、インド人の店員は、日本人から見るとぶっきらぼうな対応をする。インド人は、自分が商品を売りたいから店を開いていると考える。だから、顧客が商品を買ってくれても「ありがとう」とは思わない。むしろ、お礼を言うのは顧客側である。

 インドでは慈悲が盛んに行われる。慈悲の恩恵にあずかる人は、慈悲を施してくれた人に対して「ありがとう」とは思わない。慈悲を施すのは、その人が慈悲を施したいと考えているからだというわけである。だから、慈悲を受ける人は、慈悲を施す人に媚びることがない。このように、インド社会というのは、万事において他者の存在が影を潜め、自己を中心として回っているようなのである。

 13億人が自分軸を中心に回っている世界で立ち回るにはどうすればよいか?著者は、日本人も「自分の判断の基準軸」を持つことが大切だという。そうすれば、インド人と対等につき合うことができ、インドが好きになる。逆に、自分軸がない日本人がインドに行くと、周りにぶんぶん振り回されて嫌気が差す。私が色々な人から聞いた話では、インドの駐在経験がある日本人は、インドが大好きになるか、大嫌いになるか、どちらかにはっきり分かれるという。その差は、その人に自分軸があるかないかに起因するのではないかと考えられる。


 《2016年4月28日追記》
 八代京子他『異文化トレーニング』(三修社、2009年)に、インド人を題材としたケーススタディが載っていた。日本人高校生のAさんは、近所に引っ越してきたインド人と知り合いになった。インド人はAさんに、是非日本語を教えてほしいとお願いしてきた。Aさんも外国人の友人ができることは嬉しいことだし、Aさんもインド人から英語を教えてもらいたいと思ったので、快く快諾した。

 次の日以降、そのインド人はAさんの自宅によく遊びに来た。ここまでは想定の範囲内だったのだが、そのインド人はやがて、自分の友人である別のインド人を次々と連れて来るようになった。Aさんは大勢のインド人が頻繁に訪れることに困惑た。自分が思ったほど英語の勉強ができないどころか、英語以外の科目の勉強にも支障をきたすようになった。期末試験の成績が悪かったAさんはとうとう、そのインド人に対して、もうこれ以上家に来ないでほしいと言ってしまった。

 このインド人は、「自分が仲良くなった人が自分とだけ仲良くするのはもったいない。だから、他のインド人も紹介してあげよう」と思ったのだろう。しかし、そこにはAさんの視点が抜けている。これも、どちらかと言うと他者の存在が一歩後退し、自分軸で動くインド人の行動特性が表れている事例なのかもしれない。


異文化トレーニング異文化トレーニング
八代 京子 町恵理子 小池浩子 吉田友子

三修社 2009-10-21

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プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。これまでの主な実績はこちらを参照。

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、2,000字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
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