こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント・トレーナー)のブログ別館。2,000字程度の読書記録の集まり。

2017年11月


大山顕、東浩紀『ショッピングモールから考える―ユートピア・バックヤード・未来都市』―消費を全体主義化するショッピングモールに怖さを感じる


ショッピングモールから考える ユートピア・バックヤード・未来都市 (幻冬舎新書)ショッピングモールから考える ユートピア・バックヤード・未来都市 (幻冬舎新書)
東 浩紀 大山 顕

幻冬舎 2016-01-29

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 作家・思想家の東浩紀氏とフォトグラファー・ライターの大山顕氏の対談本。ショッピングモールに未来都市の理想を見るというショッピングモール礼賛本であり、正直なところ私は「怖い」と感じた。

 東氏の理想はこうである。まず、雨が降っていても自宅から濡れずに、また外がカンカン照りの日でも凍えるような寒さの日でも快適な温度に設定された屋根つきの通路を通って電車の駅まで行くことができる(東氏は自動車を運転しない)。電車に乗ってショッピングモールの最寄り駅まで行くと、改札口から同じく屋根つきの通路をくぐってショッピングモールに入る。ショッピングモールの動線は、まるでその設計者が来場者に対して順番に回るべき店舗を示唆するかのようになっていて、来場者は次々と設計者の意図通りに製品やサービスを購入していく。こうして丸1日を快適に過ごすことができるというものである。

 こうしたショッピングモールの理想を、現在最も近い形で実現しているのが、ディズニーワールドであると言う。ディズニーワールドは、大人から子どもまで誰もが1日中楽しめるように、アトラクションやショップ、内観のコンセプトや配置、動線などが心理学や人間工学などに基づき緻密に計算されている。
 東:でもまじめな話、今後ショッピングモールやテーマパークを考えていくためには、ディズニーワールドの達成を前提にしないと、大事なところを間違えてしまうと思うんです。テーマパークはいい意味でも悪い意味でもここまで行くんだぞ、と。

製品・サービスの4分類(大まかな分類)

製品・サービスの4分類(各象限の具体例)

 私はしばしば本ブログやブログ本館で上図を用いている。図の詳細な説明は、ブログ本館の記事「【現代アメリカ企業戦略論(3)】アメリカのイノベーションの過程と特徴」をご参照いただきたい。ディズニーワールドは、上図の分類に従えば、左上の<象限③>に該当する。そして、ブログ本館の記事「【現代アメリカ企業戦略論(1)】前提としての啓蒙主義、全体主義、社会主義」、「【現代アメリカ企業戦略論(2)】アメリカによる啓蒙主義の修正とイノベーション」でも書いたが、<象限③>は全体主義をアメリカなりに修正した結果出現した象限である。つまり、裏を返せば、<象限③>は全体主義に逆戻りするリスクをはらんでいる。

 今のところ、ディズニーワールドには競合他社が存在するから、顧客のレジャーは全体主義化されていない。ところが、仮にディズニーワールド一強の時代が到来したら、顧客はレジャーとしてディズニーワールドしか選択できず、そこではディズニーワールドの設計者の意のままに顧客がレジャーを消費する(いや、消費させられるという表現が正しいだろう)。つまり、消費が全体主義化することを意味する。ディズニーワールドには、生活水準がそれほど高くない人も訪れるというが、全体主義化された<象限③>は全世界中の人々をターゲットとするマスマーケティングを実施するため、必然的にこういう人たちも包摂することになる。

 ショッピングモールは上図では左下の<象限①>に該当し、本来であれば文化の違いなどに根差した多様性が追求される。ところが、著者らはこれを<象限③>へ移行させ、さらに全体主義化しようとしているようである。そこでは、気候、文化、言語、宗教、民族などの違いを超えたショッピングモールの普遍性というものが実現される。これがユートピアとしてのショッピングモールである。
 大山:モール性気候のみならず、モール性文化、モール性教国、モール性宗教・・・。
 石川(※ランドスケープ・アーキテクトの石川初氏):このシーンをぼくは「モールスケープ」と呼ぼうと思います。気温35度湿度80パーセントの熱帯都市に、人工的に気温27度、湿度55%の場所をつくり、ヤシの鉢植えを置いた広場に、北ヨーロッパの冬のジオラマを設置して、キリスト教由来のイベントを演出し、そこで防寒服を着用したヨーロッパ系の老人の人形と写真を撮る、ムスリムの親子。
 だが、別の箇所では、ショッピングセンターは土地の文脈を無視してはいけないと書かれていており、「ふくしまゲートヴィレッジ」を批判している箇所がある。
 大山:違和感というか、趣味の問題ですけど。土地の文脈をどう捉えるか、という点にぼくはすごく興味があるので。(中略)ショッピングモールをつくるひとは、たんなる商業施設ではなく街をつくろうとする。だから、その地域がもともと持っている文脈を強く意識して、それをなんとか活用しようとする。
 この点を踏まえれば、ショッピングモールを<象限①>から<象限③>へと移行させ、さらに普遍性を追求する=全体主義化する試みは無謀であると言わざるを得ないように感じる。土地の文脈を追うということは、その土地の上に成り立っている人々の生活・風習・価値観の物語を追うことを意味する。そして、土地の数だけ物語は存在するわけであり、したがって、ショッピングモールもその物語を反映させた固有のものでなければならない。それを無理やり普遍化=全体主義化しようとしているところに、本書の「怖さ」を感じる。

