こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント)のブログ別館。1,000字程度の読書記録などの集まり。

アメリカ

松岡完、広瀬佳一、竹中佳彦『冷戦史―その起源・展開・終焉と日本』―当初、アメリカは普遍的価値観の輸出に乗り気ではなかった?


冷戦史 -その起源・展開・終焉と日本-冷戦史 -その起源・展開・終焉と日本-
松岡 完 広瀬 佳一 竹中 佳彦

同文舘出版 2003-06-11

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 国外の冷戦と国内の冷戦を概観するには適した1冊。アメリカは自由、平等、法の支配、基本的人権、資本主義、民主主義といった普遍的価値を心の底から信じており、これらの価値を世界中で実現するために、時には他国の政治や経済システムにも介入するのだが、本書を読むと、冷戦当初はそれほど価値観の布教に熱心ではなかったのではないかと思うようになった。むしろ、ソ連の方が、社会主義・共産主義の革命を輸出することに躍起になっていたようである。

 第2次世界大戦終結直後、朝鮮半島では朝鮮戦争が勃発し、早くもアメリカ対ソ連の代理戦争の様相を呈した。ところが、当時のアメリカにとって、朝鮮半島はそれほど重要ではなかったという。アメリカにとっては、第2次世界大戦の主戦場となったヨーロッパでプレゼンスを発揮することが第一の命題であった(本書には明確に書かれていなかったが、第二の命題は、中東における石油の確保であっただろう)。アメリカは、ヨーロッパに関しては戦略的”攻撃”、アジアに関しては戦略的”防衛”というスタンスを取っていた。

 ソ連は周辺国に革命を輸出し、共産主義政権の樹立を支援したが、ソ連の強引なやり方に反対して反共的な政権を樹立しようとする動きもあった。これに関しても、アメリカはソ連の周囲に反共・親米的な政権ができることを嫌がっていたきらいがある。いくら戦争が公共事業であるアメリカといえども、世界中で小国同士の代理戦争が繰り広げられるような事態は避けたかったのかもしれない。

 潮目が変わったのは、アメリカが中国に接近してからだと思う。キッシンジャーの電撃訪中、さらにはアメリカと中国の国交樹立は日本中を仰天させたが(田中角栄は慌てて中国との国交を樹立した)、アメリカには泥沼化するベトナム戦争に関して、中国から何とか妥結案を引き出そうとしていた。一方の中国も、文化大革命が大失敗に終わり、経済が停滞し、海外からの直接投資が鈍っていた矢先であったから、アメリカからの支援の申し出は渡りに船であった。

 マイケル・ピルズベリーは著書『China 2049』の中で、「自分は弱い国なので助けてください」と低姿勢に出る中国に対して、バカ正直に様々な支援をしてしまい、結果的に中国を大国にしてしまったことを後悔している(ブログ本館の記事「マイケル・ピルズベリー『China 2049』―アメリカはわざと敵を作る天才かもしれない」)。だが、アメリカのインテリジェンスが中国の歴史を多少なりとも真面目に研究していれば、中国が心の奥底に覇権主義を秘めた大国候補であることは見抜けたはずである。二項対立的な発想をする世界の大国は、常に自分の対抗馬を必要としている。アメリカは、冷戦でソ連に勝利した後を見据えて、中国を新たな敵に仕立て上げようとしていたのではないかといのが私の仮説である。これ以降、アメリカはアジアへのコミットメントを強めていき、現在に至っている。

 最後に大国と小国の国際戦略について、現時点での私の考えを整理しておく。まず、大国であるが、前述の通り二項対立的な発想をするため、常に敵となる大国を必要としている。現代では、アメリカ&ドイツと、ロシア&中国が対立している。アメリカとロシアの対立に限って話を進めると、実は大国の内部も二項対立状態にある。つまり、アメリカ内部には多数派の反ロ派と少数派の親ロ派が、ロシア内部には多数派の反米派と少数派の親米派がいる。ここで、アメリカの親ロ派とロシアの親米派は裏で通じている。アメリカの親ロ派は反ロ派に対して、もっとロシア寄りになるように助言するが、反ロ派はそんな声には耳を貸さず、より一層反ロの姿勢を強める。同様にして、ロシアでは反米の姿勢が強まる。すると、アメリカとロシアは今まで以上に激しく対立するようになる。

