こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント)のブログ別館。1,500字程度の読書記録の集まり。

アジア

河瀬誠『「アジア・新興国」進出を成功させる海外戦略ワークブック』-二言目には政治的人脈を自慢する人はどうも好きになれない


「アジア・新興国」進出を成功させる 海外戦略ワークブック「アジア・新興国」進出を成功させる 海外戦略ワークブック
河瀬 誠

日本実業出版社 2014-11-07

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 彼ら(※エージェント)は日本人とはいえ、詐欺師まがいの人物も少なくない。彼らは話もうまいし、実際に政治家や著名人にも会わせてくれる。しかし、本当に実力がある人は、最初から軽々しく自分のネットワークを吹聴しないものだ。相手をどこまで信用できるかは、彼らが直接顧客にしている(という)日本企業の担当者に直接話し(※原文ママ)を聞いて確かめるべきだ。
 海外でビジネスをするには、顧客や販売チャネルとコミュニケーションを取るだけでは不十分な時がある。現地の規制をクリアしたり、現地の投資優遇策を受けたりするために、現地の政治家や行政当局ともリレーションを構築しなければならない。そういう時に重宝するのがエージェントである。だが、引用文にもあるように、エージェントの質はピンキリである。個人的には、こちらがまだ十分に話もしていない段階から、「私は○○国の△△という政治家とすぐにアポが取れる」などと自慢してくる人は好きになれないし、どうも信用できない。

 私は今年の2月末まで、ある中小企業向けの補助金事業の事務局員をやっていた。事務局には「補助金に応募するにはどうすればよいか?」といった問い合わせの電話が来るのだが、私はある中小企業の経営者と6時間半電話したという珍記録(?)を持っている。私も「申し訳ございません。この後外出の予定が入っておりまして・・・」などと言って上手いこと電話を切り上げればよかったものの、どうやらその人は以前に複数の他の事務局員にも電話をしており、その時の応対にひどく不満だったと言うから、私も無下に電話を切ることができなかった。

 その人がほとんど一方的にまくし立てていただけなので、話の内容はほとんど覚えていない。ただ、「私は○○省の△△という人を知っている」とか、「○○という政治家からも我が社の事業は評価されている」などと、やたらと政治的な人脈を自慢していたことだけは覚えている。こういう人は大抵、「私のバックには政治家や行政がついているのだから、補助金に応募した時には必ず採択せよ」と暗示している。しかし、企業にとって最も重要なのは政治家や行政ではなく、顧客である。その人からは、6時間半話しても顧客の話は一切出てこなかった。この点で、この企業は間違いなく業績が芳しくないと察しがついた。第一、経営者が日中に6時間半も電話をしていること自体が仕事のなさを表している。

 中小企業診断士で海外経験が長い人の中にも、胡散臭い人はいる。一例を挙げると、途上国を中心に、学校で使う補助教材を販売していたという人がいる。彼は初対面でいきなり、「私はこういう製品を売っていました」とその補助教材を取り出し、さらに、自分がいかに各国の政府とリレーションがあるかを示すために、政府の要人と思しき人物と一緒に写っている写真のファイルを披露してきた。私にとってこういうタイプの診断士は非常に珍しかったため、しばらくの期間彼の行動を観察していた。すると、会合や懇親会で新しい人に会うたびに、私に対してしたことと同じことを必ず繰り返していた。

 だが、彼は1つ大きな勘違いをしている。彼の事業における真の顧客は、政府ではなく学校の子どもたちである。彼は政治家との写真はたくさん持っていたが、学校でその製品がどのように使われているかという写真はなかったし、子どもたちの生の声も把握していないようだった。一体、彼の提供価値は何なのか、彼特有の能力とは何なのかと、私は疑問を抱かざるを得なかった。単に、政府関係者と顔をつなぐだけの役割だったのではないかとさえ思った。

