DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2018年07月号 [雑誌]DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2018年07月号 [雑誌]
ダイヤモンド社 DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部

ダイヤモンド社 2018-06-09

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 (※)本号の特集以外の論文に関する記事のため、ブログ別館に書きました。

 レスリー・K・ジョン、タミ・キム、ケイト・バラスの論文「プライバシーを尊重しながら最大の効果を上げる デジタル広告を”炎上”させない5つの方針」では、炎上しやすいデジタル広告の特徴として次の2つが挙げられていた。
 ・別のウェブサイトから入手した情報に基づいて広告を表示する。これは、陰口を叩くのと似ている。
 ・アナリティクスで誰かに関する情報を推測する。これは、誰かについて憶測で物を言うのと似ている。
 1つ目は何となく理解できるものの、2つ目に関しては、Amazonという巨大な例外が存在するように思える。言うまでもなく、Amazonはユーザの購買履歴情報に基づいて、そのユーザが次に買いそうな製品を統計的な推測に基づいて紹介している。だからと言って、Amazonのこのやり方で炎上したという話は聞かない(家族が共有するアカウントで、父親がアダルトビデオを購入した後、娘がAmazonのページを閲覧したら、おすすめ商品がアダルト関連ばかりになって家族が気まずい思いをしたという話は聞いたことがあるが)。

 これは私だけかもしれないが、個人的には、せっかく自分のプライバシー情報を提供しているのだから、企業はもっとアナリティクスを活用して別の製品・サービスを提案してほしいと思う。Googleから楽天のサイトに入って楽天で買い物をした後、Yahooのページを開いたら楽天のGoogle広告が表示されるのだが、既に購入した製品が紹介されることがよくある。さっき購入したばかりなのだから、同じ製品を購入する確率は低いだろう。また、ある製品を購入しようと複数の企業のHPをGoogleで検索し、特定の企業から製品を購入した後、別のページを閲覧したら、Google広告は私が選択の対象から外した企業を表示させることも多い。

 Googleには、楽天で私が購入した製品と同じ製品を購入した人が、その後購入する確率が高い製品を紹介してほしかった。また、私が製品を購入した企業で、他によく売れている製品や、その企業のHPを訪問した後によく訪問される企業のHPを宣伝してほしかった。世間ではビッグデータだのAIだのと騒がれているが、この辺りのアナリティクスはまだまだ発展途上なのかもしれない。

 似たようなことは、クレジットカードや共通ポイントカードにも言える。クレジットカード会社や共通ポイントカードの運営会社は、膨大なユーザ情報と購買履歴情報を保有している。それを活用してもっと積極的に広告を打てばいいのにと思う。昔はクレジットカード会社も毎月の請求書を紙で送っていたから、郵送物の中に自分の購買履歴と関連があると思われる広告が入っていたものである。ところが、請求書がデジタル化されてからは、そのような広告は消えてしまった。Webのマイページ上で、購買履歴情報に基づく広告を表示させているクレジットカードは、少なくとも私が使っているカードの中には存在しない。

 共通ポイントカードは、クレジットカードよりも頻繁に使われるため、さらに購買履歴情報の量が増える。ユーザと類似の属性、行動範囲、購買履歴、消費パターンを持つ他のユーザのデータから、お勧めの企業・店舗や製品・サービスを宣伝することは、技術的には不可能ではないはずだ。しかし、私はTポイントカードのユーザであるが、そのような私向けの広告が配信されたことはないし、Tポイントカードのアプリを開いても、そもそも広告のスペースがない。Tポイントカードを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の企業理念は「マーケティングを通じて社会に貢献すること」である(TSUTAYAはその一手段という位置づけである)。今のところ、その理念は十分に達成できていないように見える。

 もちろん、クレジットカード会社や共通ポイントカード運営会社は、広告を配信しすぎるとユーザの反発を買う恐れがあるため、敢えて広告を配信していない可能性はある。Amazonはお勧め商品を表示させることで、その場でついで買いを誘発できるのに対し、クレジットカード会社や共通ポイントカード運営会社が広告を表示させても、次の購買行動につながるかどうかは解らない。広告に関する費用対効果を検討した結果、広告を打たないという選択をしたのかもしれない。

 そうすると、膨大な購買履歴情報は宝の持ち腐れとなってしまう。そこで、ユーザ向けに広告を配信するというBtoCビジネスの代わりに、加盟店に対して購買履歴情報に基づく最適な製品ミックスなどをコンサルティング提案するというBtoBビジネスを展開することが考えられる。しかし、基本的にクレジットカード会社や共通ポイントカード運営会社のビジネスモデルは”薄利多売”型であり、そのような手の込んだサービスに手を出すかは疑問である。