こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント・トレーナー)のブログ別館。1,500字程度の読書記録の集まり。

読書

社団法人日本内部監査協会『IT監査とIT統制』―ヒト・モノ・カネ・情報の観点から同時にリスク評価ができる統一フレームワークがほしい


IT監査とIT統制―基礎から事業継続・ネットワーク・クラウドまで―IT監査とIT統制―基礎から事業継続・ネットワーク・クラウドまで―
社団法人日本内部監査協会 編

同文館出版 2012-09-27

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 「情報システムライフサイクル別に見たポイント」、「業務委託先管理のポイント」、「情報セキュリティ管理体制のチェックポイント」、「BCM(Business Continuity Management:事業継続マネジメント)体制のチェックポイント」、「クラウド利用にかかる監査のポイント」、「ソーシャルメディア管理体制のチェックポイント」など、次から次へと色々なチェックリストが登場し、混乱してしまった。

 これは個人的な印象だが、ITのリスクマネジメントに関しては、(きれいに整理されているかどうかは別として)多くの手法が開発されていると思う。だが、リスクはITに限ったものだけではない。ITのリスクマネジメントは経営資源のうち情報に焦点を当てたものであるが、経営資源には他にもヒト、モノ、カネがある。情報のリスクは技術的リスク、物理的リスク、人的リスクに分けられるように、ヒト、モノ、カネに関するリスクも何らかの切り口で整理できるようにする必要がある。

 暫定的な案として、ヒトに関しては①故意による不正、②過失によるミス、③モチベーション低下、モノに関しては、①品質、②コスト、③納期、④環境、⑤機械、カネに関しては①故意による不正、②過失によるミス、③資金不足という切り口から、業務プロセスに潜むリスクを洗い出す方法を提案したいと思う。具体的なやり方としては、下図のエクセルの表のように、まず業務プロセスを列挙する。そして、それぞれのプロセスについて、ヒト、モノ、カネ、情報の観点から想定されるリスクを書き込んでいくというものである。もちろん、全てのセルを埋めなければならないというわけではない。例えば以下のような感じになる。

20180525_リスクマネジメント

 《例Ⅰ》「図面に基づいて旋盤で金属材料を加工する」というプロセスの場合。
 【ヒト】
  ①故意による不正=社員による原材料の盗難。
  ②過失によるミス=社員の不注意による加工ミス。
  ③モチベーション低下=危険な作業を長時間強いられること。
 【モノ】
  ①品質=要求通りの品質が達成できないこと。
  ②コスト=若手不足・熟練工依存による労務費上昇。
  ③納期=やり直しによる加工時間の延長。
  ④環境=鉄くずの不適切な処分。
  ⑤機械=保守を怠ったことによる突発的な故障。
 【カネ】(なし)
 【情報】
  ①技術的リスク=図面システムのハッキング。
  ②物理的リスク=サーバが高温の工場に置かれていることによる故障。
  ③人的リスク=社員がプリントアウトした図面を紛失。

 《例Ⅱ》「仕入先から原材料を購入する」というプロセスの場合。
 【ヒト】
  ①故意による不正、②過失によるミスは【カネ】で整理。
  ③モチベーション低下=異動がないことによるマンネリ化。
 【モノ】(なし)
 【カネ】
  ①故意による不正=仕入先へのキックバックの要求。
  ②過失によるミス=工場との連携不足による発注量・発注金額のミス。
  ③資金不足=運転資金の不足。
 【情報】
  ①技術的リスク=購買システムのハッキングによる仕入価格一覧表の漏洩。
  ②物理的リスク=第三者の侵入によるシステムの破壊。
  ③人的リスク=原材料のマスタテーブルの値設定のミス。

DHBR2018年6月号『職場の孤独』―自分の孤独は結果であり原因。だから自分から解決のためのアクションを起こそう


DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2018年06月号 [雑誌]DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2018年06月号 [雑誌]
ダイヤモンド社 DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部

