そうだったのか! 朝鮮半島 (そうだったのか! シリーズ)そうだったのか! 朝鮮半島 (そうだったのか! シリーズ)
池上 彰

ホーム社 2014-11-26

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 本書を読むと、韓国はアメリカと中国によって引き裂かれた国だと思えてくる。韓国が1997年に通貨危機に見舞われた時には、IMF主導で様々な改革を強いられた。IMFとの合意内容には、財政再建、金融機関のリストラと構造改革、通商障壁の自由化、外国資本投資の自由化、企業ガバナンスの透明化、労働市場改革などが盛り込まれた。要するに、アメリカ的な経済・金融システムへと変更するように要求されたわけである。

 その後、財閥系の大企業が次々とグローバル化に成功した。彼らの組織はトップダウン型であり、潤沢な資金をバックに全世界でマーケティングを行う。こうしたやり方は、アメリカのグローバル大企業に通じるところがある。一方で、アメリカ社会のような激しい格差も見られる。大企業と中小企業の正社員の賃金格差は拡大する一方であり、さらに正社員と非正規社員の格差は絶望的に大きい。韓国では大企業の採用枠が慢性的に不足していることから、大学を卒業しても中小企業の非正規社員にしかなれない人が非常に多い。

 経済的にはアメリカ化している韓国だが、政治的には左傾傾向が年々大きくなっているように見える。盧武鉉大統領(在2003~2008年)の支持を支えたのは、「386世代」と呼ばれる人々であった。386世代とは、1990年代に30代(3)で、1980年代(8)に大学生で学生運動に参加した、1960年代(6)生まれの人々を指している。平たく言えば、共産主義の影響を強く受けている人たちだ。

 韓国は朝鮮戦争で共産主義国の北朝鮮と戦ったはずである。しかし、北朝鮮の脱北者が韓国に流れてくると、彼らが韓国民に共産主義を吹き込むようになった。加えて、中国も韓国の共産主義化に貢献しているに違いない。こうして、韓国は経済的には右、政治的には左という、不思議な国になってしまった。

 現在の韓国は「中国傾斜論」をとっていると言われる。政治的に中国寄りだった韓国が、経済的にも中国寄りになりつつある。アメリカが主導するTPPには参加せず、中国が主導するAIIBには参加する。そんな韓国をオバマ大統領も冷たく突き放す。10月の米韓首脳会談では、声明に「TPPに対する韓国の関心を歓迎する」という文言が盛り込まれた。「TPPに対する韓国の『参加』を歓迎する」ではなく、「『関心』を歓迎する」という微妙な言い回しで、韓国を敬遠したのである。

 日米にとって最悪のシナリオは、韓国がアメリカとの同盟を破棄し、中国が(北朝鮮ではなく)韓国を使って朝鮮半島を統一することである。日本は共産主義国と正面から対峙しなければならない。しかも、統一された朝鮮国は、旧韓国の豊富な資金を使って、旧北朝鮮の核開発を大幅に前進させるだろう。そうすれば、日本にとっては非常に大きな脅威となる。

 この最悪のシナリオをもっと最悪なものにするのが、沖縄の独立である。沖縄は現在、真剣に日本からの独立を検討している。憲法は都道府県の独立を認めていないが、どうすれば独立が可能となるか、スコットランドの事例などを熱心に研究しているという。沖縄が独立すれば、かつて琉球王国がそうしたように、中国に接近するのは間違いない。沖縄の独立運動を陰で支えているのは、中国共産党であると言われる。沖縄が独立し中国と手を組めば、中国が主張する九段線がさらに日本側へ伸びる。この脅威に日本はどう対抗すればよいだろうか?