こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント)のブログ別館。1,500字程度の読書記録の集まり。

読書

渡部悦和『米中戦争―そのとき日本は』―中国軍には弱点が多いが米軍との差は確実に縮まっている


米中戦争 そのとき日本は (講談社現代新書)米中戦争 そのとき日本は (講談社現代新書)
渡部 悦和

講談社 2016-11-16

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 本書から中国軍の弱点を拾ってみた。

 <技術的弱点>
 ・中国海軍の潜水艦の能力は逐次向上しているが、敵の潜水艦を攻撃する能力=対潜水艦戦(ASW)能力に関しては著しく低く、そのため海上自衛隊や米海軍の潜水艦が東シナ海や南シナ海で比較的自由に活動することが可能となっている。中国は対潜哨戒ヘリZ-9C/DやZ-18Fを保有しているものの、エンジン性能が低く、航続距離も短く、対潜哨戒ヘリとしての能力は低い。また、中国の水上艦艇で可変深度ソナー(VDS)や戦術曳航式ソナーを装備している戦艦は少なく、水上艦艇のASW能力も低いと言わざるを得ない。

 ・中国の潜水艦は、米軍が保有する音響監視システム(SOSUS)などの広域にわたる潜水艦探知網によってその位置を常に監視されているが、逆に中国海軍はSOSUSのような水中センサーを一部しか整備していない。

 ・中国の第5世代機であるJ-31は米軍の第5世代機であるF-22やF-35に似ており、両者をコピーした可能性がある。ただし、J-31のエンジンではパワー不足で、旋回時にアフタバーナーを焚かなければ高度を維持できない。総じて中国のコピー機には優れたエンジンが不足している。そもそも、J-20やJ-31を第5世代機と宣伝したところで、アクティブ電子走査アレイ(AESA)レーダーという高性能レーダーを搭載していなければ、第5世代の基準に到達したとは言えない。

 ・空母キラーとして有名な対艦弾道ミサイルDF-21Dについて、中国はいまだに海上目標に対するDF-21Dの実射試験を実施していない。弾道ミサイルを実戦で運用するためには、キル・チェーン(ほぼリアルタイムで目標を発見、捕捉、追跡、ターゲティング、交戦(射撃)し、射撃の効果を判定するという意一連のプロセス)の全段階をコントロールする、完成された指揮・統制・通信・コンピュータ・情報・監視・偵察(C4ISR:Command、Control、Communication、Computer、Intelligence、Surveillance、Reconnaissance)システムが必要である。実際に機能するC4ISRシステムを中国軍が保有し、キル・チェーンの全期間を通じ実運用できる段階にあるかは大いに疑問符がつく。

 <組織的弱点>
 ・中国軍は伝統的に陸軍偏重である。しかし、海洋国家を目指す中国は、陸軍偏重からの脱却を図っている。

 ・人民解放軍は腐敗している。国防費のかなりの部分を個人や組織が流用し、本来ならば兵器の購入・整備、訓練のためにあてられるべき資金が消えてしまう。腐敗体質の原因は、かつての最高実力者・鄧小平が軍に認めた「軍独自のビジネス」にあると言われる。鄧小平は、経済成長を優先するために、国防費に充当する資金を制限した。その国防費の不足を補うために、鄧小平が中国軍の独自ビジネスを認め、結果的に軍の腐敗を助長させることになった。

 ・2015年12月31に発表された軍改革の大きな特徴は、60年以上続いてきた旧ソ連方式から米軍方式への転換であるとされている。組織体制を米軍に倣おうとするものだ。ところが、軍に対する共産党の指導制度が厳然として中国軍の組織内に存在している。それが政治委員制度である。政治委員制度では、軍内の監視・監督の任務を有する政治委員が配置されている。軍に軍人の指揮官と政治委員という2人の指揮官が存在する軍内二元指揮制度は今回の軍改革でも温存されており、これは旧ソ連方式である。

 ただ、これらの弱点があるからと言って、中国軍を見くびってよいわけではない。2015年秋に米国のランド研究所が発表した「米中軍事スコアカード」では、「台湾紛争」と「南シナ海紛争」について分析がなされている。具体的には、中国の航空基地攻撃能力、米軍の航空基地攻撃能力、米国対中国航空優勢、米国の空域突破能力、中国の対水上艦艇戦能力、米軍の対水上艦艇戦能力、中国の対宇宙能力、米軍の対宇宙能力、米国対中国サイバー戦、核の安定という10の項目について、米軍と中国軍の能力の優劣を時系列で評価している。