ダイヤモンド社 2018-05-10

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 数年前に『不機嫌な職場』という本が流行ったが、「職場の孤独」という特集タイトルもなかなか衝撃的である。職場で孤独感を感じている人が増えているということは、職場内のコミュニケーションが沈滞していることを意味する。コミュニケーション能力を大きく左右するのは脳の前頭前野という部位で、言語理解、思考、意思決定、意識や集中、感情のコントロール、記憶、創造力などをつかさどっている。ITの発達によって業務が効率化されたと喜んでいる経営者は多いだろうが、一方で社員の前頭前野の働きを低下させているという報告もある。

 川島隆太『スマホが学力を破壊する』(集英社、2018年)によると、手書きで文章を書いた場合や対面でコミュニケーションをとった場合には前頭前野が活発化する。一方で、パソコンやスマートフォンで文章を書いた場合には前頭前野が活性化しない(つまり、私が今この文章を書いている間も、実は前頭前野は活性化していない!)。さらに、遠隔拠点とのコミュニケーションを効率化するためにテレビ電話会議システムを導入している企業も多いが、テレビ電話会議でコミュニケーションをとっても前頭前野には変化が見られないというのである。ITも職場の孤独を生み出す要因の1つになっているのかもしれない。

 川島氏の見解を拡張すれば、人々の絆を広げるために開発されたfacebookなどのSNSも、かえってユーザの孤独感を深める結果になっている可能性がある(実際、私は休日に友人が遊びに行っている写真をSNSで見て、「休日も仕事をしている自分は一体何をしているのだろう?」と疎外感を感じることがある)。

スマホが学力を破壊する (集英社新書)スマホが学力を破壊する (集英社新書)
川島 隆太

集英社 2018-03-16

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 今月号の論文には、職場の孤独を解決するために社員の自助努力を求めるものが多かったことが1つの大きな特徴である。
 孤独を感じている時に他人を助けるというのは意外に思えるかもしれないが、他人に手を差し延べ、自分も援助を受け入れることで、互いに肯定的なつながりが築かれる。
(ビベック・マーシー「成人の4割が自覚し、寿命を縮める病 『職場の孤独』という伝染病」)
 研究者らが「日々の向社会的行動の実践」と呼んでいるのは、基本的には他者に思いやりを示し言葉を交わすことである。これが孤独の治療薬として有効であることが、ある調査で明らかになった。(中略)

 孤独や孤立に関する研究はたいてい同僚や友人、家族との関係を対象としている。(中略)しかし、遠い関係の人々にも思いがけない力があることが、(中略)研究で明らかになった。それによると、「弱いつながり」(あまりよく知らない同僚、フィットネスクラブで一緒になった人など)を相手にちょっとした向社会的行動を取った人々は、不要な会話を避けた人々よりも孤独感や疎外感に苛まれることが少なく、ウェルビーイングや満足度が高いことが報告された。
(スコット・ベリナート「孤独と仕事に関する研究からわかること 『つながっていたい』気持ちは人間の本能である」)
 毎日、他者に役立つことやよいことをするように努める。感謝の力は絶大で、自分のした親切が報われることもあるし、多くの人々につながりを感じさせ、孤立感を軽減させる。(中略)

 俳優・司会者のオプラ・ウィンフリーからヒントをもらおう。彼女は孤独と戦うために、「こんにちはと言うだけ」運動を提唱している。このアイデアは単純に、友人や見知らぬ人、つながりを再認識したい人に対して、ただ「こんにちは」と話しかけることから始めるものだ。こうした単純な行動でさえ、社会的筋肉のストレッチになりうる。
(ジョン・T・カシオポ、ステファニー・カシオポ「米国陸軍で実証した負の習慣を壊す法 心の筋肉を鍛えるエクササイズ」)
 職場で孤独を感じている人は、「職場環境が悪いせいで自分が孤独を感じているのに、なぜ自分から行動を取らなければいけないのか?」と思うことだろう。だが、職場の孤独を生み出しているのは、職場環境だけではなく、孤独を感じているその人自身であることを自覚する必要がある。
 社会的ネットワークの周縁部で、ある驚くべきパターンが確認された。周縁部の人々は友人が少ないために孤独を感じるが、その孤独感ゆえに、残り少ない友人関係も断ち切ってしまう。だがその前に、残っている友人に同じ孤独感が伝染し、このサイクルが連鎖する傾向がある。こうして孤独が増殖する結果、毛糸のセーターが端からほつれるのと同じように、社会的ネットワークも周縁から崩れていく。
(ビベック・マーシー「成人の4割が自覚し、寿命を縮める病 『職場の孤独』という伝染病」)
 私も前職の会社(組織・人事コンサルティング&教育研修サービスを提供するベンチャー企業)で随分と孤独を味わった。詳しくはブログ本館の「【シリーズ】ベンチャー失敗の教訓」、「中小企業診断士を取った理由、診断士として独立した理由(3)【独立5周年企画】」などを読んでいただきたいが、自社HPのリニューアルをする時も、私を含め社員がほとんど誰も賛成していない新サービスを開発するように命じられた時も、会社からは主力サービスではないと位置づけられたものの、収益面では大きく貢献していた研修を一生懸命売っていた時も、私はほとんど孤立無援状態であった。そうした心労がたたったせいか、双極性障害を発症してしまった(10年前に発症したが、今も治療中である)。

