こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント)のブログ別館。1,500字程度の読書記録の集まり。

2017年03月

ビデオリサーチひと研究所『新シニア市場攻略のカギはモラトリアムおじさんだ!』―モラトリアムおじさんは「外発的×利他的」に動機づけられる


新シニア市場攻略のカギはモラトリアムおじさんだ! ―ビデオリサーチが提案するマーケティング新論II新シニア市場攻略のカギはモラトリアムおじさんだ! ―ビデオリサーチが提案するマーケティング新論II
株式会社ビデオリサーチひと研究所

ダイヤモンド社 2017-02-10

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 本書では、調査を基にシニアを6つのグループに分類している。その中に「セカンドライフモラトリアム」という全体の約3割を占める最大派がある。彼らは変化や刺激に親和性を持っていながら積極性に欠ける。その分、消費をはじめ様々な面でポテンシャルが高い。男性は仕事に代わるものを未だ見いだせず、模索している。女性は、育児や子どもの成長などに応じて人付き合いに幅が生まれやすいものの、男性同様、交友関係は広くない。以上のような特徴がある。

 セカンドライフモラトリアムに該当する男性(モラトリアムおじさん)の市場を攻略するためのキーワードとして、本書では以下の6つが挙げられている。

 ①再開/リベンジ
 仕事人間だったモラトリアムおじさんには、心のどこかに自分の好きなこと、やりたいことを抑制してきたやり残し感がある(若い頃は大型バイクに乗っていたが、出産やマイホーム購入を機に止めてしまうケースなど)。そこで、今までは仕事中心の生活でできなかったことを、もう一度できる機会と情報を提示する。

 ②大義名分
 モラトリアムおじさんは「動くことが求められている」、「買う必要がある」といった理由づけがあると行動しやすくなる。自分のためではなく他人のため、社会のためになる、請われたから仕方なく、どうしても断れなくて、などという言い訳があると有効である。特に、妻など身近な人から頼まれたり勧められたりすると、「しょうがないなあ」と言いながら、素直に受け入れる傾向がある。

 ③お墨つき
 モラトリアムおじさんは、世間から「いいもの」、「社会に貢献しているもの」といったお墨つきを与えられると価値を感じる。○○会社のプロジェクト、△△市における地域の貢献といった、ストーリーを説明しやすいものなら安心して参加する。

 ④達成目標
 モラトリアムおじさんは、仕事が人生の充実度を示すバロメーターだったため、リタイア後も数値などによる具体的な目標があると、それをクリアすることに新たな充実感を見出しやすい。例えば、ただ旅行に行くのではなく、事前に権威ある人から学んでから行く、といった仕掛けがあるとよい。

 ⑤無所属不安の解消
 モラトリアムおじさんにとっては、長年の会社人生の影響で、「適度な束縛」が安心感につながる。そこで、スケジュール帳が埋まる要件が生まれ、出勤先や肩書、あるいは名刺を持てる状況に収まると不安解消の効果が高い。

 ⑥新しいコミュニティ
 モラトリアムおじさんも、人とのつながりは重視している。誘ってくれる人、遊んでくれる人など、地域や趣味のつながりを作りたいが、プライドが邪魔をして踏み出せない。しかし、新たなコミュニティに参加できる仕掛けがあると動き出す。誰かがモラトリアムおじさんに参加のきっかけを与え、オーソライズしたり、リスペクトしたりしながら、時に発破をかけていくと、生き生きと活動を再開できる。

 こうして見てみると、ブログ本館の記事「『艱難汝を玉にす(『致知』2017年3月号)』―日本人を動機づけるのは実は「外発的×利他的」な動機ではないか?」で書いたように、モラトリアムおじさんを動機づけるのは「外発的×利他的」な要因ではないかという気がする。上記のうち。、②③⑥がそれに該当する。そして、前述の記事でも書いたように、日本人の大部分は「外発的×利他的」に動機づけられた後、「外発的×利己的」に動機づけられるフェーズに移行する。モラトリアムおじさんで言えば、④⑤がそれにあたる。

