地域力再生とプロボノ (京都政策研究センターブックレット)地域力再生とプロボノ (京都政策研究センターブックレット)
杉岡 秀紀

公人の友社 2015-03-27

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 本書の整理に従うと、プロボノとボランティアは、①公共的・社会的な課題の解決を目的とし、営利を目的としないこと、②基本的に無償であることが前提であり、どこからも利益を得る見込みがなくても取り組む点で共通する(有償ボランティアと言われるように、実費相当額は支援対象となる側が負担したり、第三者によって補填されたりする場合もある)。プロボノとボランティアの大きな違いは、ボランティアには職業上のスキルに限らず幅広い参加方法があるのに対し、プロボノは専門的な知識や技術、スキルを活用する点にあるとされる。

 ただし、ボランティアは専門スキルがなくてもよいことを意味しているわけではないと思う。ボランティアの対象は社会的なニーズ(それはたいていの場合深刻なニーズ)を抱えている。それを生半可な知識で解決しようとするのは、相手に失礼である。たとえボランティア側が善意を持っていたとしても、能力や技術の欠如は正当化されない。だから、ボランティアもしかるべき専門性を有するべきであり、そうすると、ボランティアとプロボノの間には実質的な違いはないと考えられる。

 現在のところ、日本のプロボノは”NPO法人のボランティア”を行うケースが多いようである。NPO法人は自分のプロモーションを十分に実施できていない。そこで、プロボノがNPO法人の広報資料やHPを作成したり、営業活動を支援したりする。プロボノは企業で培ったプロモーションの技法をNPO法人に適用する。だが、公共的・社会的な課題の解決という本来のプロボノの目的を達成するためには、NPO法人の後方支援に徹するだけでなく、育児・教育・介護・福祉・街づくりなどの課題解決に直接乗り出すことが今後は必要となるだろう。
 一般的にプロボノは、5~6人で1つのチームをつくり、週5時間を目安にプロジェクトに関わり、全員で7回程度の会議を行い、半年後に成果物を提供するのが標準モデルである。
 一般の人にはあまり馴染みのない中小企業診断士の世界の話をすることをお許しいただきたいのだが、このスキームは診断士でもよく用いられる。診断士の資格は、5年ごとに更新が必要となる。その更新要件の中には、「5年間で30ポイント以上の実務ポイントを獲得する=5年間で30日以上、中小企業の経営コンサルティング実務に従事する」というものが含まれる。私のように独立していれば大きな問題ではないものの、診断士の約7割は企業に勤めている。彼らにとって、この更新条件は非常にハードルが高い。

 そこで、企業内診断士の有志が集まって、実務案件を獲得するための活動を行っている。企業内診断士フォーラム(KSF)はその一例である。また、(一社)東京都中小企業診断士協会では、企業内診断士を対象に「実務従事」の機会を提供している。これは、主に協会や独立診断士が開拓した中小企業に対して、企業内診断士がコンサルティングを提供し、その見返りとして、企業内診断士には実務ポイントを付与する、というものである。

 これらの活動は基本的に無報酬である。それどころか、実務従事の場合は、参加する企業内診断士が協会に対してお金を支払わなければならない。お金をいただくのではなく、身銭を切って実施するコンサルティングが果たしてコンサルティングと呼べるのかという疑問はあるのだが、その点にはこれ以上触れない。

 問題は、集まった5~6人の診断士をどのようにまとめるか?である。彼らは所属元の企業も、その企業で担当している業務もバラバラである。診断士という共通の知識基盤があるにもかかわらず、彼らをマネジメントするのは至難の業である(そもそも、診断士の資格の知識がコンサルティングの実務に役立つのか?という議論はあるものの、これもここでは深入りしない)。

 本書では、プロボノのプロジェクトで途中から参加しなくなるメンバーがいることが報告されているが、診断士の世界でも同じことが起きている。実務従事の場合は、お金を支払っている参加者が”お客様風”を吹かせることがある。指導官である診断士が、成果物の品質についてちょっと厳しく注意すると、一部の参加者は「お金を払っているのにそんな風に言われる筋合いはない」と協会にクレームを入れるのである(そういう人間は、独立しても必ず中小企業とトラブルを起こすから、協会のブラックリストに載せて全ての仕事から放逐すべきだと思う)。

 企業の場合は、一応はメンバーが組織の価値観に賛同しているという前提がある。また、プロジェクトに求められる能力や知識に応じて、最適なメンバーが選定されるよう、可能な限りの調整が行われる。能力や知識が足りていないメンバーを育成目的でアサインする場合も、必要なトレーニングを受けさせたり、他のメンバーがOJTを行ったりと、サポート体制を整えるのが普通だ。

 ところが、前述の診断士の例では、共通するのは診断士の資格の知識(それが本当に役立つかどうかは別として)と、「そのプロジェクトをやりたい」という思いだけである。所属元の企業がバラバラなので、メンバーの価値観もバラバラ、能力や知識もバラバラである。しかも、プロジェクト期間中に顔を合わせる機会は非常に限られているため、方向性を合わせるのも訓練を行うのも容易ではない。

 彼らには本業があるから、必ずしも診断士のプロジェクトで成果を上げる必要はない。だから、離脱しようと思えば簡単に離脱できるのであり、こちらとしては動機づけに苦労する。たとえ、「そのプロジェクトをやりたい」という強い思いを持って参加しても、自分の実力不足を認識すると、容易に当初のモチベーションを失う。そういう人を再び動機づけるのは非常に難しい。かといって、能力もやる気もない人をプロジェクト内に放置するのはリスクを伴う。

 こういう状況で、どうすれば顧客である中小企業が満足する成果物をまとめ上げることができるかは、長年の課題である。おそらく、プロボノのプロジェクトも、似たような課題を抱えているのではないかという気がした。