こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント・トレーナー)のブログ別館。2,000字程度の読書記録の集まり。

2018年04月

高橋透『勝ち抜く戦略実践のための競合分析手法』―競合他社の将来の戦略を予測した上で競争戦略を立てることの重要性


勝ち抜く戦略実践のための 競合分析手法勝ち抜く戦略実践のための 競合分析手法
高橋透

中央経済社 2015-01-21

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 競合他社の分析に絞った本はなかなかないと思う。まず、企業のHP、プレスリリース、製品・サービスのカタログや説明書、IR情報、新聞・雑誌の記事といった公知情報を分析する。もし、競合他社の製品・サービスを購入・利用することが可能であれば、一ユーザとして購入・利用してみる。ただし、新聞・雑誌の記事は、取材対象企業をよく見せるために内容が”盛られている”ことがある。また、IR情報の中の決算情報は粉飾されているかもしれない。こうした嘘を見破る方法について解説されているとよかったと思う。

 おそらく、この手の嘘を見破るのが上手なのが欧米のインテリジェンス機関であろう。元外交官で作家の佐藤優氏によると、インテリジェンスの9割は公知情報によるのだという。ただし、その情報を鵜呑みにはせず、その情報が書かれた意図、複数の情報の整合性などを分析し、本当の真実をあぶりだす術に長けている。日本企業も彼らの手法に学ばなければならないのかもしれない。

 日本企業はインテリジェンスがそれほど得意ではないため、競合他社を直接観察することによって弱みをカバーしようとする。私が聞いた話では、ある大手スーパーは、新店舗の出店が決まると1年がかりで競合他社を調査するらしい。商圏内の他のスーパーの品揃えや価格はもちろん調査する。その上で、調査員は街角に立って、通り過ぎる買い物客の手提げ袋の中を観察する。スーパーが何を売っているのかではなく、顧客が実際に何を買っているのかを調査するのである。これだけでは飽き足らず、さらに商圏内にある集合住宅のゴミ箱の中まで漁る。顧客が何を買ったのかに加え、顧客が何を使い、何を捨てたのか(使わなかったのか)まで徹底的に調べ上げるというわけだ。

 私は中小企業診断士なので、顧客企業には中小企業が多いのだが、中小企業の競合他社分析は現実には非常に難しいと感じている。まず、公開情報がほとんど存在しない。飲食店やスーパーなどBtoCの企業であれば、競合他社の製品・サービスを購入・利用することもできるが、下請の製造業のようなBtoBの企業となるとそれもほとんど不可能になる。残るは、社員が持っている情報を活用するか、信用調査会社を利用することぐらいしかない。

 社員、特に営業担当者は、日々の営業活動の中で、断片的ながら競合他社の情報を取得している。それらを総合して分析を行う。経営者は是非、営業担当者に対して、「この商談で競合となっているのはどういう企業か?」、「競合他社はどんな提案を行っているか?」、「競合他社の提案は我が社と比べてどうか?」などを見込み顧客から聞き出すようにプッシュしていただきたい(それができずに失敗した例を、ブログ本館の記事「DHBR2018年4月号『その戦略は有効か』―前職のベンチャー企業の戦略が有効でなかった7つの理由」で書いた)。

 信用調査会社は上手に使う必要がある。調査の目的をはっきりさせずに依頼すると、財務諸表の情報しか得られないという結果になる。競合他社の仕入先はどこなのか?工場の設備はどうなっているのか?工場の稼働状況はどうか?主要な顧客企業はどこか?エンドユーザは誰か?顧客企業・エンドユーザからの評判はどうか?経営者はどのような人柄か?社風はどうなっているのか?など、知りたい項目を明確にした上で調査会社に依頼するべきである。特に、「顧客企業・エンドユーザからの評判」を知りたい場合には、当該企業の調査だけでなく、当該企業の顧客企業やエンドユーザに対するヒアリングも含める必要がある(ただし、その分調査費用はかなり上がる)。

