こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント・トレーナー)のブログ別館。2,000字程度の読書記録の集まり。

2017年04月

米倉誠一郎、清水洋『オープン・イノベーションのマネジメント』―日本企業はおそらく顔の見えるネットワークでないと適切な相手を見つけられない


オープン・イノベーションのマネジメント -- 高い経営成果を生む仕組みづくりオープン・イノベーションのマネジメント -- 高い経営成果を生む仕組みづくり
米倉 誠一郎

有斐閣 2015-03-27

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 オープン・イノベーションを推進するにあたっては、自社のニーズ・シーズと、他社(他者)のニーズ・シーズをマッチングさせる必要がある。P&Gが「コネクト・アンド・デベロップメント」プログラムを実施した際には、P&Gが世界中の研究機関、企業内研究所、大学などとインターネットでつながり、P&Gがネットワーク上に自社の技術的ニーズ・シーズを公開して、世界中からイノベーションのアイデアを募るというやり方を取った。一方で、もっと当事者同士の顔が見える「場」を利用してマッチングを行うという方法もある。
 「場」というのは、「特定の企業が頻繁に相互コミュニケーションを行っている空間」といえよう。ここでの空間は抽象的な概念であり、たとえば企業系列といった日物理的空間も含まれている。

 このタイプの探索には、①企業系列の活用、②サプライ・チェーンの活用、③既存の取引関係の活用、④展示会での出展、⑤コンソーシアムへの参加、⑥サイエンス・パークの運営・参加、⑦マッチング・イベントの主催・参加、⑧コーポレート・ベンチャー・キャピタル(以下、CVC)の運営など、さまざまなバリエーションが存在している。
 日本企業の場合は、インターネットを活用した世界規模のマッチングよりも、顔の見える関係の中から協業の可能性を模索する方が向いていると思う。欧米人はインテリジェンス機能が発達しているから、公開情報だけを頼りに相手の素性を暴くのが得意である。欧米企業は常に売れる商材をネット上でくまなく探していて、「これは」と思う企業にはいきなりメールでアプローチして、どんどん話を進めてしまう(そういうアプローチに慣れていない日本企業は、欧米人からメールが届くとたじろいでしまう)。一方の日本人はこれが苦手であり、直接相手に会って話をしてみないと、相手が信頼に足るかどうかを判断することができない。

 日本人にとって、インターネットはリアルのコミュニケーションを補完するツールでしかない。これは様々な局面で言える。例えば、もう10年ぐらい前の話だが、社内コミュニケーションを活性化するために社内SNSや社内ブログを導入するという動きがあった。だが、当時社内SNS・ブログを専門としていた人から聞いた話によると、社内SNS・ブログの導入によってコミュニケーションが活性化した企業は、もともとリアルのコミュニケーションがある程度活発な企業であったという。リアルのコミュニケーションが機能不全に陥っている企業に社内SNS・ブログを導入しても効果は薄い。実際、私の前職のベンチャー企業でも、「不機嫌な職場」を改善するために社内ブログを導入したが、すぐに更新が止まってしまった。

 顧客とのコミュニケーションツールとしてSNSを活用する場合も同じである。SNSは、顧客が店舗などでは言わない本音を拾うことのできるツールとして注目されている。ただし、そういう潜在的なニーズを把握できる企業は、リアルな顧客接点においてある程度十分なコミュニケーションが取れている企業に限られると思う。リアルな顧客接点をおろそかにして、SNSで手っ取り早く顧客のニーズをつかもうとするのは虫がよすぎる。では、リアルな店舗を持たないECサイトはどうなのかと問われそうだが、ECサイトでSNSを活用して上手くいっている企業は、コンタクトセンターなど、顧客と直接対話する機会を重視していると私は考える。

 同様に、日本企業がオープン・イノベーションで協業相手を探す場合も、メインは「場」を通じたマッチングとし、インターネットを活用した探索は補完的に行うべきだと思う。「場」に集まった企業と何度も顔を合わせることで、徐々に信頼関係を構築していく。こちら側も相手側も、自社の手の内(シーズやニーズ)を少しずつ相手に打ち明ける。そして、相手が信頼に足る企業であり、協業すれば自社単独では不可能な大きな付加価値を実現できそうだと判断した場合に、協業に踏み切る。オープン・イノベーションはイノベーションにかかる時間を短縮するための手法とされているが、少なくとも日本においては、協業の前段階で手間とコストが非常にかかることを覚悟しなければならない。

