よみがえれ!日本企業―グローバル・スタンダードへの転換よみがえれ!日本企業―グローバル・スタンダードへの転換
八城 政基

日本経済新聞社 1997-02

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 以前本ブログで取り上げた『日本の経営 アメリカの経営』と同じ八城政基氏の著書。著者がシティバンクの日本代表をしていた1990年代、シティバンクが外資企業という理由だけで金融機関の業界団体に加入させてもらえず、当時急速に整備されていたATMのネットワーク化に乗り遅れてしまったという。
 業態それぞれが共同して行ってきたATMの開発、相互利用に参加できないばかりでなく、各業態間の提携・相互相乗りからも排除され、カヤの外に置かれるわけです。日本の金融機関同士では、現在、各業態間のCD/ATMのオンライン提携が出来上がり、信用金庫、信用組合を含めた全国約7000の金融機関のATMが結びつき、消費者の利便性が飛躍的に向上しています。しかしシティバンクは、銀行法によって認可を受けた銀行でありながら外銀であるために、いちいちそれぞれの業態の好意にすがりながら、根気のいる交渉を粘り強く行い、はじめて提携をしてもらえるわけです。
 これまでの日本の行政は市場メカニズムを重視せず、業者行政に政策の中心を置いてきました。既存業者にとっては、競争者が増えればそれだけ既得権益を侵されますから本能的に新規参入を嫌います。新規参入が自由で、市場メカニズムが十分に機能している米国から日本に進出した企業からすると、業界と行政が一体となって既得権益を守ろうとしている日本はきわめて排他的な国に見えるわけです。
 日本の特徴の1つに「業界団体」の存在が挙げられる。どの業界にもほぼ例外なく業界団体が存在するし、業界内、あるいは業界を超えて何か新しい製品・サービスの開発に乗り出す時などにも、たいていは新しい業界団体が設立される。業界団体の代表が経団連である。経団連は参加企業間の利害を調整するだけでなく、ロビー活動を通じて業界のパイの大きさそのものを拡大しようとする。

 アメリカの場合は、日本のような業界団体が存在しない。一応、日本の経団連に該当する組織としては、1972年に設立された"Business Roundtable"がある。しかし、経団連には1,329の企業、製造業やサービス業などの主要な業種別全国団体109団体、地方別経済団体47団体などが加入しているのに対し、Business Roundtableの会員数はたった200企業にすぎない。アメリカでは、個々の企業がロビー活動を行うのが普通である(医療業界におけるロビー活動については、以前の記事「堤未果『沈みゆく大国アメリカ』」で少し触れた)。

 ブログ本館で、(かなり独り善がりな)日米の経営比較をあれこれと書いているが、新製品開発やイノベーションにおいても際立った違いがあると思う。日本企業は、最終製品メーカーと部品メーカー(親会社と下請会社)の垂直的関係や、最終製品メーカー同士の水平定期関係を利用して、新製品を開発するケースが多い。そして、プレイヤー間の提携や協業を促す仕組みとして、業界団体が存在する。他方、アメリカでは、そもそも日本のような重層的な垂直関係が見られず、また最終製品メーカーは単独で新製品開発を完結させる傾向がある。

 これは全くの仮説なので、例えば自動車業界の構造を分析してみると、興味深い結果が得られるかもしれない。日本の自動車業界は、最近では崩れてきたとはいえ、未だに系列関係が支配的である。また、垂直・水平いずれの関係においても、企業間の連携がしばしば見られる。これに対してアメリカの自動車業界は、日本ほど裾野が広くなく、最終製品メーカーが部品も製造していることが多い。

 アメリカの最終製品メーカーが自前で新製品を開発する姿勢は、"NIH(Not Invented Here)症候群"という言葉によく表れている。NIHとは、新しい技術が現れた時に「これは自社で開発されたものではない」という理由で、外部の技術の活用を見送ってしまうことを指す。最近でこそ、P&Gの「コネクト&ディベロップメント」に代表されるようなオープン・イノベーションの重要性が強調されるようになったが、裏を返せば、それまでのアメリカ企業には外部のリソースを幅広く積極的に活用しようとしていなかったことを意味する。

 日本の業界団体は本書の著者が指摘するように排他的であるという問題は抱えているものの、オープン・イノベーションという言葉が日本に入ってくる前から、業界団体を通じて”準”オープン・イノベーションを実施していたと思う。個人的には、オープン・イノベーションという言葉を初めて聞いた時、「これは日本で既に行われていることではないか?」と感じた。その疑問は、業界団体という存在を介して上手く説明できるように思える。

 ただし、ここで注意が必要なのは、業界団体が加盟企業全ての利害を公平に実現しようとすると失敗しやすい、ということだ。日本の業界団体は会員数が多いため、利害調整はどうしても複雑になる。業界団体が”準”オープン・イノベーションの場として成功するのは、業界団体は多様なプレイヤーが集まる”場”に徹する場合であろう。すなわち、業界団体としては、各プレイヤー同士の顔つなぎや、技術・ノウハウに関する情報交換を促すにとどまり、技術的なシーズとニーズを持つ企業同士が自発的に手を結ぶのに任せるのが望ましいと考える。