 しかし、アメリカとロシアが本気で衝突したら壊滅的な被害が出ることは両国とも解っている。そこで、両大国は周辺の小国を自国の味方に引き込んでいく。その上で、アメリカとロシアの対立を、小国同士の代理戦争に転化させる。あるいは、小国の中に親米派と親ロ派を作り出し、両者を激突させる。中東で長らく続く混乱は、自分の手を直接汚したくない大国の狡猾な戦略の結果である。

 こうした大国の戦略に対して、小国はどのように振る舞うべきか?(私は日本も小国だと考える)まず、対立する大国の一方に過度に肩入れするのは絶対に避けるべきである。そんなことをすれば、早晩大国の代理戦争に巻き込まれる(近年、日本がアメリカ寄りの姿勢を強めているのは危険な兆候だと感じる)。

 小国は、対立する双方の大国から、自国の味方にならないかと様々なアプローチを受ける。その双方のいいところ取りをして、どちらの国の味方でも敵でもないという曖昧なポジションを作り出すのが得策である。ずる賢いと言われればそれまでだが、弱い小国が国際政治の乱気流を乗り切るにはこれしかない。私はこうした小国の戦略を「ちゃんぽん戦略」と呼んでいる(ブログ本館の記事「『トランプと日本/さようなら、三浦朱門先生(『正論』2017年4月号)』―米中とつかず離れずで「孤高の島国」を貫けるか?」を参照)。

 小国は他の小国に対してどのような態度を取るべきか?原則は、相手から求められない限りは動かない、ということである。他の小国は既に、対立する大国のどちらかに取り込まれている可能性がある。そういう小国に不用意に近づくと、大国の代理戦争に巻き込まれるリスクがある。小国は、他の小国から支援を求められた時に限って、必要な支援を行う。その際、支援先の小国も同じようにちゃんぽん戦略へと移行できるように働きかける。

 しばしば、日本は東洋と西洋の中間に位置する地政学的な位置を利用して、東洋と西洋の橋渡しを担うべきだという主張を見かける(以前、私もそう書いてしまった)。だが、地政学的に東洋と西洋のど真ん中にあるのは中東である。その中東の現状は悲惨である。橋渡しなどという夢物語を掲げるのはよくない。小国はまずは自国を守ることに注力し、周囲の小国からの求めがあれば、少しずつ大国同士の代理戦争の場を無効化していくのが望ましいのではないかと考える。

中津孝司『岐路に立つ中国とロシア』―中国とロシアは蜜月関係なのか対立関係なのか?


岐路に立つ中国とロシア岐路に立つ中国とロシア
中津 孝司

創成社 2016-01-20

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 ブログ本館の記事「マイケル・ピルズベリー『China 2049』―アメリカはわざと敵を作る天才かもしれない」で下のような図を用いた。

4大国の特徴

 ブログ本館でも何度か書いたが、大国は二項対立的な発想をする。大国は常に、自国と対立する他の大国を配置することで、自国のアイデンティティを確認する。数十年前までは、世界における大国の対立は、アメリカ対旧ソ連という単純な構図であった。米ソの対立は、資本主義と共産主義の対立である。あるいは、自由主義と専制主義の対立と言ってもよい。そして、アメリカのバックにはドイツが、旧ソ連のバックには中国がいた。

 ところが、近年はこの対立構造が複雑になりつつある。まず、アメリカが中国に接近した。台湾を裏切って中国との国交を回復し、中国との経済的なつながりを急速に深めていった。一方のロシアは、ドイツとの関係を強めつつある。こうして、アメリカ・中国というグループと、ロシア・ドイツというグループができた。

 アメリカと中国の共通点、ロシアとドイツの共通点はそれぞれ、国家主義と超国家主義という言葉で言い表されるのではないかと考える。国家主義とは自国の主権を前面に打ち出す立場のことである。これに対して超国家主義とは、複数の国家を束ねてパワーを発揮するスタンスを指す。つまり、国家主権を超える存在を作り出し、そこで主導権を握る。ドイツは今やEUの盟主であるし、ロシアはEUに倣ってユーラシア経済連合(EEU)を創設している。

