こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント・トレーナー)のブログ別館。1,500字程度の読書記録の集まり。

2017年12月

渡部悦和『米中戦争―そのとき日本は』―中国軍には弱点が多いが米軍との差は確実に縮まっている


米中戦争 そのとき日本は (講談社現代新書)米中戦争 そのとき日本は (講談社現代新書)
渡部 悦和

講談社 2016-11-16

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 本書から中国軍の弱点を拾ってみた。

 <技術的弱点>
 ・中国海軍の潜水艦の能力は逐次向上しているが、敵の潜水艦を攻撃する能力=対潜水艦戦(ASW)能力に関しては著しく低く、そのため海上自衛隊や米海軍の潜水艦が東シナ海や南シナ海で比較的自由に活動することが可能となっている。中国は対潜哨戒ヘリZ-9C/DやZ-18Fを保有しているものの、エンジン性能が低く、航続距離も短く、対潜哨戒ヘリとしての能力は低い。また、中国の水上艦艇で可変深度ソナー(VDS)や戦術曳航式ソナーを装備している戦艦は少なく、水上艦艇のASW能力も低いと言わざるを得ない。

 ・中国の潜水艦は、米軍が保有する音響監視システム(SOSUS)などの広域にわたる潜水艦探知網によってその位置を常に監視されているが、逆に中国海軍はSOSUSのような水中センサーを一部しか整備していない。

 ・中国の第5世代機であるJ-31は米軍の第5世代機であるF-22やF-35に似ており、両者をコピーした可能性がある。ただし、J-31のエンジンではパワー不足で、旋回時にアフタバーナーを焚かなければ高度を維持できない。総じて中国のコピー機には優れたエンジンが不足している。そもそも、J-20やJ-31を第5世代機と宣伝したところで、アクティブ電子走査アレイ(AESA)レーダーという高性能レーダーを搭載していなければ、第5世代の基準に到達したとは言えない。

 ・空母キラーとして有名な対艦弾道ミサイルDF-21Dについて、中国はいまだに海上目標に対するDF-21Dの実射試験を実施していない。弾道ミサイルを実戦で運用するためには、キル・チェーン(ほぼリアルタイムで目標を発見、捕捉、追跡、ターゲティング、交戦(射撃)し、射撃の効果を判定するという意一連のプロセス)の全段階をコントロールする、完成された指揮・統制・通信・コンピュータ・情報・監視・偵察(C4ISR:Command、Control、Communication、Computer、Intelligence、Surveillance、Reconnaissance)システムが必要である。実際に機能するC4ISRシステムを中国軍が保有し、キル・チェーンの全期間を通じ実運用できる段階にあるかは大いに疑問符がつく。

 <組織的弱点>
 ・中国軍は伝統的に陸軍偏重である。しかし、海洋国家を目指す中国は、陸軍偏重からの脱却を図っている。

 ・人民解放軍は腐敗している。国防費のかなりの部分を個人や組織が流用し、本来ならば兵器の購入・整備、訓練のためにあてられるべき資金が消えてしまう。腐敗体質の原因は、かつての最高実力者・鄧小平が軍に認めた「軍独自のビジネス」にあると言われる。鄧小平は、経済成長を優先するために、国防費に充当する資金を制限した。その国防費の不足を補うために、鄧小平が中国軍の独自ビジネスを認め、結果的に軍の腐敗を助長させることになった。

 ・2015年12月31に発表された軍改革の大きな特徴は、60年以上続いてきた旧ソ連方式から米軍方式への転換であるとされている。組織体制を米軍に倣おうとするものだ。ところが、軍に対する共産党の指導制度が厳然として中国軍の組織内に存在している。それが政治委員制度である。政治委員制度では、軍内の監視・監督の任務を有する政治委員が配置されている。軍に軍人の指揮官と政治委員という2人の指揮官が存在する軍内二元指揮制度は今回の軍改革でも温存されており、これは旧ソ連方式である。

 ただ、これらの弱点があるからと言って、中国軍を見くびってよいわけではない。2015年秋に米国のランド研究所が発表した「米中軍事スコアカード」では、「台湾紛争」と「南シナ海紛争」について分析がなされている。具体的には、中国の航空基地攻撃能力、米軍の航空基地攻撃能力、米国対中国航空優勢、米国の空域突破能力、中国の対水上艦艇戦能力、米軍の対水上艦艇戦能力、中国の対宇宙能力、米軍の対宇宙能力、米国対中国サイバー戦、核の安定という10の項目について、米軍と中国軍の能力の優劣を時系列で評価している。

