図解 実践オープン・イノベーション入門図解 実践オープン・イノベーション入門
出川 通 中村 善貞

言視舎 2016-10-25

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 この段階では、自社内にないリソースを単純に外部に求めるだけではなく、より積極的に外部アライアンス相手(大学や公的研究機関、ベンチャー・中小企業から大企業まで)と価値(それを具現化した商品・サービス)を「協創」します。いわゆる技術を持ち寄っての開発・試作品製造や、機器とそこに用いる消耗品との共同展開、ハードとソフトなど異なる領域のアライアンス相手との連携による価値協創です。
 本書全体を通じて感じたのは、自社にないリソースを外部(大学や公的研究機関、ベンチャー・中小企業や大企業など)に求めることをオープン・イノベーションと呼んでおり、通常のアライアンスとの違いが曖昧であるということだった。”オープン”・イノベーションと言うからには、自社を中心に広範囲なネットワークを構築し、その中で様々なアイデアやイノベーションが”自律的に”立ち上がってくることを支援しなければならないと思う。自社に不足している経営資源が明らかであり、その不足分を補うという明確な目的のために、アライアンス相手を絞り込んで最適なパートナーを探すのは、クローズド・イノベーションではないかと思う。

 オープン・イノベーションでは、企業は3つの情報をネットワーク上に公開する。自社がやりたいと思っていること、自社に不足している資源・能力、自社が強みとする資源・能力の3つである。この3つの情報を基に、以下のような3つの可能性が生まれる。①自社がやりたいと思っていることと他社がやりたいと思っていることが合致し、両社が単独で製品化・事業化をするよりも、共同で実施した方がスケールメリットを活かせるケース(統合型)、②自社に不足している資源・能力を他者が保有しており、両社が協業すれば製品化・事業化できるケース(補完型)、③自社が強みとする資源・能力と、他社が強みとする資源・能力を上手に掛け合わせると、新たなビジネスの方向性が見えてくるケース(創発型)である。

 オープン・イノベーションの醍醐味は、当初のアイデア・目的とは異なる可能性が発見されることである。創発型はまさにその典型であるが、統合型であっても、両者がアイデアを持ち寄った結果、双方が単独では思いもよらなかったような戦略、製品・サービスコンセプトを構想するかもしれない。補完型でも、単に自社の足りないところを他社が補うという関係にとどまらず、ビジネスモデルそのものの見直しに発展するかもしれない。こうした自由なアイデアが創出される点に、オープン・イノベーションの面白さがある。逆に、冒頭でも述べたが、特定の目的のために他社と連携するのは、クローズド・イノベーションの世界である。

 本書でも書かれていたが、オープン・イノベーションでは協業する両社が共通の目標を追求すると一般的には考えられている。もちろん、コラボレーションする以上は共通の目標が必要であろうが、組織が異なる限り、双方の企業に固有の目標も当然のことながら存在する。仮に、両社が共通の目標だけを追求するのであれば、両社は合併した方がよい。その選択肢を取らずに、敢えてオープン・イノベーションという道を選択するからには、共通の目標を追い求めるのと同時に、両社は自社に固有の目標も大切にするべきである。

 この目標管理は非常に難しいが、1つの方法としてバランス・スコア・カードを活用することができると思う。財務の視点のレイヤーに、両社が共通で追求する目標と、両社がそれぞれ追求する目標を掲げる。そして、その目標を達成するために必要な下位の目標を顧客の視点、業務プロセスの視点、学習と成長の視点の各レイヤーに記述していく(下位の目標の中にも、両社が共通で追求する目標と、両社がそれぞれ追求する目標があるだろう)。

 そして、それぞれの目標の因果関係を線で示した場合に、両社が共通で追求する財務の視点の目標に伸びる目標の連鎖と、両社がそれぞれ追求する財務の視点の目標に伸びる目標の連鎖の両方が存在することを確かめる。これが、オープン・イノベーションのマネジメントの1つのカギになるだろう。

 さらに言えば、一方の企業にとっての固有の目標を達成すると、それが他方の企業にとっての固有の目標の達成を支援するような形が作れるとなおよい。例えば、A社が業務プロセスの視点に掲げた固有の目標を達成すると、A社が顧客の視点に掲げた固有の目標が達成されるだけでなく、B社が業務プロセスの視点や顧客の視点に掲げた固有の目標の達成も支援されるといった関係である。

 ブログ本館の記事「【ドラッカー書評(再)】『断絶の時代―いま起こっていることの本質』―「にじみ絵型」の日本、「モザイク画型」のアメリカ」で、企業は自社に固有の目的を追求するだけでなく、下剋上、下問、水平方向のコラボレーションを通じて、様々なステークホルダーの目標達成を支援する存在であると書いた。先ほどのような関係が、オープン・イノベーションの副次的効果として生まれると、両社の関係はより良好で緊密なものになるに違いない。