こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント・トレーナー)のブログ別館。2,000字程度の読書記録の集まり。

2018年04月


高橋透『勝ち抜く戦略実践のための競合分析手法』―競合他社の将来の戦略を予測した上で競争戦略を立てることの重要性


勝ち抜く戦略実践のための 競合分析手法勝ち抜く戦略実践のための 競合分析手法
高橋透

中央経済社 2015-01-21

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 競合他社の分析に絞った本はなかなかないと思う。まず、企業のHP、プレスリリース、製品・サービスのカタログや説明書、IR情報、新聞・雑誌の記事といった公知情報を分析する。もし、競合他社の製品・サービスを購入・利用することが可能であれば、一ユーザとして購入・利用してみる。ただし、新聞・雑誌の記事は、取材対象企業をよく見せるために内容が”盛られている”ことがある。また、IR情報の中の決算情報は粉飾されているかもしれない。こうした嘘を見破る方法について解説されているとよかったと思う。

 おそらく、この手の嘘を見破るのが上手なのが欧米のインテリジェンス機関であろう。元外交官で作家の佐藤優氏によると、インテリジェンスの9割は公知情報によるのだという。ただし、その情報を鵜呑みにはせず、その情報が書かれた意図、複数の情報の整合性などを分析し、本当の真実をあぶりだす術に長けている。日本企業も彼らの手法に学ばなければならないのかもしれない。

 日本企業はインテリジェンスがそれほど得意ではないため、競合他社を直接観察することによって弱みをカバーしようとする。私が聞いた話では、ある大手スーパーは、新店舗の出店が決まると1年がかりで競合他社を調査するらしい。商圏内の他のスーパーの品揃えや価格はもちろん調査する。その上で、調査員は街角に立って、通り過ぎる買い物客の手提げ袋の中を観察する。スーパーが何を売っているのかではなく、顧客が実際に何を買っているのかを調査するのである。これだけでは飽き足らず、さらに商圏内にある集合住宅のゴミ箱の中まで漁る。顧客が何を買ったのかに加え、顧客が何を使い、何を捨てたのか(使わなかったのか)まで徹底的に調べ上げるというわけだ。

 私は中小企業診断士なので、顧客企業には中小企業が多いのだが、中小企業の競合他社分析は現実には非常に難しいと感じている。まず、公開情報がほとんど存在しない。飲食店やスーパーなどBtoCの企業であれば、競合他社の製品・サービスを購入・利用することもできるが、下請の製造業のようなBtoBの企業となるとそれもほとんど不可能になる。残るは、社員が持っている情報を活用するか、信用調査会社を利用することぐらいしかない。

 社員、特に営業担当者は、日々の営業活動の中で、断片的ながら競合他社の情報を取得している。それらを総合して分析を行う。経営者は是非、営業担当者に対して、「この商談で競合となっているのはどういう企業か?」、「競合他社はどんな提案を行っているか?」、「競合他社の提案は我が社と比べてどうか?」などを見込み顧客から聞き出すようにプッシュしていただきたい(それができずに失敗した例を、ブログ本館の記事「DHBR2018年4月号『その戦略は有効か』―前職のベンチャー企業の戦略が有効でなかった7つの理由」で書いた)。

 信用調査会社は上手に使う必要がある。調査の目的をはっきりさせずに依頼すると、財務諸表の情報しか得られないという結果になる。競合他社の仕入先はどこなのか?工場の設備はどうなっているのか?工場の稼働状況はどうか?主要な顧客企業はどこか?エンドユーザは誰か?顧客企業・エンドユーザからの評判はどうか?経営者はどのような人柄か?社風はどうなっているのか?など、知りたい項目を明確にした上で調査会社に依頼するべきである。特に、「顧客企業・エンドユーザからの評判」を知りたい場合には、当該企業の調査だけでなく、当該企業の顧客企業やエンドユーザに対するヒアリングも含める必要がある(ただし、その分調査費用はかなり上がる)。