 もちろん、政府関係者とコネクションを作る力も一種の特殊能力かもしれない。海外の政府は、名前を聞いたこともない日本企業と簡単に会ってくれるわけではない。しかし、本質的に政治家というのは、自分の権力を誇示するために、ネットワークを広く薄く作ろうとする人種である。「政治家に必要なのは、薄い友人関係を構築する力である」と述べたのはキッシンジャーだったと記憶している。また、行政の関係者は、公平性の観点から、会いに来た人に差別的な応対はできないから、よほどおかしな人ではない限り受け入れてくれるものである。

 つまり、政治家や行政とのつながりは、多少努力すれば簡単に構築できると私は思うわけだ(その多少の努力さえせず、政治家や行政と大したリレーションも持っていない私が言うのは不適切かもしれないが)。しかし、繰り返しになるが、ビジネスの本質は顧客を獲得することである。自分にとって価値がないと思えば簡単に自社を切り捨てるような顧客との間に深い関係性を構築しなければならない。顧客との人脈を自慢する人であれば、私はその人のことを信用するであろう。

経済産業省『中小企業のための海外リスクマネジメントガイドブック』


中小企業のための海外リスクマネジメントガイドブック中小企業のための海外リスクマネジメントガイドブック

経済産業省 2016-03-14


中小企業基盤整備機構HPで詳しく見る by G-Tools

 これは書籍ではないのだが、非常に役に立つ内容だったので紹介させていただく。中小企業が海外に進出する際に直面することが多いリスクを、進出計画段階、進出手続き段階、操業段階に分けて解説し、対応策を整理した冊子である。自社の潜在リスクを確認するチェックリストもついている。

 リスクマネジメントの一般論に加えて、国別、特にアジア各国に固有のリスクをまとめた表もあり、大変有益であった。今回の記事では、その国別リスクの中から、特に参考になった部分をまとめておく。

 ①中国
 「外国人を狙った誘拐事件は多くなく、狙われる対象は主に富裕層の中国人である」。この点は少々意外であった。金持ちだと思われている日本人は、海外では誘拐のターゲットになりやすい。誘拐犯は”ビジネスとして”誘拐を行うため、用意周到に誘拐の計画を立てる。この辺りについては、ブログ本館の記事「中央支部国際部セミナー「ここがポイント!中小企業の海外展開―海外案件経験診断士からのメッセージ」に参加してきた」で書いた。

 ②香港
 「団体交渉権、標準労働時間等が法制化されていない」。1997年に中国に返還される前には、香港では法律により労働者の基本的な権利である団結権、団体交渉権、争議権が保障されていたが、返還後に権利が剥奪されたらしい。

 標準労働時間が規定されていないとは恐ろしい話である。経営者は社員を何時間でも働かせることができる。現在、政府は標準労働時間や残業代支払に関する規定の導入を検討しているようだが、企業にとってはコスト増となり、「中小企業約7,000社が赤字に陥る可能性」があるとも言われる(日本の人事部「香港 標準労働時間導入で企業の人件費が大幅増」〔2015年8月28日〕を参照)。

 ③台湾
 「即答することを美徳とする傾向が強くあり、対応が早い反面内容が正しくない場合がある」。これは台湾に限らず、アジア各国でよく見られる傾向である。ベトナム人も「できます」と即答するが、いざやらせてみるとできないことが多い。その理由を問うと、「半年後にはできるようになります」などと反論してくる。

 タイ人もすぐに「はい」と言う傾向がある。ただし、これは目上の人からの命令を断っては失礼にあたると考えているためだ。インド人は仕事の進捗を確認すると、「ノープロブレム」と答える。だが、実際には問題だらけであることが後から発覚する。インド人にとって「ノープロブレム」とは、「問題と思われることが発見できない」ということであり、「問題がない」という意味ではない。

 ④韓国
 「高い人口密度・都市化率の中、経済成長を遂げた結果、大気汚染・水質汚染を中心とした環境汚染が深刻化している。世界的にもまれな多種多様な賦課金があり、環境保護を達成する目的の一方で行政機関の貴重な財源となっており、注意が必要である」。例えば、資源リサイクル法で定められた製品・包装材(レジ袋も含まれる)のリサイクル基準を達成できない場合は、所定の算出式に基づいて賦課金が徴収される。

