こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント)のブログ別館。1,500字程度の読書記録の集まり。

読書

DHBR2017年12月号『GE:変革を続ける経営』―キャリア自律を引き出したければ企業はより強力に戦略を示さなければならない


ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 12 月号 [雑誌] (GE:変革を続ける経営)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 12 月号 [雑誌] (GE:変革を続ける経営)

ダイヤモンド社 2017-11-10

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 2016年4月1日に「改正職業能力開発促進法」が施行された。同法は、労働者が職業生活設計を行い、その職業生活設計に即して自発的な職業能力の開発および向上に努めることを基本理念としている。事業者は、「労働者が自ら職業能力の開発及び向上に関する目標を定めることを容易にするために、業務の遂行に必要な技能及びこれに関する知識の内容及び程度その他の事項に関し、情報の提供、キャリアコンサルティングの機会の確保その他の援助を行うこと」(第10条の3第1項)が義務化された。ここで言う「キャリアコンサルティング」とは、「労働者の職業の選択、職業生活設計又は職業能力の開発及び向上に関する相談に応じ、助言及び指導を行うこと」(第2条第5項)と定義されている。

 経済が右肩上がりで成長していた時代には、従来は企業が社員に対して明確なキャリアパスを示し、社員はそれに従ってキャリアを歩んでいればよかった。ところが、経済が成熟化し、先行きが不透明になると、企業が社員に対してキャリアパスを示すことが困難になり、代わりに社員が自ら自分のキャリアを開発することが求められるようになった。これをキャリア自律と言う。GEは、有名な「セッションC」や「9ブロック」に代表される従来の人事制度を抜本的に改め、上司と部下が日常業務の中で頻繁にコミュニケーションを図ることで部下の能力やコンピテンシーを伸ばし、部下のキャリア自律を支援するようになっている。

 日本企業にもこの流れが及んで、職業能力開発法が改正されたわけだが、キャリアコンサルティングに取り組んでいる企業の社員からは、「突然、自分のキャリアを自分でデザインせよと言われてもどうしてよいか解らない」、「企業がもっと方向性を明確に打ち出してくれないとキャリアデザインができない」といった困惑の声が聞かれる。企業が明確な方向性を示せないので、社員に方向性を打ち出させようとしているのに、実際には社員は企業に対して、以前にも増してはっきりとした方向性(戦略と言ってもよい)を示すことを要求している。

 私は、社員側の言い分にも十分な理由があると思う。おそらく、こういうことを言う社員がいる企業では、経営陣や人事部が「社員がやりたいことを自由に考えてよい」というメッセージを発しておきながら、いざ社員が自分のキャリアをデザインすると、「その仕事は我が社ではできない、やる機会・環境がない」などと言って突き返すだろうと社員が恐れているのである。社員にとってこれほど迷惑な話はない。顧客が商談の初期の段階で「御社の提案に従います」と言っておきながら、いざ仕様を細かく詰めていくと、「私(我が社)がほしいのはこんな製品・サービスではない」などと言い出す顧客とはつき合いたくないのと同じである。

 だから、逆説的であるが、社員がキャリア自律を実現するには、企業は(キャリアパスは無理でも、)少なくとも戦略は明確に打ち出す必要がある。経営陣は社員に対し、「我が社はこういう方向に進もうと考えている」と主張する。一方の社員は、「いや、私はこういう方向に進みたいと考えている」と言い返す(山本七平の言葉を借りれば「下剋上」である)。この「強烈なトップダウン」と「強烈なボトムアップ」が衝突するところに創発的な学習が生まれ、その結果として企業はより洗練された戦略を、社員はより高度なキャリア意識を手に入れることができる。

 企業は改正職業能力開発促進法によって、キャリアコンサルティングさえ実施していれば、方向性を考えるのは社員に任せればよいことになった、というわけでは決してない。むしろ、経営陣が戦略を入念に構想する責任は、以前よりも大きくなったと考えるべきである。この点を誤解してはならないと思う。

『週刊ダイヤモンド』2017年11月18日号『右派×左派/日立流を阻む前例主義 東電”川村新体制”の苦闘』―職務給・成果給はチームワークを阻害する


週刊ダイヤモンド 2017年11/18号 [雑誌] (右派×左派 ねじれで読み解く企業・経済・政治・大学)週刊ダイヤモンド 2017年11/18号 [雑誌] (右派×左派 ねじれで読み解く企業・経済・政治・大学)

