こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント・トレーナー)のブログ別館。2,000字程度の読書記録の集まり。

2016年10月


『コンビニを科学する/豊洲の深層 都政の闇 東京コンフィデンシャル(『週刊ダイヤモンド』2016年10月29日号)』


週刊ダイヤモンド 2016年 10/29 号 [雑誌] (コンビニを科学する)週刊ダイヤモンド 2016年 10/29 号 [雑誌] (コンビニを科学する)

ダイヤモンド社 2016-10-24

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 あらゆる業態の”便利”を吸い込み、自らの商品とする貪欲さこそが、コンビニが成長を続けてきた原動力。
 この言葉にコンビニの強さが凝縮されていると思う。コンビニ業界の関係者はどう思っているのか解らないが、一消費者として見ると、コンビニは何一つ新しいことをしていない。スーパーが閉まっている時間にちょこっと買いをするための商品を揃え、近隣で働く人たちの昼食ニーズに応えるためにおにぎり・サンドイッチ・弁当を充実させ、平日に役所や金融機関に行けない人のために公共料金や税金の支払いができるようにした。そして最近では、カウンターコーヒーを取り入れ、レジ横にドーナツを並べている。

 コンビニはいつでもその分野の”後発”であった。しかし、コンビニ流にパッケージデザインを工夫したり、物流を最適化したり、店舗内の動線や陳列を科学的に設計したりするなど、たゆまぬ改善によって後発のハンディキャップを乗り越え、便利さを実現してきたのである。これは競合他社(特に大企業)の攻勢によって劣勢に立たされている中小企業にとって示唆的である。業績不振の企業はすぐに何か画期的なことをしたがる。その方が、仕事をした気分になるからだ。ところが、そんなリスクを冒さなくても、既存の製品・サービスを極限まで磨き上げれば、再びライバルと伍する、あるいはライバルを凌駕できる可能性がある。

 ただし、コンビニを含む大企業は、組織のリソースを大量に注入して継続的な改善を行っている。中小企業がそれに負けない改善をするには、ちょっとやそっとの努力では全く足りない。大企業と努力の量で正面衝突しては勝ち目がない。よって、「この分野だけは絶対に大企業に負けない」という分野を絞り込んで、全身全霊をそこに傾ける覚悟が必要である。

 本号によると、現在のコンビニは惣菜に注力しているという。調理パンや調理麺の市場では、コンビニのシェアは6割を超えている。ところが、市場規模が3兆円ある惣菜については、コンビニのシェアはまだ15%しかない。惣菜に強いのはスーパーである。ここでもまたコンビニは、「極限の改善を通じて便利さを実現する」という自らの強みを活かして、スーパーの牙城を切り崩そうとしている。

 ここからは私の妄想。コンビニが惣菜市場に切り込んだ後、次に狙うのは市場規模が25兆円ある外食ではないかと考える。都心のようにビルの1Fに入っているコンビニでは難しいが、地方の郊外にある1階建てのコンビニは建て増しをして、2階を飲食店にすることも考えられる(私は建築の素人なので、ひとまず建築の可能性については無視したまま話を進める)。コンビニの平均店舗面積は30坪であり、だいたい30席ぐらいの飲食店を作ることができる。

 飲食店のコンセプトについては色々と選択肢があるだろう。現在のコンビニでは扱っていないファストフードに特化する、コンビニの食事は健康に悪いという評判を覆すために、健康に配慮した飲食店にする、地方であれば高齢者が多いであろうから、地域コミュニティの役割を果たすようなお店にする、などである。既存のコンビニ弁当の単価が500円前後であるから、カニバリゼーション(共食い)を避けるために、顧客単価は700~800円前後とやや割高に設定する(ただし、既存の飲食店と十分に勝負できる価格帯にする)。そう遠くない将来、コンビニ各社は飲食チェーン店と業務・資本提携をするのではないかと予測する。