宮崎正弘『金正恩の核ミサイル―暴発する北朝鮮に日本は必ず巻き込まれる』―北朝鮮がアメリカに届かない核兵器で妥協するとは思えない


金正恩の核ミサイル 暴発する北朝鮮に日本は必ず巻き込まれる金正恩の核ミサイル 暴発する北朝鮮に日本は必ず巻き込まれる
宮崎 正弘

扶桑社 2017-06-02

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 本書でも述べられており、アメリカの一部の政治家も主張し始めていることだが、北朝鮮がここまで核武装してしまった以上、北朝鮮を核保有国として認めざるを得ないという論調が最近は見られる。ただし、アメリカ本土には届かない核ミサイルに制限するという条件がついている。私はブログ本館の記事「『愚神礼讃ワイドショー/DEAD or ALIVE/中曽根康弘 憲法改正へ白寿の確信(『正論』2017年7月号)』―日本は冷戦の遺産と対峙できるか?」で北朝鮮のシナリオを示した時、敢えてこのパターンは入れなかった。

 というのも、北朝鮮にとって、アメリカ本土に届かない核ミサイルは意味がないからだ。北朝鮮が核武装をするのは、金政権の体制維持のためであるとよく言われる。しかし、体制を維持したいのであれば、核兵器などという危険なカードを使わずに、おとなしくしていればよい。敢えてその危険を冒すからには、体制維持以上の目的があると考えるのが自然である。そして、その目的とはつまり、北朝鮮主導による南北朝鮮の統一、統一社会主義国家の建設である。

 北朝鮮が韓国を併合しようとすれば、当然のことながらアメリカが出てくる。そのアメリカを核兵器で牽制し、相互確証破壊戦略によって身動きが取れないようにして、その間に韓国を併合してしまおうというのが北朝鮮の狙いである。だから、アメリカ本土に届かないミサイルは北朝鮮にとって価値がない。

 これは国際政治の舞台においては非常に歯がゆいことなのだが、アメリカにとっても、アメリカ本土に届く核ミサイルが完成しないと、交渉するにしても軍事行動に出るにしても、次のアクションが取れないのが実情である。アメリカ本土に届かない核ミサイルを取り除いてくれと北朝鮮に要求する交渉は、例えるならば、自宅の3軒先に停めてある自動車を邪魔だと思うから移動させてくれと注文するようなものである。言われた側からすれば、実害を与えていないのだから、注文に応じる必要はないと思うだろう。交渉が始まるのは、アメリカ本土に核ミサイルが届く時、自宅の目の前に自動車が停められて本当に邪魔な時である。

 軍事行動を取るにしても、アメリカ本土に核ミサイルが届かないのに北朝鮮を攻撃することはできない。自国に危害が及ぶ前に相手国を叩いておこうという攻撃は予防攻撃と呼ばれるが、国際法上は認められていない。アメリカが軍事行動を起こすのは、北朝鮮の核ミサイルがアメリカ本土に届くようになってからである。そうすれば、アメリカはイラク戦争などと同様に自衛戦争と称して軍事行動に着手するだろう。場合によっては先制攻撃も辞さない。

 本書によれば、北朝鮮はあと2~3年で20~100発のICBMを完成させると予想されている。北朝鮮には国連安保理の経済制裁が科されているが、中国とロシアが忠実に制裁を実行するか不透明である。それよりも大きな問題は、北朝鮮と経済的なつながりが強いアフリカの国々が、制裁を無視して北朝鮮と取引を続けることである。アフリカの国々にとっては、核ミサイルの脅威など無関係であるから、制裁よりも実利を取る可能性が高い。

 そして、北朝鮮とアフリカ諸国の取引の間を取り持っている企業がマレーシアやシンガポールに存在するという。私は以前、ブログ本館で「西濱徹『ASEANは日本経済をどう変えるのか』―ASEANで最も有望な進出国は実はマレーシアではないか?」という記事を書いたのだが、呑気な内容だったと反省している。マレーシアは経済発展の裏で闇社会が幅を利かせるリスキーな国である。

 北朝鮮問題に関しては、すぐに左派が「対話」を持ち出して、日本が米朝間の橋渡しをするべきだと言い出す。だが、彼らの言う対話は空虚であることは以前の記事「『世界』2017年11月号『北朝鮮危機/誰のための働き方改革?』―朝日新聞が「ファクトチェック」をしているという愚、他」でも指摘した。