 これによると、台湾紛争については、20世紀末から21世紀初頭にかけて米軍が有利であったものの、2017年時点では米中の能力が拮抗している項目が増えており、項目によっては中国の方が米国を上回っている。台湾紛争に関しては、中国は距離的な近さを利用して、米国よりも優位に立てる分野があるということだ。一方、南シナ海紛争については、中国からの距離が遠くなるため中国軍の方が不利であり、米軍が圧倒的に優位に立っている。しかし、両者の差は徐々に縮まっている点に注意しなければならない。

 藤井厳喜、飯柴智亮『米中激戦!―いまの「自衛隊」で日本を守れるか』(ベストセラーズ、2017年)によると、米中間のMLCOA(Most Likely Course of Action:最も発生可能性が高い軍事衝突)は台湾紛争だとされている。その台湾紛争において、中国が米国と互角になりつつあることは衝撃的な発見である。もっとも、私は、台湾紛争によって米国が勝利し台湾が独立しても、中国が勝利し台湾を中国本土に組み込んでも、中国のファシズムが完成し、それが結果的に中国共産党の崩壊を招くだろうと予想している(以前の記事「陳破空『米中激突―戦争か取引か』―台湾を独立させれば中国共産党は崩壊する」を参照)。

米中激戦!  いまの「自衛隊」で日本を守れるか米中激戦! いまの「自衛隊」で日本を守れるか
藤井厳喜 飯柴智亮

ベストセラーズ 2017-05-26

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 本書では、自衛隊の強化についても述べられている。米中衝突のシナリオとしては、前述の台湾紛争、南シナ海紛争の他に、米中の全面戦争(米国はエア・シー・バトル(ASB)と呼んでいる)と尖閣諸島紛争が考えられる。ASBにおいては、米軍は第一列島線から一旦後退し、体制を整えてから中国に反撃することが想定されている。米軍が後退している間、中国からの攻撃に耐えなければならないのは、第一列島戦上に位置する国であり、当然のことながら日本も含まれる。また、尖閣諸島については、米国は日米安保の対象になると述べているものの、実際には米国が出てくることはなく、日本が独力で防衛することになると言われている。米国は、自国の領土を死守する気概を持たない国を庇護することはない。

 人の振り見て我が振り直せではないが、日本も中国軍を傍観するのではなく、自衛隊が有事の際に効果的に機能できる体制を整えておかなければならない。自衛隊の弱点については、ブログ本館の記事「『天皇陛下「譲位の御意向」に思う/憲法改正の秋、他(『正論』2016年9月号)』―日本の安保法制は穴だらけ、他」、「『正論』2017年11月号『日米朝 開戦の時/政界・開戦の時』―ファイティングポーズは取ったが防衛の細部の詰めを怠っている日本」などでも部分的に書いたが、探せばボロボロと出てくるに違いない。前掲の『米中激戦!―いまの「自衛隊」で日本を守れるか』でも、自衛隊の弱点が数多く指摘されている。

 本書の最後に書かれている次の文章は、非常に身につまされるものである。
 手足を縛りすぎた、この専守防衛というキャッチフレーズのために、国際的なスタンダードの安全保障議論がいかに阻害されてきたことか。集団的自衛権の議論、他国に脅威を与えない自衛力という議論、長距離攻撃能力(策源地攻撃能力)に関する議論、宇宙の軍事利用に関する議論など、枚挙にいとまがない。例えば、「他国に脅威を与えない自衛力」にこだわれば抑止戦略は成立しない。他国に脅威を与える軍事力があるからこそ、他国の侵略が抑止できるのである。

