こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント・トレーナー)のブログ別館。2,000字程度の読書記録の集まり。

2016年10月


佐藤考一『ASEANレジーム―ASEANにおける会議外交の発展と課題』


ASEANレジーム―ASEANにおける会議外交の発展と課題ASEANレジーム―ASEANにおける会議外交の発展と課題
佐藤 考一

勁草書房 2003-03

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 ASEANは、東アジアの地域協力組織として1967年に設立された。当初はAMM(外相会議)のみだったが、1975年にAEM(経済閣僚会議)、1976年に首脳会議を設立し、域内諸国による国際会議を中心に活動した。1979年にベトナム軍がカンボジアを占拠した後はPMC(ASEAN拡大外相会議)を設立して、カンボジア紛争やインドシナ難民問題などを含め、域外諸国と本格的な対話を開始した。

 さらに冷戦末期の1988年以降は、域内ではASEANを中心にした経済協力も進めているが、域外諸国との間ではJIM(ジャカルタ非公式会議)、APEC(アジア太平洋経済協力会議)、ARF(ASEAN地域フォーラム)、ASEM(アジア欧州会合)、ASEAML+3(日中韓)の諸国際会議を設立し、経済・安全保障両面にわたる広範な地域協力を開始した。

 本書では、ASEANの会議外交の特徴を以下の5つにまとめている。

 ①会議外交の場となる国際会議に拘束が少なく、政策決定が必要な場合は全会一致制とする、緩やかな会議形態を採用している。会議外交を行う国際会議は、定期的に会合すること(多くは年次会議)以外は、制度化されていない多国間対話の場(フォーラム)である。全会一致制は、全加盟国の意向を反映し、対立を回避できる他、域内のどの国にも内政干渉を招く政策決定への拒否権を与えるものであり、ASEANの内政不干渉原則を反映している。

 ②ASEANの主催する国際会議では、会議に参加している国同士が当事者である紛争を議題とする時、直接の紛争の解決のための交渉よりも、まず紛争当事者の間の対話の維持と継続を優先させる。この方法では迅速な紛争解決はできないが、紛争当事者たちは国際会議で自国に不利な解決を強いられるのではないかという無用な警戒心を持たなくて済むので、会議に参加しやすくなる。場合によっては、過熱した紛争を時間をかけて冷却することもできる。

 ③ASEANが、主催する国際会議を、連帯と団結の強化のために利用し、それを加盟諸国政府の地域協力の促進の基礎としている。これは、ASEAN域内の国際会議では共通の長期的目標、あるいは会議の結集点(rallying point)となる議題を設定する形で行われ、域外対話諸国(多くは大国)との国際会議では集団交渉の形態をとる。域内会議では共通の長期的目標と結集点を持つことで、加盟国の閣僚たちの国際会議と域内協力への関与を強める効果がある。域外大国との会議では、個別には非力で域外諸大国の政府から相手にしてもらえないASEAN諸国政府が、集団で対処することで、大国の政府を交渉の席につかせ、さらに交渉の際の要求の声も大きくすることができる。

 ④ASEANが主催する国際会議のうち、中心的な役割を担ってきたAMMとPMCが、政治・経済両面に渡る議題を扱い、その中で必要に応じて新たな国際会議を設立し、組織の強化と新しい国際環境への適応を図っている。特に域外諸国との間の会議の設立の際には、ASEAN諸国政府は、PMCで域外対話諸国から新たな会議の設立提案が出た時、会議のテーマに応じて、その後の域内のAMMやAEM、場合によっては首脳会議で再度検討を行い、①や⑤に挙げる形態を取り入れて、自らのペースで会議を設立することに努めている。

 ⑤ASEANは域内の国際会議においては、会議の主催国・議長国を加盟諸国が担当する方式を採用しているが、④で述べた域外対話諸国との国際会議の増設に際して、この方式を全部もしくは部分的に採用させている。国際会議の主催は、ASEAN全体と主催国の知名度を上げる効果があるが、さらに議長国となれば、何よりもその裁量で議事進行をある程度までコントロールできるため、取り上げる議題のテーマや時間を制限することも技術的に可能になる。

『新しい産業革命―デジタルが破壊する経営論理(『一橋ビジネスレビュー』2016年AUT.第64巻2号)』


一橋ビジネスレビュー 2016 Autumn(64巻2号) [雑誌]一橋ビジネスレビュー 2016 Autumn(64巻2号) [雑誌]
一橋大学イノベーション研究センター