 ⑤タイ
 「企業が振り出す小切手は何度不渡りを出しても、日本のように銀行取引停止にはならない為、小切手での取引は回収不能となる恐れがある。この為銀行が保証する預金小切手の利用やCOD(Cash On Delivery:受渡し時現金)とする、できるだけ銀行振り込みとする等の対策が必要である」。すごい国だ・・・。

 「公務員が社会的儀礼・慣習として利益を受領することが許容される場合があり、年末に監督官庁へバスケット(日本の歳暮に相当する詰め合わせの品)を贈る習慣が残っている」。汚職の問題はアジア共通である。日本の公務員はよく高給取りだと批判の対象となるのに対し、アジアの多くの国では公務員は特権階級である。彼らが許認可を出したり、規制を緩和したりしてくれなければ、企業はビジネスを展開できない。公務員の仕事は、国民や企業に対するサービスである。だから、サービスの対価(=賄賂)をもらうのは当然だとされるわけだ。

 ⑥ベトナム
 「ベトナムは贈答社会といわれ、人や仕事を紹介した場合、必ずお礼をする習慣がある。仲介者・紹介者へのキックバックやマージン等の手数料が発生する場合がある点に注意が必要である」。

 ⑦インドネシア
 「法人税予納制度による実績確定後の還付請求の際、必ず税務調査が実施され、結果的に還付を認められないケースが多い。また、税務調査において、親会社の提供する経営指導や債務保証に対する対価をすべて配当とみなす、ロイヤリティー・ブランドフィーを否認するなどの運用が明確な根拠なくなされる場合がある」。日本国内であれば還付申告は喜んで実施するだろうが、インドネシアでは「どうすれば還付申告を受けずに済むか?」を考えなければならない。

 引用文にある通り、還付申告をすると必ず税務調査が実施される。すると、損金が否認されて、還付どころか追徴課税を受けてしまうことがある。だから、還付申告をしなくてもいいように、源泉税などで前払いした税金を上回る税金を確定申告時に納められるようにする必要がある。端的に言えば、それだけ高い利益率が求められるということだ(以前の記事「吉田隆『コンサルタントの現場と実践 インドネシア会社経営』/『インドネシア税務Q&A』」を参照)。

 ⑧ミャンマー
 「原則として国内での代金決済は現地通貨チャット建である。国内の決済システムの電子化は殆ど進んでいない為、現金決済が主流であるが、小切手の使用や口座振り込みも可能である」。ミャンマーは金融機関のシステムが十分ではなく、窓口に大量の紙幣を持ち込んで手続きをしている写真を見たことがある。

 やや話は逸れるが、中小企業診断士の実務補習に、日本銀行のOBが参加されたことがあった。その方は海外事務所での勤務も非常に長く、なぜ今さら診断士の資格が必要なのか不思議だった。話を聞いてみると、定年退職後は中小企業のお役に立ちたいという、非常に高邁な志をお持ちの方であった。実務補習を終えて診断士になった後、しばらくは国内の中小企業の支援をしていたが、日銀出身というキャリアもあってか、ミャンマーからお声がかかり、現在はミャンマーで金融システム構築の支援をされているという。つくづく凄い方である。

 ⑨インド
 「人口・生産年齢人口共に多く、かつ増加しているが、教育水準の高い層は一部に限られ、国全体の識字率は7割を下回る。この為、一定の教育水準を持った労働力を確保するのは容易ではない」。インド人は英語ができてITに強く、優秀な人材が多いというイメージがあるが、人口の約7割は未だに農村部に住んでいる。また、英語ができるのは、人口の1~3割程度にすぎないと言われている。

 ⑩フィリピン
 「小切手決済が主流で、不渡りへの罰則規定がなく、先日付小切手の取扱いに注意が必要である。代金回収方法の1つとしてコレクションエージェントと呼ばれる代金回収業者があり、利用頻度が高い。不渡りになった場合の対応として、法人の場合は訴訟に持ち込むケースが多い」。

