あなたは最初の100日間に何をすべきか―成功するリーダー、マネジャーの鉄則あなたは最初の100日間に何をすべきか―成功するリーダー、マネジャーの鉄則
ニアム・オキーフ 黒輪 篤嗣

日本経済新聞出版社 2013-03-23

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 新しくリーダーやマネジャーの地位に就いた人は、「最初の100日間」で何かしらの成果を上げる必要がある。そうすれば、上司・部下や他の部門からの信頼が厚くなり、その後の仕事が進めやすくなるからだ。

 最初の100日間というのは、かつてフランクリン・D・ルーズベルト大統領が就任後100日間で数々の伝説的な偉業を成し遂げたことにちなんでいる。ルーズベルト大統領は、1933年3月4日に大統領に就任すると、翌日は日曜日にもかかわらず、「対敵通商法」に基づいて国内の全銀行を休業させた。そして、1週間以内に全ての銀行の経営実態を調査させ、預金の安全を保障することをラジオ演説で約束した。これにより、銀行の取り付け騒ぎは収束の方向に向かった。また、大統領に就任後すぐに大胆な金融緩和を行ったため、信用収縮が止まった。

 これに加えて、緊急銀行救済法、TVA(テネシー川流域開発公社)などによる公共事業、CCC(民間資源保存局)による大規模雇用、NIRA(全国産業復興法)による労働時間の短縮や超越論的賃金の確保、AAA(農業調整法)による生産量の調整、ワグナー法(全国労働関係法)による労働者の権利拡大などといった景気回復や雇用確保の新政策を、議会に働きかけて矢継ぎ早に制定させた。

 これだけを見ると、凄まじい仕事量である。だが、個人的には、皆が皆ルーズベルト大統領のようになる必要はないと思うし、実際なることは無理だと感じる。ブログ本館の記事「山本七平『指導力―「宋名臣言行録」の読み方』―王安石の失敗から学ぶ、人々に受け入れられる改革案の作り方」で書いたように、就任直後に重要な施策をいくつも同時並行で進めることに私は否定的である。

 旧ブログの記事「「一撃必殺」の改革プランなどない」では、優秀な新任マネジャーは改革を3回行うと書いた。1回目はまだ組織のことがよく解らないため、すぐに効果が出る比較的簡単なものに絞る。これを確実に成功させて、周囲の信頼を勝ち取る。2回目は1回目の改革で残ったやや難しい課題に着手する。2回改革プランを実行すれば、組織全体の仕組み、人間関係、風土などがだいたい見えてくる。そこて、3回目に満を持して、組織の根源的な課題の解決に取り組む。私はこの方が現実的であると考える。

 第2次安倍政権が長期政権になりつつあるのは、就任直後に株価・為替対策という、クイックヒットの施策を行ったからである。仮に、安保法制の議論と順番が逆であったら、とっくに安倍政権は終わっていたに違いない。

 先日、代替わりしたとある中小企業の話を聞いた。2代目社長は先代の息子であり、周りは古参の役員ばかりである。早く実績を作って役員にアピールしたいと考えた社長は、海外経験が浅いにもかかわらず、中国へ進出した。中国子会社には、中国語ができる日本人社員を社長として送り込んだ。中国事業は2代目社長が担当することとなり、他の役員はタッチしなかった。ところが、中国子会社からは本社に報告が上がってこず、2代目社長は現地の状況が不安になった。

 そこで、コンサルタントに依頼して中国子会社を調査してもらったところ、驚愕の事実が次々と明らかになった。まず、現地の社長は営業ばかりやっていて、製造と経理を全く見ていなかった。営業に明け暮れている現地社長も、部下の営業は全く管理していなかった。財務諸表を見ると本社よりも原価率が高いので、不思議に思って棚卸をしてみると、やはり数が全然合わなかった。何とか再建の道はないかと試算してみたら、売上高を2.5倍にし、原価率を5ポイントほど下げなければ損益分岐点に乗らないことが判明した。

 このままでは事業として成り立たないし、中国子会社の赤字が日本本社の利益を食いつぶして共倒れになる。そこで、コンサルタントは中国からの撤退を提案した。2代目社長はそれを受け入れ、2年がかりで中国から撤退した(実際には、中国からきれいに撤退するのは至難の業なので、廉価で別の企業に売却した)。結果的に、2代目社長は実績を作ることができなかった。だが幸いにも、周りの役員は最初から「どうせ中国ビジネスは成功しない」と思っていたため、2代目社長が撤退を決断しても、彼の評判にはそれほどの痛手とはならなかった。

 就任直後のリーダーやマネジャーは、手始めにすぐに効果が出る小規模のプログラムから開始するのが無難である。そのプログラムの意義や目的、効果について、社員その他の関係者に丁寧に説明して回ることが重要だ。ルーズベルトは就任後100日間で、議会に15件の教書を送り、15件の主要法案を成立させ、10の演説を行ったとされる。だが、現実的なリーダーは、1件の施策を立案し、その施策に関する文書を15か所に配布し、10の現場で施策の説明をするのだと思う。