Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2015年 02月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2015年 02月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2015-01-10

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 イスラエルでは、売上げ1億ドル未満から、数億~数十億ドルへとグローバル市場で規模を拡大した企業が、この40年間で75社を超える。つまり、スイート・スポットは見つかるのだ。彼らのアプローチはこうだ。多国籍企業が魅力的と感じず、地元企業が十分に対応できない、そんな機会が存在する国や地域に照準を合わせ、目立たないやり方でゆっくりと、この中間領域に浸透していく。
(ジョナサン・フリードリッヒ他「多国籍企業と地元企業が不在の『中間領域』を支配する グローバル化の秘訣はイスラエル企業に学べ」)
 DHBRが珍しく中小企業に焦点を絞った論文を掲載しており、しかも、中小企業庁が最近「今後5年間で新たに1万社の海外進出を実現する」と息巻いているグローバル化に関する論文であったから期待したのだが、私が想定してた内容とはちょっと違った。引用文に書かれた企業規模から解る通り、中小企業と言いながら、日本で言えば中堅企業に相当する企業が分析対象となっている。

 グローバル化に成功したイスラエルの企業は、1か国・地域だけでは小さな市場であるものの、類似のニーズを持つ他の国・地域も合わせればそれなりに大きな市場になるという「中間領域」を見つけることに長けているらしい。

 逆に、日本企業はこういうのが不得意である。日本企業は、複数の国・地域を横断する共通ニーズを見つける、あるいは自社の製品・サービスが複数の国・地域に通用すると思わせるようなマーケティングが上手ではない。むしろ、1か国ずつ順番に攻めて、その国のニーズに合致した製品・サービスを開発し、ある程度成功した段階で次の国に進出するという、段階的なアプローチをとる。そのため、グローバル化で急速に規模を拡大する中小企業がなかなか現れない。

 イスラエルの企業が、複数の国・地域を同時に相手にすることができるのは、企業幹部の大多数がイスラエル国防軍(IDF)の幹部を務めていたからであると著者は指摘する。IDFは、例えば1967年の6日戦争の際、南はエジプト、東はヨルダン、北はシリアと戦火を交えた。IDFは戦域全体の指揮を行わなければならず、どこに戦力を重点投下し、どんな戦術を展開すべきか、即座に判断しなければならない。こういう経験が、グローバル経営にも役立っているという。そういう経験に乏しい日本の中小企業の経営者は不利である。

 本論文では述べられていないが、イスラエルの企業がグローバル化に成功している要因は、ユダヤ人のネットワークにもある気がする。ユダヤ人は迫害によって世界中に散らばったものの、ユダヤ教という信仰の対象を通じて、心理的に強く結びついている。現代でも、世界中にいるユダヤ人が、各国・地域の市場に関する情報を経営陣と共有しているのではないだろうか?それが、ターゲット国・地域全般を見渡した戦略的な意思決定に使われていると推測される。