世界 2017年 11 月号 [雑誌]世界 2017年 11 月号 [雑誌]

岩波書店 2017-10-07

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 (1)特集1のタイトルが「北朝鮮危機―解決策は対話しかない」となっているのを見た時、これはおそらく中身がない特集だろうと推測したのだが、果たしてその予感は的中した。どの記事を読んでも、「アメリカ(もしくは日本)と北朝鮮が対話をすべきだ」ということ以上のことは書かれていなかった。「対話をすべきだ」と主張するからには、いつ、どこで、誰がどのようなチャネルを通じて北朝鮮の誰と会い、具体的にどんな話をするのか、という点にまで踏み込まなければ意味がない。そのようなことに一切触れずに、ただ単に対話が重要だと言うだけであれば、単身で北朝鮮に乗り込んでいったアントニオ猪木議員以下である。

 ロシア外相が「幼稚園の子どものけんか」と呼んだ米朝間の緊張について、対話の重要性を説くリベラルは、まるで日本が親のように振る舞って、暴れん坊の子どもをなだめることができると信じているらしい。だが、アメリカも北朝鮮も実際には子どもなどではない。むしろ暴力団の抗争に例える方が適切だろう。日本では、山口組が本部のある神戸市の住民に対してハロウィンイベントでお菓子を配るなど、住民の間に溶け込む努力をしている。しかし、いくら山口組が神戸市民と良好な関係を築いているからと言って、神戸市民が山口組と住吉会の抗争を対話で止めさせようとはしない。それと同様に、日本がアメリカと同盟関係にあるからと言って、米朝の間に入ってできることなど、残念ながら現実的にはない。

 神戸市民が山口組と住吉会の抗争に巻き込まれないように身を守るのと同様に、日本も北朝鮮からミサイルが飛んできた場合を想定した国民の防衛策を真剣に検討すべき段階に来ている。永世中立国のスイスに倣って、公共のあらゆる場に急ピッチで地下シェルターを作るのも一手であろう。

 (2)欧米では最近、「ファクトチェック」と呼ばれる活動が活発になっているそうだ。これは、政治家など公的な立場にある人間が発する言葉やネット上に流れる様々な情報について事実か否かを確認し、その結果を指摘する作業のことである。虚偽の情報を意図的に流すフェイクニュースがネット上にあふれる中で、それに対抗する手段として登場してきたものである(立岩陽一郎「フェイクニュースとの闘い―ファクトチェックの現在」)。

 思わず笑ってしまったのは、日本でファクトチェックに注力しているのが朝日新聞だということである。最初に記事を掲載したのは2016年10月24日で、同年9月29日の安倍総理の発言を検証している。安倍総理は「参議院選挙において街頭演説などで私は必ず必ず、平和安全法制についてお話をさせていただきました」と発言していた。だが、朝日新聞が確認した64か所の街頭演説のうち、「平和安全法制」という言葉を使ったのは20か所だったため、「誇張」と判定した。

 また、2017年1月に憲法改正について安倍総理が「どのような条文をどう変えていくかということについて、私の考えは述べていないはずであります」と発言した点について、過去の国会の議事録を検証して「誤り」と指摘している。議事録で確認したところ、憲法96条について「3分の1をちょっと超える国会議員が反対をすれば、指一本触れることができないということはおかしいだろうという常識であります。まずここから変えていくべきではないかというのが私の考え方だ」と答弁していたことが判明したというのがその理由である。

 吉田清治の妄言を信じて世界中に従軍慰安婦のフェイクニュースをまき散らし、日本国民の名誉を著しく傷つけた朝日新聞が、こんな枝葉末節なチェックをしているとは噴飯物である。朝日新聞は、他人の情報よりも、自社が発信する情報が事実かどうかを検証する社内体制をもっと強化すべきではないだろうか?