 アメリカと中国、ロシアとドイツが接近したことで、従来のアメリカとドイツ、ロシアと中国の関係に微妙な変化が生じている。アメリカとドイツは対立することが増えた。VWの不正問題をアメリカが10年以上も前に認識しておきながら放置したのは、問題ができるだけ大きくなった段階でVWを告発することで、VWの賠償金を巨額なものにし、ドイツの代表企業であるVWを叩きのめして、ひいてはドイツ経済に致命的なダメージを与えるためだったのではないかと私は思っている。

 中ロの関係も一枚岩ではない。中国は元々、スターリン批判をするなど、ロシアに完全にべったりであるとは言いがたい。近年も、中ロの対立局面が目立つと指摘する論者がいる。だから、現在の4大国の関係を図にすると、上図のように複雑なものになってしまう。ただ一方で、中ロは依然として蜜月関係にあると主張する識者もいて、私を混乱させている。実際のところ両国の関係はどうなのかと思って本書を読んだのだが、結局解らずじまいであった。

 <中ロの関係が深いと思わせる出来事>
 ・中ロは協調して欧米社会に対抗するための受け皿として、上海協力機構(SCO)を活用し、アメリカ一極集中を牽制してきた(ただし、インドが加盟申請したことで、SCOの性質が変わる可能性がある)。

 ・ロシアは東シベリア・バイカル湖北方に眠るチャヤンダ天然ガス田とコビクタ天然ガス田を開発し、パイプラインと連結する。パイプラインは天然ガス田からブラゴベシチェンスクに延び、中国へと向かう。総工費550億ドルに及ぶこのパイプラインが2019年に完成すれば、30年間に渡って年間約380億立方メートルの天然ガスが1,000立方メートルあたり350ドルでロシアから中国に輸出される。総額4,000億ドルに上る中ロ間の天然ガス貿易となる。

 ・中国経済の一層の発展にとって、ロシア極東の化石燃料は、エネルギー安全保障の観点からも必要不可欠である。ロシアには天然資源を開発する資本と労働力が不足しているが、中国にはそれがある。

 <中ロが対立していると思わせる出来事>
 ・ロシアはターキッシュ・ストリーム構想を打ち出し、トルコ経由でヨーロッパに天然ガスを供給する計画を持っている。具体的には、バルカン半島諸国に天然ガスを供給する。ロシアによるバルカン半島の囲い込みは、中国の利害と対立する。なぜなら、バルカン諸国は中国が提唱するシルクロード計画の西端に位置するからだ。中国は意図的にバルカン半島諸国との関係強化に動いている。

 ・北朝鮮の中国離れに乗じて、ロシアは朝鮮半島でのプレゼンス強化に乗り出している。2015年2月25日、モスクワで初のロ朝ビジネス評議会が開催された。ここで、北朝鮮北東部の経済特区・羅先に向けて電力を供給する事業構想が打ち出された。羅先は日本海に面する戦略的要衝地であり、不凍港も有する。ロシアは将来的に北朝鮮と軍事的関係を強化して、羅先への進出を狙っている。一方で、中国も羅先に狙いを定めている。

 ・中国系企業はロシアの天然資源にしか興味がないようだ。不動産の取得にも熱を上げるが、ロシアの製造分野には投資しない。確かに、中国の対ロ投資額は2014年1~8月期に前年同期比1.7倍に増えているものの、ロシアに移住する中国人が増えるだけで、中国の対ロ投資はロシア人の雇用促進に貢献していない。ゆえに、中国企業は現地で歓迎されていない。

真壁昭夫『VW不正と中国・ドイツ経済同盟―世界経済の支配者か、破壊者か』


VW不正と中国・ドイツ経済同盟: ~世界経済の支配者か、破壊者か~VW不正と中国・ドイツ経済同盟: ~世界経済の支配者か、破壊者か~
真壁 昭夫

小学館 2016-02-18

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 本書は「中国とドイツの経済同盟が成立すると思いますか」という問いで始まっている。フォルクスワーゲン(VW)の不正問題で揺れるドイツだが、ドイツと中国の経済的な結びつきは年々強くなっており、相互に補完関係を築きながら21世紀の世界経済を牛耳るだろう、というのが著者の予想である。