河瀬誠『「アジア・新興国」進出を成功させる海外戦略ワークブック』-二言目には政治的人脈を自慢する人はどうも好きになれない


「アジア・新興国」進出を成功させる 海外戦略ワークブック「アジア・新興国」進出を成功させる 海外戦略ワークブック
河瀬 誠

日本実業出版社 2014-11-07

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 彼ら(※エージェント)は日本人とはいえ、詐欺師まがいの人物も少なくない。彼らは話もうまいし、実際に政治家や著名人にも会わせてくれる。しかし、本当に実力がある人は、最初から軽々しく自分のネットワークを吹聴しないものだ。相手をどこまで信用できるかは、彼らが直接顧客にしている(という)日本企業の担当者に直接話し(※原文ママ)を聞いて確かめるべきだ。
 海外でビジネスをするには、顧客や販売チャネルとコミュニケーションを取るだけでは不十分な時がある。現地の規制をクリアしたり、現地の投資優遇策を受けたりするために、現地の政治家や行政当局ともリレーションを構築しなければならない。そういう時に重宝するのがエージェントである。だが、引用文にもあるように、エージェントの質はピンキリである。個人的には、こちらがまだ十分に話もしていない段階から、「私は○○国の△△という政治家とすぐにアポが取れる」などと自慢してくる人は好きになれないし、どうも信用できない。

 私は今年の2月末まで、ある中小企業向けの補助金事業の事務局員をやっていた。事務局には「補助金に応募するにはどうすればよいか?」といった問い合わせの電話が来るのだが、私はある中小企業の経営者と6時間半電話したという珍記録(?)を持っている。私も「申し訳ございません。この後外出の予定が入っておりまして・・・」などと言って上手いこと電話を切り上げればよかったものの、どうやらその人は以前に複数の他の事務局員にも電話をしており、その時の応対にひどく不満だったと言うから、私も無下に電話を切ることができなかった。

 その人がほとんど一方的にまくし立てていただけなので、話の内容はほとんど覚えていない。ただ、「私は○○省の△△という人を知っている」とか、「○○という政治家からも我が社の事業は評価されている」などと、やたらと政治的な人脈を自慢していたことだけは覚えている。こういう人は大抵、「私のバックには政治家や行政がついているのだから、補助金に応募した時には必ず採択せよ」と暗示している。しかし、企業にとって最も重要なのは政治家や行政ではなく、顧客である。その人からは、6時間半話しても顧客の話は一切出てこなかった。この点で、この企業は間違いなく業績が芳しくないと察しがついた。第一、経営者が日中に6時間半も電話をしていること自体が仕事のなさを表している。

 中小企業診断士で海外経験が長い人の中にも、胡散臭い人はいる。一例を挙げると、途上国を中心に、学校で使う補助教材を販売していたという人がいる。彼は初対面でいきなり、「私はこういう製品を売っていました」とその補助教材を取り出し、さらに、自分がいかに各国の政府とリレーションがあるかを示すために、政府の要人と思しき人物と一緒に写っている写真のファイルを披露してきた。私にとってこういうタイプの診断士は非常に珍しかったため、しばらくの期間彼の行動を観察していた。すると、会合や懇親会で新しい人に会うたびに、私に対してしたことと同じことを必ず繰り返していた。

 だが、彼は1つ大きな勘違いをしている。彼の事業における真の顧客は、政府ではなく学校の子どもたちである。彼は政治家との写真はたくさん持っていたが、学校でその製品がどのように使われているかという写真はなかったし、子どもたちの生の声も把握していないようだった。一体、彼の提供価値は何なのか、彼特有の能力とは何なのかと、私は疑問を抱かざるを得なかった。単に、政府関係者と顔をつなぐだけの役割だったのではないかとさえ思った。