出川通、中村善貞『図解 実践オープン・イノベーション入門』―通常のアライアンスとの違いが曖昧だと感じた


図解 実践オープン・イノベーション入門図解 実践オープン・イノベーション入門
出川 通 中村 善貞

言視舎 2016-10-25

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 この段階では、自社内にないリソースを単純に外部に求めるだけではなく、より積極的に外部アライアンス相手(大学や公的研究機関、ベンチャー・中小企業から大企業まで)と価値(それを具現化した商品・サービス)を「協創」します。いわゆる技術を持ち寄っての開発・試作品製造や、機器とそこに用いる消耗品との共同展開、ハードとソフトなど異なる領域のアライアンス相手との連携による価値協創です。
 本書全体を通じて感じたのは、自社にないリソースを外部(大学や公的研究機関、ベンチャー・中小企業や大企業など)に求めることをオープン・イノベーションと呼んでおり、通常のアライアンスとの違いが曖昧であるということだった。”オープン”・イノベーションと言うからには、自社を中心に広範囲なネットワークを構築し、その中で様々なアイデアやイノベーションが”自律的に”立ち上がってくることを支援しなければならないと思う。自社に不足している経営資源が明らかであり、その不足分を補うという明確な目的のために、アライアンス相手を絞り込んで最適なパートナーを探すのは、クローズド・イノベーションではないかと思う。

 オープン・イノベーションでは、企業は3つの情報をネットワーク上に公開する。自社がやりたいと思っていること、自社に不足している資源・能力、自社が強みとする資源・能力の3つである。この3つの情報を基に、以下のような3つの可能性が生まれる。①自社がやりたいと思っていることと他社がやりたいと思っていることが合致し、両社が単独で製品化・事業化をするよりも、共同で実施した方がスケールメリットを活かせるケース(統合型)、②自社に不足している資源・能力を他者が保有しており、両社が協業すれば製品化・事業化できるケース(補完型)、③自社が強みとする資源・能力と、他社が強みとする資源・能力を上手に掛け合わせると、新たなビジネスの方向性が見えてくるケース(創発型)である。

 オープン・イノベーションの醍醐味は、当初のアイデア・目的とは異なる可能性が発見されることである。創発型はまさにその典型であるが、統合型であっても、両者がアイデアを持ち寄った結果、双方が単独では思いもよらなかったような戦略、製品・サービスコンセプトを構想するかもしれない。補完型でも、単に自社の足りないところを他社が補うという関係にとどまらず、ビジネスモデルそのものの見直しに発展するかもしれない。こうした自由なアイデアが創出される点に、オープン・イノベーションの面白さがある。逆に、冒頭でも述べたが、特定の目的のために他社と連携するのは、クローズド・イノベーションの世界である。

 本書でも書かれていたが、オープン・イノベーションでは協業する両社が共通の目標を追求すると一般的には考えられている。もちろん、コラボレーションする以上は共通の目標が必要であろうが、組織が異なる限り、双方の企業に固有の目標も当然のことながら存在する。仮に、両社が共通の目標だけを追求するのであれば、両社は合併した方がよい。その選択肢を取らずに、敢えてオープン・イノベーションという道を選択するからには、共通の目標を追い求めるのと同時に、両社は自社に固有の目標も大切にするべきである。

 この目標管理は非常に難しいが、1つの方法としてバランス・スコア・カードを活用することができると思う。財務の視点のレイヤーに、両社が共通で追求する目標と、両社がそれぞれ追求する目標を掲げる。そして、その目標を達成するために必要な下位の目標を顧客の視点、業務プロセスの視点、学習と成長の視点の各レイヤーに記述していく(下位の目標の中にも、両社が共通で追求する目標と、両社がそれぞれ追求する目標があるだろう)。

 そして、それぞれの目標の因果関係を線で示した場合に、両社が共通で追求する財務の視点の目標に伸びる目標の連鎖と、両社がそれぞれ追求する財務の視点の目標に伸びる目標の連鎖の両方が存在することを確かめる。これが、オープン・イノベーションのマネジメントの1つのカギになるだろう。

 さらに言えば、一方の企業にとっての固有の目標を達成すると、それが他方の企業にとっての固有の目標の達成を支援するような形が作れるとなおよい。例えば、A社が業務プロセスの視点に掲げた固有の目標を達成すると、A社が顧客の視点に掲げた固有の目標が達成されるだけでなく、B社が業務プロセスの視点や顧客の視点に掲げた固有の目標の達成も支援されるといった関係である。

 ブログ本館の記事「【ドラッカー書評(再)】『断絶の時代―いま起こっていることの本質』―「にじみ絵型」の日本、「モザイク画型」のアメリカ」で、企業は自社に固有の目的を追求するだけでなく、下剋上、下問、水平方向のコラボレーションを通じて、様々なステークホルダーの目標達成を支援する存在であると書いた。先ほどのような関係が、オープン・イノベーションの副次的効果として生まれると、両社の関係はより良好で緊密なものになるに違いない。