ダイアン・マルケイ『ギグ・エコノミー―人生100年時代を幸せに暮らす最強の働き方』―フリーランス中心の社会は理想とは思えない


ギグ・エコノミー 人生100年時代を幸せに暮らす最強の働き方ギグ・エコノミー 人生100年時代を幸せに暮らす最強の働き方
ダイアン・マルケイ 門脇 弘典

日経BP社 2017-09-22

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 「ギグ・エコノミー」とは、終身雇用ではなく、”ギグ(単発の仕事)”を基盤とした新たな労働・経済形態のことである。具体的にはコンサルティングや業務請負、アルバイト、派遣労働、フリーランス、自営業、副業、オンラインプラットフォームを介したオンデマンド労働などが該当する。

 アメリカでは、上記のような非伝統的な働き方をしている労働者は2005年の10%から2015年には15.8%へと、ここ10年で1.5倍に増加している。また、事業経営や個人事業による自営業所得・損失の納税申告に用いられる書式を提出した個人の割合は、1980年には約8.5%だったのに対し、2014年には16%強とほぼ倍増している。アメリカでは、フルタイムの社員を雇用すると、独立請負人と比べて人件費が3~4割高くなる。このような状況の中で、社員を独立請負人に切り替える流れがあらゆる業種で加速しているという。

 物凄くかいつまんで言えば、フルタイムの正社員として企業に終身雇用される時代は終わり、労働者の多くが個人事業主やフリーランスとして働く時代がやってくるということなのだろう。だが、私はそういう社会が理想だとはとても思えない。以前の記事「小笹芳央『モチベーション・マネジメント―最強の組織を創り出す、戦略的「やる気」の高め方』―モチベーションを高めるのは社員の責任」で、企業は現代最高の社会主義機関であると恨み節を書いたが、事実現代の企業こそ、社員の生活の安定と経済の成長を実現していると私は考えている。

 それを可能にしているのは、企業が個人では到底なし得ない大規模な仕事を完遂したり、高品質の製品・サービスを提供してくれたりするその組織力に対して顧客がプレミアムを支払うことについて、社会的に暗黙の了解が成立しているからである。また、企業が新製品開発やR&D活動を通じて、現在よりもさらに優れた製品・サービスを開発してくれることに対しても、顧客が期待をしプレミアムを支払うことに合意しているからである。そのプレミアムを分配することで、社員は安定した給与を受け取り、企業はイノベーションに投資することができる。

 フリーランス中心の社会とは、顧客がそのようなプレミアムを負担しない社会である。フリーランスにできる仕事の範囲はたかが知れている。その限定された仕事を安くやってくれれば十分であり、イノベーションなど全く期待されていない。独立請負人の方がフルタイムの正社員よりも人件費が3~4割安くなるのはそのためである。実際のところ、フリーランスの現状は非常に厳しい。中小企業庁が発表している『小規模事業白書(平成28年度版)』によると、フリーランスとして得ている収入が300万円未満という人の割合は実に56.7%に上る。

 フリーランスは、収入が少ないにもかかわらず、やらなければならないことだけはやたらと多い。『上司が鬼とならねば部下は動かず』で知られる染谷和巳氏は、『致知』2018年1月号の中で次のように述べている。
 サラリーマンの中には、独立して自由に仕事をする芸術家や職人に憧れている人がいる。営業ノルマもなく誰にも束縛されずに、マイペースで仕事をしている姿を羨ましく思うのだろう。しかし、それは幻想である。芸術家や職人がその道でやっていこうと思えば、技術はもとより、資金力、得意先との人間関係構築能力、営業力などあらゆる力を駆使できなくてはいけない。(中略)多くの人が独立後、それまで自分がいかに恵まれた環境に身を置いていたかに気づき後悔の涙を流しているのである。現実の社会は決して甘いものではない。
(染谷和巳「仕事観の確立が人を育てる」)
致知2018年1月号仕事と人生 致知2018年1月号

致知出版社 2018-01


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 最近は大企業を中心に、副業解禁の動きが広がっている。私は、正社員という本業を持ちながら、収入の足しになるようにとフリーランスの仕事をすることについては何も言わない。むしろ、普段勤めている企業とは異なる視点で仕事ををすることが、その人の創造力を大いに刺激するかもしれない。だが、フリーランスが中心となるような社会に対しては警鐘を鳴らしたいと思う。フリーランス中心の社会では、多くの労働者が不安定な収入に悩まされ、イノベーションが止まる。政府は、新種の巨大な社会不安に対処するのに苦労するに違いない。