 もちろん、政府関係者とコネクションを作る力も一種の特殊能力かもしれない。海外の政府は、名前を聞いたこともない日本企業と簡単に会ってくれるわけではない。しかし、本質的に政治家というのは、自分の権力を誇示するために、ネットワークを広く薄く作ろうとする人種である。「政治家に必要なのは、薄い友人関係を構築する力である」と述べたのはキッシンジャーだったと記憶している。また、行政の関係者は、公平性の観点から、会いに来た人に差別的な応対はできないから、よほどおかしな人ではない限り受け入れてくれるものである。

 つまり、政治家や行政とのつながりは、多少努力すれば簡単に構築できると私は思うわけだ(その多少の努力さえせず、政治家や行政と大したリレーションも持っていない私が言うのは不適切かもしれないが)。しかし、繰り返しになるが、ビジネスの本質は顧客を獲得することである。自分にとって価値がないと思えば簡単に自社を切り捨てるような顧客との間に深い関係性を構築しなければならない。顧客との人脈を自慢する人であれば、私はその人のことを信用するであろう。

石戸光『ASEANの統合と開発―インクルーシヴな東南アジアを目指して』―農業で付加価値や雇用を増やすには?


ASEANの統合と開発――インクルーシヴな東南アジアを目指してASEANの統合と開発――インクルーシヴな東南アジアを目指して
石戸 光

作品社 2017-03-23

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 「インクルーシヴな東南アジアを目指して」という副題がついているが、大半がミャンマーの農業に関する内容であった。ミャンマーでは、1988年以降の政策で、土地が政府に押収され、政府と密接な関係にある有力な個人や企業が経営する大規模農場に割り当て直された。そのため、50エーカー超の農地は全体の1%だが、全農場面積の3分の1以上を占めるといういびつな構造になっている。

 ミャンマーは近年、水産業に力を入れているという。それは、従来の稲作に比べてより多くの付加価値と雇用を生み出すと期待されているからである。農家の中には、所有する農地を養殖池に転換するところも出てきている。ただし、農家が合法的に農地を養殖池に転換するにはLaNa-39という書類を入手する必要がある。政府とのつながりが強い大規模農家がこの書類を入手するのは比較的簡単であるものの、小規模農家にとってはハードルが高い。そのため、違法な手段でこの書類を入手する小規模農家も少なくない。

 ミャンマーが水産業に注力しているのは、付加価値と雇用を増大させるためと書いたが、果たして本当にそれが可能なのか、日本のケースで試算してみた。あちこちの情報源からデータを集めており、かなりざっくりとしたシミュレーションである点はご容赦いただきたい。なお、以下では輸出の影響を無視している。
日本農業分析①
日本農業分析②
日本農業分析③
日本農業分析④

 <原材料>
 ①就業者数・・・畜産、野菜・果物、米・麦は農林水産省「2015年農林業センサス」より、水産は農林水産省「2013年漁業センサス」より取得。

 ②生産量・・・畜産は「主要畜産国の需給」より、水産は農林水産省「平成27年漁業・養殖業生産統計」より、野菜・果物は農林水産省「野菜をめぐる情勢」、「果樹をめぐる情勢」より、米・麦は農林水産省「農業生産に関する統計(2)」、帝国書院「小麦の生産〔2016年〕」より取得。

 ③1人あたり生産量・・・②÷①で計算。畜産の値が突出しているのは、畜産の生産量の中に生乳(7,334千トン)が含まれているためである。

 ④輸入量・・・畜産は「主要畜産国の需給」より、水産は水産庁「水産物の輸出入の動向」より、野菜・果物は農林水産省「野菜をめぐる情勢」、「果樹をめぐる情勢」より、米・麦はJAcom 農業協同組合新聞「再編と買収の果てに(2)」の小麦の輸入量に米のミニマムアクセス量78万トンを加算。

 ⑤全て国内で生産する場合に必要な就業者数・・・輸入の影響を無視しているため、②+④が国内の総需要である。これを、③の1人あたり生産量で割れば、国内需要を全て満たすのに必要な就業者数が求められる。