ダイヤモンド社 2017-11-13

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 本号の特集「右派×左派」とは関係ないところで1つ興味深い記事を見つけた。
 最近の若者は、与えられた職務には真摯に取り組むが、その一方で、組織の中で分担が曖昧になっている仕事は「誰かがやるだろう」と捉え、率先して取り組むという感性が鈍いといわれている。

 野球の現場もそれと似ており、打つ、投げるという技量の向上には意欲的になる反面、連係プレーにミスが出るケースが増えている。組織(チーム)の危機につながるリスクは、人(選手)の能力ではなく、人と人の間(複数の選手が絡むプレー)から生まれるのだ。

 例えば、ある遊撃手には、三遊間からの送球がそれる癖があるとしよう。悪送球で走者が進めばピンチになるが、一塁手がその癖を把握した上でうまく捕ってやれば、ミスを未然に防ぐことができる。ここ一番の勝負におけるヤマハの弱点は、そうした連係意識の欠如にあると気付いた美甘(将弘監督)は、「ヤマハのミス」という表現で選手たちに強く意識させる。
(横尾弘一「夢の狭間で#43 ニッポン企業の写し絵、社会人野球 ”勝ち運”を持つ男が率いて掴み取った4度目の日本一」)
 私は、最近の若者(個人的には若者に限らないと思うのだが)が組織の中で分担が曖昧になっている仕事をやりたがらないのは、欧米から職務給や成果主義が持ち込まれた影響が大きいと思う。職務給や成果主義では、それぞれの社員の職務範囲や目指すべき成果が明確に定義される。そして、給与とはその職務や成果に対する対価として位置づけられる。

 今後、ますます仕事の不確実性が増し、さらにチームワークやコラボレーションの機会が増えると、あらかじめ想定していなかった仕事が次々と発生する。その仕事は誰かが率先して拾わなければ、チームやプロジェクトが回らない。こういうケースにおいて、職務給や成果給は非常に相性が悪い。職務給や成果給は「自分はここまで仕事をすればOKである」、「自分の給与の額を考えれば、それは自分の仕事の範疇ではない」という境界線を引いてしまう。そういう意識が組織運営に深刻な弊害をもたらすことを、私は前職のベンチャー企業で嫌と言うほど経験した(ブログ本館の記事「【ベンチャー失敗の教訓(第41回)】自分の「時間単価」の高さを言い訳に雑用をしない」を参照)。

 私は給与を職務や成果に対する対価としてとらえる立場に反対である。普段は保守的なことを書いている私がこういうことを書くと、突然リベラルに転向したのかと思われるかもしれないが、給与に関しては、私は生活給を支持している。つまり、給与とは社員の生活費をまかなうものである。もっと言えば、マルクスが主張したように、給与とは、①社員が生活する、②社員が自己教育に投資する、③社員の家族を再生産する(=子どもを産み育てる)ための費用をカバーするものである。そして、通常①~③のコストは年齢とともに上昇するから、生活給は自ずと年功的になる。私はこれが最も公平な給与制度だと思っている。

 ただ、こう書いておきながら、ここで2つの疑問が生じる。1つ目は、企業が社員に対して支払う報酬は生活給であるのに対し、顧客が企業に対して支払う報酬は、製品・サービスに対する対価、言い換えれば、企業がした仕事に対する対価であるという点である。顧客は企業から製品・サービスを購入しているのと同様に、企業は社員から労働力を購入している。それなのに両者の報酬の性質に違いが生じる理由をどのように説明すればよいかが今の私にはまだ解らない。

 もう1つの疑問は、引用文の通り野球では連係プレーが欠かせないが、プロ野球で生活給を採用している球団は1つもなく、基本的には成果主義的な報酬が採用されているという点だ。それでも連係プレーのミスを防ぐために、どのような工夫をしているのかというのが2つ目の疑問である(広島東洋カープは選手の査定項目を1,000以上設定している。おそらく、その中には連係プレーの項目も細かく入っているのだろう。だが、この方法では査定作業が非常に煩雑になる)。