新雅史『商店街はなぜ滅びるのか―社会・政治・経済史から探る再生の道』―既得権益を守るだけの規制はかえって外部からのイノベーションを誘発する


商店街はなぜ滅びるのか 社会・政治・経済史から探る再生の道 (光文社新書)商店街はなぜ滅びるのか 社会・政治・経済史から探る再生の道 (光文社新書)
新 雅史

光文社 2012-05-17

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 商店街が衰退した理由の1つとして、郊外に大型のショッピングセンターが乱立したことが挙げられる。ショッピングセンターの出店を促した正体は、財政投融資である。1980年代以降、日本とアメリカとの間の貿易摩擦問題を解決するために、日米構造問題協議が開催されるようになった。これはアメリカと日本が相互に経済上の構造問題を指摘し合う政府間協議のことであるが、実質的にはアメリカ政府が日本政府に対して圧力をかける交渉であった。

 バブル崩壊後のこの協議において、アメリカは、日本の社会資本が欧米より貧弱であると指摘し、内需を刺激するために財政投融資の活用を要求してきた。実際にはGDP比でアメリカの4倍にも上る公共事業を行っているのに、アメリカはもっと道路などのインフラを作れと主張してきたのである。その資金源とされたのが財政投融資である。日米は共同で公共事業を企画し、アメリカは関西国際空港、東京臨海部(ウォーターフロンティア)開発などに自国の企業を参画させた。

 それよりも問題なのは、地方に財政投融資がばらまかれたことによって、中心街からかけ離れた場所に国道アクセス道路が数多く造られたことである。1990年代から広がるショッピングモールは、国道アクセス道路沿いに数多く建設された。しかも、政府は規制緩和によって中小小売業が苦境に陥ると、その小売業を救済するための予算を確保するという、一種のマッチポンプを作り上げた。

 ただ、私が本書を読んで感じたのは、既得権益を守るだけの規制はかえってイノベーションを誘発するということであり、商店街を規制によって守ろうとした結果、かえって様々な流通革命が起きたということである。例えば、戦前に成立し、GHQによって廃止されたがその後復活した百貨店法は、1法人ごとの売り場面積を基準に出店を規制するものであった。これに対して、大手スーパーは、規制をかいくぐるため、売り場ごとに別の法人を作り、大型店舗を次々と出店していった。その筆頭が中内功の率いるダイエーである。

 そこで政府は、百貨店法に代えて大店法を制定した。大店法は、規制の抜け道を防ぐために、法人に対する規制を止めて、建物ごとの規制へと切り替えた。具体的には、東京と政令指定都市で3,000平方メートル以上、地方都市で1,500平方メートル以上の売り場面積を持つ大型小売店舗の新設・増設に対する規制を新たに設けた。この法律によって、規制から逃れていた擬似的な百貨店やスーパーマーケットが新たな規制の対象となった。

 イトーヨーカドーやダイエーといった大手小売資本は、大店法の存在によって、大都市を中心として出店スピードが急速に落ちた。そこで彼らは、それまでの出店戦略を根本から変更させた。具体的にはコンビニエンスストアの出店を加速させたのである。コンビニは大店法の規制に引っかからない小型店である。

 また、コンビニを直営ではなく、フランチャイズチェーンという形態にしたのもポイントである。大手小売資本がフランチャイズを選択したのは、小売商業調整特別措置法という法律の存在がある。この規制によれば、大規模な小売資本が食品を販売するには近隣の商業者の承諾を得る必要があった。そのため、大規模小売資本が直営でコンビニを出店するにはあまりにも労力がかかるから、コンビニの店主を募集したというわけである。さらに、商店街側にもコンビニを受け入れる素地が整っていた。この頃、既に経営難に陥っていた零細小売業は後継者不足という問題にも直面していた。コンビニのオーナーになれば、本部から経営ノウハウの指導を受けられると同時に、後継者問題も解決しやすくなる。

 規制とは政治による妥協の産物であるから、第三者(将来現れるであろう第三者も含む)を完全に排除する規制を作るのは困難である。規制にはどうしても”穴”が残る。イノベーターはその穴を巧みに突いて、既存のプレイヤーを脅かす新しい事業やビジネスモデルを構築する。そして、一旦規制の穴を突かれて新しいタイプのプレイヤーの登場を容認すると、なし崩し的に規制緩和が起きることがある。スーパーやデパートで酒の販売が解禁されたのは解りやすい一例だろう。我々は既に直観的に理解していることであるが、既得権益を守るだけの規制は、結局のところ既得権益を弱体化させる方向に働いてしまう。規制で守るべきなのは企業ではなく、顧客・消費者である。