 ⑥出荷額・・・畜産、野菜・果物、米・麦は帝国書院「日本 都道府県別統計〔農業・漁業・林業〕」より、水産は農林水産量「漁業生産額」より取得。

 ⑦輸入額・・・畜産は独立行政法人農畜産業振興機構「国内統計資料」より、水産は水産庁「水産物の輸出入の動向」より、野菜・果物は独立行政法人農畜産業振興機構「最近の野菜の輸入動向について」、田中直毅『10のポイントで考える日本の成長戦略』(東洋経済新報社、2013年)より、米・麦は農林中金総合研究所「米の国際需給と日本の自給」、「小麦の国際需給と日本の自給」より取得(米・麦については、1ドル=110円で計算)。

 ⑧出荷額+輸入額・・・⑥+⑦で計算。これが国内の市場規模に該当する。

 ⑨うち、加工品用の割合・・・畜産は生で流通することはないため、100%加工に回ると想定。水産は「水産物の流通経路別仕入状況」より、野菜・果物は農林水産省「野菜の生産・流通の現状」の値を使用、米・麦は必ず精米などの工程を経るため、100%加工に回ると想定。

 ⑩加工品用の金額・・・⑧×⑨。これが食品加工業者の原材料費となる。

 <加工品>
 ⑪就業者数・・・「平成24年経済センサス―活動調査 産業別集計(製造業)」より。この中には輸入原材料を加工する者も含まれる。畜産は「畜産食料品製造業」+(「冷凍調理食品製造業」+「そう(惣)菜製造業」+「すし・弁当・調理パン製造業」+「レトルト食品製造業」+「他に分類されない食料品製造業」)×0.3で計算(カッコ内の加工食品のうち、平均すると3割が畜産物であると仮定)。

 水産は「水産食料品製造業」+(「冷凍調理食品製造業」+「そう(惣)菜製造業」+「すし・弁当・調理パン製造業」+「レトルト食品製造業」+「他に分類されない食料品製造業」)×0.2で計算(カッコ内の加工食品のうち、平均すると2割が水産物であると仮定)。

 野菜・果物は「野菜缶詰・果実缶詰・農産保存食料品製造業」+「調味料製造業」×0.7+(「冷凍調理食品製造業」+「そう(惣)菜製造業」+「すし・弁当・調理パン製造業」+「レトルト食品製造業」+「他に分類されない食料品製造業」)×0.3で計算(調味料の原材料のうち、約7割が大豆であると仮定。また、カッコ内の加工食品のうち、平均すると3割が野菜・果物であると仮定)。

 米・麦は「精穀・製粉業」+「パン・菓子製造業」+「調味料製造業」×0.3+(「冷凍調理食品製造業」+「そう(惣)菜製造業」+「すし・弁当・調理パン製造業」+「レトルト食品製造業」+「他に分類されない食料品製造業」)×0.2で計算(調味料の原材料のうち、約3割が米であると仮定。また、カッコ内の加工食品のうち、平均すると2割が米・麦であると仮定)。

 ⑫出荷額・・・「平成24年経済センサス―活動調査 産業別集計(製造業)」より。⑪と同様にして計算。

 ⑬付加価値額・・・⑫-⑩(食品加工業者にとっての原材料費)で計算。

 ⑭加工業者1人あたり付加価値額・・・⑬÷⑪で計算。

 ⑮加工業者1人あたり出荷額・・・⑫÷⑪で計算。

 ⑯輸入額・・・農林水産省「加工食品の輸出入動向」より取得。

 ⑰輸入品を国内で製造するのに必要な就業者数・・・⑯÷⑮で計算。

 <原材料+加工品>
 ⑱全て国内で自給する場合の就業者数・・・⑤+⑪+⑰で計算。

 以上の試算を見ると、水産加工業の1人あたり付加価値額もそれなりに大きいが、付加価値額を増やすためには畜産加工業を強化する方が有効であることが解る。また、雇用を創出するという意味では、米・麦に注力する方が圧倒的に効果がある。経済の成長ステージや農林水産業の構造が異なるミャンマーと日本を単純に比較することはできないものの、本書が水産業だけにフォーカスしているのはややバランスを欠いているとの印象を受けた。