 ⑪マレーシア
 「マレーシアには支払手形が無く、銀行取引停止のシステムも無い。このため、期日内に支払う習慣が浸透しておらず、支払いにルーズな会社が多い」。タイ、フィリピン、マレーシアは支払手形や小切手が不渡りになった場合の債権回収リスクが高そうである(ちなみに、手形と小切手の違いについては「手形と小切手の違いを正しく理解していますか?手形と小切手の特徴を解説」を参照)。

 ⑫シンガポール
 「税率が低いため、日本のタックスヘイブン対策税制(現地法人の所得を日本親会社の所得に合算して課税する制度)の適用を受ける可能性がある。低課税を期待して進出したにもかかわらず、同税制の適用除外基準の判断誤りなどにより、後々高額な税負担となるケースがある」。タックスヘイブン対策税制については、JETRO「タックスヘイブン対策税制:日本」を参照。

鈴木康司『アジアにおける現地スタッフの採用・評価・処遇』


アジアにおける現地スタッフの採用・評価・処遇アジアにおける現地スタッフの採用・評価・処遇
鈴木康司

中央経済社 2012-06-27

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 アジアに進出している日本製造業の現地法人は、管理職や経営陣の多くが日本本社からの駐在員で占められていることが多い。ローカル社員は、自分が一定以上の役職に昇進できないと知ると、モチベーションを失い、最悪の場合は他社、特に成果主義でいくらでも出世の可能性がある欧米企業の現地法人に転職してしまう。それを防ぐために、ローカル社員を対象とした研修を実施したり、福利厚生を充実させたり、一部のローカル社員を管理職に抜擢したりする。だが、こうした”人事制度いじり”は往々にして上手くいかないと著者は指摘する。

 著者は、企業の構造を①事業系、②”業務”系、③”人”系に分ける。先ほどの人事制度いじりは③に該当する。そうではなく、②のレベルでの処方箋が必要だという。具体的には、企業のミッションや戦略目標を各部門のミッションや目標に落とし込み、さらに部門内の各階層についても、役割や目標を明確にする。それを職務記述書という形で明文化する。組織内のあらゆる仕事を可視化した上で、どこまでを日本人が行い、どこからをローカル社員に任せるのかを決める。こうして、少しずつローカル社員に権限委譲しながら、彼らを育成していく。

 理想論を言えば、せっかく企業構造を3レベルに分けたのだから、①事業系にも踏み込んで、まずは3~5年後にどんな事業を目指すのかという戦略を構想し、その戦略を実現するために必要なビジネスプロセスを設計して、そのプロセスを支える組織構造を組み立てるところから始めるべきだっただろう。ただ、本書の著者はタワーズワトソン(旧ワトソンワイアット)という人事系のコンサルティング会社の方であり、戦略系の話にはあまり踏み込みたくなかったのかもしれない。

 戦略からビジネスプロセス、組織構造へと落とし込んで、人材の要件を明らかにするというのが、人材戦略における正攻法である。ここで、大胆な発想だが、社員の数から事業戦略を立てるという視点を提案したい。まず、3つの前提を設定する。それは、①組織の階層構造を維持すること、②上の階層は10人程度の部下を持つこと、③年功序列で賃金が上昇し続けること、である。

 ①について、最近はフラット型組織がよしとされる傾向が見られる。しかし、日本は欧米のような平等主義ではなく権威主義的な社会であるから、階層は絶対に不可欠である。②に関しては、昔から1人のマネジャーが管理可能な部下の数は何人か?という議論がある。諸説あるが、一応10人が限界とされている。ただ、個人的には、マネジャーたる者は、せめて10人程度は面倒を見るべきだと思う。最近は管理職が無駄に増えたせいで、部下の数が少なくなっている、もしくは部下がいないケースもあるようだが、あまり望ましいことではない。