 ただ、ここで興味深いことに、顧客や消費者を過度に保護する規制もまた、イノベーションを誘発すると指摘する論者がいる。『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2016年10月号「既存企業の4つの選択肢 『なし崩しの規制緩和』にいかに対応するか」(ベンジャミン・エデルマン、ダミアン・ジェラディン)では、UberやAirbnbに触れながら、次のように述べられている。
 消費者保護の必要性がやや低く、消費者が適切な知識を容易に入手できるとすれば、その業界は過去の規制を強行突破しようとするプラットフォームの脅威にさらされている。特に影響を受けやすいのは、規制によるシステムによって寡占状態が生じ、認可事業者が価格競争から守られ、特定の顧客の関心事迅速に対応しなくても済む場合である(よくあることだ)。
ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2016年 10 月号 [雑誌] (プラットフォームの覇者は誰か)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2016年 10 月号 [雑誌] (プラットフォームの覇者は誰か)

ダイヤモンド社 2016-09-10

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 行政は、往々にして知識、情報、能力の不足ゆえに弱い立場に置かれている顧客や消費者を保護するために、よかれと思って規制を作る。ところが、顧客や消費者に一定のリスクを受け入れる覚悟がある場合や、顧客や消費者の知識や能力のレベルが上がっている場合には、規制をかいくぐってイノベーションを引き起こす者が出現する可能性があることを示唆している。

 これはまだ私の中で十分に煮詰まっていないのだが、結局のところ「よい規制」とは、保護に焦点を置くのではなく、ブログ本館の記事「『世界』2017年11月号『北朝鮮危機/誰のための働き方改革?』―「働き方改革」を「働かせ方改革」にしないための素案」でも書いたように、顧客や消費者がよき市民、善良な市民として市場や社会で振る舞うことを動機づけるような規制ではないかと思う。

枡野俊明『禅が教える人生という山のくだり方』―老年期の生き方はこれからの日本の高齢社会のあり方にも通じる


禅が教える 人生という山のくだり方 (中経の文庫)禅が教える 人生という山のくだり方 (中経の文庫)
枡野 俊明

KADOKAWA / 中経出版 2016-01-18

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 人生に下り坂があるならば、国家にも下り坂がある。今後、超高齢社会に突入する日本は、まさに下り坂に差しかかっていると言えるだろう。その下り坂で勢い余って転倒しないよう、国民の健康と幸福を確保しながら、緩やかに国家の規模を小さくしていくには、本書のような教えが参考になるような気がする。
 利便性だけを追求するのではなく、少しの不便さを楽しむ気持ちを持つことである。欲しいものがあれば、パソコンで注文せず、自分の足で歩き、電車に乗り、車窓の風景を眺めながら店まで行く。その風景には四季が感じられるはずだ。たったそれだけのことで、心は豊かになるものである。冬の日には、雑巾を手で絞って拭き掃除をしてみることだ。冷たい水に手を入れ、雑巾をきつく絞れば、手の平にはその感触が染みついてくる。そういうことを身体で感じることこそが、生きるという実感につながっていくのである。
 ブログ本館の記事「『世界』2017年11月号『北朝鮮危機/誰のための働き方改革?』―「働き方改革」を「働かせ方改革」にしないための素案」でも書いたが、高齢化が進み、労働力不足になれば、今までのような便利な製品・サービスを効率よく企業が提供し続けることは困難になる。消費者である高齢者は、若かりし頃に企業に対して効率や利便性を要求した姿勢を改める必要がある。引用文のように、不便を受け入れる。すると、身体を動かし、様々な人と交流し、自然を感じる機会が増えて、かえって心身ともに健康的になるに違いない。