島森俊央、吉岡利之『アジアへ進出する中堅・中小企業の”失敗しない”人材活用術』―中国・タイ・ベトナムの人材活用のポイントまとめ


アジアへ進出する中堅・中小企業の“失敗しない”人材活用術: 発展ステージの異なるベトナム・タイ・中国の事例からアジアへ進出する中堅・中小企業の“失敗しない”人材活用術: 発展ステージの異なるベトナム・タイ・中国の事例から
島森 俊央 吉岡 利之

日本生産性本部生産性労働情報センター 2014-12-08

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 中国・タイ・ベトナムにおける人材活用について、個人的に参考になったポイントをメモ書きとしてまとめておく。

 <3か国共通>
 ・日本企業は、専門スタッフやマネジメント層の給与が、成果主義を導入している欧米系の企業に比べると低いと言われる。ただ、日本本社が年功的な職能資格制度なのに、海外法人には成果主義を適用するのは現実的ではない。欧米系企業も、成果が低ければ日系企業より給与が低くなることを社員に理解してもらいつつ、日本企業の強みである、①安定、安心、②社員を大切にする、③教育がしっかりしている、という3つの点を強調したマネジメントを行うとよい。
 ・福利厚生を充実させると効果的である。特に、社員が行ったことのない土地への旅行は喜ばれる(ワーカークラスは、自分が住んでいる土地以外に行ったことがないことがほとんどである)。
 ・日本企業は”人”に対して給与を払うが、中国、タイ、ベトナムの企業は”職務”に対して給与を払う。社員も、自分の職務を極めたいという思いが強い。そのため、ジョブローテーションは専門性を高めてキャリアアップを図る上での阻害要因と見なされ、敬遠される傾向がある。
 ・日本以上に学歴社会であり、中卒・高卒が中心のワーカーと、大卒が中心の専門スタッフやマネジメント層の間には大きな隔たりがある。
 ・日本以上に肩書きへのこだわりが強い。
 ・ワーカーにはMBO(目標管理制度)を理解してもらうことが難しいため、チェックリスト方式の行動評価を行うとよい。その際、罰則評価も入れる。
 ・採用にあたっては次の点に注意が必要である。代理面接が横行している。家族同伴で面接に来る(そして、家族が質問に答える)。履歴書に虚偽の記載がある。犯罪歴を隠して応募してくる。人事マネジャーに賄賂を贈る。

 <中国>
 ・春節で親戚が集まった時に、会社の給料やポストの話をする。社員が親戚に自分のことを自慢できるよう、春節前に昇格や昇給を行う。
 ・同一労働・同一賃金が原則であり、成果に見合った報酬を求めてくる。
 ・自分がNo.1だと思っている社員が多いため、なぜその評価になったのか、具体的な証拠や事例を使って説得する。
 ・毎年、地方政府から「昇給ガイドライン(指導線)」が出されるため、ガイドラインからかけ離れた昇給を行うと社員から反発を受ける。 
 ・労働組合の設立は半強制的である。

 <タイ>
 ・タイには「3S」という言葉がある。サバーイ(快適)、サヌック(楽しく)、サドゥアック(便利)の頭文字である。楽しい、居心地がよいことを重視する傾向がある。
 ・元々暑い国であるにもかかわらず、「高温手当」を要求してくる。
 ・評価基準は社員に対して明確に提示するが、評価結果は曖昧にする(社員間で差をつけるのはほどほどにする)。
 ・採用の最終決定前に健康診断を実施する。麻薬をやっている可能性がないか調べるためである(ちなみに、日本では採用前に健康診断を実施することは禁じられている。採用後には健康診断を実施する義務が生じる)。
 ・タイでは労働組合の設立は半強制的ではないが、外部の人が介入したり、紛争目的の労働組合が作られたりしないように注意が必要である。
 ・タイでは1932年に立憲君主制に以降して以来、20回以上の軍事クーデターが起きており、タイ人はクーデターに慣れっこである。これが「タイ式民主主義」であると言う人さえいる。

 <ベトナム>
 ・中国、タイに比べて食事を重視する。社員食堂を充実させると喜ばれる。
 ・タイと同様、「高温手当」を要求してくる。
 ・タイと同様、評価基準は明確に提示するが、評価結果は曖昧にする。
 ・中国と同様、労働組合の設立は半強制的である。

松岡完、広瀬佳一、竹中佳彦『冷戦史―その起源・展開・終焉と日本』―当初、アメリカは普遍的価値観の輸出に乗り気ではなかった?