 だが、経済的な結びつきに着目するならば、ドイツよりアメリカの方がずっと中国と密接である。中途半端な時期の統計になってしまうが(※その理由は後述)、2015年1月~7月の中国の貿易を見ると、アメリカへの輸出が2,280.3億ドル(全体=1兆2,648.2億ドルの18.0%)、アメリカからの輸入が859.8億ドル(全体=9,596.2億ドルの9.0%)でいずれもトップである。一方、ドイツへの輸出は392.8億ドル(3.1%)、ドイツからの輸入は518.2億ドル(5.4%)である。

中国の相手国別輸出・輸入額(2015年7月)①
中国の相手国別輸出・輸入額(2015年7月)②
中国の相手国別輸出・輸入額(2015年7月)③

 (※Bloomberg「中国の7月対外貿易統計:概要(表)」より。ただし、私が記事を書いている前後でBloombergのHPのリニューアルがあったらしく、現在リンク先のページは見ることができない。中途半端な時期の統計を取り上げたのは、私が最初に見たページがたまたま2015年7月発表の統計だったためである)

 現在の世界の大国は、アメリカ、ドイツ、ロシア、中国の4か国である。ブログ本館の記事で、大国は二項対立的な発想で動くと書いてきたが、どうやら最近は事態が複雑化しているようである。大きな枠組みとしては、自由主義のアメリカ、ドイツと、専制主義のロシア、中国の対立がある。ところが、自由主義陣営、専制主義陣営ともに、内部で対立を抱えている。それと同時に、自由主義の国と専制主義の国が接近するという事態も見られる。

4大国の特徴

 周知の通り、ロシアと中国の対立は共産主義の時代から続いている。フランスの政治学者エマニュエル・トッドによると、アメリカはドイツを非常に恐れているという(『ドイツ帝国」が世界を破滅させる―日本人への警告』)。アメリカは長らく、中東で十分な存在感を発揮できずにいる。その結果、混乱した中東からは多くの移民がヨーロッパに流れ込んだ。ドイツは彼らを積極的に受け入れ、安価な労働力として活用し、自国の製造業の競争力を高めてきた。つまり、アメリカが中東で失点を重ねるほど、ドイツを利する構造になっていた。

「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告 (文春新書)「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告 (文春新書)
エマニュエル・トッド 堀 茂樹

文藝春秋 2015-05-20

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 アメリカが暴いたVWの不正は、実はアメリカの陰謀なのではないか?というのが私の仮説である。アメリカは、既に10年ほど前からVWの不正に関する情報をつかんでいたという。なぜ、その時に事実を明らかにせず、10年間もVWを泳がせていたのだろうか?それは、VWの規模が小さいうちにVWを叩くのではなく、VWが十分に大きくなってから叩くことで、致命傷を負わせようとしたからではないだろうか?VWを経営危機に追い込めば、VWは中国事業を縮小させるかもしれない。ドイツ国民が、VWに公的資金を投入すべきか否か議論をしている間に、アメリカが中国市場をかっさらう計画だったのではないだろうか?

 なお、本書には「経済同盟」というタイトルがついているが、あまり適切ではないと感じる。経済同盟とは、FTAやEPAのことを指しているのだろう。しかし、現時点でドイツもアメリカも、中国とはFTA/EPAを締結していない。ただ、EUが中国とのFTA締結を検討しているため、その点に注目してドイツ・中国の経済同盟が成立すると著者は言いたかったのかもしれない。アメリカが主導したTPPは中国を排除したと言われる。だが、TPPでアメリカが狙ったのは、将来的に中国の貿易を自由主義化させることである。そもそも、前述のように、アメリカと中国はお互いにとって重要な貿易国なのだから、アメリカが中国を捨てられるわけがない。