 ③は、完全に成果主義に対するアンチテーゼである。これを受け入れるには、給与は仕事の対価という発想を転換させなければならない。すなわち、給与は社員の生活費である。生活費は年齢が上がるに従って増加する。だから、給与は常に上昇し続けなければならない。企業が社員の生活費の増加をカバーする給与を支払えば、彼らはゆとりある顧客として日常生活に戻ることができる。これもドラッカーの言う「顧客の創造」の二次的な意味だと考える(ブログ本館の記事「ドラッカー「顧客の創造」の意味に関する私的解釈」を参照)。

企業の成長と人件費(簡易シミュレーション)

 ここで、非常に簡単なシミュレーションをしてみたいと思う。社長が10人の社員と起業したとしよう。この企業は、社長以下に部長、課長、係長、一般社員という区分を設ける。それぞれの役職の給与は、2,000万円、1,000万円、750万円、500万円、250万円とする(部長クラスは1,000万円ぐらいもらえないと夢がない)。また、それぞれの役職の滞留年数は10年とする(一般社員が部長に昇進するには30年かかる。これは実態とそれほどかけ離れていないだろう)。この企業は労働集約的産業であり、人件費が売上高に等しいとみなす。

 起業直後は、社長1人、一般社員10人なので、人件費の合計=売上高は上表の通り4,500万円である。10年経つと、一般社員の10人は皆係長に昇進する。そして、一般社員が100人入社し、係長1人につき10人の部下がつく。この場合、人件費の合計=売上高は3億2,000万円で、起業直後の7.1倍となる。逆に言えば、売上高を7.1倍にしなければ、①~③の前提を守りながら企業を維持することができない。10年で売上高を7.1倍にするには、毎年20%超の成長が必要である。

 20年後には、10人の係長が課長に、100人の一般社員が係長に昇進する。そして、一般社員が1,000人入社する。人件費の合計=売上高は30億9,500万円で、10年後の9.7倍となる。給与が高い社員の割合が増えるため、売上高の増加スピードも上がるわけだ。さらに30年後には、10人の課長が部長に、100人の係長が部長に、1,000人の一般社員が課長に昇進し、一般社員が1万人入社する。人件費の合計=売上高は308億7,000万円となり、20年後の10倍に上る。

 戦略から人材を考えるのではなく、人材から戦略を考えるというのは、このような数字を念頭に置いて、社員に十分なポストと給与を与えながら企業を維持・成長させられる規模の事業を常に模索しなければならない、ということである。よく、「我が社は人材育成に力を入れている」、「我が社にとって人材は財産だ」と言う経営者がいるが、果たしてこれほどまでの高い成長を目指している企業はどのくらいあるだろうか?(本書の内容からは随分と離れてしまった)

増田義郎『アジア人の価値観』


アジア人の価値観 (アジア研究所叢書 (13))アジア人の価値観 (アジア研究所叢書 (13))
増田 義郎

亜細亜大学アジア研究所 1999-03

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 (1)
 ジャワ人の価値観の中心的概念は全体の調和にある。宇宙全体が整然とした秩序のある調和のとれたものであるという。そこにある個人は全体を構成する一部分として秩序維持に奉仕する従属的存在として位置づけられている。人は自己の欲望を抑え、宇宙の秩序を司る偉大な力に自己の運命や境遇を定められたものとして受け入れる。人に対しては忍耐と寛容が求められる。
 前半を読むと非常に東洋的であると感じるし、後半を読むとキリスト教のプロテスタンティズムのようにも感じる。東洋にも西洋にも宇宙観というのは存在するが、私は決定的な違いが1つあると考える。

 東洋では、引用文にもあるように、宇宙を頂点として縦に秩序が存在し、個人は秩序の末端に配置される。ブログ本館の記事では何度か書いたが、日本の場合は、個人―家族―学校―企業・NPO―市場―社会―行政―立法―天皇(―神?)という秩序が存在する(厳密に言えば、日本の構造はこんなに単純な直線構造ではないのだが、ここでは便宜的にこのように記述する)。

 そして、上の階層は下の階層に対して、秩序の維持・発展のためになすべきことを命じ、下の階層はそれに応えることを使命とする。ただし、下の階層は上の階層の命令を絶対視せず、創意工夫を凝らして命令以上のことを行い、時には上の階層をも自由に動かす。これが、山本七平の言う「下剋上」である。