 本書の特徴は、戦略を立案するにあたって、競合他社の戦略の変化を先読みした上で競争戦略を立てるべきだとしている点である。ブログ本館の記事「【戦略的思考】SWOT分析のやり方についての私見」で、戦略立案の外部環境アプローチについて整理したが、この視点がすっぽりと抜けていたことに気づき、反省した。そこで、ブログ本館の別の記事「ものづくり補助金(平成29年度補正予算)申請書の書き方(1)(2)」では、将来の5か年計画を立てる際に、競合他社の増加を見込んで毎年の目標市場シェアを立てるという手法を取った。

 ただ、これでも不十分である。一般的な戦略立案プロセスでは、競合他社の”現在の”ポジショニングに基づいて差別化ポイントを定めることとされている。そうではなく、事業環境の変化を受けて、競合他社がどのようにポジショニングを”変更”するかを予測し、競合他社の”将来の”ポジショニングに基づいて差別化ポイントを決めなければならない。この点が本書で力説されていることである。とはいえ、競合他社の将来の行動を読むのは簡単ではない。競合他社の経営陣の思考・行動様式や、組織に根づいている価値観・文化に対する理解が求められる。アメリカの本であれば、ここでシナリオ・プランニングの手法やゲーム理論を持ち込むのだろうが、残念ながら本書はそこまで踏み込んでいなかった。

DHBR2018年5月号『会社はどうすれば変われるのか』―無印良品が日本の家電メーカーと同じ轍を踏まないか心配


ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2018年 5 月号 [雑誌] (会社はどうすれば変われるのか)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2018年 5 月号 [雑誌] (会社はどうすれば変われるのか)

ダイヤモンド社 2018-04-10

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 《参考記事(ブログ本館)》
 DHBR2018年5月号『会社はどうすれば変われるのか』―戦略立案プロセスに組織文化の変革を組み込んで「漸次的改革」を達成する方法(試案)、他
 私は2008年に社長に指名されるとまず、ブランド体験―店内に一歩足を踏み入れた瞬間から、商品を購入し使用するまで―を世界のどこであろうとまったく同じものにすることを優先事項の1つに据えた。

 そのために店舗デザイン、レイアウト、商品管理の基準を定める部署を設けたほか、店頭に立つスタッフへの研修内容を統一し、現地で採用した店長のうち数人を、東京本社に呼び寄せて指導した。物流、会計、商品管理を合理化し、同じデータを共有できる体制も整えた。当社がいま製造販売している商品は7000を超えるが、特定の国や地域向けのカスタマイズや調整は行っていない。
(金井政明「コンセプトの実現を第一とする事業戦略 無印良品(MUJI):グローバル展開の軌跡」)
製品・サービスの4分類(①大まかな分類)

【修正版】製品・サービスの4分類(各象限の具体例)

製品・サービスの4分類(③具体的な企業)
 上図については、ブログ本館の記事「「製品・サービスの4分類」に関するさらなる修正案(大分完成に近づいたと思う)」、「『一橋ビジネスレビュー』2018年SPR.65巻4号『次世代産業としての航空機産業』―「製品・サービスの4分類」修正版(ただし、まだ仮説に穴あり)」をご参照いただきたい。

 無印良品が扱っている製品の大部分は、左下の<象限①>に属する。上図をご覧いただいてお解りの通り、<象限①>は衣食をはじめ、生活に密着した必需品で構成されている。これらの製品・サービスは、消費者の属性、嗜好、価値観、行動様式、ライフスタイルに応じてカスタマイズされることが多い。つまり、少品種大量生産による企業の大規模化にあまり向いていない。そのため、<象限③>ではGoogleやAppleのような超巨大なグローバル企業が、<象限②>ではジョンソン・エンド・ジョンソン、GEのようなグローバル企業が登場しているのに対し、<象限①>においては大企業の出現が限定される。

 良品計画の海外事業は目下絶好調である。だが、引用文にあるように、製品を特定の国・地域向けに全くカスタマイズしていないという点が個人的には気にかかる。良品計画は長らく、「ムダのないシンプルな製品だが、生活の質の向上に貢献するもの」を目指してきた。しかし、「何がムダなのか?」、「シンプルさとは何か?」、「生活の質の向上とは何を指すのか?」といった問いに対する答えは、国や地域ごとに違うはずである。その答えは、定量的な市場調査だけでは絶対に解らない。実際に顧客の生活の中に深く入り込み、時間をかけて顧客の言動をじっくりと洞察する中でじわじわと実感できることである。