小笹芳央『モチベーション・マネジメント―最強の組織を創り出す、戦略的「やる気」の高め方』―モチベーションを高めるのは社員の責任


モチベーション・マネジメント ― 最強の組織を創り出す、戦略的「やる気」の高め方 (PHPビジネス選書)モチベーション・マネジメント ― 最強の組織を創り出す、戦略的「やる気」の高め方 (PHPビジネス選書)
小笹 芳央

PHP研究所 2002-12-02

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 私が大学生の時に買って読んだ本を10数年ぶりに読み返してみた。恨み節を言うわけではないが、会社員というのは非常に恵まれた”身分”である。仕事がない時期があっても周りの人が働いてくれるおかげで給料はもらえるし(その代わり、周りの人に仕事がない時には自分が働かなければならないが)、仕事で大失敗を犯しても減俸か左遷で済まされるし、健康保険や年金の半分を会社が負担してくれるし、福利厚生制度があるし、有給を取れば仕事を休んでも給料が入るし、病気で長期間休養しても収入の一定割合を保障してくれる制度がある。

 それに、本書で「社員のモチベーションアップは企業の務めである」と書かれているように、会社が自分のモチベーションにも気を配ってくれる。加えて、改正職業能力開発促進法が今年の4月から施行されたことによって、社員はキャリアコンサルティングの機会を受ける権利まで取得した。独立して1人で仕事をしている私から見れば、まさに至れり尽くせりである。現代の会社こそ、最高の社会主義機関なのではないかとさえ思えてくる。

 独立すると、これらの特権は何もないことに気づく。仕事がなければ収入はゼロであるし、病気で仕事ができなければそれまでの仕事を失う(私は独立してから2度病気で入院し、仕事に支障をきたしたことがある)。国民健康保険料は非常に高いし、国民年金は月額の保険料こそ少ないが、その分将来もらえる年金も微々たるものになる。仕事で大失敗をすると損失は全部自分の身に降りかかってくる(私も相手に騙されて大損害を被ったことが何度かある)。福利厚生制度なんてものは当然ない。一番苦しいのは、放っておくとモチベーションを上げてくれる要素が何もない状態になることである(ブログ本館の記事「中小企業診断士として独立してよかった2つのことと、よくなかった5つのこと」を参照)。

 ただ、よく考えてみると、企業が社員のモチベーションを上げなければならないというのは奇妙な話である。企業は社員にお金を払う立場、社員は企業からお金をもらう立場である。お金をもらう立場の人がお金を払う立場の人にモチベーションまで上げてもらおうということがいかに不自然であるかは、顧客と企業の関係を考えると解る。顧客は企業にお金を払う立場、企業は顧客からお金をもらう立場であるが、顧客は企業のモチベーションを上げようとは露だに思わない。

 それでも企業が社員のモチベーションを上げなければならないのは、顧客は企業が気に食わなければ別の企業を選択すればよいだけであるのに対し、上司は部下が気に食わないからと言って部下の首を簡単には挿げ替えることができないからである。上司は今いる部下に頑張ってもらわなければならない。ここに、上司が部下のモチベーションを上げる必要性が生じる(ブログ本館の記事「【議論】人材マネジメントをめぐる10の論点」を参照)。

 ただ、本書には、10数年前は気づかなかった非常に興味深い記述があった。
 日本では、まだ上司が部下を選べるような環境にはない。上司について、部下は選択権がないのである。だからこそ、上司は全ての責任を受容する器を持たなければならない。
 裏を返せば、労働市場の流動化が進んで、上司が部下を自由に選べる時代、環境が実現する可能性があるということになる。そうなると、上司と部下の関係は顧客と企業の関係と同じになり、上司が部下のモチベーションを上げる必然性はなくなる。したがって、モチベーションを上げるのは部下本人の責任となる。私は、これが本来のあるべき姿なのではないかと思う。

 マズローの欲求5段階説によれば、人間の最高次の欲求は自己実現である。しかし、マズローの説はあくまでも仮説にすぎず、多くの人はその1つ下に位置する承認欲求が最も強いと言われている。つまり、我々は周囲の人から認められたいと思っており、周囲の人から認められるとモチベーションが上がる。だから、社員が自分のモチベーションを自分で上げる最も効果的な方法は、顧客(社内顧客を含む)に対して、自分の仕事ぶりがどうであったか、自分の仕事は相手の役に立ったか、相手に価値をもたらしたかを直接尋ねることである。