冷戦史 -その起源・展開・終焉と日本-冷戦史 -その起源・展開・終焉と日本-
松岡 完 広瀬 佳一 竹中 佳彦

同文舘出版 2003-06-11

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 国外の冷戦と国内の冷戦を概観するには適した1冊。アメリカは自由、平等、法の支配、基本的人権、資本主義、民主主義といった普遍的価値を心の底から信じており、これらの価値を世界中で実現するために、時には他国の政治や経済システムにも介入するのだが、本書を読むと、冷戦当初はそれほど価値観の布教に熱心ではなかったのではないかと思うようになった。むしろ、ソ連の方が、社会主義・共産主義の革命を輸出することに躍起になっていたようである。

 第2次世界大戦終結直後、朝鮮半島では朝鮮戦争が勃発し、早くもアメリカ対ソ連の代理戦争の様相を呈した。ところが、当時のアメリカにとって、朝鮮半島はそれほど重要ではなかったという。アメリカにとっては、第2次世界大戦の主戦場となったヨーロッパでプレゼンスを発揮することが第一の命題であった(本書には明確に書かれていなかったが、第二の命題は、中東における石油の確保であっただろう)。アメリカは、ヨーロッパに関しては戦略的”攻撃”、アジアに関しては戦略的”防衛”というスタンスを取っていた。

 ソ連は周辺国に革命を輸出し、共産主義政権の樹立を支援したが、ソ連の強引なやり方に反対して反共的な政権を樹立しようとする動きもあった。これに関しても、アメリカはソ連の周囲に反共・親米的な政権ができることを嫌がっていたきらいがある。いくら戦争が公共事業であるアメリカといえども、世界中で小国同士の代理戦争が繰り広げられるような事態は避けたかったのかもしれない。

 潮目が変わったのは、アメリカが中国に接近してからだと思う。キッシンジャーの電撃訪中、さらにはアメリカと中国の国交樹立は日本中を仰天させたが(田中角栄は慌てて中国との国交を樹立した)、アメリカには泥沼化するベトナム戦争に関して、中国から何とか妥結案を引き出そうとしていた。一方の中国も、文化大革命が大失敗に終わり、経済が停滞し、海外からの直接投資が鈍っていた矢先であったから、アメリカからの支援の申し出は渡りに船であった。

 マイケル・ピルズベリーは著書『China 2049』の中で、「自分は弱い国なので助けてください」と低姿勢に出る中国に対して、バカ正直に様々な支援をしてしまい、結果的に中国を大国にしてしまったことを後悔している(ブログ本館の記事「マイケル・ピルズベリー『China 2049』―アメリカはわざと敵を作る天才かもしれない」)。だが、アメリカのインテリジェンスが中国の歴史を多少なりとも真面目に研究していれば、中国が心の奥底に覇権主義を秘めた大国候補であることは見抜けたはずである。二項対立的な発想をする世界の大国は、常に自分の対抗馬を必要としている。アメリカは、冷戦でソ連に勝利した後を見据えて、中国を新たな敵に仕立て上げようとしていたのではないかといのが私の仮説である。これ以降、アメリカはアジアへのコミットメントを強めていき、現在に至っている。