 これによると、台湾紛争については、20世紀末から21世紀初頭にかけて米軍が有利であったものの、2017年時点では米中の能力が拮抗している項目が増えており、項目によっては中国の方が米国を上回っている。台湾紛争に関しては、中国は距離的な近さを利用して、米国よりも優位に立てる分野があるということだ。一方、南シナ海紛争については、中国からの距離が遠くなるため中国軍の方が不利であり、米軍が圧倒的に優位に立っている。しかし、両者の差は徐々に縮まっている点に注意しなければならない。

 藤井厳喜、飯柴智亮『米中激戦!―いまの「自衛隊」で日本を守れるか』(ベストセラーズ、2017年)によると、米中間のMLCOA(Most Likely Course of Action:最も発生可能性が高い軍事衝突)は台湾紛争だとされている。その台湾紛争において、中国が米国と互角になりつつあることは衝撃的な発見である。もっとも、私は、台湾紛争によって米国が勝利し台湾が独立しても、中国が勝利し台湾を中国本土に組み込んでも、中国のファシズムが完成し、それが結果的に中国共産党の崩壊を招くだろうと予想している(以前の記事「陳破空『米中激突―戦争か取引か』―台湾を独立させれば中国共産党は崩壊する」を参照)。

米中激戦!  いまの「自衛隊」で日本を守れるか米中激戦! いまの「自衛隊」で日本を守れるか
藤井厳喜 飯柴智亮

ベストセラーズ 2017-05-26

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 本書では、自衛隊の強化についても述べられている。米中衝突のシナリオとしては、前述の台湾紛争、南シナ海紛争の他に、米中の全面戦争(米国はエア・シー・バトル(ASB)と呼んでいる)と尖閣諸島紛争が考えられる。ASBにおいては、米軍は第一列島線から一旦後退し、体制を整えてから中国に反撃することが想定されている。米軍が後退している間、中国からの攻撃に耐えなければならないのは、第一列島戦上に位置する国であり、当然のことながら日本も含まれる。また、尖閣諸島については、米国は日米安保の対象になると述べているものの、実際には米国が出てくることはなく、日本が独力で防衛することになると言われている。米国は、自国の領土を死守する気概を持たない国を庇護することはない。

 人の振り見て我が振り直せではないが、日本も中国軍を傍観するのではなく、自衛隊が有事の際に効果的に機能できる体制を整えておかなければならない。自衛隊の弱点については、ブログ本館の記事「『天皇陛下「譲位の御意向」に思う/憲法改正の秋、他(『正論』2016年9月号)』―日本の安保法制は穴だらけ、他」、「『正論』2017年11月号『日米朝 開戦の時/政界・開戦の時』―ファイティングポーズは取ったが防衛の細部の詰めを怠っている日本」などでも部分的に書いたが、探せばボロボロと出てくるに違いない。前掲の『米中激戦!―いまの「自衛隊」で日本を守れるか』でも、自衛隊の弱点が数多く指摘されている。

 本書の最後に書かれている次の文章は、非常に身につまされるものである。
 手足を縛りすぎた、この専守防衛というキャッチフレーズのために、国際的なスタンダードの安全保障議論がいかに阻害されてきたことか。集団的自衛権の議論、他国に脅威を与えない自衛力という議論、長距離攻撃能力(策源地攻撃能力)に関する議論、宇宙の軍事利用に関する議論など、枚挙にいとまがない。例えば、「他国に脅威を与えない自衛力」にこだわれば抑止戦略は成立しない。他国に脅威を与える軍事力があるからこそ、他国の侵略が抑止できるのである。

ダイアン・マルケイ『ギグ・エコノミー―人生100年時代を幸せに暮らす最強の働き方』―フリーランス中心の社会は理想とは思えない


ギグ・エコノミー 人生100年時代を幸せに暮らす最強の働き方ギグ・エコノミー 人生100年時代を幸せに暮らす最強の働き方
ダイアン・マルケイ 門脇 弘典

日経BP社 2017-09-22

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 「ギグ・エコノミー」とは、終身雇用ではなく、”ギグ(単発の仕事)”を基盤とした新たな労働・経済形態のことである。具体的にはコンサルティングや業務請負、アルバイト、派遣労働、フリーランス、自営業、副業、オンラインプラットフォームを介したオンデマンド労働などが該当する。

