私はパーソナルブレーン社の『TOPPOINT』という雑誌を年間購読している。この雑誌は、話題のビジネス書やロングセラーの中から編集部が選んだ10冊について、1冊あたり4ページに要約して紹介してくれるものである。最近のトレンドや有名な本の概要を知るにはちょうどいい雑誌だ。

 2015年2月号を読んでいたら、偶然なのかエレン・ランガーの「マインドフルネス」に言及した書籍が3冊も登場した。マインドフルネスは、従来の心理療法や精神療法とは異なる、第3世代と言われる新たな治療法として注目されるプログラムであり、ストレスの低減やうつ病の治療に効果があるとされる。グーグルやインテルなど、社員教育に取り入れている欧米企業も多い。

問いかける技術――確かな人間関係と優れた組織をつくる問いかける技術――確かな人間関係と優れた組織をつくる
エドガー・H・シャイン 金井 壽宏

英治出版 2014-11-26

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サード・メトリック しなやかにつかみとる持続可能な成功サード・メトリック しなやかにつかみとる持続可能な成功
アリアナ・ハフィントン 服部 真琴

CCCメディアハウス 2014-11-20

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シンプル・ライフ 世界のエグゼクティブに学ぶストレスフリーな働き方シンプル・ライフ 世界のエグゼクティブに学ぶストレスフリーな働き方
ソレン・ゴードハマー Soren Gordhamer 佐々木 俊尚

翔泳社 2014-12-05

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 <すべてのデバイスをオフにして、ウォーキング、瞑想をし、文章に下線を引ける本物の書籍を読む休暇を過ごす時も、私にとって大切なのはワンダーの感覚を取り戻すこと。つまり外の世界との接続を切って、内なる旅をすることだ。
(アリアナ・ハフィントン『サード・メトリック』の紹介文より)
 スティーヴ・ジョブズは、こう述べている。「抽象的な思考や論理的な分析より、直感的な理解や感性の方が重要だと気づき始めた」これは、そとからの情報にあまり頼らず、内なる知性を働かせるという知のあり方を示した言葉だ。(中略)

 ツイッター社の共同創業者エヴァン・ウィリアムズは創業間もない頃、社内に向け、自社の方針を打ち出した。その主な項目の中には「集中」と題されたものが含まれていた。(中略)ひっきりなしにメールやツイートが舞い込み、なかなか心を今ここに置けない現代の生活において、意識の向け方を養うことは不可欠である。
(ソレン・ゴードハマー『シンプル・ライフ』の紹介文より)
 だが、よく考えると、我々をPCやスマートフォンといったデバイスに張りつけて、1つのことに集中する時間を奪っているのは、アリアナ・ハフィントンが始めたハフィントン・ポストであったり、スティーブ・ジョブズが作ったiPhoneであったり、エヴァン・ウィリアムズが開発したtwitterであったりする。

 また、ジョブズは直観の重要性を解くが、スマートフォンのGPS機能やアプリのデータログ機能の発達によって、スマートフォン経由で取得できる情報量が膨大になり、各社はビッグデータなるものの解析に躍起になっている。

 その彼らが、テクノロジーから自らを開放してマインドフルネスを意識しようとか、分析や論理性よりも直観や内なる知性を重視しようと言ったところで、ちょっと説得力がないように感じてしまう。

 これはアメリカに対する私の大いなる偏見が入っているのだけれども、アメリカという国はダブルスタンダードで動いている。アメリカは、一見すると非常に効果的に見える基準を、グローバルスタンダードという名の下に、世界中に適用する。ところが、アメリカの一部の人はその基準の限界を知っており、本当に効果があるもう1つの基準を隠し持っている。

 アメリカは前者の基準を世界中にばら撒き、世界の人々がその基準の限界にぶち当たって疲弊したところに後者の基準を持ち出して、世界を支配しようとする。これが私の”妄想”である。もっとも、アメリカは自由の国であり、言論統制をしないというのが建前であるから、この記事で書いたようにアメリカが隠し持つもう1つの基準の一端をうかがい知ることができるのだが。