『「孫家」の教え/成功する・失敗するM&A(『週刊ダイヤモンド』2017年4月22日号)』―劣等感の塊から成功した起業家を見てみたい


週刊ダイヤモンド 2017年 4/22 号 [雑誌] (「孫家」の教え)週刊ダイヤモンド 2017年 4/22 号 [雑誌] (「孫家」の教え)

ダイヤモンド社 2017-04-17

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 「孫子の兵法」の特集だと思って読み始めたら、「孫(正義)家の教え」だった。中国古典をちょっと勉強するつもりが、孫家の家訓を勉強することになってしまった。ダイヤモンド社に上手く騙された感じ。まさに「兵は詭道なり」。

 人間には大きく分けると「固定思考」と「成長思考」という2つのタイプがいて、起業家として成功するのは後者であり、前者から後者にマインド転換するためには「自己効力感」が重要である、という記述があった。詳しい研究のことは私にはよく解らないが、ブログ本館の記事「『しなやかな交渉術(DHBR2016年5月号)』―「固定型」のアメリカ、「成長型」の日本、他」で書いたように、アメリカ人は幼少の頃に自分が人生で成し遂げたい使命を設定する「固定型」であり、逆に日本人は環境変化に身を委ねながら自己を変化させていく「成長型」だと私は思う。

 しかも、アメリカ人が自ら設定した使命に向かって邁進するエネルギーは、成功体験に裏打ちされた自己効力感であるのに対し、日本人の場合は環境に翻弄され、幾度も失敗を重ねながら、「自分は何と出来の悪い人間なのだ」と打ちひしがれる劣等感に突き動かされているのではないかとも考えている。この辺りについては、ブログ本館の記事「『未来をひらく(『致知』2015年2月号)』―日本人を奮い立たせるのは「劣等感」と「永遠に遠ざかるゴール」」で書いた。

 アメリカ人は先天的に楽観志向であり、日本人は悲観志向であるという研究もある(色んな研究結果を自分の都合のいいように利用するなとお𠮟りを受けそうだが)。遺伝子の中に、「セロトニントランスポーター遺伝子」というものがある。セロトニンの分泌に関わる遺伝子であり、これが不足するとうつ病の原因となり、十分ならば安心感を覚える。この遺伝子には、不安を感じやすい心配性のS型と、おおらかで楽観的なL型がある。遺伝子は両親から半分ずつ受け継ぐため、S/S型、L/L型、その中間となるS/L型のどれかになる。

 どのタイプが多いかは国や人種によって異なっており、日本人はこの遺伝子に大きな偏りがあることが解っている。アメリカ人の場合は楽観的なL/L型が30%を超えるのに対し、日本人はわずか1.7%しかいない。裏を返せば、心配性のS型を持つ割合(S/S型またはS/L型)が98%に達しているのだという(『週刊ダイヤモンド』2017年4月15日号より)。

週刊ダイヤモンド 2017年 4/15 号 [雑誌] (思わず誰かに話したくなる 速習! 日本経済)週刊ダイヤモンド 2017年 4/15 号 [雑誌] (思わず誰かに話したくなる 速習! 日本経済)

ダイヤモンド社 2017-04-10

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 アメリカ人のように、人生の早い段階で野心的なゴールを設定し、それに向かって成功体験を重ね、自己効力感を高めながら、遂にそのゴールを達成するというストーリーは、確かにすがすがしいものがある。だが、それは楽観的なアメリカ人だからできることであって、日本人には日本人の悲観的な遺伝子に合った成功物語があってもいいのではないかと感じる。

 具体的には、「自分には大した取り柄がない」という劣等感から出発し、取り柄がないために何度も失敗を繰り返し、それでも他人を見返してやりたい、こんな自分でも世の中の人々のためになりたいという思いから自分の弱点をカバーする秘策を研究し、試行錯誤の連続の果てに、ようやく慎ましい成功を収めるというストーリーである。それなのに、当の本人は、周りが成功者と認めるようになっても、「まだまだ自分には道の探求が足りない」と言って研究に没頭する。

 例えて言えば、元楽天監督の野村克也氏のような物語である。いつもボヤいてばかりの悲観的なノムさんは、アメリカではおそらく通用しなかっただろう。だが、日本においては、ノムさんが弱者の戦法で現代プロ野球の礎を築いた功労者であることは誰もが認めるところだ。辛口の元中日監督・落合博満氏が名監督の1人として挙げるほどである。そのノムさんの監督としての生涯成績は1565勝1563敗で、貯金はたった2である。何と慎ましい、日本人らしい成功ではないか!
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プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。これまでの主な実績はこちらを参照。

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、2,000字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

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