進出前から知っておきたい ベトナム事業運営マニュアル進出前から知っておきたい ベトナム事業運営マニュアル
株式会社エスネットワークス

中央経済社 2013-10-19

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 本書で勉強になった箇所のメモ書き。

 ・日本ではeコマース事業やネット広告事業は簡単にできるが、ベトナムではそうはいかない。まず、eコマース事業の場合、輸入・輸出ライセンスの取得は小売ライセンスほど難しくないものの、取り扱う予定の製品のHSコードを1つずつ登録しなければならない。ライセンス取得後、新規に製品を追加する場合は、改めてHSコードを取得する。ネット広告事業に関して言うと、ベトナムにおいて広告サービスは100%外資が認められておらず、必ず現地パートナーが必要となる。

 ・ベトナムは裾野産業がまだ育っておらず、2012年時点で現地調達率は24%にとどまる。逆に言うと、海外から輸入される原材料が重宝されるわけで、ローカル社員による盗難や横領が頻発する。定期的に棚卸を徹底する、監視カメラでモニタリングするなどの対策が必須である。

 ・日系進出企業の約8割は、株式会社ではなく有限会社の形態で進出している。2人以上有限会社において、ある出資者が持ち分を譲渡する場合には、他の出資者が先に譲り受ける権利を有しており、第三者に自由に譲渡できない。そのため、閉鎖的な経営に向いている。また、取締役会の設置も不要で、出資者が意思決定について広範な権限を有している。有限会社においては、所有と経営が未分離のまま、機動的な経営をすることが可能である。

 ・ベトナムは社会主義国であるから、私人や企業が土地を所有することはできない。外国企業がベトナムで土地を使用する場合は、土地使用権をリースする。土地使用権のリースは、最低販売面積が1万平方メートル以上となっている。1平方メートル単価は30~100ドルであるから、最低でも約3,000万円~1億円の資金が必要である。中小企業にとっては重たいコスト負担となるため、その場合はレンタル工場を選択するとよい。諸々のコストを勘案すると、操業10年ぐらいまではレンタル工場の方がコスト面で優位である。

 ・ワーカーの通勤は半径5㎞、15分程度が限界と言われている。自ずと、都心からある程度離れたところに工場を建設せざるを得ない。一方、管理部門スタッフは大卒を採用するが、彼らは都心で働きたがる。彼らを郊外の工場に通勤させようとしても、通勤時間1時間が限度である(ベトナムは周知の通りバイク社会であり、ワーカーも管理部門スタッフもバイクで通勤する)。それから、日本人駐在員の住居をどこにするかという問題もあるが、当然のことながら都心よりも郊外の方が条件は劣る。ただし、最近はホーチミン市の郊外にあるビンズン省で東急電鉄グループが都市開発を行うなどの動きがある。

 ・ベトナムの大学生は、文系でも大学で学んだことが活かせる業種・職種を希望する傾向が強い。企業側の都合で年間60日を超えて異動させる場合には、3日前までに本人に通知し、合意を得る必要がある。ただし、異動の結果、大学で学んだことが活かせないと解ると、彼らは簡単に転職する。それから、ベトナムでは学歴ヒエラルキーが強く、学歴を十分に考慮して組織を作る必要がある。彼らのマネジメント上最も気を遣うのが、給与改定の交渉である。1回で納得してもらえることはまずなく、何度も給与の根拠を丁寧に説明しなければならない。

 ・会社印は、日本とは異なり、公安(警察署)で取得する。一時期、偽造が多発したため、このような制度になったようである。また、販売開始までに付加価値税のインボイスを準備する必要があるが、インボイスを印刷する前に、所轄税務局にインボイス印刷決定書を提出しなければならない。正式な付加価値税のインボイスがない場合は、税務上損金算入ができない。ただし、会計上費用計上することは可能である。この点を理解していないチーフアカウンタントに処理を任せると、会計上も費用計上できないものと勘違いしてしまい、会計上の現金残高と実際の現金残高が食い違うことがあるため、要注意である。

 ・ベトナム人は、日本人の協調性に驚くようである。ベトナム人は基本的に自己成長を重視しており、これまでの教育環境から、チームワークを発揮できる場面がなかったことが影響している。日本人はチームワークを発揮して他の社員にも積極的に物事を教えるのに対し、ベトナムでは他人に物事を教えることは自分の価値を下げることだと考えられている。

 ・ベトナムはインフレ社会であり、2008~2012年の年間の平均インフレ率が12.8%にも達する。これを受けて毎年最低賃金が大幅にアップするが、インフレ率には追いついていないのが現状である。日系企業の場合、最低賃金ギリギリでワーカーを採用することは少なく、最低賃金よりも何割か高い賃金を適用するのが普通だが、だからと言って安心はできない。最低賃金が自社の賃金に追いついてくる可能性もさることながら、ベトナム人は「最低賃金が○○%上がったのだから、自分たちの給与も○○%上げてほしい」と要求してくる。

 ・前述のようにインフレ社会であるため、不動産バブルが生じている。バブル崩壊を恐れる中央銀行は、資金使途を厳しく制限するようになった。金融機関は、融資はするものの、借入金の口座に資金を入れずに、金融機関から当該企業の支払予定先に直接振り込むという形をとる。ちなみに、ベトナムは日本以上に担保を重視する社会である。逆に、キャッシュフローはほとんど重視されない。

 ・ベトナムの外国契約者税は、ベトナムで法人格のない外国人および外国法人を対象に、各種のサービス料金やロイヤルティ、利息、フランチャイズ・フィーなどを含むベトナムの領土で発生する収入に適用される源泉徴収税である。親子ローンを組んだ場合、子会社から親会社に送金される利息にも5%の外国契約者税がかかることは意外と忘れられがちである。

 ・ベトナムでは会社を清算するのが非常に難しい。なぜならば、全ての債務を弁済することが清算の条件になっているからだ。そのため、清算せずにそのまま放置されている企業が相当数存在する。