DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2018年06月号 [雑誌]DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2018年06月号 [雑誌]
ダイヤモンド社 DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部

ダイヤモンド社 2018-05-10

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 数年前に『不機嫌な職場』という本が流行ったが、「職場の孤独」という特集タイトルもなかなか衝撃的である。職場で孤独感を感じている人が増えているということは、職場内のコミュニケーションが沈滞していることを意味する。コミュニケーション能力を大きく左右するのは脳の前頭前野という部位で、言語理解、思考、意思決定、意識や集中、感情のコントロール、記憶、創造力などをつかさどっている。ITの発達によって業務が効率化されたと喜んでいる経営者は多いだろうが、一方で社員の前頭前野の働きを低下させているという報告もある。

 川島隆太『スマホが学力を破壊する』(集英社、2018年)によると、手書きで文章を書いた場合や対面でコミュニケーションをとった場合には前頭前野が活発化する。一方で、パソコンやスマートフォンで文章を書いた場合には前頭前野が活性化しない(つまり、私が今この文章を書いている間も、実は前頭前野は活性化していない!)。さらに、遠隔拠点とのコミュニケーションを効率化するためにテレビ電話会議システムを導入している企業も多いが、テレビ電話会議でコミュニケーションをとっても前頭前野には変化が見られないというのである。ITも職場の孤独を生み出す要因の1つになっているのかもしれない。

 川島氏の見解を拡張すれば、人々の絆を広げるために開発されたfacebookなどのSNSも、かえってユーザの孤独感を深める結果になっている可能性がある(実際、私は休日に友人が遊びに行っている写真をSNSで見て、「休日も仕事をしている自分は一体何をしているのだろう?」と疎外感を感じることがある)。

スマホが学力を破壊する (集英社新書)スマホが学力を破壊する (集英社新書)
川島 隆太

集英社 2018-03-16

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 今月号の論文には、職場の孤独を解決するために社員の自助努力を求めるものが多かったことが1つの大きな特徴である。
 孤独を感じている時に他人を助けるというのは意外に思えるかもしれないが、他人に手を差し延べ、自分も援助を受け入れることで、互いに肯定的なつながりが築かれる。
(ビベック・マーシー「成人の4割が自覚し、寿命を縮める病 『職場の孤独』という伝染病」)
 研究者らが「日々の向社会的行動の実践」と呼んでいるのは、基本的には他者に思いやりを示し言葉を交わすことである。これが孤独の治療薬として有効であることが、ある調査で明らかになった。(中略)

 孤独や孤立に関する研究はたいてい同僚や友人、家族との関係を対象としている。(中略)しかし、遠い関係の人々にも思いがけない力があることが、(中略)研究で明らかになった。それによると、「弱いつながり」(あまりよく知らない同僚、フィットネスクラブで一緒になった人など)を相手にちょっとした向社会的行動を取った人々は、不要な会話を避けた人々よりも孤独感や疎外感に苛まれることが少なく、ウェルビーイングや満足度が高いことが報告された。
(スコット・ベリナート「孤独と仕事に関する研究からわかること 『つながっていたい』気持ちは人間の本能である」)
 毎日、他者に役立つことやよいことをするように努める。感謝の力は絶大で、自分のした親切が報われることもあるし、多くの人々につながりを感じさせ、孤立感を軽減させる。(中略)

 俳優・司会者のオプラ・ウィンフリーからヒントをもらおう。彼女は孤独と戦うために、「こんにちはと言うだけ」運動を提唱している。このアイデアは単純に、友人や見知らぬ人、つながりを再認識したい人に対して、ただ「こんにちは」と話しかけることから始めるものだ。こうした単純な行動でさえ、社会的筋肉のストレッチになりうる。
(ジョン・T・カシオポ、ステファニー・カシオポ「米国陸軍で実証した負の習慣を壊す法 心の筋肉を鍛えるエクササイズ」)
 職場で孤独を感じている人は、「職場環境が悪いせいで自分が孤独を感じているのに、なぜ自分から行動を取らなければいけないのか?」と思うことだろう。だが、職場の孤独を生み出しているのは、職場環境だけではなく、孤独を感じているその人自身であることを自覚する必要がある。
 社会的ネットワークの周縁部で、ある驚くべきパターンが確認された。周縁部の人々は友人が少ないために孤独を感じるが、その孤独感ゆえに、残り少ない友人関係も断ち切ってしまう。だがその前に、残っている友人に同じ孤独感が伝染し、このサイクルが連鎖する傾向がある。こうして孤独が増殖する結果、毛糸のセーターが端からほつれるのと同じように、社会的ネットワークも周縁から崩れていく。
(ビベック・マーシー「成人の4割が自覚し、寿命を縮める病 『職場の孤独』という伝染病」)
 私も前職の会社(組織・人事コンサルティング&教育研修サービスを提供するベンチャー企業)で随分と孤独を味わった。詳しくはブログ本館の「【シリーズ】ベンチャー失敗の教訓」、「中小企業診断士を取った理由、診断士として独立した理由(3)【独立5周年企画】」などを読んでいただきたいが、自社HPのリニューアルをする時も、私を含め社員がほとんど誰も賛成していない新サービスを開発するように命じられた時も、会社からは主力サービスではないと位置づけられたものの、収益面では大きく貢献していた研修を一生懸命売っていた時も、私はほとんど孤立無援状態であった。そうした心労がたたったせいか、双極性障害を発症してしまった(10年前に発症したが、今も治療中である)。

 8年前に一時期休職していたのだのが、いかんせん零細のベンチャー企業だったため、代わりに仕事をする人がいない。だから、休職中も週2日ほどのペースで働き続けていた。これでは休職している意味がないから早く復職したいと思っていたところ、ある人から「私が休職したせいで、残った社員のコミュニケーションが余計に悪化し孤立してしまったようだ。だから、復職するならば、私から彼らに働きかけてコミュニケーションを改善しなければならない」とアドバイスされた。

 残った社員というのは全員私よりも年上である。当時は、なぜ彼らの孤立の問題を一番年下の私が解決しなければならないのかと憤ったものである。だが、今月号の論文を読んで、彼らの孤立を作り出した原因の一部は私の孤立であるから、私も問題解決に手を貸すべきだったと反省している。ただし、そのアドバイスを、前職の会社とは無関係な第三者が中立的な立場で言ったのではなく、問題の渦中にいた社長自身が言った点だけは未だに納得していない。