東洋経済新報社 2016-09-09

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 そのために最も大切なことは、市場を選ぶことである。(中略)小さな市場でも、確実に利益が出るところにターゲットを絞り込む必要があるのだ。(中略)もちろん、波及効果が高いに越したことはない。たとえて言えば、ボウリングのセンターピンに該当する市場をねらうようなものだ。
(井上達彦「ビジネスモデルを創造する発想法 〔第1回〕ビジネスモデルとは何か」)
 ブログ本館の記事「三枝匡『戦略プロフェッショナル―シェア逆転の企業変革ドラマ』―欧米流経営に対する3つのアンチテーゼ」でも書いたように、私は「戦略をシンプルにする」とか、「選択と集中をする」といった考え方がどうも好きになれない。戦略をシンプルにするのは、コンサルタントがクライアント企業を理解しやすくするためという、コンサルティング会社の都合が働いているような気がしてならない。また、「選択と集中」を行うのは、投資銀行が事業の売却やM&Aで儲けるためである。つまり、いずれのキーワードも企業のためではない。

 私は、特に日本企業の場合は、選択と集中とは全く反対に、事業を多角化すべきだと考えている。日本は多神教文化の国である。それぞれの人には異なる神が宿る。企業にも同じように神が宿る。ところが、欧米の唯一絶対神とは異なり、日本の神はどこか人間らしいところがあり、不完全である。その神の姿を知ろうとする時、欧米人が教会で祈りを捧げ、神と直接触れようとするのに対し、日本人の場合は、いくら自分の中にいる神と対話しても、神の全貌を明らかにすることができない。なぜならば、その神はどこまでも不完全でおぼろげだからだ。

 その場合、学習の手がかりとなるのが、他者の存在である。他者は自分とは違う神を宿している。自分と他者の違いに気づくと、自分が何者であるかが解ることがある。それはちょうど、日本国内にいるだけでは日本文化を知ることができないが、海外に旅行して外国の文化に触れると、日本文化が何となく認識できるようになるのと同じである。ただし、他者の神も所詮は不完全でおぼろげであるから、自分に宿る神を完全に知ることはできない。それでも日本人は、学習を進めるために様々な他者と交流・対話を行う。これを一生続けることが「道」である。

 企業戦略を策定する場合には、自社の強みを活かすことが重要である。その強みを知るためには、社内にこもって一生懸命内部環境分析をしても全く足りない。むしろ社外に積極的に飛び出し、自社とは異なる神を宿しているであろう多様な顧客と交わる必要がある。必然的に、事業は多角化される。多角化によって、日本企業は自社の強みをおぼろげながら自覚できるようになる。

 とはいえ、最初から何でもかんでも手を出せばよいというわけではない。ブログ本館の記事「「起業セミナー」に参加された方にアドバイスした3つのこと」でも書いたが、最初に対外的にアピールする自社の事業や強みは、絞り込まれていた方がよい。逆説的だが、最初の焦点が絞り込まれているほど、それとは別の仕事が舞い込んでくる。私の知り合いの診断士は、「飲食店に強い」ことを売りにしている。だが、実際には飲食店関連の仕事は一部であり、飲食店以外の顧客の方が多い。さらに最近は、自らおもちゃの企画開発まで行っているという。

 引用文にある「ボウリングのセンターピンを狙う」という表現は、看板に掲げる製品・サービスや自社の強みは絞り込まれているものの、実際には多様な仕事を行うことで自社の組織能力を深化させることを的確に表現していると思う。

『凄いネスレ 世界を牛耳る食の帝国/【2017年新卒就職戦線総括】今年も「超売り手市場」が継続 選考解禁前倒しも競争は激化(『週刊ダイヤモンド』2016年10月1日号)』


週刊ダイヤモンド 2016年 10/1 号 [雑誌] (凄いネスレ)週刊ダイヤモンド 2016年 10/1 号 [雑誌] (凄いネスレ)

ダイヤモンド社 2016-09-26

Amazonで詳しく見る by G-Tools

製品・サービスの4分類(修正)

製品・サービスの4分類(修正)

 またしてもこの図を使わせていただく。上図の説明については以前の記事「『プラットフォームの覇者は誰か(DHBR2016年10月号)』」を参照。

製品・サービスの4分類(具体的な企業)

 本号に2015年の時価総額ランキングが掲載されていたので、トップ20の企業をマトリクス図に当てはめてみた。異論はあるだろうが、私の考えを以下に示す。

 【象限③】アップル、グーグル、フェイスブック、テンセント(中国でSNSやインスタントメッセンジャーなどを提供する企業)のサービスは、別に使わなくても生活できる。マイクロソフトのWindowsは我々にとっては必需品であるが、パソコンの普及率は世界全体で見ると5割に達していない。アマゾンは書籍の小売から出発したが、書籍は必需品ではない。バークシャー・ハサウェイやJPモルガン・チェースは投資で利益を上げており、人々に必需品を提供しているわけではない。

 【象限②】エクソン・モービル、ロイヤル・ダッチ・シェルは、我々の身近にあるあらゆる製品の原料、そしてエネルギー源となる石油を提供しており、求められる品質レベルも高い。J&Jは医薬品や医療機器を、GEは航空機エンジンや医療機器、鉄道車両を製造しており、高い品質が要求される。AT&T、ベライゾン、チャイナモバイルは、通信というライフラインを握っている。ウェルズ・ファーゴや中国工商銀行は金融のインフラであり、停止したら経済は大パニックになる。