イアン・ブレマー『スーパーパワー―Gゼロ時代のアメリカの選択』


スーパーパワー ―Gゼロ時代のアメリカの選択スーパーパワー ―Gゼロ時代のアメリカの選択
イアン・ブレマー 奥村 準

日本経済新聞出版社 2015-12-19

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 著者によれば、アメリカの選択肢には以下の3つがあるという。

 ①独立するアメリカ
 ・世界で起こる様々な問題(武力衝突や歴史問題など)の解決は当事国に任せ、アメリカは自国の問題に専念する。
 ・軍事支出や他国への資金援助を削減する。その分の予算を、自国の公共インフラや教育への投資に回す。

 ②マネーボール・アメリカ
 『マネーボール』は、弱小貧乏球団オークランド・アスレチックスが統計学を用いた合理的な手法で常勝チームを築き上げたストーリーである。それに倣い、マネーボール外交政策は、納税者へのリターンを最大化するため、世界でのアメリカの役割を定義し直し、利益中心のアプローチを行う。

 ・世界的な課題において、積極的にコストとリスクを共有する国がなければ、アメリカは引き下がる。
 ・脅威となる外国政府には、戦争より安上がりで効果的な経済制裁を用いる。

 ③必要不可欠なアメリカ
 ・世界の安全と繁栄を永続させるため、アメリカが主導して、世界経済の成長を推進し、紛争を処理する。
 ・非軍事的手段(貿易、制裁、サイバー能力、道徳心への訴えなど)だけでなく、軍事力も引き続き強化する。

 著者が「アメリカにとって最善の道は何か?」と問うた時、著者は迷わず「③必要不可欠なアメリカ」を選択すると私は思った。だが、著者が選んだのは「①独立するアメリカ」である。他国を民主化に向かわせるために政治システムに直接介入するのではなく、アメリカの民主主義を今よりも効果的なものにする。また、アフガニスタンやイラクなどに投資している資金を自国の教育やインフラに回し、アメリカ国民の手元に残る所得を増やすべきだと主張する。つまり、アメリカ自身がもっと魅力的な国になれば、他国はアメリカに憧れて自己変革を行う。それが、アメリカにとっても他国にとっても最も低リスク、低コストであるというわけだ。

 もし本書がアメリカで売れているのならば(売れていなければ日本で邦訳されない)、アメリカは随分と内向きになってしまったと感じる。この傾向が続けば、尖閣諸島を中国が乗っ取ろうとしても、南シナ海で中国とASEANが衝突しても、朝鮮半島で有事が発生しても、アメリカには大した役割を期待できない。また、中東問題は非常に中途半端となり、ロシアのさらなる介入を許すことになるだろう。そして、EUの難民問題に対して、アメリカは何の責任も持たない(そもそも、中東で難民が発生した原因の一端はアメリカにある)。

 かつて、ブログ本館の記事「ドネラ・H・メドウズ『世界はシステムで動く』―アメリカは「つながりすぎたシステム」から一度手を引いてみてはどうか?」で、アメリカは世界の色々な問題に自ら首を突っ込んで事態を複雑化させているから、身を引くことを覚えてはどうか?と書いた。しかし、この記事を書いた時点では、大国と小国の政治的スタンスの違いに考えが及んでいなかった。日本のような小国は、自国が上手くいっていれば、わざわざ他国に介入する必要などないと考える。しかし大国は、大国でありながら、実は常に他国(特に他の大国)からの侵略に怯えている。よって、防波堤を築くために他国に介入し、味方を作ろうとする。

 だが、今アメリカがやろうとしているのは、世界のあらゆる地域に身を乗り出して他国(+テロ組織)との対立を引き起こしておきながら、「やっぱり(お金と労力がかかるので)アメリカは撤退します」と舞台から飛び降りるようなものである。極言すれば、散らかすだけ散らかしておいて、後片づけもろくにせずにその場を去ろうとしているわけだ。アメリカはまだしばらくの間、「③必要不可欠なアメリカ」で頑張る責任があるのではないだろうか?