 怖いのは、身体が不自由になった高齢者を助けようと、企業がイノベーションと称して究極に便利な製品・サービスを生み出すことである。その結果、高齢者は身体を動かさず、家から一歩も外に出ず、誰とも会話をせずとも生活ができるようになるかもしれない。しかし、それがゆえにかえって健康を害してしまえば、医療費が膨れ上がるだろう。経済成長という観点からすると、後者の方が新しい製品・サービスが売れ、さらに医薬品や医療サービスが消費されるから望ましい。だが、後者は新しい製品・サービスで社会の不幸を生み出しておいて、それをさらに別の製品・サービスで埋め合わせようというのだから、マッチポンプである。社会の幸福という観点から見て望ましいのは前者であるのは明らかである。

 もちろん、企業は高齢者向けの一切のイノベーションを止めよというわけではない。企業は、我々が今まで想像だにしなかった高齢者の新たなニーズをとらえて、新製品・サービスの開発に取り組まなければならない。その際に、その新製品・サービスが本当の意味で高齢者の人間らしい生活を実現し、幸福を増進するものになっているか、それを使い続けると単に高齢者の心身を弱めてしまうだけの結果になりはしないかを厳しく点検する必要がある、ということを私は言いたい。換言すれば、企業の人間観が問われる時代になったということである。
 ここでいう「遊戯」とは、単純な遊びのことではない。それは目的や評価が存在しない世界を意味する。結果を気にせず、損得勘定などが一切ない。ただそのことに夢中になっている。そういう世界を持つことの大切さを説いているのである。
 最近、日産自動車、神戸製鋼、商工中金による不祥事が相次いだ。これらの不祥事に共通して言えるのは、「達成困難なノルマが課されていた」ことである。先ほどのブログ本館の記事でも書いたが、日本企業が強いのは、私が頻繁に使っているマトリクス図の右下にあたる<象限②>(必需品である&製品・サービスの欠陥が顧客の生命・事業に与えるリスクが大きい)である(日産の自動車、神戸製鋼の自動車部品、商工中金の金融は<象限②>に該当する)。<象限②>は必需品なので、需要をある程度正確に予測することができる。また、競合他社の動向をつぶさにウォッチしていれば、自社がどの程度の売上高、市場シェアを獲得できそうかも見えてくる。それなのに、市場の動向に抗って企業の成長を追求すると、経営陣は現場に対して無茶なノルマを課すようになる。

 アメリカ企業が強い左上の<象限③>(必需品でない&製品・サービスの欠陥が顧客の生命・事業に与えるリスクが小さい)では、需要を一から新たに創造する必要があるため、グローバル規模で多額の資金を投じて、多少無茶な経営をしなければならない。これに対して、<象限②>は一定の需要が見えているから、企業としてやるべきことをやっていれば、自ずと結果はついてくる。企業としてやるべきこととは、挨拶や5Sといった本当に基本的なことに始まり、顧客の声に耳を傾ける、品質を作り込む、部下を育成する、他部署をフォローする、取引先を教育支援するなど、小さな行動の積み重ねである。結果を追うのではなく、社員がこうしたプロセスに夢中になる経営が今後は重要になると考える。

栗山浩一『成功するSCを考えるひとたち』―商店街の完成形はドン・キホーテなのではないかという仮説


成功するSCを考えるひとたち成功するSCを考えるひとたち
栗山 浩一

ダイヤモンド社 2012-11-02

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 東京ディズニーリゾートの年間入場者数2,600万人を大きく上回る年間入場者数5,000万人を達成したイオンレイクタウン(埼玉県越谷市)(先日の記事「大山顕、東浩紀『ショッピングモールから考える―ユートピア・バックヤード・未来都市』―消費を全体主義化するショッピングモールに怖さを感じる」で紹介したマトリクス図に従うと、東京ディズニーリゾートは<象限③>、イオンレイクタウンは<象限①>に該当するため、単純比較はできないと思うのだが)。そのイオンレイクタウンの市場調査、コンセプトの企画、テナントの誘致などを行った株式会社船場の代表取締役社長である栗山浩一氏の著書である。

 先日の記事でも書いたが、ショッピングセンターはそのコンセプトをテナントミックス、外観、内装、設備、動線などの細部に至るまで緻密に織り込んでいく。
 これまで見てきたように、マーケットリサーチ、マスタープラン、コンセプト企画、環境デザイン、テナントミックス、そしてテナント募集のためのプロモーション計画など、実に多様な専門能力が求められるそれぞれの業務を高いレベルでこなし、繋いでいくのです。