 8年前に一時期休職していたのだのが、いかんせん零細のベンチャー企業だったため、代わりに仕事をする人がいない。だから、休職中も週2日ほどのペースで働き続けていた。これでは休職している意味がないから早く復職したいと思っていたところ、ある人から「私が休職したせいで、残った社員のコミュニケーションが余計に悪化し孤立してしまったようだ。だから、復職するならば、私から彼らに働きかけてコミュニケーションを改善しなければならない」とアドバイスされた。

 残った社員というのは全員私よりも年上である。当時は、なぜ彼らの孤立の問題を一番年下の私が解決しなければならないのかと憤ったものである。だが、今月号の論文を読んで、彼らの孤立を作り出した原因の一部は私の孤立であるから、私も問題解決に手を貸すべきだったと反省している。ただし、そのアドバイスを、前職の会社とは無関係な第三者が中立的な立場で言ったのではなく、問題の渦中にいた社長自身が言った点だけは未だに納得していない。

サンフォード・M・ジャコービィ『日本の人事部・アメリカの人事部』―人事部がコーポレート・ガバナンスに関与するとはどういうことか?


日本の人事部・アメリカの人事部―日本企業のコーポレート・ガバナンスと雇用関係日本の人事部・アメリカの人事部―日本企業のコーポレート・ガバナンスと雇用関係
サンフォード・M. ジャコービィ Sanford M. Jacoby

東洋経済新報社 2005-10-01

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 タイトルの通り、日本の人事部とアメリカの人事部を実証的に比較研究した1冊である。簡単に言ってしまえば、日本の本社人事部は「組織志向」であり、アメリカの本社人事部は「市場志向」である。

 ここで言う「組織志向」とは、雇用が可能な限り長く維持され、離職率は低く抑えられ、広範な教育訓練、平等・年功といった組織内の配慮が賃金や採用・昇進・異動の決定に大きな影響を与える傾向のことである。組織志向的な企業では、ステークホルダー型ガバナンスと企業別組合が見られる。これに対して「市場志向」においては、雇用期間はより短く、離職率はより高く、教育訓練投資は少なく、賃金や採用・昇進・異動は市場水準やその他の外部基準に基づいて決まる。市場志向型の組織は株主を特権的に扱い、組合は産業レベルを志向するか、もしくはより一般的に言えば組合自体が存在しない。

 だが、アメリカの本社人事部は、一言で「市場志向」と片づけられるほど単純ではないというのが本書の重要なポイントである。本書の内容に基づいてアメリカの本社人事部の多様性を私なりに整理したのが下図である。

本社人事部の4類型

 アメリカの本社人事部は、「市場志向か組織志向か?」、「人事担当役員とCEOとの関係が強いか?」という2軸のマトリクスで4つのタイプに分けられる。本社人事部が市場志向型の企業においては、人事担当役員がCEOと強い個人的なつながりを持っており、CEOの戦略的意思決定(リストラクチャリングやM&Aなど)に対して深く関与する。その際、人事担当役員は人事としての見識を買われているというよりも、財務的な見方ができるという資質が評価されている。一方、本社人事部が組織志向型の企業においては、人事担当役員とCEOのつながりが弱く、CEOの戦略的意思決定への関与は限定的になる。

