この1冊ですべてわかる 管理会計の基本この1冊ですべてわかる 管理会計の基本
千賀 秀信

日本実業出版社 2011-06-30

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 固定費をかけるとは、手間をかけることです。固定費(手間)をかけない商売は、外部に支払う変動費は発生しても、手間をかけていないので顧客には何のメリットも感じさせることができません。だから、顧客からそれを見透かされて、変動費に上乗せする利益(これを付加価値と言う)を請求できないのです。
 固定費をかけると付加価値(粗利益)が生まれます。実際の商売では、販売費とか人件費のような固定費(手間)をかけることで、仕入原価に粗利益を乗せて販売できるのです。
 固定費にはそういう性質があったのかと勉強になった部分(今さら・・・)。

 私の前職の企業は教育研修と人事関連のコンサルティングを行っていたが、メインは教育研修事業であった。教育研修事業のコスト構造は極めてシンプルで、変動費としてはテキストの印刷代、外部に委託していた診断(アセスメント)の費用、外部講師を用いた場合の講師フィーが発生する程度であった。固定費は主に人件費と家賃である。基本的に、研修コンテンツの開発と講師を内部でまかなう方針であったため、人件費が非常に高くついた。

 ブログ本館の記事「【ベンチャー失敗の教訓(第21回)】何年経ってもまともな管理会計の仕組みが整わない」でも書いたが、それぞれの研修をいくらで何社の企業に販売すれば、どのくらいの売上高と利益を達成できるのか、社長をはじめ誰も計算していなかったと思う。本書に載っているコーヒー専門店の事例と同じくらい単純なコスト構造なのに、変動損益計算書のようなものを見たことがなかった。社長は毎年「今年は売上2億円を目指す」と念仏のように唱えているだけで、決算を締めてみたら実は損益分岐点売上高が2.3億円で、それに対して売上高が1.6億円ぐらいしかなく、赤字が7,000万円ということがざらにあった。

 ブログ本館の記事「【ベンチャー失敗の教訓(第24回)】行き当たりばったりでシナリオのないサービス開発」でも書いたように、前職の会社はサービス開発を乱発していたため、企業規模の割にやたらと研修の数が多かった。だが、それぞれの研修は、担当講師と担当営業がほとんど固定されていた。つまり、それぞれの講師と営業担当者が複数の研修を担当していた。よって、各研修の開発・営業・実施に要した講師と営業担当者の人件費をABC(活動基準原価計算)で算出すれば、誰がどのくらい足を引っ張っているのかが解るはずであった。

 ところが、前職の会社には日報も週報も存在しなかった。だから、それぞれの講師が各研修の開発や実施に何時間かけているのか把握できていなかったし、それぞれの営業担当者が各研修を販売するために何時間を商談や提案書作成に費やしているのかも不明であった。私にできたことと言えば、各研修の売上高の割合に応じて、講師と営業担当者の人件費を按分することぐらいであった。それですら、それまで私以外に誰も計算したことがなかった。

 社長は大手コンサルティングファームでそれなりの地位まで上り詰めた人であった。また、社内には同じコンサルティングファームで働いていたマネジャーが何人かいた。そういう人に経営をさせても、所詮はこの程度なのである。社長も自分の経営手腕には自信がなかったらしく、「社長らしく振る舞うにはどうすればよいか?」といった内容の怪しげな本まで買って勉強していた。しかし、本当に勉強すべきだったのは、本書のような本だったのではないかと思う(私も今頃本書を読んでいるようでは遅すぎるのだが・・・)。