 外交とは、お互いにカードを切り合うゲームである。「あらゆる選択肢がテーブルの上に載っている」というアメリカに対し、日本はいつでも「各国との連携を強めていく」としか言えない(ブログ本館の記事「『正論』2017年11月号『日米朝 開戦の時/政界・開戦の時』―ファイティングポーズは取ったが防衛の細部の詰めを怠っている日本」を参照)。世論が核武装を許さず、自衛隊の権限が大幅に制限されている日本は、手持ちのカードがないのである。だから、日本には米朝の外交の間に入ってできることなど、残念ながらない。

 そうであれば、万が一北朝鮮が日本に向けてミサイルを発射した場合に備えて、国民の生命を守ることに注力するべきであろう。上記の記事で書いたように、永世中立国スイスの取り組みは参考になる。北朝鮮があと2~3年で20~100発のICBMを完成させるということは、肯定的にとらえればあと2~3年は時間的猶予があるということである。日本は政治的決断を迫られている。

DHBR2017年12月号『GE:変革を続ける経営』―キャリア自律を引き出したければ企業はより強力に戦略を示さなければならない


ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 12 月号 [雑誌] (GE:変革を続ける経営)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 12 月号 [雑誌] (GE:変革を続ける経営)

ダイヤモンド社 2017-11-10

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 2016年4月1日に「改正職業能力開発促進法」が施行された。同法は、労働者が職業生活設計を行い、その職業生活設計に即して自発的な職業能力の開発および向上に努めることを基本理念としている。事業者は、「労働者が自ら職業能力の開発及び向上に関する目標を定めることを容易にするために、業務の遂行に必要な技能及びこれに関する知識の内容及び程度その他の事項に関し、情報の提供、キャリアコンサルティングの機会の確保その他の援助を行うこと」(第10条の3第1項)が義務化された。ここで言う「キャリアコンサルティング」とは、「労働者の職業の選択、職業生活設計又は職業能力の開発及び向上に関する相談に応じ、助言及び指導を行うこと」(第2条第5項)と定義されている。

 経済が右肩上がりで成長していた時代には、企業が社員に対して明確なキャリアパスを示し、社員はそれに従ってキャリアを歩んでいればよかった。ところが、経済が成熟化し、先行きが不透明になると、企業が社員に対してキャリアパスを示すことが困難になり、代わりに社員が自ら自分のキャリアを開発することが求められるようになった。これをキャリア自律と言う。GEは、有名な「セッションC」や「9ブロック」に代表される従来の人事制度を抜本的に改め、上司と部下が日常業務の中で頻繁にコミュニケーションを図ることで部下の能力やコンピテンシーを伸ばし、部下のキャリア自律を支援するようになっている。

 日本企業にもこの流れが及んで、職業能力開発法が改正されたわけだが、キャリアコンサルティングに取り組んでいる企業の社員からは、「突然、自分のキャリアを自分でデザインせよと言われてもどうしてよいか解らない」、「企業がもっと方向性を明確に打ち出してくれないとキャリアデザインができない」といった困惑の声が聞かれる。企業が明確な方向性を示せないので、社員に方向性を打ち出させようとしているのに、実際には社員は企業に対して、以前にも増してはっきりとした方向性(戦略と言ってもよい)を示すことを要求している。

 私は、社員側の言い分にも十分な理由があると思う。おそらく、こういうことを言う社員がいる企業では、経営陣や人事部が「社員がやりたいことを自由に考えてよい」というメッセージを発しておきながら、いざ社員が自分のキャリアをデザインすると、「その仕事は我が社ではできない、やる機会・環境がない」などと言って突き返すだろうと社員が恐れているのである。社員にとってこれほど迷惑な話はない。顧客が商談の初期の段階で「御社の提案に従います」と言っておきながら、いざ仕様を細かく詰めていくと、「私(我が社)がほしいのはこんな製品・サービスではない」などと言い出す顧客とはつき合いたくないのと同じである。

 だから、逆説的であるが、社員がキャリア自律を実現するには、企業は(キャリアパスは無理でも、)少なくとも戦略は明確に打ち出す必要がある。経営陣は社員に対し、「我が社はこういう方向に進もうと考えている」と主張する。一方の社員は、「いや、私はこういう方向に進みたいと考えている」と言い返す(山本七平の言葉を借りれば「下剋上」である)。この「強烈なトップダウン」と「強烈なボトムアップ」が衝突するところに創発的な学習が生まれ、その結果として企業はより洗練された戦略を、社員はより高度なキャリア意識を手に入れることができる。

 企業は改正職業能力開発促進法によって、キャリアコンサルティングさえ実施していれば、方向性を考えるのは社員に任せればよいことになった、というわけでは決してない。むしろ、経営陣が戦略を入念に構想する責任は、以前よりも大きくなったと考えるべきである。この点を誤解してはならないと思う。
プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。これまでの主な実績はこちらを参照。

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、2,000字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
シャイン経営研究所HP
シャイン経営研究所
 (私の個人事務所)

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