 本書の特徴は、戦略を立案するにあたって、競合他社の戦略の変化を先読みした上で競争戦略を立てるべきだとしている点である。ブログ本館の記事「【戦略的思考】SWOT分析のやり方についての私見」で、戦略立案の外部環境アプローチについて整理したが、この視点がすっぽりと抜けていたことに気づき、反省した。そこで、ブログ本館の別の記事「ものづくり補助金(平成29年度補正予算)申請書の書き方(1)(2)」では、将来の5か年計画を立てる際に、競合他社の増加を見込んで毎年の目標市場シェアを立てるという手法を取った。

 ただ、これでも不十分である。一般的な戦略立案プロセスでは、競合他社の”現在の”ポジショニングに基づいて差別化ポイントを定めることとされている。そうではなく、事業環境の変化を受けて、競合他社がどのようにポジショニングを”変更”するかを予測し、競合他社の”将来の”ポジショニングに基づいて差別化ポイントを決めなければならない。この点が本書で力説されていることである。とはいえ、競合他社の将来の行動を読むのは簡単ではない。競合他社の経営陣の思考・行動様式や、組織に根づいている価値観・文化に対する理解が求められる。アメリカの本であれば、ここでシナリオ・プランニングの手法やゲーム理論を持ち込むのだろうが、残念ながら本書はそこまで踏み込んでいなかった。

DHBR2018年5月号『会社はどうすれば変われるのか』―無印良品が日本の家電メーカーと同じ轍を踏まないか心配


ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2018年 5 月号 [雑誌] (会社はどうすれば変われるのか)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2018年 5 月号 [雑誌] (会社はどうすれば変われるのか)

ダイヤモンド社 2018-04-10

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 《参考記事(ブログ本館)》
 DHBR2018年5月号『会社はどうすれば変われるのか』―戦略立案プロセスに組織文化の変革を組み込んで「漸次的改革」を達成する方法(試案)、他
 私は2008年に社長に指名されるとまず、ブランド体験―店内に一歩足を踏み入れた瞬間から、商品を購入し使用するまで―を世界のどこであろうとまったく同じものにすることを優先事項の1つに据えた。

 そのために店舗デザイン、レイアウト、商品管理の基準を定める部署を設けたほか、店頭に立つスタッフへの研修内容を統一し、現地で採用した店長のうち数人を、東京本社に呼び寄せて指導した。物流、会計、商品管理を合理化し、同じデータを共有できる体制も整えた。当社がいま製造販売している商品は7000を超えるが、特定の国や地域向けのカスタマイズや調整は行っていない。
(金井政明「コンセプトの実現を第一とする事業戦略 無印良品(MUJI):グローバル展開の軌跡」)
製品・サービスの4分類(①大まかな分類)

【修正版】製品・サービスの4分類(各象限の具体例)

製品・サービスの4分類(③具体的な企業)
 上図については、ブログ本館の記事「「製品・サービスの4分類」に関するさらなる修正案(大分完成に近づいたと思う)」、「『一橋ビジネスレビュー』2018年SPR.65巻4号『次世代産業としての航空機産業』―「製品・サービスの4分類」修正版(ただし、まだ仮説に穴あり)」をご参照いただきたい。

 無印良品が扱っている製品の大部分は、左下の<象限①>に属する。上図をご覧いただいてお解りの通り、<象限①>は衣食をはじめ、生活に密着した必需品で構成されている。これらの製品・サービスは、消費者の属性、嗜好、価値観、行動様式、ライフスタイルに応じてカスタマイズされることが多い。つまり、少品種大量生産による企業の大規模化にあまり向いていない。そのため、<象限③>ではGoogleやAppleのような超巨大なグローバル企業が、<象限②>ではジョンソン・エンド・ジョンソン、GEのようなグローバル企業が登場しているのに対し、<象限①>においては大企業の出現が限定される。

 良品計画の海外事業は目下絶好調である。だが、引用文にあるように、製品を特定の国・地域向けに全くカスタマイズしていないという点が個人的には気にかかる。良品計画は長らく、「ムダのないシンプルな製品だが、生活の質の向上に貢献するもの」を目指してきた。しかし、「何がムダなのか?」、「シンプルさとは何か?」、「生活の質の向上とは何を指すのか?」といった問いに対する答えは、国や地域ごとに違うはずである。その答えは、定量的な市場調査だけでは絶対に解らない。実際に顧客の生活の中に深く入り込み、時間をかけて顧客の言動をじっくりと洞察する中でじわじわと実感できることである。