 アメリカでは、上記のような非伝統的な働き方をしている労働者は2005年の10%から2015年には15.8%へと、ここ10年で1.5倍に増加している。また、事業経営や個人事業による自営業所得・損失の納税申告に用いられる書式を提出した個人の割合は、1980年には約8.5%だったのに対し、2014年には16%強とほぼ倍増している。アメリカでは、フルタイムの社員を雇用すると、独立請負人と比べて人件費が3~4割高くなる。このような状況の中で、社員を独立請負人に切り替える流れがあらゆる業種で加速しているという。

 物凄くかいつまんで言えば、フルタイムの正社員として企業に終身雇用される時代は終わり、労働者の多くが個人事業主やフリーランスとして働く時代がやってくるということなのだろう。だが、私はそういう社会が理想だとはとても思えない。以前の記事「小笹芳央『モチベーション・マネジメント―最強の組織を創り出す、戦略的「やる気」の高め方』―モチベーションを高めるのは社員の責任」で、企業は現代最高の社会主義機関であると恨み節を書いたが、事実現代の企業こそ、社員の生活の安定と経済の成長を実現していると私は考えている。

 それを可能にしているのは、企業が個人では到底なし得ない大規模な仕事を完遂したり、高品質の製品・サービスを提供してくれたりするその組織力に対して顧客がプレミアムを支払うことについて、社会的に暗黙の了解が成立しているからである。また、企業が新製品開発やR&D活動を通じて、現在よりもさらに優れた製品・サービスを開発してくれることに対しても、顧客が期待をしプレミアムを支払うことに合意しているからである。そのプレミアムを分配することで、社員は安定した給与を受け取り、企業はイノベーションに投資することができる。

 フリーランス中心の社会とは、顧客がそのようなプレミアムを負担しない社会である。フリーランスにできる仕事の範囲はたかが知れている。その限定された仕事を安くやってくれれば十分であり、イノベーションなど全く期待されていない。独立請負人の方がフルタイムの正社員よりも人件費が3~4割安くなるのはそのためである。実際のところ、フリーランスの現状は非常に厳しい。中小企業庁が発表している『小規模事業白書(平成28年度版)』によると、フリーランスとして得ている収入が300万円未満という人の割合は実に56.7%に上る。

 フリーランスは、収入が少ないにもかかわらず、やらなければならないことだけはやたらと多い。『上司が鬼とならねば部下は動かず』で知られる染谷和巳氏は、『致知』2018年1月号の中で次のように述べている。
 サラリーマンの中には、独立して自由に仕事をする芸術家や職人に憧れている人がいる。営業ノルマもなく誰にも束縛されずに、マイペースで仕事をしている姿を羨ましく思うのだろう。しかし、それは幻想である。芸術家や職人がその道でやっていこうと思えば、技術はもとより、資金力、得意先との人間関係構築能力、営業力などあらゆる力を駆使できなくてはいけない。(中略)多くの人が独立後、それまで自分がいかに恵まれた環境に身を置いていたかに気づき後悔の涙を流しているのである。現実の社会は決して甘いものではない。
(染谷和巳「仕事観の確立が人を育てる」)
致知2018年1月号仕事と人生 致知2018年1月号

致知出版社 2018-01


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 最近は大企業を中心に、副業解禁の動きが広がっている。私は、正社員という本業を持ちながら、収入の足しになるようにとフリーランスの仕事をすることについては何も言わない。むしろ、普段勤めている企業とは異なる視点で仕事ををすることが、その人の創造力を大いに刺激するかもしれない。だが、フリーランスが中心となるような社会に対しては警鐘を鳴らしたいと思う。フリーランス中心の社会では、多くの労働者が不安定な収入に悩まされ、イノベーションが止まる。政府は、新種の巨大な社会不安に対処するのに苦労するに違いない。
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プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都豊島区を拠点に、東京23区で活動する中小企業診断士(コンサルタント・トレーナー)。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、1,500字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
所属組織など
◆個人事務所
 「シャイン経営研究所」◆ シャイン経営研究所ロゴ

(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)
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