 【象限①】ネスレは食品という必需品を提供し、P&Gは日用品を主力とする。そして、ウォルマートはそれらの製品を販売する。しかし、食品や日用品には、自動車ほどの厳しい品質は要求されない。【象限①】の製品・サービスは各国の文化・風習の違いに影響され、かつ国内でもニーズが細分化されているため、世界的な大企業が育ちにくい。上図でも【象限①】に該当する企業が(【象限④】を除いて)最も少ないことが解る。

 【象限③】の企業は、顧客が今までほしいと思ったこともなかったイノベーティブな製品・サービスを提供する。顧客のニーズは洗練されていないから、イノベーションに対する顧客の反応は、好きか嫌いかのどちらかに分かれるのみである。イノベーターは、全世界に散らばる「好き」という層に向けて、単一の製品・サービスを一気に展開する。顧客のニーズが洗練され、細分化される前に製品・サービスを売り切り、莫大な利益を上げる。これが象限③における基本戦略である。アメリカ企業はこの戦略が得意なわけだが、「イノベーターが唯一絶対神と契約を結び、その契約を履行する」という表現で、この戦略を説明したこともあった。

 最近は、プラットフォーム企業が力をつけてきている。元々、【象限③】の製品・サービスは、顧客のニーズを先取りするものであるから、ヒットするかどうかは全く解らない。イノベーターは、次々と新しい製品・サービスを市場に投入する必要がある。すると、やがて「自分がお金を払ってでもよいから、自分のイノベーションを世界に広めたい」と考えるイノベーターが出現する。こうしたイノベーターを束ねて、世界中の顧客と引き合わせるのがプラットフォーム企業である。プラットフォーム企業は、イノベーターと顧客の双方からお金を取るという点で、古典的な卸売・小売業とは異なる。アマゾンはその走りであり、アップルやグーグルも、スマートフォンや検索サービスを超えて、プラットフォーム事業を強化している。

 【象限②】においては、必需品化した製品・サービスに対して顧客のニーズが細分化している。そこで、企業は適切なセグメンテーションを行い、それぞれのセグメントに適した製品・サービスを提供する。図には登場しなかったが、日本の自動車メーカーのほとんどはそのような戦略をとっている。

 また、【象限②】では、業界の川上から川下まで機能分化が進んでいる。最終組立メーカーは、川上から自社に至るまでの企業と協調し、プロセスを最適化して、製品・サービスを最終化しなければならない。さらに、【象限②】の企業は時に競合他社とも水平協業する。自動車メーカーはお互いにライバルであると同時に、部品を供給し合うなど、複雑なコラボレーションを行っている。顧客の多様性、垂直・水平方向の協業が【象限②】の企業の特徴である。私は、日本企業は【象限②】に強いと考えているが、これは日本の多神教文化と無縁ではないと思う。

 これに対して、【象限①】の企業は、【象限③】や【象限②】の企業とは異なり、全世界のマーケットを相手にしない。セグメンテーションを行った結果、特定のセグメントに特化して製品・サービスを提供する。本号で特集されているネスレで言うと、ネスレにとってフィリピンは第8位の市場であるが、フィリピンでは低所得者層向けの製品がほとんどである。中所得者層、高所得者層向けの製品もあるものの、力の入れようが全く違う。

 前述の通り、【象限①】の製品・サービスは各国の文化・風習の違いに影響され、かつ国内でもニーズが細分化されている。そのため、仮に低所得者層などの特定セグメントに特化したとしても、市場ニーズに合わせた多様な製品・サービスを提供しなければならない。したがって、ネスレのようなグローバル企業は、本号でも紹介されているように、経営の現地化を徹底している。ウォルマートは世界共通のウォルマート方式を貫いて大企業に成長したが、近年は進出先の市場に合わせた店舗形態を取り入れるなど、現地化を進めている。

 【象限①】の企業は、特定セグメントの顧客の消費行動を広く押さえようとする。例えば、コーヒーを販売する企業は、コーヒーと関連性のある別の製品を取り扱おうとする。ネスレもそのようにして類似・隣接カテゴリの食品をどんどん追加していった結果、全世界で約200ものブランドを持つことになった。それでも自社でできることには限界がある。自社の事業ドメインを「栄養・健康・ウェルネス」と再定義したネスレは、近年ヘルスケア関連企業との提携を進めているという。【象限②】では業界内でのコラボレーションが主であったが、【象限①】では異業種コラボレーションが成功のカギを握っている。
プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。これまでの主な実績はこちらを参照。

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、2,000字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
シャイン経営研究所HP
シャイン経営研究所
 (私の個人事務所)

人気ブログランキング
にほんブログ村 本ブログ
FC2ブログランキング
ブログ王ランキング
BlogPeople
ブログのまど
被リンク無料
  • ライブドアブログ