 良品計画が最新の経営計画の中で重視しているのは、「感じよい暮らし」だそうだ。別の表現で言うと、「共同体の一員として、簡素かつ丁寧に和をもって生活する」ということらしい(同論文より)。これにしても、「共同体とは何か?」、「簡素かつ丁寧な暮らしとは何か?」、「和とは何か?」といった問いが頭をもたげてくる。日本と中国では共同体の意味するところが異なることは容易に想像できる。今まで良品計画は、中国の中でも日本の都市と価値観が近い地域を中心に出店を重ねてきたのだろう。ところが、今後さらに出店を進め、地方にも店舗を展開するようになると、間違いなく日本と中国のライフスタイルの違いに直面する。

 底流にあるコンセプトは統一されていても構わないが、それが製品という形になった場合には、国や地域の差異を反映したものでなければならないだろう。それを怠って、「日本で売れているから、海外でも通用するはずだ」という考えで海外展開をするのは、<象限①>に属する家電メーカーがかつてたどった道と同じだ。そして、そのような家電メーカーが、徹底的な現地調査を武器としたサムスン電子などの海外メーカーに敗れ去ったことを思い出す必要がある(あまりにも有名な例だが、サムスン電子はインド市場にテレビを投入する時、インド人が国民的競技であるクリケットの試合の途中経過を常に気にすることを発見して、テレビの隅に常時クリケットの試合経過を表示させるようにカスタマイズした)。

 (※)なお、上図においてサムスン電子を<象限①>ではなく<象限③>に位置づけているのは、サムスン電子の3事業(デバイスソリューション、消費者家電、スマートフォン)のうち、スマホ向け半導体が好調なデバイスソリューション事業の売上高が最も大きく、次いでスマートフォン事業が続くためである。

 上図の<象限①>には、スイスのネスレが入っている。ネスレは徹底的な分権化と現地法人への権限移譲を行っていることで知られる。各国の現地法人は、現地のニーズを丁寧に汲み取って、それを製品に反映させることが許されている。だから、あのキットカットも、国によってパッケージデザインや味が異なる。ネスカフェアンバサダーは、日本だけが実施しているサービスである。

 ところで、元々無印良品は西友のプライベートブランドとして出発した。良品計画として分離された後、西友はウォルマートと包括的な資本・業務提携を締結した。ウォルマートは周知の通り、店舗ごとのカスタマイズを許さず、パッケージ化された店舗を量産して急成長した企業である。私は、良品計画はネスレを目指すべきだと思っているが、果たして同社がネスレ路線に切り替えるのか、それともこのままウォルマート路線を走るのかは今後要注目である。

日経連出版部『外資系企業の評価システム事例集』―外資系企業でもチーム重視だと能力評価になる


外資系企業の評価システム事例集 (ニュー人事シリーズ)外資系企業の評価システム事例集 (ニュー人事シリーズ)
日経連出版部

日本経団連出版 1999-08

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 以前、ブログ本館で『これからの人事評価と基準―絶対評価・業績成果の重視』を紹介した際に、次の文を引用した。
 年功序列制度は、チームワークの優劣が組織の業績を左右する企業であれば、現在でも有用である。(中略)ある企業では、現在でも、年功序列型の人事制度を固守し、成功している。この場合、賃金処遇ではほとんど差がつかないが、仕事の内容で光の当たる部分と、やや光の当たりにくい、地味な部分があるだけなのである。この職場の雰囲気は、足の引っ張り合いがなく、チームワークは良い。また、ノウハウを共有できる特徴がある。
 その上で、近年は欧米でもチームワークが重視されているから、成果給・業績給よりも年功制の方が向いているのではないかと書いた。厳密な意味での年功制は、年齢のみによって給与が決まるため、人事考課を必要としない。ただし、多少は給与に差をつけた方がよいだろうということで、人事考課において能力を評価するようになった。こうしてでき上がったのが職能資格制度である。

 本書が出版されたのは1999年である。欧米から成果主義が流入し、大企業をはじめ多くの企業で成果主義が導入された時期である。それだけに、成果主義的な人事制度の事例紹介が多いかと思いきや、意外と能力重視の人事制度を採用している外資系企業もあることに気づかされる。