 本社人事部が市場志向型の企業は、一般的に多角化経営で分権化されており、プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)などによって運営されている。よって、人事担当役員とCEOとの個人的な関係が強いのに反して、本社人事部自体の力は弱く、それぞれの事業部の人事部に権限移譲されている。これに対して、本社人事部が組織志向型の企業は、一般に単一・少数事業しか持たず集権型であり、戦略的な目的のためというよりも組織をまとめ上げる必要性から、本社人事部は強い力を持っている。よって、「人事担当役員とCEOの関係の強さ」と「本社人事部の力の強さ」の間には、逆相関の関係が見られる。

 一般に、本社人事部が市場志向的であれば人事担当役員とCEOとの関係が強く(本社人事部の力が弱く)、組織志向的であれば人事担当役員とCEOとの関係が弱く(本社人事部の力が強く)なる。したがって、上図で言うと、<象限①>と<象限④>に該当する企業が多い。ただし、著者によれば、組織志向型の企業と市場志向型の企業の差はここ数十年で広がっているとのことである。

 もう1つのポイントは、市場志向でありながら人事担当役員とCEOとの関係が弱い<象限③>の企業や、組織志向でありながら人事担当役員とCEOとの関係が強い<象限②>の企業も存在するということである。本書では、前者の例としてUSコン・エナジー(架空の名称。多国籍事業を展開するエネルギー、建設会社)が、後者の例としてUSエレクトロ(6つの事業部、数十の事業単位を持つ電気機器メーカー)、サウスウェスト航空、メンズウェアハウスが挙げられている。

 ただ、ここで私にとって疑問なのは、アメリカ企業の事例分析の部分で、<象限①>に該当するUS部品工業(中西部に本社を置く大手自動車部品メーカー)やUSコン・エナジーにおいて、本社人事部が企業買収の意思決定に関与したのは、意思決定の最終段階に至ってからか、意思決定が下された後であると記述されている点である。逆に、<象限④>に該当するUS運輸(航空輸送によって文書や小包の翌日配達サービスを提供する大手企業)では、本社人事部が買収段階で大きな役割を果たしたと書かれている。この点で、上記モデルと実例との間の矛盾を感じずにはいられない。

 本書のサブタイトルは「日本企業のコーポレート・ガバナンスと雇用関係」となっている。そこで、人事部とコーポレート・ガバナンスの関係について触れておく必要がある。アメリカ企業の場合、コーポレート・ガバナンスと言うと、株主から預かった資金を適正な意思決定の下に最適な事業分野に投資し、株主が納得するリターンを得るという一連のプロセスの透明性を高める活動だと理解される。

 一方、日本のコーポレート・ガバナンスを私はもっと広い意味で解釈している。ブログ本館の記事「『一橋ビジネスレビュー』2017WIN.65巻3号『コーポレートガバナンス』―コーポレートガバナンスは株主ではなく顧客のためにある」で書いたように、企業は家庭からヒトを、取引先からモノを、株主・金融機関からカネを、学校・教育機関から知識という経営資源を調達している。これらの経営資源を顧客価値創造のために適切なプロセスに従って活用したか?顧客から得られた利益をステークホルダーに適正かつ透明なプロセスで配分しているか?といった観点で自己点検するのが日本のコーポレート・ガバナンスであると考える。

 人事部がコーポレート・ガバナンスに関与するというのは、企業がどのような戦略的方針の下に人材を採用し、どういった教育訓練を施し、いかなる指針に従って人材を各部門に配置し、どんな条件・環境の下で何の仕事に従事させ、その結果としてどんな顧客価値が達成され、社員の働きぶりをどのように評価し、社員にはいくらの利益配分があったのか、といったことについて、透明性を高め、説明責任を果たすことができるようにしておくことである。

 コーポレート・ガバナンスと言うと、すぐに取締役会の改革が取り沙汰される。日本の本社人事部からは取締役に選出される人が多く、この点ではアメリカよりもコーポレート・ガバナンスが進んでいると言えるかもしれない。さらに進んで、経営資源を拠出するステークホルダーが経営陣の活動をはじめ企業活動全般を監視・監督するには、本社人事部出身の取締役に加え、取引先や株主・金融機関、学校・教育機関からも取締役を選出するべきだという見方もあるだろう。