 それに対して、西洋の場合は、宇宙=神=人間という同質・並列の関係が成立する。宇宙は神が創造したものであり、宇宙は神そのものである。宇宙も神も万能で無限な存在である。神は自分の姿に似せて人間を創造した。人間には欠点や罪があるが、篤い信仰心を持てば神の意思に直接触れることができる。これによって、人間もまた、万能で無限の存在となれる。こうした考え方が全体主義に行き着くことは、ブログ本館の記事でも何度か書いた。また、ここ数年ビジネスの世界で話題となっている「U理論」も、全体主義的な傾向を帯びていると指摘した。

 (2)ブログ本館で西洋の「二項対立」的な発想について何度か書いたが、その起源は一体どこにあるのかとかねてから疑問に思っていた。本書を読んだら、「ゾロアスター教」がその候補かもしれないと感じた。ゾロアスター教とは、紀元前6世紀頃、アケメネス朝ペルシャで生まれた宗教である。
 ペルシャ人固有の信仰にマズダ教があり、最高神であり、光明と善の表象であるマズダの信仰を中心としていたが、アム川上流バクトリア地方に、宗教改革者ゾロアスターが生まれ、善神アフラ・マズダに対し悪神アーリマン以下の邪神を配して、光明と暗黒の二元を人間に移して善悪の倫理とし、善神の勝利により人間が救済されると説いたのである。
 ノアの箱舟で有名なノアには、セム、ハム、ヤフェトという3人の息子がいた。しばしば、セム、ハム、ヤフェトからはそれぞれ、有色人種モンゴロイド、黒人種ニグロイド、白人種コーカソイドが生まれたと言われる。

 ・セム⇒有色人種モンゴロイド・・・ユダヤ人、アラブ人、トルコ人、モンゴル人、中国人、朝鮮人、日本人、アイヌ人、インディアン、インディフォ、マオリなど。
 ・ハム⇒黒人種ニグロイド・・・エジプト人、エチオピア人、ケニア人など。
 ・ヤフェト⇒白人種コーカソイド・・・アーリア人、ゲルマン人、スラブ人、ケルト人、ギリシャ人、ペルシャ人、インド人など。

 山本七平は、『存亡の条件』などで、二項対立はセム系民族の特徴と書いている。しかし、今のところ私は、ブログ本館の記事で、二項対立を欧米人の特徴と位置づけている。ペルシャ人も、上記の分類に従えば、ヤフェトを起源とする欧米民族である。この辺りを論理的にどう整理するかが、当面の私の課題である。

ボアオアジアフォーラム、国際交流基金『グローバリゼーションとアジアの価値観―アジア文化フォーラム京都2006報告書』


グローバリゼーションとアジアの価値観―アジア文化フォーラム京都2006報告書グローバリゼーションとアジアの価値観―アジア文化フォーラム京都2006報告書
ボアオアジアフォーラム 国際交流基金 アジア文化フォーラム京都2006報告書

アーバン・コネクションズ 2007-03

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 岡倉天心は1903年にロンドンで出版した『東洋の理想』の冒頭で、"Asia is one."(「アジアは一つである」)と書いた。美術史学者の木下長広は、この言葉を次のように解釈している。日本の文化とその歴史は、西アジアから東アジアへかけての「アジア」全域の文化遺産をその奥深くに受け止め、それを醸成するように成立している。その意味で、日本文化のあり方のうちにアジアは混然として大きな「一つ」を形成している、ということだ。ところが、天心の言葉は本人の意図とは裏腹に、大東亜共栄圏を構築するためのスローガンとして利用された。

 本書は、2006年11月10日に開催された「アジア文化フォーラム京都2006」の内容を取りまとめた報告書である。本書の中で、中国の政治思想史学者である孫歌氏は、「アジアはどこにあるか」という挑発的な問題提起を行っている。そして確かに、この問いに明確に答えられるアジア人はおそらくいないのである(アジアが明確に定義できないのだから、アジア人という括り方もおかしいのだが)。