 例えば、プライス・ウオーターハウス・コンサルタントは大手コンサルティングファームであり、完全な成果主義が導入されていてもよいように思えるが、チーム(プロジェクト)を中心として動く同社は能力評価を重視している。同社では、社員に求める能力を4領域、28項目とかなり細かく設定している。そして、その28の能力項目について5段階評価を行い、能力ポイントが一定の基準を超えるとマネジャーに昇進することができる仕組みとなっている。

 また、同社は社員の能力開発にも注力しており、コーチングシステムが整備されている。社員には上司とは別にコーチがつく。そして、コーチは期初にコーチー(コーチングを受ける人のこと)の能力開発目標を設定し、期末になれば目標の達成度合いと次期に向けた課題を確認する。一般的なメンタリング制度がメンティー(メンタリングを受ける人のこと)の中長期的なキャリア開発を支援するのに比べると、同社のコーチングシステムは短期志向であり、より業務と密接に関連した能力開発を促しているように見える。

 アパレルのSPAであるGAPでは、ビジネス目標40%、対人関係目標40%、能力開発目標30%という比重で人事考課を行っている。対人関係目標というのがユニークであるが、これは部下を持つマネジャーの場合は、部下の育成に焦点を当てた目標が設定される。部下を持たない社員の場合は、自分の同僚やビジネスパートナーに模範を示すことが求められ、それが目標に落とし込まれる。

 能力開発目標は30%と他に比べると比重が低いものの、その評価プロセスは厳密に定められている。同社はハイパフォーマーのコンピテンシーを分析し、11の能力を特定した。同社の能力開発プランニングでは、まず本人が11の能力について自己評価を行い、能力開発計画を作成する。マネジャーはこの能力開発プランに対して適切なアドバイスを行う。期末に能力開発計画の結果を評価する際、その内容が単に人事考課に用いられるだけでなく、同社内の各ポジションの後継者育成計画(サクセッションプラン)にも活用される点が特徴的である。

 ニッポンリーバ(ユニリーバの日本営業会社)の場合はもっと極端である。同社では人事考課制度をストレートに「能力開発計画」と呼んでいる。本書には同社を含め、各社が使用している人事評価関連の雛形がいくつか掲載されているのだが、同社の雛形を見ると、能力開発目標の設定とその評価に大きく比重が置かれていることがうかがえる(書くスペースが他社に比べ圧倒的に広い)。

 もちろん、成果主義が流行した時代に出版された外資系企業の人事制度の事例集であるから、業績給を中心としている企業も少なくない。ただし、基本給の中に固定部分と業績に応じた変動部分があるのは、私にとっては不自然に映る。ブログ本館の記事「元井弘『目標管理と人事考課―役割業績主義人事システムの運用』―言葉の定義にこだわる割には「役割業績給」とは何かが不明なまま」でも書いたように、基本給は能力と連動する「投資型」、賞与は業績と連動する「精算型」というのが原則であるからだ。

 また、業績評価の結果から最終的な考課結果や報酬を決定するロジックが公開されている事例もあるものの、どのような根拠によってそれらの数式や係数が用いられているのかが不明である。チームワークを重視すればするほど、チーム全体の業績を個人の業績に分解すせるのは難しくなる。それを強引にやろうとすれば、計算式がどうしても複雑怪奇になる。

 人事制度は解りやすいものにすることが大切である。その意味で、チームワークを重視するならば、業績ではなく能力を中心とした評価の方が理にかなっている。もちろん、能力を評価する場合でも、その能力が本人に固有のものなのか、周囲の支援によって発揮されたものなのかを判別しなければならない。ただ、業績評価の場合、チーム全体の業績が100として、ある社員の貢献度合いが20%なのか30%なのかを決めるのは大変な困難を伴うのに対し、能力評価の場合、ある能力が本人固有のものであれば「5」、周囲のサポートを受けたのであれば「3」などと明快に決めることができる点で納得感が高いと思う。

『一橋ビジネスレビュー』2018年SPR.65巻4号『次世代産業としての航空機産業』―「子会社間のマネジメント」とは何か?