佐藤優『国家と神とマルクス―「自由主義的保守主義者」かく語りき』


国家と神とマルクス  「自由主義的保守主義者」かく語りき (角川文庫)国家と神とマルクス 「自由主義的保守主義者」かく語りき (角川文庫)
佐藤 優

角川グループパブリッシング 2008-11-22

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 それで、情熱の特殊的な関心と普遍的なものの実現とは不可分のものである。というのは、普遍的なものは特殊的な、特定の関心とそれの否定との結果として生ずるものだからである。特殊的なものは、互に闘争して、一方が没落して行くものにほかならない。対立と闘争に巻き込まれ、危険にさらされるのは普遍的理念ではない。普遍的理念は侵されることなく、害われることなく、闘争の背後にちゃんと控えている。そしてこの理性が情熱を勝手に働かせながら、その際に損害を蒙り、痛手を受けるのは〔理性ではなくて〕この情熱によって作り出されるそのものだということを、われわれは理性の狡知(List der Vernunft)と呼ぶ。というのは、それは一面では空しいもの〔否定的〕でありながら、他面では〔それがそのまま〕肯定的であるという現象にほかならないからである。特殊的なものは大抵の場合、普遍に比べると極めて価値の低いものである。だから、個人は犠牲に供され、捨て去られる。つまり、理念はこの生存と無常との貢物を自分で納めることをしないで、個人の情熱に納めさせるのである。
(ヘーゲル『歴史哲学』上巻、『ヘーゲル全集』第10巻a〔岩波書店、1954年〕より)
ヘーゲル全集 (10-〔上巻〕)ヘーゲル全集 (10-〔上巻〕)
ヘーゲル

岩波書店 1954-06

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 孫引きをご容赦いただきたい。ヘーゲルのこの文章を読んで、私は下図のことを思い浮かべていた(図の説明については、ブログ本館の記事「飯田隆『クリプキ―ことばは意味をもてるか』―「まずは神と人間の完全性を想定し、そこから徐々に離れる」という思考法(1)(2)」を参照)。

神・人間の完全性・不完全性

 詳細は上記の記事に譲るが、右上の象限、つまり神も人間も絶対であり完全であるとする象限からは、全体主義や社会主義が導かれる(これらは無神論が基本であるが、ブログ本館の記事「『「坂の上の雲」ふたたび~日露戦争に勝利した魂を継ぐ(『正論』2016年2月号)』―自衛権を認める限り軍拡は止められないというパラドクス、他」で書いたように、「あちら側のメシアニズム」が「こちら側のメシアニズム」に手繰り寄せられると、神が介在する余地が生じると考える)。

 フランス革命を手本にしたアメリカは、右上の象限を採用する可能性があった。ところが、実際には右下の象限に移行し、人間の不完全性を認めた。その際に導入したのが「二項対立」の考え方である。二項対立である限り、人間は絶対的な解に到達することがない。ここに、人間の不完全性があると考えるわけである。二項対立の双方の項は、ヘーゲルが言うところの「特殊的なもの」である。だから、「互に闘争して、一方が没落して行くもの」であり、「対立と闘争に巻き込まれ、危険にさらされる」。アメリカはこれでよしとしている。

 ところが、ヘーゲルの言説を見ると、「特殊的なもの」は「普遍的なもの」に劣ると書いてある。「普遍的なもの」は「特殊的なもの」に「侵されることなく、害われることなく、闘争の背後にちゃんと控えて」おり、「特定の関心とそれの否定との結果として生ずる」。つまり、「一面では空しいもの〔否定的〕でありながら、他面では〔それがそのまま〕肯定的であるという現象」のことである。これは完全なる絶対性であり、上図の右上の象限に該当するものであり、全体主義の根源である。

 ここで私は、ドラッカーの次の言葉を思い出さずにはいられない。
 基本的に、理性主義のリベラルこそ、全体主義者である。過去200年の西洋の歴史において、あらゆる全体主義が、それぞれの時代のリベラリズムから発している。ジャン・ジャック・ルソーからヒトラーまでは、真っ直ぐに系譜を追うことができる。その線上には、ロベスピエール、マルクス、スターリンがいる。
ドラッカー名著集10 産業人の未来 (ドラッカー名著集―ドラッカー・エターナル・コレクション)ドラッカー名著集10 産業人の未来 (ドラッカー名著集―ドラッカー・エターナル・コレクション)
P・F・ドラッカー 上田 惇生

ダイヤモンド社 2008-01-19

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大庭三枝編『東アジアのかたち―秩序形成と統合をめぐる日米中ASEANの交差』


東アジアのかたち―秩序形成と統合をめぐる日米中ASEANの交差東アジアのかたち―秩序形成と統合をめぐる日米中ASEANの交差
大庭 三枝

千倉書房 2016-08-25

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 中小国の集合であるメコン諸国にとって、最も望ましくないシナリオとは、日本や中国、アメリカから二者択一でパートナーシップを迫られることである。こうした事態を避けるべく、メコン諸国は複数の大国とそれぞれ別の関係を結んだり、大国を含まない制度を構築したりすることで、大国の影響を制御している。
 ブログ本館の記事で何度も書いたが、大国は二項対立によってがっぷり四つに組んでいる。対立する大国に挟まれた小国には、一方の大国に味方するという選択肢がある。一見すると、大国の庇護を受けられるというメリットがあるように見える。ところが、この立ち居地は極めて危険である。というのも、大国同士は自らが直接衝突すると甚大な被害が出るため、自国に味方する小国を使って代理戦争をさせるからだ。中東や朝鮮半島で起きているのがまさにこれである。