 最後に大国と小国の国際戦略について、現時点での私の考えを整理しておく。まず、大国であるが、前述の通り二項対立的な発想をするため、常に敵となる大国を必要としている。現代では、アメリカ&ドイツと、ロシア&中国が対立している。アメリカとロシアの対立に限って話を進めると、実は大国の内部も二項対立状態にある。つまり、アメリカ内部には多数派の反ロ派と少数派の親ロ派が、ロシア内部には多数派の反米派と少数派の親米派がいる。ここで、アメリカの親ロ派とロシアの親米派は裏で通じている。アメリカの親ロ派は反ロ派に対して、もっとロシア寄りになるように助言するが、反ロ派はそんな声には耳を貸さず、より一層反ロの姿勢を強める。同様にして、ロシアでは反米の姿勢が強まる。すると、アメリカとロシアは今まで以上に激しく対立するようになる。

 しかし、アメリカとロシアが本気で衝突したら壊滅的な被害が出ることは両国とも解っている。そこで、両大国は周辺の小国を自国の味方に引き込んでいく。その上で、アメリカとロシアの対立を、小国同士の代理戦争に転化させる。あるいは、小国の中に親米派と親ロ派を作り出し、両者を激突させる。中東で長らく続く混乱は、自分の手を直接汚したくない大国の狡猾な戦略の結果である。

 こうした大国の戦略に対して、小国はどのように振る舞うべきか?(私は日本も小国だと考える)まず、対立する大国の一方に過度に肩入れするのは絶対に避けるべきである。そんなことをすれば、早晩大国の代理戦争に巻き込まれる(近年、日本がアメリカ寄りの姿勢を強めているのは危険な兆候だと感じる)。

 小国は、対立する双方の大国から、自国の味方にならないかと様々なアプローチを受ける。その双方のいいところ取りをして、どちらの国の味方でも敵でもないという曖昧なポジションを作り出すのが得策である。ずる賢いと言われればそれまでだが、弱い小国が国際政治の乱気流を乗り切るにはこれしかない。私はこうした小国の戦略を「ちゃんぽん戦略」と呼んでいる(ブログ本館の記事「『トランプと日本/さようなら、三浦朱門先生(『正論』2017年4月号)』―米中とつかず離れずで「孤高の島国」を貫けるか?」を参照)。

 小国は他の小国に対してどのような態度を取るべきか?原則は、相手から求められない限りは動かない、ということである。他の小国は既に、対立する大国のどちらかに取り込まれている可能性がある。そういう小国に不用意に近づくと、大国の代理戦争に巻き込まれるリスクがある。小国は、他の小国から支援を求められた時に限って、必要な支援を行う。その際、支援先の小国も同じようにちゃんぽん戦略へと移行できるように働きかける。

 しばしば、日本は東洋と西洋の中間に位置する地政学的な位置を利用して、東洋と西洋の橋渡しを担うべきだという主張を見かける(以前、私もそう書いてしまった)。だが、地政学的に東洋と西洋のど真ん中にあるのは中東である。その中東の現状は悲惨である。橋渡しなどという夢物語を掲げるのはよくない。小国はまずは自国を守ることに注力し、周囲の小国からの求めがあれば、少しずつ大国同士の代理戦争の場を無効化していくのが望ましいのではないかと考える。
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プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、1,000字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
所属組織など
◆個人事務所
 「シャイン経営研究所」◆ シャイン経営研究所ロゴ

(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長、および国際部員を務めています)

NPOビジネスサポート特定非営利活動法人NPOビジネスサポート
(監事を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)

Experian海外企業信用調査 海外企業信用調査(Experian)
(一緒にお仕事をさせていただいている「コンサルビューション株式会社」は、世界最大の信用調査会社Experianの正規代理店です)

【中小企業診断士は独学で取れる】中小企業診断士に独学で合格するなら「資格スクエア」中小企業診断士の安い通信講座なら「資格スクエア」
(以下の資格の講師をしています。
 ―ITパスポート
 ―情報セキュリティマネジメント
 ―経営学検定(初級・中級)
 ―中小企業診断士(企業経営理論、経営情報システム、中小企業経営・中小企業政策)
 谷藤友彦と株式会社サイトビジット代表取締役・鬼頭政人氏の対談動画(1)(2)(3)
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