一橋ビジネスレビュー 2018年SPR.65巻4号: 次世代産業としての航空機産業一橋ビジネスレビュー 2018年SPR.65巻4号: 次世代産業としての航空機産業
一橋大学イノベーション研究センター

東洋経済新報社 2018-03-19

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 本号のケーススタディから1本記事を書いてみたいと思う。本号ではエア・ウォーター株式会社が取り上げられていた。同社は産業ガスを主力としてきた企業である。産業ガスとは、鉄鋼や化学、医療などの目的に使用されるガスで、例えば工場の製造工程などに用いられてきた。しかし、国内の大規模工場建設が少なくなってから、産業ガスのビジネスも大きな成長が見込めなくなっている。同社は次の成長の源泉をM&Aに見出した。

 ケミカル関連事業では大型のM&Aを行った。当初は本業の産業ガスと関連性の高い無機化学に注力していたものの、2001年以降はタール蒸留製品や医薬中間体など有機化学へとシフトしていった。一方で、医療関連事業、エネルギー関連事業、農業・食品関連事業、その他の事業では比較的小型のM&Aを多数実施した。これらのM&A活動によって、同社は産業ガス中心の企業から、非常に多角化された企業へと変貌した。

 エア・ウォーターグループの特徴は次のように集約される。
 子会社間のネットワークを創出し、そのネットワークを活用して子会社間が自律的に成長していく仕組みを作り出した。すなわち、エア・ウォーターによるM&A活動の核心部分は、本社と子会社のマネジメントではなく、子会社間のマネジメントである。
 この「子会社間のマネジメント」とは具体的に何か?(MBAの講義ではこういう点を徹底的に議論するのだろう)。個人的には、次の5つを指すと考える。

 第1に、これが何よりも重要なのだが、グループ全体の経営理念(Vision)、行動規範(Values)をベースとして、それぞれの子会社が独自の経営理念や行動規範を策定することである。しかも、各子会社が各々の社内に閉じてそれらを議論するのではなく、各子会社の経営陣などキーパーソンが集まって、喧々諤々と議論しながら、自社の経営理念や行動規範を定めていく。独自の経営理念や行動規範は、その企業の強みの源泉となる。

 また、経営理念や行動規範の多様性は、エア・ウォーターグループ全体の競争力向上にもつながる。なぜなら、異質な子会社同士の協働によって、新しい価値が創造される余地が生まれるからだ。ただし、全くの異質では子会社の間でコミュニケーションが成立しない。グループ全体の経営理念や行動規範をコミュニケーションの共通基盤としなければならない。そこに、その子会社ならではのオリジナリティを加えていくことで異質を形成する。これは、近年の流行であるダイバーシティ・マネジメントを子会社間のレベルで行うことを意味する。

 私が新卒入社した企業は、アビームコンサルティング株式会社の子会社であった。私が就職活動をしていた時には、住商情報システム株式会社との合弁会社で、株式会社SCSアビームテクノロジーという名前であった。同社は、親会社の顧客以外にERPパッケージを独自販売していくと意気込んでおり、その方針に共感して私は入社を決めた。ところが、いざ入社する直前になって、アビームコンサルティングの100%子会社になることが決まり、社名も株式会社アビームシステムエンジニアリング(ASE)となった。入社してみると、やっている業務は親会社と全く一緒であった。私は親会社の社員を名乗って、顧客企業の開発現場に入り込み、親会社の社員と同じようにプログラミングをしていた。

 「これでは何のためにASEがあるのか解らない」という現場からの突き上げもあって、経営陣は慌てて経営理念を策定した。それは「親会社であるアビームコンサルティングのために、品質の高い情報システムを構築する」というものであった。私はこの経営理念の魅力のなさに失望して、ASEを1年ちょっとで退職してしまった。その後も、アビームコンサルティングとASEの業務の重複問題は解決されず、私が退職してから数年後に、ASEはアビームコンサルティングに吸収合併された。子会社を持つということは、そのレゾンデートル(存在意義)をよく突き詰めなければならないことを教えてくれた1件であった。