 それを避けるためには、大国双方のいいところ取りをして「ちゃんぽん状態」にし、どちらの大国からも攻撃されにくい状態を作ることが有効ではないかと考えている。以前の記事「森田安一『物語 スイスの歴史―知恵ある孤高の小国』」では、小国の「ちゃんぽん戦略」の輪郭を整理してみた。政治面と経済面のIN戦略、OUT戦略は何となく明らかになったが、軍事面のIN戦略、OUT戦略はペンディングのままであった。だが、本書を読んで、軍事面のIN戦略とは、対立する双方の大国から武器を輸入すること、OUT戦略とは、対立する双方の大国と軍事交流や合同軍事演習などを行うこと、と整理できるような気がした。

 日米同盟を結んでいる日本から見ると、対立する双方の大国と合同軍事演習を行うことなど考えられないが(例えば、日本が現時点で中国やロシアと合同軍事演習することは考えられない)、ASEAN諸国の中には、アメリカ・中国の双方と合同軍事演習を行っている国がある。
 マレーシアは、前述の「CARAT」「SEACAT」「バリカタン」「RIMPAC」といった合同軍事演習を通じての(※アメリカとの)軍事協力を進めてきた。(中略)他方中国とは2005年9月に「防衛協力に関する覚書」を採択して以来、安全保障分野における協力や交流が行われてきた。2013年10月、習主席がマレーシアを訪問した際、習主席とナジブ首相は軍事も含めた関係強化で合意した。2014年12月にはクアラルンプールで、中国とマレーシアの初の2国間共同机上演習「平和友誼2014」が行われた。
 タイ、シンガポール、インドネシアといったその他のASEANの先発国も、アメリカと中国それぞれとの関係を強化してきた。南シナ海における中国への脅威感がこうした係争国以外のASEAN諸国にも広がる中で、例えばシンガポールが米軍の哨戒機の国内における配備を認めるといった、アメリカ傾斜への動きも見られる。しかし、これら3国とも、中国とも戦略的パートナーシップを締結済みであり、またアメリカ、中国双方と共同軍事演習や共同訓練を行ってきたことにも留意すべきである。
 例えばインドネシアがアメリカ、中国の双方と合同軍事演習を行うと、アメリカの作戦は中国に、中国の作戦はアメリカに筒抜けになる可能性がある。もちろん、軍事機密であるから簡単に漏れてしまっては双方との信頼関係に関わるのだが、「漏れる可能性がある」と心理的に思わせるだけで、アメリカも中国もインドネシアへの攻撃をためらうことになる。インドネシアの狙いはここにある。

 さて、アメリカと中国の関係だが、冷戦時代の米ソ関係とはかなり異質であるようだ。冷戦時代、米ソ間には経済的、文化的、軍事的交流がほとんどなかった。ところが、下記の引用文にあるように、現在のアメリカと中国は経済的に密接な関係にあるだけでなく、軍事面でも様々な交流を行っている。この新しい二項対立の形をいかにして描写するかが、今後の私の課題である。
 また、アメリカは南シナ海の領有権問題で中国との立場の違いを明確にしているものの、中国との決定的な対立にまでエスカレートするのを避け、中国との良好な関係の維持には注力している。また、中国も同様の立場を採っているいるように見える。様々な意見の相違を抱えながらも、米中は戦略経済対話を積み重ねている。さらに、「航行の自由作戦」敢行直後には、アメリカ海軍のイージス艦「ステザム」が中国海軍との合同訓練を目的に上海に寄港するなど、両国は南シナ海で対立しつつも軍事交流を続けている。
 興味深いのは、報告書が東南アジアを米中の力関係が競合する場とみなしつつ、防疫を共通の課題として同地域で中国を巻き込んだ協力の可能性を示唆している点であろう。中国とアメリカは2009年から国軍の保健衛生機関で交流を行っており、こうした2国間での協力を地域レベルに拡大するという構想は、アメリカが将来的な中国の包摂と協力を企図していることを示している。
プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。これまでの主な実績はこちらを参照。

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、2,000字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
シャイン経営研究所HP
シャイン経営研究所
 (私の個人事務所)

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