週刊ダイヤモンド 2016年 7/16 号 [雑誌] (EU分裂は必然! 混沌を読み解く大経済史)週刊ダイヤモンド 2016年 7/16 号 [雑誌] (EU分裂は必然! 混沌を読み解く大経済史)

ダイヤモンド社 2016-07-11

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 (1)本号では資本主義の仕組みが限界を迎えており、新しい時代に突入する可能性が示唆されている。その根拠とされているのが、各国の国債金利の長期推移である。17世紀初頭、当時の世界経済を牛耳っていたイタリアの国債金利が1.125%(1619年)にまで落ち込んだ。低い金利を嫌った投資家のマネーがイタリアからオランダ、さらにはイギリスへと流れ込み、世界のヘゲモニーが交代した。イギリスでは18世紀に産業革命が起こり、資本主義の仕組みの基礎ができた。

 現在、日本の国債金利は限りなくゼロに近い(2013年で0.315%)。イギリスやアメリカの国債金利も低下している。よって、17世紀以降の経済の仕組みがガラリと変わるタイミングを迎えているのではないかと本号は見ている。しかし、そもそも日本は世界のヘゲモニーを握ったことなどない。英米の国債金利が低下しているとはいえ、過去にも同水準の金利だった時期があり、著しく金利が低下しているとは言えない。個人的には、資本主義の時代はまだ続くと考えている。

 経済成長は人口増加とリンクしている。そして、中長期的に見れば、世界の人口はこれからも増加し続ける。2050年には100億人に到達するという予測もある。2016年時点でさえ、新興国においては、先進国では当たり前のように普及している製品・サービスの普及率が低いという現状がある(下図参照)。つまり、満たされていない需要があり、潜在的な経済成長の余地が残っている。そこに人口増が加わるわけだから、資本主義にはまだまだやるべき仕事がたくさんある。

ASEAN主要国における耐久消費財の普及率

 (※)大和総研「平成26年度新興国市場開拓事業(相手国の産業政策・制度構築の支援事業(新興国における主要物品の需要拡大予測を踏まえた国際展開モデルの構築に関する調査))調査報告書」(2015年2月)より。

 資本主義によって経済格差が広がったと言われるが、これは金融経済の膨張によるところが大きいと考える。本号によれば、実体経済と金融経済の比率は1970年には1:2であったが、2006年には1:50になった。1995年から2008年までの間に、金融経済は実に100兆ドルものマネーを生み出した。経済格差を是正するためには、金融経済の世界に手を加える必要があると思う。

 (2)世界情勢が不安定になるにつれて、各国では極右または極左の勢力が躍進しているという。極右は特定の民族やグループを優遇し、移民などを排斥しようとする。逆に極左は移民などあらゆる人々を受け入れて平等な社会を目指す。

 両者は全く正反対のことを主張しているように見えるけれども、私に言わせればどちらも根っこは同じである。ブログ本館の記事「『躍進トランプと嫌われるメディア(『正論』2016年7月号)』―ファイティングポーズを見せながら平和主義を守った安倍総理という策士、他」でファシズムと共産主義は同じ根っこでつながっていると書いたが、それと同じロジックである。

 その根っことは、「完全なる神によって創造された人間は、完全なる合理性を持っている」と考えることにある。極右は、自分たちこそが完全なる合理性を持っていると信じ、他者(特に移民)を非合理的な存在と見なして排斥する。他方、極左は、表面的には人間には様々な差異が見られるが、本質的には神に似せて創造された存在であるから、差異はなかったものと見なして、万人を平等に扱う。極右は確かに暴力的である。しかし、明らかな差異に目をつぶって全ての人々を平準化しようとする左派のやり方も、同じく暴力的であると感じる。

 (3)本号には、各都道府県が公認するご当地キャラクターの認知度ランキングが掲載されていた。くまモン、チーバくん、せんとくんがそれぞれ21.7%でトップである一方、4位以下はいきなり10%以下に下がるという結果であった。要するに、くまモン、チーバくん、せんとくんの”三体”勝ちである。現在、非公認のキャラクターも含めると、全国各地の自治体のゆるキャラは、現在3,000体を超えるという。

製品・サービスの4分類(修正)

 またこの図(何度も言い訳をして申し訳ないが、未完成である)を使うことをお許しいただきたい(図については、以前の記事「森本あんり『反知性主義―アメリカが生んだ「熱病」の正体』―私のアメリカ企業戦略論は反知性主義で大体説明がついた、他」などを参照)。ゆるキャラは、必需品でもないし、別に欠陥があっても顧客に何かリスクが生じるわけではないから、左上の象限に属する。この象限の特徴は、「勝者総取り」が起きることである。

 左上は、元々はアメリカが強い象限である。アメリカのイノベーターは世界中に自分のイノベーションを普及させようとする。参入障壁が低いゆえに多数のイノベーターが市場に参入するものの、全世界の人々のニーズをとらえられるイノベーションはそうそう滅多にない。よって、大多数は淘汰され、残ったわずかなイノベーターが市場を総取りするという結果になる。

 ゆるキャラも、同じように勝者総取りが起きていると考えられる。くまモン、チーバくん、せんとくんが高い認知度を誇る一方で、地元の都道府県民や市区町村民すら知らないゆるキャラが無数に存在するという構図ができ上がっている。

 ちなみに、左下の象限は、主に日用品であり、品質に対する要求水準もそれほど高くないため(高くないと言っても、歩留まり率は99.99%ぐらいが要求される)、参入障壁が低い。また、飲食店や小規模のスーパーなど、生業的に事業を行う者も多数存在する。よって、大小合わせて非常に多数のプレイヤーが市場シェアを分け合う形になる。大企業でさえ、高いシェアを獲得することは難しい。

 右下の象限は、必需品のうち、品質への要求水準が非常に高いものを指す。自動車業界などは「不良ゼロ」を目指している。この要求に耐えられる企業はそれほど多くない。しかし他方で、左上の象限とは異なり、顧客のニーズは多様化しているから、それに伴ってプレイヤーも多様化する。結果的に、複数の企業による寡占状態が生まれやすい。以上は私の仮説であり、今後検証を進めたい。