『円高襲来!為替と通貨の新常識/ANA国際線急拡大の野望と死角(『週刊ダイヤモンド』2016年2月27日号)』


週刊ダイヤモンド 2016年 2/27 号 [雑誌] (円高襲来!  為替と通貨の新常識)週刊ダイヤモンド 2016年 2/27 号 [雑誌] (円高襲来! 為替と通貨の新常識)

ダイヤモンド社 2016-02-22

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 (1)慣例となっていた6年間の任期を超えて社長続投を宣言した伊藤忠商事の岡藤正広氏。資本提携を結ぶCITIC(中国中信集団)、CP(タイ財閥のチャロン・ポカパン)との関係を軌道に乗せ、今年9月に控えたファミリーマートとユニーの経営統合を失敗させないために、敢えて続投を決意したのだという。そして、岡藤社長が翻意したきっかけは、野球のあの試合だった。
 そういうときに思い出したのが、(昨年11月の)ワールド・ベースボール・クラシック。準決勝で日本の大谷翔平投手が7回に交代した後、韓国に逆転負けした。後の投手に能力があっても、波に乗れないこともある。6年が慣例だから辞めますというのは、あの野球と一緒。定石通りに7回で交代していたら、大変なことになった。
 なお、記事中で「ワールド・ベースボール・クラシック」となっているのは「プレミア12」の誤りである。プレミア12の知名度もまだまだ低いのだと感じてしまった。

 (2)本号の特集は為替である。アメリカは基軸通貨国であるから、どんなに借金を抱えても自国でドルを刷って問題を解決できる。アメリカは圧倒的な経済力を持って、他国の経済システムに介入し、アメリカにとって都合のよい自由主義的なシステムに転換させる。これは、アメリカが普遍的価値としている自由、平等、資本主義、民主主義を世界に普及させる一環である。

 アメリカは、他国に対して「自由主義的な経済システムを導入せよ」と言い続けるだけではない。そんなやわな方法では全く効果がないことなど重々承知している。本号を読んで、アメリカは主に2つの方法を用い、中長期的かつ乱暴に他国の経済システムをひっくり返す戦略を持っているように感じた。

 通常、先進国においては、アメリカとの為替レートは変動相場制で決まる。これに対し、新興国・途上国に対しては、貨幣の信用がまだ低いという理由で固定相場制を採らせる。この固定相場制には2パターンが存在する。

 1つは純粋な固定相場制で、かつての日本が1ドル=360円に固定していたようなケースを指す。円安ドル高で輸出に有利であるから、日本からアメリカへの輸出がどんどん増える。だが、アメリカは基軸通貨国であり、自分でドルを刷ることができるので、日本の製品をいくらでも購入することが可能だ。しかし、さすがに日本企業の勢いに押されてアメリカ企業の業績が傾き始めると、日本バッシングが起こり、円安を批判し始める。そこで、円安を是正し、自由主義的な通貨取引を行うように日本に圧力をかける。これが1985年のプラザ合意であった。

 もう1つはドル・ペッグ制である。この場合、基本的にドルの価値に応じて自国通貨の価値が決まる(完全に連動することもあれば、一部変動相場制のようになっていることもある)。ドル高なら自国通貨高、ドル安なら自国通貨安になる。かつて、ASEANの多くの国はドル・ペッグ制を採用していた。輸出で稼がなければならない新興国にとって、ドル高の場合は自国通貨高となり輸出に不利に働く。しかし、ドル高であればアメリカ経済も好調なので、新興国の製品を買ってくれる。

 ここで、新興国通貨がその国の実力よりも過大に評価されているのではないかという疑惑が出てくる。いくら新興国の経済がアメリカに引っ張られて好調であっても、経済規模やレベルが違いすぎるから、アメリカの通貨と同じスピードで新興国の通貨が強くなることは考えにくい。ここで登場するのがヘッジファンドである。彼らは、将来的に新興国通貨が安くなると予想して、大量に新興国通貨を売り浴びせる。すると、突然新興国は通貨安となる。