 良品計画が最新の経営計画の中で重視しているのは、「感じよい暮らし」だそうだ。別の表現で言うと、「共同体の一員として、簡素かつ丁寧に和をもって生活する」ということらしい(同論文より)。これにしても、「共同体とは何か?」、「簡素かつ丁寧な暮らしとは何か?」、「和とは何か?」といった問いが頭をもたげてくる。日本と中国では共同体の意味するところが異なることは容易に想像できる。今まで良品計画は、中国の中でも日本の都市と価値観が近い地域を中心に出店を重ねてきたのだろう。ところが、今後さらに出店を進め、地方にも店舗を展開するようになると、間違いなく日本と中国のライフスタイルの違いに直面する。

 底流にあるコンセプトは統一されていても構わないが、それが製品という形になった場合には、国や地域の差異を反映したものでなければならないだろう。それを怠って、「日本で売れているから、海外でも通用するはずだ」という考えで海外展開をするのは、<象限①>に属する家電メーカーがかつてたどった道と同じだ。そして、そのような家電メーカーが、徹底的な現地調査を武器としたサムスン電子などの海外メーカーに敗れ去ったことを思い出す必要がある(あまりにも有名な例だが、サムスン電子はインド市場にテレビを投入する時、インド人が国民的競技であるクリケットの試合の途中経過を常に気にすることを発見して、テレビの隅に常時クリケットの試合経過を表示させるようにカスタマイズした)。

 (※)なお、上図においてサムスン電子を<象限①>ではなく<象限③>に位置づけているのは、サムスン電子の3事業(デバイスソリューション、消費者家電、スマートフォン)のうち、スマホ向け半導体が好調なデバイスソリューション事業の売上高が最も大きく、次いでスマートフォン事業が続くためである。

 上図の<象限①>には、スイスのネスレが入っている。ネスレは徹底的な分権化と現地法人への権限移譲を行っていることで知られる。各国の現地法人は、現地のニーズを丁寧に汲み取って、それを製品に反映させることが許されている。だから、あのキットカットも、国によってパッケージデザインや味が異なる。ネスカフェアンバサダーは、日本だけが実施しているサービスである。

 ところで、元々無印良品は西友のプライベートブランドとして出発した。良品計画として分離された後、西友はウォルマートと包括的な資本・業務提携を締結した。ウォルマートは周知の通り、店舗ごとのカスタマイズを許さず、パッケージ化された店舗を量産して急成長した企業である。私は、良品計画はネスレを目指すべきだと思っているが、果たして同社がネスレ路線に切り替えるのか、それともこのままウォルマート路線を走るのかは今後要注目である。

日経連出版部『外資系企業の評価システム事例集』―外資系企業でもチーム重視だと能力評価になる


外資系企業の評価システム事例集 (ニュー人事シリーズ)外資系企業の評価システム事例集 (ニュー人事シリーズ)
日経連出版部

日本経団連出版 1999-08

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 以前、ブログ本館で『これからの人事評価と基準―絶対評価・業績成果の重視』を紹介した際に、次の文を引用した。
 年功序列制度は、チームワークの優劣が組織の業績を左右する企業であれば、現在でも有用である。(中略)ある企業では、現在でも、年功序列型の人事制度を固守し、成功している。この場合、賃金処遇ではほとんど差がつかないが、仕事の内容で光の当たる部分と、やや光の当たりにくい、地味な部分があるだけなのである。この職場の雰囲気は、足の引っ張り合いがなく、チームワークは良い。また、ノウハウを共有できる特徴がある。
 その上で、近年は欧米でもチームワークが重視されているから、成果給・業績給よりも年功制の方が向いているのではないかと書いた。厳密な意味での年功制は、年齢のみによって給与が決まるため、人事考課を必要としない。ただし、多少は給与に差をつけた方がよいだろうということで、人事考課において能力を評価するようになった。こうしてでき上がったのが職能資格制度である。

 本書が出版されたのは1999年である。欧米から成果主義が流入し、大企業をはじめ多くの企業で成果主義が導入された時期である。それだけに、成果主義的な人事制度の事例紹介が多いかと思いきや、意外と能力重視の人事制度を採用している外資系企業もあることに気づかされる。