 ただ、私に言わせれば、取締役会によって経営陣を監視・監督することはあくまでも形式論にすぎない。経営資源の適正な利用と、顧客から得られた利益の適切な配分に関して、公正性・透明性が担保されるのであれば、必ずしも取締役会を中心としたコーポレート・ガバナンスに頼る必要はなく、企業の規律ある内省的な活動によってそれが立証されるのであればその方が望ましいのではないかというのが、現時点での個人的な見解である。

『正論』2018年6月号『安倍”悪玉”論のいかがわしさ/シリア攻撃 揺れる世界』―防衛省に日報があってむしろよかったと思う


正論2018年6月号正論2018年6月号

日本工業新聞社 2018-05-01

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 南スーダンPKOやイラク派遣の日報が当初存在しないとされていたのに、後になって次々と見つかっている問題。私はこの問題を詳しくトレースしているわけはないため、今回の記事はややピントがずれているかもしれないが、個人的には日報が存在していてよかったと思っている(日報が歯抜け状態であった点は管理のずさんさを批判されても仕方ないが)。
 日報とは日々の自衛隊員の活動をまとめて送ることによって、上級部隊の指揮官や防衛大臣が状況判断を行うための1次資料です。もう少し長い目で見ると、次に現地へ派遣される部隊の教育・訓練のための資料にもなり、さらに長い目で見れば全く別の任務の際にも部隊の編成や携行装備品を検討するための資料にもなるものです。
(佐藤正久「イラク日報に『戦闘』何が悪い」)
 佐藤正久氏は参議院議員で、元自衛隊・イラク復興業務支援隊長を務めた方である。同氏の記事に基づくと、日報を残すことには3つの意味があると考えらえれる。1つ目は、自衛隊員が日々の現場の情報を詳細に報告することで、上層部が作戦・計画を策定し、必要な意思決定を下すためである。2つ目は、それまでの自衛隊の活動を総括し、よかった点と反省すべき点を分析して、次回以降の自衛隊活動に活かすためである。そして3つ目は、将来的に国民や国会が自衛隊の活動の妥当性を検証する際の基礎資料とするためである。

 行政文書の保管に関しては「公文書管理法(公文書等の管理に関する法律)」があり、政令を通じて行政文書の種類別に保管期間が定められている(第5条1項)。そして、保管期間を経過した行政文書に関しては、歴史公文書などに該当するものは政令で定めるところにより国立公文書館へ移管し、それ以外のものは廃棄の措置をとるものとされている(第5条5項)。政令では、保管期間の最短期間が1年であり、かつ日報については定めがなかったことから、「日報は1年未満で廃棄する」という運用になっていたようだ。

 問題は、「1年を経過したのに廃棄されていなかった日報が存在する」ことではなく、前述のように極めて重要な資料となる日報を「1年未満で廃棄する」という運用にしていたことにあると私は考える。幸いにも、そのルール通りに運用されていなかったおかげで、防衛省も我々国民も、貴重な情報を失わずに済んだ。このように重要度が高い日報には、もっと長い保管期間を設定すべきであろう。

 民間企業の場合でも、業務日報を3年間保管するのが一般的である。特に根拠法令はないが、社員の勤怠(労働関係の重要書類)に関する記録の保管期間を定めた労働基準法を参考にし、3年保存としているケースが多いようだ。仮に、帳簿書類として扱うならば、税法の基準に照らして7年間保存することとなる。企業の日報にも、自衛隊の日報と同じく3つの意味合いがある。

 1つ目は、現場社員の現場の情報を吸い上げることで、マネジャーが適切な意思決定を行えるようにすることである。2つ目は、日報を分析して、その案件やプロジェクトを総括し、成功のノウハウや失敗の原因を抽出して組織知とするためである。3つ目は、例えば解雇した社員から訴訟を起こされた時に、その社員の勤務態度に問題があったことを示す証拠書類として使用したり、株主から業績不振の原因としてある事業が槍玉に挙がった際に、その事業の日報を分析してガバナンスが機能していたかどうかを検証したりするためである。3番目の意義を考えると、3年の保管期間では短いぐらいである。