 慌てた政府はレートを維持するため、自国通貨を買い戻す。逆に言えば、ドルを放出する。その原資は、輸出でため込んだ外貨準備金である。だが、ヘッジファンドの空売りが巨額であるため、外貨準備金はあっという間に底をつく(ヘッジファンドの資産に比べれば、新興国の外貨準備金など大した額ではない)。こうして通貨危機が起きる。1997年にターゲットとなったのがタイのバーツであった。そして、そこから連鎖して韓国も危機に陥った。大不況に陥ったアジア各国は、アメリカが主導するIMFの下で再建を行い、自由主義的な経済システムを導入した。

 他国に「自由主義的な経済システムにしましょう」とやんわりアドバイスするのではなく、相手を泳がせるだけ泳がせておいて、突然危機を引き起こし、「おたくのシステムが悪いからこうなったのだ。だから、これからはアメリカの言うことを聞け」と頭ごなしに説教する。相手国も、この大ピンチを切り抜けて助かるにはアメリカに従うしかない、と思ってしまう。これがアメリカの狙いなのだろう。

 中国の元はドル・ペッグ制である。中国からアメリカへの輸出は急増しているが、ドル・ペッグ制のために元高である。しかし、世界的には元は割高だと認識されつつある。それに気づいた中国は、何度か元の切り下げを行った。だが、もしアメリカが1997年のアジア通貨危機のようなことを狙うのであれば、そろそろヘッジファンドが巨額の元空売りに乗り出すのかもしれない。ただし、今回の相手はタイではなく、中国という巨大国家である。ため込んでいる外貨準備金はタイの比ではない。それでもヘッジファンドは中国に挑戦を仕掛けるだろうか?

 (3)「ものつくるひと」という連載コーナーに、ローソンの「グリーンスムージー」を開発した担当者の記事が掲載されていた。役員プレゼンでは大して注目もされず、販売当初は店舗に数本しか陳列されなかったが、あれよあれよと言う間に評判が広がり、現在では累計販売本数が約1,800万本に達しているという。

 おそらくこの記事の組み立て方が悪いのだと思うのだが、私が読んだ印象では、商品開発担当者が仕事と子育てを上手く両立させるために「毎日手軽に野菜を摂取することはできないものか」と考え、既存のジュースバーを何か所か飲み比べ、これだと思ったジュースバーの商品をローソンの協力メーカーにも飲ませて同じような商品を作ってもらった、というストーリーにも見える。

 そこには、市場調査をどのように行ったのか?潜在顧客からはどのような声を拾ったのか?原材料となる野菜などは何にこだわり、どの地域からどのように調達したのか?目指す味や食感の実現に向けて、製造工程にどんな工夫を施したのか?物流の途中で品質が劣化しないよう、物流はどのように設計したのか?店舗内で鮮度を保つために、陳列棚に何か改善を施したのか?などといった話がない。つまり、「ものづくり」の匂いがしないのだ。

 ついでにもう1つ。近年のコンビニはPB商品に注力しており、飲料、おにぎり、パン、菓子、弁当、惣菜、冷凍食品など、あらゆるジャンルがPB化されている。私の独りよがりな考えかもしれないが、PB化のせいでコンビニは非常につまらなくなった。昔は、色んなメーカーの商品があの狭い空間の中にぎゅっと詰まっていて、見比べるのが楽しかった。ところが、PB商品はパッケージデザインが統一されている。もちろん、作っているメーカーはそれぞれ違うものの、コンビニ全体のコンセプトに合うように味が調整されている気がする。どうも面白みがないのである。
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プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、1,000字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
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所属組織など
◆個人事務所
 「シャイン経営研究所」◆ シャイン経営研究所ロゴ

(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長、および国際部員を務めています)

NPOビジネスサポート特定非営利活動法人NPOビジネスサポート
(監事を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)

Experian海外企業信用調査 海外企業信用調査(Experian)
(一緒にお仕事をさせていただいている「コンサルビューション株式会社」は、世界最大の信用調査会社Experianの正規代理店です)

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(以下の資格の講師をしています。
 ―ITパスポート
 ―情報セキュリティマネジメント
 ―経営学検定(初級・中級)
 ―中小企業診断士(企業経営理論、経営情報システム、中小企業経営・中小企業政策)
 谷藤友彦と株式会社サイトビジット代表取締役・鬼頭政人氏の対談動画(1)(2)(3)
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