 話を元に戻そう。子会社間のマネジメントの第2は、共通顧客に対するトータルソリューションの提供である。子会社の数が増えてくると、同じ顧客に対して別々の子会社がバラバラにアプローチすることが往々にして起きる。営業を受ける顧客にとっては迷惑な話である。そこで、それぞれの子会社の顧客情報を共有し、ある子会社が抱えている案件に対して、さらに付加価値をもたらす製品・サービスを持っている子会社は、共同で顧客にアプローチする。子会社がバラバラに製品・サービスを顧客に導入するよりも、最初からトータルソリューションとして設計することで、単なる総和以上の価値を顧客に提供することが可能となる。

 第3は、適材適所や人材育成を目的とした子会社間での人事異動の実施である。例えば、医療関連事業の子会社にいるある社員が、エネルギー関連事業の子会社の仕事に向いている(あるいは本人がエネルギー関連事業の仕事を希望している)場合には、企業の枠を超えて人事異動を行う。また、ケミカル関連事業にいるある社員を将来的に経営幹部にするために、農業・食品関連事業でマネジメントの経験を積ませる、ということもあるだろう。こうした人事異動を実施するためには、子会社全体の社員の能力と能力開発計画、予定されているキャリアパスに関する情報をデータベースで一元管理する必要がある。

 第4は、ケイパビリティの補完である。第1でそれぞれの子会社の強みは明らかにしたが、当然のことながら各子会社には弱みもある。それを他の子会社の強みで補うのが目的である。各子会社の強みが多様であればあるほど、相互協力の可能性は広がる。例えば、共同マーケティングの実施、製造ラインの共有、調達の一元化、在庫管理システムの統合、物流網の相互利用などが挙げられる。これらの協業を可能にするには、常日頃から子会社の経営陣がハイレベルのコミュニケーションを取り、お互いの事業を深く理解しておくことが必要となる。

 第5は、各子会社の業績を相互にオープンにする仕組みの構築である。第一の目的は、子会社間の競争を刺激することである。ただし、これまで述べてきたように、エア・ウォーターグループの子会社は相互に協力する場面が多い。そこで、この業績管理システムは、他の子会社から受けた支援や、他の子会社に対する支援の度合いを可視化できるように設計する。そうすることで、子会社間の協業を促進するという第二の目的を達成することができる。

 エア・ウォーターでは子会社間のマネジメントが自律的に行われているとあるが、以上の5つはどれをとっても非常に大がかりである。よって、子会社の中に幹事会社が存在すると想定される。おそらく、子会社の中でも規模の大きいケミカル関連事業の子会社のうち1社ないしは複数社が中心となって、子会社間のマネジメントを推進していると思われる。子会社間のマネジメントが成熟してくれば、幹事会社の役割を他の事業の子会社に引き継ぐことも考えらえる。

『正論』2018年3月号『親北・反日・約束破り・・・/暴露本「炎と怒り」で話題沸騰』―なぜ拉致問題は解決しないのか?


月刊正論 2018年 03月号 [雑誌]月刊正論 2018年 03月号 [雑誌]
正論編集部

日本工業新聞社 2018-02-01

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 安倍:拉致問題に取り組んでいる私に対し、「変わっている」という視線が自民党の中でもあったのは事実です。安倍政権が6年目を迎える今においても解決できていないのは痛恨の極みですが、安倍政権の使命としてこれからも全力を傾けて行きたいです。
(安倍晋三、櫻井よしこ他「戦後のタブーを破れ!安倍政権」)
 安倍首相が早くから拉致問題に取り組んできたことは、著書『美しい国へ』で述べられている。だが、第2次安倍政権になってから6年近くが経っても、拉致問題は解決するどころか、一歩も進展していないように感じる。3月に南北首脳会談が行われ、4月の終わりから5月の頭にかけて米朝首脳会談が開催される見通しとなった。拉致被害者はこれを「千載一遇のチャンス」ととらえているようだが、残念ながら米朝首脳会談で拉致問題が解決することはないだろう。

美しい国へ (文春新書)美しい国へ (文春新書)
安倍 晋三

文藝春秋 2006-07

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 アメリカが目指すのは北朝鮮の非核化である。外交における交渉とは、お互いに対称的な手持ちのカードを切り合うことであるから、非核化を要求された北朝鮮はアメリカに相応の見返りを求める。その見返りとは在韓米軍の撤退である。そうすれば、北朝鮮はアメリカの脅威を朝鮮半島から消すことができる。

