顧客体験の教科書―収益を生み出すロイヤルカスタマーの作り方顧客体験の教科書―収益を生み出すロイヤルカスタマーの作り方
ジョン・グッドマン 畑中 伸介

東洋経済新報社 2016-07-22

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 顧客は、何か特別な、驚くような体験を期待しているわけではない。むしろ自分が注文した通りのものが、不快な出来事やわずらわしさを体験せずに、手元に届けられることを願っている。
 最近は日本の製品・サービスがなかなか売れなくなったせいか、「これまでは機能・性能を上げていればよかった。これからは洗練されたデザインで顧客をあっと驚かせ、製品・サービスに物語を持たせなければいけない」という主張をやたらと耳にする。ベイカレント・コンサルティングの『デジタルトランスフォーメーション』(日経BP社、2016年)にも、そのようなことが書かれていた。

デジタルトランスフォーメーションデジタルトランスフォーメーション
ベイカレント・コンサルティング

日経BP社 2016-09-14

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製品・サービスの4分類(修正)

製品・サービスの4分類(各象限の具体例)

 私がブログ本館と本ブログで頻繁に用いている上図に従うと、確かに、アメリカ企業が強い左上の象限については、顧客をあっと驚かす体験価値を提供することが重要である。左上の象限は必需品ではないため、比較的合理的に購買意思決定が下される必需品に比べると、顧客の「好き」という気持ちを一瞬で惹起する必要がある。そのための武器がデザインであり物語という一発芸である。

 しかし、日本企業(特に大企業)が強いのは右下の象限であり、また、多くの中小企業が属するのは左下の象限である。これらの象限においてポイントとなるのは、ありふれた表現だが「顧客に対して『当たり前』のことを当たり前に実行する」ということに尽きる(日本のコンサル会社がそれに気づかず、アメリカのコンサルタントである著者がこのことを指摘しているのが何とも皮肉である)。

 企業はまず、顧客の消費行動をつぶさに観察しなければならない。顧客の消費行動とは、製品・サービスの検索に始まり、他社製品・サービスとの比較、販売員・営業担当者からの説明、価格交渉、購買手続、支払、配送、使用、トラブル発生時の問い合わせ、使用時の感想の共有、廃棄・売却にまで至る長いチェーンである。それぞれのフェーズにおいて、顧客は何を期待しているのかを明らかにする。そして、その期待に応えるために企業として何ができるのかを考えなければならない。多くの企業は顧客の使用フェーズしか考えていない。

 顧客の消費プロセスの全体において企業が望ましい行動をとることは、かつてスカンジナビア航空(SAS)のヤン・カールソンが「真実の瞬間」と呼んだ考え方に通じる。SASでは、企業や社員が顧客と接する全ての接点において、顧客満足度が上がるような行動をとることを推奨した。現在、真実の瞬間の考え方は拡張されており、グーグルは次の5つの真実の瞬間を大切にしているという(ちなみに、グーグルは私の整理に従えば左上の象限に該当する。グーグルですら真実の瞬間を重視していることに、日本企業はもっと危機感を持った方がよい)。
 ZMOT:Zero Moment of Truth(商品やサービスについてオンライン上の情報を調べる瞬間)
 FMOT:First Moment of Truth(買い手が店頭において商品やサービスに出合う瞬間)
 SMOT:Second Moment of Truth(実際に購入し、そしてその商品に期待したことを体験する瞬間)
 TMOT:Third Moment of Truth(企業や商品に対して、その利用体験を通じて感想が生まれる瞬間)
 UMOT:Ultimate Moment of Truth(自らの評価を他の人に伝える瞬間)
(高広伯彦、藤川佳則「デジタルマーケティング」〔『一橋ビジネスレビュー』2016年AUT.第64巻2号)〕)
一橋ビジネスレビュー 2016 Autumn(64巻2号) [雑誌]一橋ビジネスレビュー 2016 Autumn(64巻2号) [雑誌]
一橋大学イノベーション研究センター

東洋経済新報社 2016-09-09

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 グーグルは5つの真実の瞬間を掲げているが、日本企業は"NMOT(Nth Moment of Truth)"という視点を持つ必要がある。つまり、真実の瞬間は、探せばいくらでもあるということだ。そのあらゆる接点において、企業は顧客に対して、自らが顧客にとっての誠実な友人であると示すことが重要である。