 経営学者のピーター・ドラッカーは、毎年卒業生を無作為に50人程度選んで直接電話し、今どんな仕事をしているのか、学生時代の講義は役に立っているかといったことを聞いていたそうだ。大学の教員というのは上下関係が薄く、皆個人商店のようなものであるから、周囲からモチベーションを上げてもらうことを期待することができない。そこでドラッカーは、顧客である学生から直接自分の評価を聞き出すことで、自分のモチベーションを上げていたのだろうと思う。

久繁哲之介『商店街再生の罠―売りたいモノから、顧客がしたいコトへ』―「レトロ商店街」、「テーマパーク型商店街」などは十中八九失敗する


商店街再生の罠:売りたいモノから、顧客がしたいコトへ (ちくま新書)商店街再生の罠:売りたいモノから、顧客がしたいコトへ (ちくま新書)
久繁 哲之介

筑摩書房 2013-08-07

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 著者は地方自治体から商店街活性化の仕事を随分と請け負っているようだが、本書の中で行政の担当者を滅多切りにしている。商店街を活性化しなければならないと口では言いながら、通勤する時はマイカー通勤で商店街を見ることもなく、昼には市役所の安い食堂で食事を済ませる。著者を招いた勉強会の後には、商店街で懇親会をするのではなく、市役所の会議室でウーロン茶で乾杯をする(マイカー通勤をしているためである)。こんな市役所の担当者に商店街のことが解るわけがない、彼らが立てる商店街活性化計画など、役所にありがちな美しい文章にすぎないと味噌くそに言っている。一応、著者にとって行政は顧客にあたるはずなのだが、その顧客をここまでけなすということは、仕事を切られてもいいと思うほどはらわたが煮えくり返る経験をしたのだろう。

 著者は、最近の商店街活性化の取り組みのうち、「レトロ商店街」、「テーマパーク型商店街」、「B級グルメ商店街」の事例をことごとく批判している。私も著者の考えには基本的に賛成である。

製品・サービスの4分類(大まかな分類)

製品・サービスの4分類(各象限の具体例)

 ブログ本館の記事「【シリーズ】現代アメリカ企業戦略論」などで私が頻繁に用いている上図に従うと、商店街は左下の<象限①>に該当する。ところが、商店街をレトロ商店街化するといった取り組みは、簡単に言えば商店街を観光地化しようとするものであるから、商店街を<象限①>から<象限③>に移行させる取り組みである。何度も書いている通り、<象限③>はイノベーションの領域であり、顧客の需要を一から創造しなければならない。資金力のある企業が多数のエバンジェリスト(伝道者)を派遣し、自社のイノベーションの魅力を訴求して、顧客を洗脳する。イノベーションが成功を収めれば莫大な富を手にすることができる。イノベーターは、成功した後は市場からさっさと身を引き、悠々自適のセカンドライフを送る。しかし、そんなことができるイノベーターはごく少数である。

 自らがイノベーションを創出する代わりに、イノベーションのプラットフォームを用意するという選択肢もある。GoogleやAppleのスマートフォンアプリ、定額音楽配信サービスのプラットフォームなどがその代表例である。そして、無数のイノベーションをランキング化し、何が顧客にとって最良のイノベーションかを顧客自身に決めさせる。イノベーション単体の寿命よりも、プラットフォームの寿命の方が長いため、賢いイノベーターはこのプラットフォーム型の戦略に転向している。

 仮にも「地域商店街活性化法(商店街の活性化のための地域住民の需要に応じた事業活動の促進に関する法律)」が「地域住民の生活の向上及び交流の促進に寄与してきた商店街」として、永続的存続を前提としている商店街を<象限③>の博打にさらすのは、私にとっては狂気の沙汰としか思えない。また、前述のプラットフォーム型の戦略も万能ではない。プラットフォーム自体が寿命を迎えることがあるためだ。例えば、今日本ではB級グルメのグランプリが各地で開催されており、商店街がこぞってB級グルメを出品しているが、ランクインするB級グルメが「焼きそば」に偏っていることを著者は本書の中で指摘している。そのランキングを見た人々は、早晩B級グルメから離れていくことだろう。このように、商店街のビジネスは<象限③>と非常に相性が悪いのである。