 ところで、南北首脳会談の時に、金正恩委員長は満面の笑みを浮かべていた。韓国・文在寅大統領の親書の内容に十分に満足したからであろうが、それは「韓国は将来的に韓米同盟の破棄を検討する」という密約が含まれていたためではないかと推測する。アメリカもそのぐらいのことは解っていて、在韓米軍を撤退させれば米韓同盟の破棄につながり、ゆくゆくは南北が統一されると思っている。それでも、非核化を優先するならば、韓国を見捨てる可能性もある。そして、非核化が実現すれば、アメリカは北朝鮮に課していた制裁を解除する。

 ここでのポイントは、アメリカが課している制裁は、北朝鮮の核が原因であるという点である。前述のストーリーの通り、アメリカは「核を放棄すれば、(その核が理由となっている)制裁を解除してやる」と考えている。そこに日本が非対称な拉致問題を持ち込むと、交渉がおかしなことになる。「核と拉致の問題を解決すれば、核が理由となっている制裁を解除してやる」という奇妙奇天烈な論理になってしまう。下手をすれば、北朝鮮が態度を硬化させ、実現の可能性もあった非核化すら水泡と化す恐れがある。だから、日本がアメリカに便乗してこの機会に拉致問題を解決しようというのはあまりに無謀かつ危険である。

 トランプ大統領は拉致問題に一定の理解を示しているように見せかけているが、大半のアメリカの政治家とアメリカ人にとっては、日本の拉致問題など関心がない。だから、日本は別のアプローチで拉致問題を解決するしかない。

 日本は、国連人権理事会などで、EUとともに北朝鮮の人権問題を取り上げてきた。日本は、拉致問題という狭い範囲でこの問題をとらえるのではなく、拉致問題よりももっと根が深い北朝鮮の人権問題について、国際社会と連携し(「国際社会と連携」という言葉は安倍首相がよく使うが、所詮は「アメリカとの連携」を意味するにとどまっている)、安保理決議へと持っていく必要がある。ただし、このアプローチを取る場合、日本だけが抜け駆けして拉致問題を解決することは困難になる。北朝鮮の人権問題の被害となっている全ての国と連携し、被害の実態について十分な理解を示し、各国の歩調を揃えなければならない。安倍首相に、いや今の日本の政治家に、この一大プロジェクトを主導できるだろうか?

 拉致問題は「解決できない」のではなく、拉致問題は「解決したくない」のだと言う人がいる。最も簡単に思いつく理由としては、拉致問題が票になるからであろう。不破利晴「安倍首相は解決を望んでいない!? 北朝鮮による日本人拉致問題の『闇』」(『MONEY VOICE』2016年7月10日)にはこう書かれていた。
 拉致被害者は政治家の「集票マスコット」
 さらに政治家に至っては始末に負えない。政治家と握手をしようものなら必ず写真を撮られ、翌日のHPにはアップされてしまう。「私は拉致問題に取り組んでますよ」といった政治家のPRに利用されてしまうのだ。

 また、講演会をやろうものなら、どこで聞き及んだのか地元の政治家が挨拶をさせてくれと押しかけ、それで握手をしたと思ったら講演も聞かずに帰ってしまう。

 同様に、政治家に講演に来てくれと呼ばれれば、その政治家の政策報告会とセットになっている。蓮池透氏はまるで政治家の“集票マスコット”のようだったと告白している。
 だが、これだけ拉致問題が長引くと、国民の関心も薄れてしまい、拉致被害者とその家族にとっては酷な話だが、票を集めるネタにならなくなる。となると、日本政府や政治家、官僚の間にかなりの数の北朝鮮工作員が紛れ込んでいて、拉致問題が解決すると困る人が相当数いるのではないかという仮説が頭をもたげてくる。ただ、これはあまりにダークな世界であり、今の私の手には負えない。
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プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都豊島区を拠点に、東京23区で活動する中小企業診断士(コンサルタント・トレーナー)。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、2,000字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
所属組織など
◆個人事務所
 「シャイン経営研究所」◆ シャイン経営研究所ロゴ

(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)
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