 企業ですらこのような具合なのだから、国家の防衛という極めて重要な任務については、もっと日報を大切に取り扱うのが筋ではないかと思う。

寺本義也、近藤正浩、岩崎尚人『ビジネスモデル革命―競争優位から共創優位へ』―「共創」とは顧客にコンテンツを作らせること(CGM)ではないだろう


ビジネスモデル革命―競争優位から共創優位へビジネスモデル革命―競争優位から共創優位へ
寺本 義也 近藤 正浩 岩崎 尚人

生産性出版 2007-05

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 本書では、次のような「第5世代のビジネスモデル」が提示されている。
 P*NP∬NW∬SV(H+S)
 日本語で説明するならば、まずハードウェアだけでなく、ソフトウェアを組み合わせたサービスを提供しなければならない。そしてそのサービスは、自社が全て提供することにこだわらず、他社と手を組んでネットワークで提供する。その目的は営利であると同時に非営利でなければならない。つまり、経済的ニーズを満たすと同時に社会的ニーズも満たさなければならないというわけである。

 本書は10年以上前の本なので事例が古い点はご容赦いただきたいのだが、本書の中では、他社と手を組んでネットワークで顧客価値を実現した例として、Appleとサトー(プリンタ、プリンタ関連製品、ハンドラベラー、自動ラベル貼付機器、シールなど自動認識ソリューションを提供)が挙げられている。Appleは携帯音楽プレイヤー事業に参入するにあたって、自社を単なるプレイヤーのメーカーとは見なさなかった。もしAppleがただのメーカーであったならば、そのバリューチェーンは、部品調達⇒組立という単調なものになっていただろう。Appleは音楽レーベル(レコード会社)と手を組むことで、顧客に対して新しい音楽体験を提供することに成功した。Appleのビジネスモデル図には、一般の製造業ではまず登場しない音楽レーベルという存在が書き込まれていた。

 サトーが取り扱う製品の中には、TECをはじめとする大手企業が参入し、サトーにとっては競合相手となり得るものも存在する。大手企業との体力勝負では勝ち目が少ないため、同社は大手企業の製品をむしろシステムの一環として仕入れることで、大手企業とは同じ土俵に立たない仕組みを確立した。これにより、大手企業にとってサトーは競合他社であると同時に大口顧客となった。

 また、本書ではビジネスモデルを4つのサブモデルに分けている。すなわち、①顧客価値創造モデル、②収益モデル、③ファイナンスモデル、④人材モデルの4つである。ブログ本館の記事「DHBR2018年5月号『会社はどうすれば変われるのか』―戦略立案プロセスに組織文化の変革を組み込んで「漸次的改革」を達成する方法(試案)、他」で戦略立案プロセスについて整理したが、人材については、ビジネスモデルやビジネスプロセスを描いた後の戦略的打ち手として、資金調達については、将来の予測損益計算書・貸借対照表を作成した後に検討することを想定していた。このファイナンスや人材を、ビジネスモデルを構想する段階で検討しておくべきだという本書の提言は一聞に値する。

 例えば、セコムは機械警備の導入にあたって、「支払いは3か月分前金、2年契約、契約破棄にはペナルティを課す」という条件をつけた。セコムは、料金を前払いにすることで、莫大な設備投資の資金を調達することに成功した。つまり、セコムのビジネスモデルには、収益モデルだけでなく資金調達の方法についてもあらかじめ盛り込まれていたわけだ。また、本書ではサトーの中途採用を中心としたユニークな人材育成の方法についても紹介されている(ただし、それがサトーの提供する各種サービスとどう関連しているのかがやや不透明であった)。

 ○図1
企業のサブ目的

 ○図2
企業のステークホルダー

 ここからは本書に対する不満。図1についてはブログ本館の記事「【ドラッカー書評(再)】『断絶の時代―いま起こっていることの本質』―「にじみ絵型」の日本、「モザイク画型」のアメリカ、図2については「『一橋ビジネスレビュー』2017WIN.65巻3号『コーポレートガバナンス』―コーポレートガバナンスは株主ではなく顧客のためにある」を参照していただきたい(この2つの図は統合したい(特に、図1からは取引先が抜けている)のだが、私の怠慢で進んでいない)。