 そして実際に各テナントの出店が決まった後には、これでお客さまをお店に迎えることができるという状態にまで店舗の内外装・ディスプレーのすべてを、デザインから施工までトータルにサポートさせていただくという次のステージに入ります。
 コンセプトを確実に反映させるには、施工業者など様々な利害関係者との間で、決して妥協しないことが重要である。本書では、「阪急西宮ガーデンズ」のサーキットモールプラン(ショッピングモールの中央に立体駐車場を配置し、駐車場を囲む形で店舗を配置する)を実現するにあたって、サーキットモールの途中に張り出し型のバルコニーを設置したいという案が出て、コンセプトを貫き通すために、コスト面で難色を示した施工側を説得したという事例が紹介されている。また、サーキットモールでは立体駐車場に地下から入るのだが、地下の道路を浅く掘ろうとした施工側に対し、主要ターゲットである女性ドライバーが安全に運転できるよう、道路を深く掘ってカーブを緩やかにするよう要求したという。

 私はショッピングセンターのコンサルティングをしたいわけではなくて、中小企業診断士として商店街を支援する立場にあるため、このように緻密に計算されたショッピングセンターに対して、商店街はどのように対抗できるかという視点で本書を読んだ。明確なコンセプトの下にいわば演繹的に設計されるショッピングセンターとは違い、商店街は自然発生的、帰納的に形成されたものである。よって、商店街の組合が主導して商店街全体の共通ターゲット顧客層を設定し、マーケティングコンセプトを作成して、そのコンセプトに忠実に従った製品・サービスの提供、内外装の整備、プロモーションの実施などを各店舗に要求することは不可能である。まして、動線をきれいにするなどというのはもっての外である。

 ならば、いっそ逆張りの戦略で、個々の戦略がバラバラに強みを追求した方がよいのではないだろうか?それぞれの店舗が固有のターゲット顧客層を設定し、オリジナリティあふれる製品・サービスを取り揃える。そして、各店舗で工夫を凝らしたプロモーションを実施する。イメージとしては、少々灰汁の強い店舗が、複雑な動線に沿って密集している感じである。商店街全体を見ても、一体誰をターゲットとしているのかさっぱり解らない。顧客が一旦商店街に入り込むと、迷路に迷い込んだような錯覚に陥る。それでも、色んな店舗を見て回るうちに、その顧客にぴったりの店舗が見つかる。さらに店舗を回ると、「こんなお店があったのか?」という意外な発見がある。まるで宝探しをしているかのような感覚である。そして、こういう戦略を実現しているのが、ドン・キホーテである。

 ドン・キホーテは安さを売りにしており、価格に敏感な人たちをターゲットにしているようだが、実はそれほど安くない製品も多く、全体としては誰がターゲットなのかが解りにくい。それぞれの売り場には多種多様な製品が所狭しと積み上げられており、非常に自己主張が強い。店舗の動線も小売店の常識に反してぐちゃぐちゃで、顧客にとっては全く優しくない。それでも、ドン・キホーテに行けば何かあるだろうという期待感が顧客にはある。複雑な動線は、顧客が目的の買い物をすることに加えて、目的外の衝動買いをするための仕掛けである。商店街はドン・キホーテに学ぶところがあるのではないだろうか?

 以前の記事「辻井啓作『なぜ繁栄している商店街は1%しかないのか』―商店街の組合は商店街全体のマーケティング部門になれないか?」では、組合費を引き上げる代わりに組合を商店街のマーケティング部門とし、各店舗の経営支援に乗り出すべきだと書いた。そして、その経営支援に関して、我々診断士が活躍するフィールドがあるのではないかという提案をした。前述の記事では、経営指導を行う者1人あたり25店舗を担当する計算になっている。その25店舗は、ターゲット顧客も戦略もマーケティング・ミックスもバラバラである。組合側は商圏に関するデータを共通情報として持っているものの、それを各店舗に押しつけることはできない。データをカスタマイズし、その店舗にフィットした支援を行って、灰汁の強い店舗へと変化させる必要がある。これは非常にタフな仕事である。それでも診断士は、この仕事に挑戦する覚悟を持たなければならないと思う。
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プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、1,500字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
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