ASEAN経済共同体と日本: 巨大統合市場の誕生ASEAN経済共同体と日本: 巨大統合市場の誕生
石川 幸一 助川 成也 清水 一史

文眞堂 2013-12-13

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 2015年12月31日にASEAN経済共同体(AEC:ASEAN Economic Community)が発足した。主たる目的はASEAN域内の関税をなくし、単一市場・単一生産拠点を実現することにある。AECにより、EUの約5億人を上回る約6億人の巨大な市場が誕生する。もっとも、ASEANでは以前からAFTA(ASEAN自由貿易地域)の交渉を通じて関税撤廃が進んでおり、CLMV(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)を除く6か国では既に関税ゼロが実現している。残りの4か国についても、2018年をめどに関税が撤廃される予定である。

 一般的に、企業の国際化には大きく4つの段階がある。まずは、①ある1つの国・地域に進出する。②①が上手くいけば、複数の国・地域に進出し、各国・地域の事情に合わせた製品・サービスを提供する。③さらなる成長を目指すには、規模の経済を活かすために、グローバル規模で標準化された製品・サービスを開発し、世界中に展開する、④グローバル市場が成熟してくると、各国・地域の細かいニーズを取り込んでローカライゼーションを行う、というものである。

 ところが、最近のグローバル企業は、①や②をすっ飛ばして、いきなり③から始めることが多い。アメリカのグローバル企業はその典型である。他にも、北欧(デンマーク、ノルウェー、フィンランド、スウェーデン)の企業は③から始めることがある。北欧はいずれも人口規模が小さいため(4か国を合わせても約2,500万人しかいない)、企業は国内市場をあてにせず、すぐに海外に向かう。その際、シンプルなデザインに価値を置き、ローカライズをほとんどしない。デザインがシンプルで、カスタマイズをしないわけだから、低コスト・高収益経営が可能となる。イケアがその一例である(『週刊ダイヤモンド』2015年3月14日号より)。

週刊ダイヤモンド 2015年3/14号 [雑誌]週刊ダイヤモンド 2015年3/14号 [雑誌]
ダイヤモンド社 週刊ダイヤモンド編集部

ダイヤモンド社 2015-03-09

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 意外なところで③から始めるのが上手なのがイスラエルの企業である。イスラエルのグローバル企業は、大規模な多国籍企業が魅力と感じず、地元企業が十分に対応できないといった機会が存在する国や地域に標準を合わせる。別の言い方をすると、ニッチすぎて大企業の関心を引かないが、全世界の各市場をつなぎ合わせると相当規模のチャンスになるようなセグメントを選択する。そして、目立たないやり方でゆっくりと、この中間領域に浸透していく。

 イスラエルの企業にこのようなグローバル経営が可能なのは、経営幹部の多くがイスラエル国防軍(IDF)出身であり、高度な戦術に長けていることも関係している(ジョナサン・フリードリッヒ、アミット・ノーム、エリー・オフェック「多国籍企業と地元企業が不在の「中間領域」を支配する グローバル化の秘訣はイスラエル企業に学べ」〔『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2015年2月号〕より)。

Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2015年 02月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2015年 02月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2015-01-10

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 翻って日本企業のことを考えてみると、日本企業はいきなり③から始めるのが非常に苦手なのではないかと感じる。日本企業は、市場にべったりと張りつき、顧客に密着して個別ニーズに丁寧に対応していく傾向がある。したがって、海外展開する場合も、1か国ずつ着実に進める道を選択する。近年よく耳にする、「チャイナ・プラスワン戦略」、「タイ・プラスワン戦略」といった言葉がそれをよく表している。いきなり③から始めるには、個別の顧客ニーズの相当部分を犠牲にして製品・サービスを標準化する必要があるが、日本企業の文化からしてそれはなかなか受け入れられない。だから、AECによってASEANが単一市場になっても、日本企業は相も変わらず1か国ずつ攻略することになるのだろうと思う。