 企業がネットワークで価値を提供するという場合、そのネットワークには垂直方向と水平方向の2つがある。垂直方向には自社に対してモノを提供する取引先と、市場や社会のルールを制定する行政がある。企業は取引先を単なる仕入先、外注先として下に見るのではなく、対等なパートナーとしてどのように協業できるかを考えなければならない。また、行政に対しては、行政が市場や社会に対して課している様々な規制のうち、顧客のために変更した方がよい、または導入・撤廃した方がよいものを積極的に提案する役割が今後は求められるだろう(私はこれを山本七平の言葉を借りて「下剋上」と呼んでいる)。

 さらに、これからのビジネスモデルには、モノを提供する取引先だけでなく、ヒトを提供する家族、カネを提供する株主・金融機関、知識を提供する学校も描かれる必要があると考える。そして、取引先をパートナーとするのと同様に、これらのプレイヤーもパートナーと見なす。パートナーとして見なすということは、彼らの目的の達成を企業が支援するということである。取引先に対しては「その企業の業績が向上するために自社として何ができるか?」、家族に対しては「家族の構成員が健康を取り戻すために自社として何ができるか?」、株主・金融機関に対しては「彼らが望むリターンを獲得するために自社として何ができるか?」、学校に対しては「学校が教育ある人を輩出するために自社として何ができるか?」と問う(これを山本七平の言葉を借りて「下問」と呼んでいる)。

 図1では「サブ目的」という表現を使った。これは、企業の第一目的はドラッカーが言うように「顧客の創造」であり、前述の問いに答えることは2次的な目的であるという意味合いである。だが最近は、サブ目的というよりも、第一目的を達成するための「ルール」という表現をした方がよいと考えるようになった。企業は第一義的に顧客の創造を目指すが、その過程で例えば取引先の業績も向上させなければならない。これは必ず守らなければならないルールである。ちょうど、100m走において、目的は「速く走ること」であるのに対し、「決められたレーンの中を走らなければならない」ことがルールであるのと同じ関係である。この辺りはもっと論理的に整理が必要なので、もう少し時間をいただきたい。

 《2018年5月22日追記》
 ブログ本館で、企業の目的と従うべきルールについて整理してみました。
 【戦略的思考】企業の目的、戦略立案プロセス、遵守すべきルールについての一考察


 水平方向のネットワークとしては、図1にあるように、まず競合他社や異業種企業との連携がある。これは、自社の経営資源だけではカバーできない顧客ニーズを満たすための協業である。あるいは、協業を通じて顧客に対して新たな価値を顧客に提供することである。もう1つの連携先として、NPOがある。これは、企業が社会的ニーズを満たすための連携である。NPOは社会的ニーズを抱えた人々を多数抱えているが、ニーズに応えるための製品・サービスをどのように開発し、それを事業としてどうマネジメントするかについてはノウハウが乏しい。この点を補う役割が企業には期待される。いずれの連携も顧客の幅を広げるものであり、先ほど書いた企業の第一目的である「顧客の創造」につながっていく。

 このように、第5世代のビジネスモデルにおけるネットワークはかなり広範囲に及び、かつダイナミズムにあふれているのだが、本書の事例(Google、mixi、Apple、サトー、JR東日本、セコム)ではそこまで詳細な分析がなされていなかった。特に、第5世代のビジネスモデルの最大の特徴として非営利を追求する、つまり社会的ニーズを充足するという点が強調されていながら、どの事例もこの点に触れていなかったのが残念である。

 本書には「競争優位から共創優位へ」というサブタイトルがついている。ここで言う共創とは、第1には競合他社や異業種企業、NPOとの協業を通じた価値の創造であり、第2には行政に対する下剋上、自社に経営資源を提供する各パートナーへの下問を通じて達成されるものであると私は理解している。ところが、本書を読むと、googleやmixiが、ユーザの作成するコンテンツをベースに無料で資源を獲得している点を共創ととらえている節がある。いわゆるCGM(Consumer Generated Media:消費者生成メディア)のことである。確かに顧客との共創かもしれないが、これでは共創の意味をかなり限定してしまうような気がする。
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プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都豊島区を拠点に、東京23区で活動する中小企業診断士(コンサルタント・トレーナー)。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、1,500字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

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(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長を務めています)

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(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)
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