大不況時代の新消費者ビジネス大不況時代の新消費者ビジネス
ロバート 鈴木

日本経済新聞出版社 2009-08-20

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 中小企業庁の「新たな商店街政策の在り方検討会」の資料「中間取りまとめ(案)」(2017年6月7日)では、次の内容が報告されている。商店街における問題について複数回答で尋ねたところ、「経営者の高齢化による後継者問題(64.6%)」が最も多く、次いで、「集客力が高い・話題性のある店舗・業種が少ない、またはない(40.7%)」、「店舗の老朽化(31.6%)」、「商圏人口の減少(30.6%)」の順で多くなった。中小企業の経営者の年齢は、1995年時点では最頻値が47歳であったが、2015年では66歳と高齢化している。一方で、商店街における問題について「経営者の高齢化による後継者問題」と回答した商店街の90%は、後継者問題に対して何も対策を講じていない。

 中小企業診断士である私が時に商店街に対して辛口になることをご容赦いただきたいのだが、商店街の多くの個店は、後継者不足を問題視しながら、内心実は後継者に継がせることを本気で検討しておらず、自分の代で店舗をたたんでしまおうと思っているのではないかと推測する。そしてその原因は、彼らが持続的な成長で社会に貢献することを目的とする企業的経営ではなく、自分の家族が食べていければ十分という生業的経営を行っている点にあると考える。

 時々私は、個店の店主がビジネスをしていて本当に楽しいのだろうかと疑問に思うことがある。例えば飲食店を開いたとする。飲食店のキャパシティは決まっているから、どうしても売上高には限界がある。当然、店主の収入も一定額に収まる。それが5年程度なら我慢できるかもしれないが、20年、30年もの間収入が変わらないとすれば、さすがにうんざりするのではないだろうか?自分と同じ思いを子どもにさせるわけにはいかない。まして、第三者を巻き込むことなどできない。だから、せいぜい自分と配偶者が食べていければ十分であると保守的になる。こうした心理的躊躇が、後継者難という問題を引き起こしているように思える。

 私が考える理想の企業とは、長く勤めることができて、年々ちゃんと給与が上がっていく企業である。そのためには、従来の生業的経営から発想を転換しなければならない。ただし、単なるチェーン店化はこの問題の解決にならない。チェーン店化しても、社長と店員の間に店長とせいぜいエリア長というポストができるぐらいであり、長いキャリアパスを設定することができず、ゆえに長期にわたる段階的な給与アップも見込めない。それに、チェーン店化すればするほど、どの商店街にも同じ店舗があって代わり映えしなくなるという別の問題を引き起こす。

 こうした問題を解決する1つのヒントを本書の中に見つけることができた。アメリカでは数多くのチェーン店が発達しているが、チェーン店の数が一定数に達すると成長が鈍化し、身動きが取れなくなるというジレンマがある。そこで、1業態多店舗ではなく、マルチフォーマット化を目指す企業が現れている。例えば、シカゴを基盤とする外食企業レタス・エンターテイン・ユー社は、1業態を50店舗チェーン化するのではなく、50業態を1店舗ずつオープンさせようという目標を掲げて業態開発を行っている(本書が出版された2009年当時)。

 ここからは実現可能性をまだ十分に検討していないアイデアになるが、次のような経営はどうだろうか?まず、20代で起業した社長が、20代の社員とともに、10~20代をターゲットとした飲食店Aを開発する。社長が30代になると、飲食店Aは新しく入社してくる20代社員に任せ、30代の社員は30代をターゲットとした飲食店Bを開発する。社長が40代になると、飲食店Aは新しく入社してくる20代社員に、飲食店Bは30代になった社員に任せ、40代の社員は40代をターゲットとした飲食店Cを開発する。社長が50代になると、飲食店Aは新しく入社してくる20代社員に、飲食店Bは30代になった社員に、飲食店Cは40代になった社員に任せ、50代の社員は50代をターゲットとした飲食店Dを開発する。つまり、社員の年齢が上がるにつれて可処分所得が多い層をターゲットとし、付加価値の高い飲食店を開発するわけだ。すると、社員の給与を段階的に引き上げることも可能となる。

 あるいは、ターゲット顧客を例えば30代~40代に固定し、社員の年齢が上がるにしたがって利幅の大きい製品・サービスを扱う業態にシフトしていくという方法もある。具体的には(極端な話だが、)社員が20代の頃は飲食店で働き、30代の頃はスーパーマーケットで働き、40代の頃は電化製品店で働き、50代の頃は自動車ディーラーで働く、といった感じだ。

 もちろん、中小小売業が複数の業態を開発することには大きな困難も伴う。例えば、業態A~Dが同じ飲食店であったとしても、業態によってオペレーションは全く異なるものになり、経営を非効率にする恐れがある。また、異なる業態の投入によって、既存業態のブランドが毀損されるリスクもある。扱う製品・サービスが異なる業態を複数持つ場合には、さらに経営が混乱するかもしれない。社員の能力開発も容易ではない。ただし、それを乗り越えていけば、商店街の個店は生業的経営を脱して企業的経営へと変貌し、社内にいる複数の社員の中から後継者を見つけることもできるようになるだろう。