 例えば、プライス・ウオーターハウス・コンサルタントは大手コンサルティングファームであり、完全な成果主義が導入されていてもよいように思えるが、チーム(プロジェクト)を中心として動く同社は能力評価を重視している。同社では、社員に求める能力を4領域、28項目とかなり細かく設定している。そして、その28の能力項目について5段階評価を行い、能力ポイントが一定の基準を超えるとマネジャーに昇進することができる仕組みとなっている。

 また、同社は社員の能力開発にも注力しており、コーチングシステムが整備されている。社員には上司とは別にコーチがつく。そして、コーチは期初にコーチー(コーチングを受ける人のこと)の能力開発目標を設定し、期末になれば目標の達成度合いと次期に向けた課題を確認する。一般的なメンタリング制度がメンティー(メンタリングを受ける人のこと)の中長期的なキャリア開発を支援するのに比べると、同社のコーチングシステムは短期志向であり、より業務と密接に関連した能力開発を促しているように見える。

 アパレルのSPAであるGAPでは、ビジネス目標40%、対人関係目標40%、能力開発目標30%という比重で人事考課を行っている。対人関係目標というのがユニークであるが、これは部下を持つマネジャーの場合は、部下の育成に焦点を当てた目標が設定される。部下を持たない社員の場合は、自分の同僚やビジネスパートナーに模範を示すことが求められ、それが目標に落とし込まれる。

 能力開発目標は30%と他に比べると比重が低いものの、その評価プロセスは厳密に定められている。同社はハイパフォーマーのコンピテンシーを分析し、11の能力を特定した。同社の能力開発プランニングでは、まず本人が11の能力について自己評価を行い、能力開発計画を作成する。マネジャーはこの能力開発プランに対して適切なアドバイスを行う。期末に能力開発計画の結果を評価する際、その内容が単に人事考課に用いられるだけでなく、同社内の各ポジションの後継者育成計画(サクセッションプラン)にも活用される点が特徴的である。

 ニッポンリーバ(ユニリーバの日本営業会社)の場合はもっと極端である。同社では人事考課制度をストレートに「能力開発計画」と呼んでいる。本書には同社を含め、各社が使用している人事評価関連の雛形がいくつか掲載されているのだが、同社の雛形を見ると、能力開発目標の設定とその評価に大きく比重が置かれていることがうかがえる(書くスペースが他社に比べ圧倒的に広い)。

 もちろん、成果主義が流行した時代に出版された外資系企業の人事制度の事例集であるから、業績給を中心としている企業も少なくない。ただし、基本給の中に固定部分と業績に応じた変動部分があるのは、私にとっては不自然に映る。ブログ本館の記事「元井弘『目標管理と人事考課―役割業績主義人事システムの運用』―言葉の定義にこだわる割には「役割業績給」とは何かが不明なまま」でも書いたように、基本給は能力と連動する「投資型」、賞与は業績と連動する「精算型」というのが原則であるからだ。

 また、業績評価の結果から最終的な考課結果や報酬を決定するロジックが公開されている事例もあるものの、どのような根拠によってそれらの数式や係数が用いられているのかが不明である。チームワークを重視すればするほど、チーム全体の業績を個人の業績に分解すせるのは難しくなる。それを強引にやろうとすれば、計算式がどうしても複雑怪奇になる。

 人事制度は解りやすいものにすることが大切である。その意味で、チームワークを重視するならば、業績ではなく能力を中心とした評価の方が理にかなっている。もちろん、能力を評価する場合でも、その能力が本人に固有のものなのか、周囲の支援によって発揮されたものなのかを判別しなければならない。ただ、業績評価の場合、チーム全体の業績が100として、ある社員の貢献度合いが20%なのか30%なのかを決めるのは大変な困難を伴うのに対し、能力評価の場合、ある能力が本人固有のものであれば「5」、周囲のサポートを受けたのであれば「3」などと明快に決めることができる点で納得感が高いと思う。
プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。これまでの主な実績はこちらを参照。

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、2,000字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
シャイン経営研究所HP
シャイン経営研究所
 (私の個人事務所)

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