ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2016年 04 月号 [雑誌] (デザイン思考の進化)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2016年 04 月号 [雑誌] (デザイン思考の進化)

ダイヤモンド社 2016-03-10

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 《参考記事(ブログ本館)》
 日本とアメリカの戦略比較試論(前半)(後半)
 『目標達成(DHBR2015年2月号)』―「条件をつけた計画」で計画の実行率を上げる、他
 『稲盛和夫の経営論(DHBR2015年9月号)』―「人間として何が正しいのか?」という判断軸
 森本あんり『反知性主義―アメリカが生んだ「熱病」の正体』―私のアメリカ企業戦略論は反知性主義で大体説明がついた、他

製品・サービスの4分類(修正)

 上記の参考記事で上図(※まだ改良の余地あり)を用い、アメリカ企業は左上の象限におけるイノベーションが、日本企業は右下の象限におけるマーケティングが得意であると書いてきた。イノベーションは世界中の市場を相手にするため需要予測が難しく、また異業種格闘技となり様々な競合他社が入り乱れる。その上、何がヒットするかは予想困難であるから、失敗と解ったら素早くその製品・サービスを市場から引き上げ、新たな製品・サービスを次々と投入しなければならない。DHBR2016年4月号には、次のような記述があった。
 しかしデザインというのは、なかなか予想通りにはいかない。ユーザー体験の向上がどれほど価値を生むのか、あるいは創造性への投資がどれほどリターンを生むのかを、計算によって知ることは不可能とは言わないまでも困難である。
(ジョン・コルコ「シンプルさと人間らしさをもたらすツール デザインの原理を組織に応用する」)
 どんなイノベーションでもそうだが、最初は非必需品としてスタートする。非必需品を顧客が受け入れる基準は、その製品・サービスが「好きか嫌いか」の1点である。すなわち、顧客は極めて感情的に振る舞う。したがって、イノベーターは顧客の”快”に訴えるプロモーションを展開する。ジョン・コルコの論文では、従来のバリュープロポジション(提供価値)は実用性を約束するのに対し、デザインを通じたバリュープロポジションは次のようなものになると述べている。
 デザインを理解している組織は、むしろ感情的な言語(願望、野心、愛着、経験などに関わる言葉)を使って製品やユーザーを説明する。チームメンバーは製品の要件や実用性と同じくらい、バリュープロポジションがユーザーの感情に共鳴するかについても検討する。(同上)
 イノベーターは、他の無数のイノベーションを押しのけて自社のイノベーションを顧客に受け入れてもらおうとする。よって、しばしばそのプロモーションは強引なものとなる(最近は、あるタレントのテレビへの露出が急激に増えると、視聴者は”ごり押し”だと反応する)。他者から”快”を押しつけられて”快”になびく人がいる一方で、強烈な”不快”反応を示す人もいる(だから、タレントのブログが”炎上”する)。逆説的だが、イノベーションは全世界への普及を狙っているにもかかわらず、プロモーションを進めるほどにファンとアンチが真っ二つに分かれる。

 本号において、ビジネスデザイナーの濱口秀司氏は、イノベーションの特徴の1つとして「議論を生む(賛成/反対)」を挙げている。
 全員が賛成あるいは反対するものはイノベーションではない。そのアイデアが大好きな人と大嫌いな人が戦う中から絞り込まれるのが、イノベーティブなアイデアの特徴である。
(濱口秀司「真のイノベーションを起こすために 「デザイン思考」を超えるデザイン思考」)
 ペプシコのインドラ・ヌーイCEOは本号のインタビューで、「優れたデザインの定義とは何か?」と尋ねられて、次のように回答している(なお、本インタビューの言葉を借りれば、ペプシコには「健康によい製品」もあるが、主力はコーラに代表されるような「食の喜びを与えてくれる製品」である。そして、「食の喜びを与えてくれる製品」は必ずしも必需品ではなく、上図の左上の象限に位置すると考える)。
 私にとってうまくデザインされた製品とは、消費者が惚れ込む製品、もしくは嫌悪感を抱く製品です。両極端かもしれませんが、何らかの生の反応を引き出すものでなければならないのです。
(インドラ・ヌーイ「【インタビュー】CEOが語るデザイン思考をもとにした企業変革 ペプシコ:戦略にユーザー体験を」)
 左上の象限には、一攫千金を狙って様々な売り手が参入してくる。しかし、どんなイノベーションがヒットするか解らない。売り手は、自分が売り手であるにもかかわらず、こちらがお金を払ってでも自分のイノベーションを買ってほしいと考えるようになる。そういう売り手と世界中の買い手を結びつけるのがプラットフォーム企業である。AppleやGoogleのスマートフォンアプリのプラットフォームや、Amazonの電子書籍のプラットフォームなどはまさにこれである。

 従来の小売業でも、売り手(メーカー)が買い手(小売店)に対してお金を支払うことはある。ただし、いわゆるリベートは法的に規制されていることが多い。一方、プラットフォーム企業は、公然と売り手からお金を徴収する。この点で、古典的なリベートとは全く性質が異なる。3Dプリンタに詳しいリチャード・ダベニーは、21世紀はこうしたプラットフォーム企業の時代になると予測する。
 高度にデジタル化された21世紀型の市場では、プラットフォームこそが最大の特徴である。(中略)1つのプラットフォーム上で、たえず変化する生産量は活発に調整され、設計図は保存されたうえに常時更新され、原材料の供給管理と購入が行われ、顧客からの注文を受け付けるようになる。そうなれば、システムの利用者全員がそのプラットフォームの存続に利害関係を持つようになる。
(リチャード・ダベニー「製造業を根本から変える 3Dプリンティング革命の衝撃」)
 私は、プラットフォーム企業は左上の象限に固有のものだと思っていた。だが、野心的な企業は、左下や右下の象限への進出も狙っているようである。

 最近の流行語(バズワード?)をつなぐと、こんな近未来が出現する。つまり、数年後にはGoogleなどがIoTで世界中のモノからデータを集め、ビッグデータ解析をして顧客のニーズを先読みし、世界中でネットワーク化された3Dプリンタ企業に対して、AIを通じて顧客が求める製品の製造命令を出し、物流は提携する世界中の物流業者の自動運転車とドローンにやらせ、提携先企業の中で資金需要が出てきたらFinTechで自動的に融資する、という未来である。