 商店街は原点に戻って、<象限①>のビジネスに徹するべきである。<象限①>は必需品の領域であるから、顧客ニーズが顕在化しているし、人口や世帯数によって市場規模もある程度見える。だから、やるべきことをやっていれば、<象限③>ほどの派手な成功はなくとも、成果は後からついてくる。ここで言う「やるべきこと」とは、顧客の生の声に耳を傾ける、競合他社を観察し弱点を発見する、自社の差別化要因をはっきりさせるといった、ビジネスとしては当たり前のことに他ならない。本書では「リピート客を作る5つの方法」が紹介されていたのて引用しておく。これすらできないと言う商店街は、座して死を待つのみである。

 ①【顧客の不満】
  店へ何回行っても、大勢の中の無名な一人として扱われる。
 ⇒【顧客ニーズ】
  「常連客(できれば、たった一人の私)」として接客されたい。
 ⇒【リピート客を作る方法例】
  いつも、ご来店ありがとうの気持ちが伝わる「言葉と表情」を示す。

 ②【顧客の不満】
  商品の価値は値段しか書かれていない。売りたい下心しか伝わってこない。
 ⇒【顧客ニーズ】
  商品価値を、顧客ごとの立場・生活シーンに即して伝えてほしい。
 ⇒【リピート客を作る方法例】
  顧客情報(購入履歴、会話履歴)を踏まえて、顧客ごとに商品価値説明や利用方法提案を示す。さらに、顧客情報を踏まえた仕入・生産を行い、メールや電話で「あなたに相応しい商品が入りましたよ」と連絡するとなおよい。

 ③【顧客の不満】
  店に入りにくい(ほしいものがなかった場合、何も買わずに店を出にくい)。
 ⇒【顧客ニーズ】
  気軽に入店したい(必ず、何かを買うわけではない)。
 ⇒【リピート客を作る方法例】
  「試着や試食をして、気に入ったら買ってください」という情報発信を行う。

 ④【顧客の不満】
  少量・一品では買いにくい。
 ⇒【顧客ニーズ】
  少量・一つでも気兼ねなく買いたい。
 ⇒【リピート客を作る方法例】
  少量・一つでも喜んで売りますという情報発信を行う。

 ④【顧客の不満】
  惣菜など揚げ物・焼き物のでき上がり時間が解らない。
 ⇒【顧客ニーズ】
  でき立ての美味しい状態で食べたい。
 ⇒【リピート客を作る方法例】
  でき上がり時間を店舗掲示や店員の声かけなどで伝える。

辻井啓作『なぜ繁栄している商店街は1%しかないのか』―商店街の組合は商店街全体のマーケティング部門になれないか?


なぜ繁栄している商店街は1%しかないのかなぜ繁栄している商店街は1%しかないのか
辻井 啓作

CCCメディアハウス 2013-11-27

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 腐っても中小企業診断士である私は、同業の診断士が書いた本に対してはどうしても厳しい目を向けてしまうという悪癖がある。本書でも、内容が矛盾している箇所を3か所見つけてしまった。

 1つ目は、著者が個別商店や企業の経営を手伝う場合には、「いかに差別化して、心理的な独占状態を作り出し、高い値段で売るか」を重視していると言うのに対し、別の箇所では商店街が物価の安定に貢献していると述べていることである。一般に、スーパーマーケットは商店街よりも安い価格で商品を販売しているというイメージが定着している。だが、スーパーマーケットにも得手不得手があって、必ずしも低価格ではない商品もある。商店街の個店はそこに目をつけて、その商品を低価格で販売する。すると、別の個店もその価格につられて値下げをする。この繰り返しによって適正な価格競争が生まれるというのである。これは、著者が言っている経営支援の方向性とは正反対である。

 2つ目は、既存の商店と新規の商店の関係である。著者は、既存の商店にはあまり期待していないようである。これまで成長できなかった商店が簡単に成長してよい店になることはまずないとはっきり断言している。著者は商店街の意義を、若者が起業しやすい場を提供できることに認めている。意欲のある若者が空き店舗などを利用して創業し、その地域でよい店になれば、その店に惹きつけられるようにして新たな創業が誘発されるというわけである。ところが、本書の最後は、新規の店舗が繁盛店になることができるのならば、既存の店舗にもできないはずがないといった言葉で締めくくられている。これは明らかに変な話である。