 隣国の韓国や北朝鮮、中国でさえ、歴史問題をめぐる対立の影響か、遠い国のように思えてしまう。昨年末にAEC(ASEAN経済共同体)が発足したことでASEANへの注目度が高まっているが、ASEANの10か国を全て挙げられる日本人はそれほど多くない。日本にとってアジアという概念は、西へ行くほど曖昧になる。中央アジアの国々の知名度はガクっと下がる。イスラム原理主義で揺れる中東を日本人は対岸の火事のように眺めている節があるけれども、国際連合は中東を西アジアと定義していると聞けば、日本人は多少動揺するに違いない。

 孫氏は、「今、純粋なアジアは存在していない」と指摘する。本書のタイトルに「アジアの価値観」という言葉が入っているため、このフォーラムは何かアジアで共有できる価値観を模索したかのような印象を与えるが、アジアが定義できない以上、共通の価値観を明らかにすることは不可能である。もっと言えば、アジア(らしき国々・地域)に共有価値観は必要ないとさえ感じる。アジア(らしき国々・地域)は歴史も文化も民族も宗教も異なる極めて多様な集合体である。

 1点だけ共通していることがあるとすれば、アジア(らしき国々・地域)は、常に西欧の価値観(自由、平等、民主主義など)の受容体であったということである。ただ、その価値観の受け止め方、消化の仕方はそれぞれの国によってバラバラであり、その時々の国家を取り巻く状況に応じて柔軟に摂取することで国家を何とか存続させてきた。そのため、結果的にアジアは多様となったわけである。
 ところで、欧米から輸入された価値は本当に我々の価値となっているのでしょうか。暴力を伴い、無理矢理に押し付けられた価値は、価値自体が優れたものであったとしても、それがもたらされた方法によって普遍性を毀損されたのではないでしょうか。この問題を解決できるのはヨーロッパ人でもアメリカ人でもなく、それを自分の物として受け入れざるを得なかったアジア人なのではないでしょうか。
 孫氏はこのように指摘し、アジアが西欧の価値をまだ十分にものにできていないことに対して警鐘を鳴らす。ここに、アジアのもう1つの特徴を見て取れる。すなわち、アジアは結局のところ西欧に対して受動的であり、アジアが世界に向けて主体的に普遍的な価値を発信する立場にはなりそうにない、ということだ。

 しばしば、21世紀はアジアの時代だと言われる。2050年には世界の人口の6割、世界経済の半分をアジアが占めると予想される(その場合のアジアとは一体どこなのかという疑問はあるが)。しかし、多数派が主流派になるとは限らない。アジア(らしき国々・地域)は、相も変わらず外部からの刺激を何となく消化することに苦心し、自国の歴史や文化の土台の上で何となく国家を運営し、何となく他国と緩やかに連携しながら、何となく独自のやり方で存続を図ると思う。アジアとは何かと問われれば、それがアジアだと私は答える。
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プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、1,000字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
所属組織など
◆個人事務所
 「シャイン経営研究所」◆ シャイン経営研究所ロゴ

(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長、および国際部員を務めています)

NPOビジネスサポート特定非営利活動法人NPOビジネスサポート
(監事を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)

Experian海外企業信用調査 海外企業信用調査(Experian)
(一緒にお仕事をさせていただいている「コンサルビューション株式会社」は、世界最大の信用調査会社Experianの正規代理店です)

【中小企業診断士は独学で取れる】中小企業診断士に独学で合格するなら「資格スクエア」中小企業診断士の安い通信講座なら「資格スクエア」
(以下の資格の講師をしています。
 ―ITパスポート
 ―情報セキュリティマネジメント
 ―経営学検定(初級・中級)
 ―中小企業診断士(企業経営理論、経営情報システム、中小企業経営・中小企業政策)
 谷藤友彦と株式会社サイトビジット代表取締役・鬼頭政人氏の対談動画(1)(2)(3)
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