 以上の2つはまだ”軽微な”矛盾である。私が最大の矛盾と感じたのは、商店街振興組合とは別に、商店街活性化組織(本書では「商店街エリア活性化機構(仮称)」とされている)を立ち上げ、様々なイベントを実施して商店街への注目を高め、新たな出店を促すと述べている箇所である。私はそれほど商店街支援の経験があるわけではないのだが、商店街のイベントには相当否定的である。

 たいていの商店街では、組合の役員が、単に昔からやっているからという理由で、あるいはもっとひどいケースになると行政が補助金を出してくれるからという理由で、イベントを手弁当で実施している。こんなイベントが成功するはずがない。それでも善意ある商店はイベントに協力して、イベントの日には特別に商品を仕入れたりする。だが、このことは逆に言えば、その商店には商店街に来る人がほしいと思う商品が普段置かれていないことを暴露しているのに等しい。

 こんなイベントを専門とする部隊を立ち上げたところで、一体何になると言うのか?組合の役員がやりたがらないイベントを単にアウトソーシングしているだけではないのか?もちろん、周到に企画されたイベントであれば、商店街内の回遊性を高め、顧客に商店街の価値を認識してもらい、商店街のファンを増やすことも可能かもしれない。しかし、そういうイベントをどのように企画すればよいかについては一切論じられていない。組合との利害を断ち切るために、組合とは別組織にして、外部から専門家を引っ張ってくるべきだとしか書かれていない。

 私は常々、商店街の経営はショッピングセンターの経営を参考にできないものかと考えている。ショッピングセンターの場合、運営会社がテナントに対して経営支援を行うのが普通である。商店街の組合も、役員がイベントや会報の発行を手弁当で行うボランティアみたいな組織から、個店の経営支援を行うマーケティング部門へと脱皮できないだろうか?言うまでもないことだが、企業経営には市場調査と競合他社分析が不可欠である。しかし、商店街の個々の店舗は、日々の業務に忙しく、これらの調査を行うことが難しい。仮にできたとしても、各店舗がバラバラに調査をしていては非効率である。そこで、組合がこれらの調査を一手に引き受け、そこから得られた知見を活かして個店の経営をサポートする。

 そのためには、人員と費用が必要である。中小企業庁「平成27年度商店街実態調査報告書」によると、1商店街の平均店舗数は54.3である。また、J-Net21「商店街振興組合の会費額の相場と事業資金の調達方法を教えてください」によると、月額会費の平均は4,854円(事業協同組合・任意団体を加えた平均)である。商店街は規模も会費もバラバラなので、あまり平均値に頼るのはよくないのだが、これ以外に使える数値がないので、ひとまずこの数字を使うことにする。商店街の店舗数が約50、月額会費が約5,000円だとすると、組合の予算は月約25万円である。これではとても人を採用することができない。

 そこで、月額会費を2.5万円に引き上げる。すると、組合の予算は約125万円となり、100万円増加する。この増加分で人を2人雇用する。1人あたりの人件費は50万円となり、悪くない条件である。雇用された2人は、商店街の外部環境調査を行うと同時に、25店舗ずつを担当して個店の経営支援に回る。これでショッピングセンターに近い運営をすることができるようになる。

 無論、いきなり会費を5倍に引き上げるのが無謀なのは百も承知である。そこで、最初の数年間は値上げの代わりに補助金を使う。商店街のイベントには数百万円の、街路灯などのインフラ整備には数億円の補助金がつぎ込まれている。それらを一旦全て止めて、組合の人件費へ回す。個店には、将来的に月額会費を上げることを前提として、経営支援を受けてもらう。経営支援の効果を認めてくれる店舗が多い商店街では、補助金終了後に月額会費の値上げに成功して、ショッピングセンターのような運営が実現する。他方、経営支援の効果を認めず、月額会費の値上げにも反対する店舗が多い商店街では、継続的な人員雇用が困難となるから、その時点で元の組合体制に戻せばよい。

 組合に雇用される人材にこそ、中小企業診断士が相応しい。全国には約1.2万の商店街(中小企業庁「FAQ「小売商業対策について」」より。商業統計では、小売店、飲食店、サービス業を営む事業所が近接して30店舗以上あるものを1つの商店街と定義される)があるそうだから、かなりの雇用効果が見込める。診断士の商店街支援活動というと、イベント運営側の人手が足りないから手伝ってくれというケースが多いと聞くが、そんなアルバイトでもできそうな仕事をやるために我々は国家資格を取得しているわけではない。
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プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、1,500字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
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