こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント)のブログ別館。1,000字程度の読書記録などの集まり。

イノベーション

『人を育てる(『致知』2016年12月号)』


致知2016年12月号人を育てる 致知2016年12月号

致知出版社 2016-12


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 そこで行われているマインド・フルネスをひと言で説明すると、光よりも早く駆け巡る人間の頭の中の思考を止めることです。吸う息、吐く息だけに意識を集中しながら、一切の妄想から離れる訓練をするのです。
(鈴木秀子「人生を照らす言葉〔連載90〕」)
 現在、アメリカではマインドフルネスが流行しているようである。グーグル、フェイスブック、ゴールドマン・サックス、IBMなどがこれを取り入れているという。私の安直な考えだが、このマインドフルネスは、数年前にこれまたアメリカで流行した「U理論」とよく似ていると思う。U理論もマインドフルネスも、人間関係に起因する様々なしがらみやトラウマから離れ、精神を集中させることで、宇宙全体を覆う意識とつながることができるという考え方である。

 非常に雑駁な言い方をすれば、他者との関係は一旦脇に置いて、個人が宇宙という絶対と直接につながることを目指している。それでいながら、個人が宇宙とつながれば、他者ともつながることができ、そこから変革が自ずと発生するという。つまり、1は全体でありかつ絶対である。これを人々は全体主義と呼ぶのではないだろうか?全体主義においては、時間の流れは存在しない。現在という1点が全てであり正しい。引用文にも、「光よりも早く駆け巡る人間の頭の中の思考を止める」とあり、現在という1点が強調されている。

 《参考記事(ブログ本館)》
 オットー・シャーマー『U理論』―デイビッド・ボームの「内蔵秩序」を知らないとこの本の理解は難しい
 安岡正篤『活字活眼』―U理論では他者の存在がないがしろにされている気がする?

製品・サービスの4分類(修正)

製品・サービスの4分類(各象限の具体例)

 全体主義は言いすぎたかもしれないが、グーグル、フェイスブック、ゴールドマン・サックス、IBMなどがマインドフルネスを取り入れているのは、上図を眺めるとよく理解できる(図の説明については、ブログ本館の記事「森本あんり『反知性主義―アメリカが生んだ「熱病」の正体』―私のアメリカ企業戦略論は反知性主義で大体説明がついた、他」や、以前の記事「『プラットフォームの覇者は誰か(DHBR2016年10月号)』」などを参照)。

 私の理解では、グーグル、フェイスブック、ゴールドマン・サックスは左上の象限に位置する。IBMは右下の象限に位置するのだが、近年はAIに力を入れており、またプラットフォーム事業にも乗り出しているから、左上の象限に移動しつつあると言える。左上の象限はイノベーションの世界である。市場にはまだニーズが存在しないため、伝統的な市場調査は無力である。代わりに、リーダーが自分自身を最初の顧客に見立て、「私ならこういう製品・サービスがほしい。私がほしいということは、世界中の人々も同じくほしがるに違いない」と信じる。そして、そのイノベーションを全世界に普及(布教)させることを唯一絶対の神と契約する。

 リーダーがイノベーションに関して神と契約するプロセスは、マインドフルネスやU理論のプロセスと酷似している。いずれも、神や宇宙という絶対性に触れることで、世界中の人々とつながることができるという全体性を強調している。だから、グーグル、フェイスブック、ゴールドマン・サックス、IBMなどがマインドフルネスに注力している理由がよく解ると述べたわけである。

 ところで、マインドフルネスは日本の禅の影響を受けているという。私は禅について無知なので何とも言えないのだが、本来の禅とは、絶対性や全体性の獲得を目指すものだったのであろうか?確かに禅には、静謐な空間で、他者との交わりを断って厳しい修練を積むというイメージがある。しかし、その修行の目的は、他者の異質性を認め、顔の見える他者と血の通った交流をじわじわと広め、さらにその関係を深化させることにあるのではないだろうか?禅とマインドフルネスの相違点を整理することが、今後の私の課題である。

『凄いネスレ 世界を牛耳る食の帝国/【2017年新卒就職戦線総括】今年も「超売り手市場」が継続 選考解禁前倒しも競争は激化(『週刊ダイヤモンド』2016年10月1日号)』


週刊ダイヤモンド 2016年 10/1 号 [雑誌] (凄いネスレ)週刊ダイヤモンド 2016年 10/1 号 [雑誌] (凄いネスレ)

ダイヤモンド社 2016-09-26

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製品・サービスの4分類(修正)

製品・サービスの4分類(修正)

 またしてもこの図を使わせていただく。上図の説明については以前の記事「『プラットフォームの覇者は誰か(DHBR2016年10月号)』」を参照。

製品・サービスの4分類(具体的な企業)

 本号に2015年の時価総額ランキングが掲載されていたので、トップ20の企業をマトリクス図に当てはめてみた。異論はあるだろうが、私の考えを以下に示す。

 【象限③】アップル、グーグル、フェイスブック、テンセント(中国でSNSやインスタントメッセンジャーなどを提供する企業)のサービスは、別に使わなくても生活できる。マイクロソフトのWindowsは我々にとっては必需品であるが、パソコンの普及率は世界全体で見ると5割に達していない。アマゾンは書籍の小売から出発したが、書籍は必需品ではない。バークシャー・ハサウェイやJPモルガン・チェースは投資で利益を上げており、人々に必需品を提供しているわけではない。

 【象限②】エクソン・モービル、ロイヤル・ダッチ・シェルは、我々の身近にあるあらゆる製品の原料、そしてエネルギー源となる石油を提供しており、求められる品質レベルも高い。J&Jは医薬品や医療機器を、GEは航空機エンジンや医療機器、鉄道車両を製造しており、高い品質が要求される。AT&T、ベライゾン、チャイナモバイルは、通信というライフラインを握っている。ウェルズ・ファーゴや中国工商銀行は金融のインフラであり、停止したら経済は大パニックになる。

 【象限①】ネスレは食品という必需品を提供し、P&Gは日用品を主力とする。そして、ウォルマートはそれらの製品を販売する。しかし、食品や日用品には、自動車ほどの厳しい品質は要求されない。【象限①】の製品・サービスは各国の文化・風習の違いに影響され、かつ国内でもニーズが細分化されているため、世界的な大企業が育ちにくい。上図でも【象限①】に該当する企業が(【象限④】を除いて)最も少ないことが解る。

 【象限③】の企業は、顧客が今までほしいと思ったこともなかったイノベーティブな製品・サービスを提供する。顧客のニーズは洗練されていないから、イノベーションに対する顧客の反応は、好きか嫌いかのどちらかに分かれるのみである。イノベーターは、全世界に散らばる「好き」という層に向けて、単一の製品・サービスを一気に展開する。顧客のニーズが洗練され、細分化される前に製品・サービスを売り切り、莫大な利益を上げる。これが象限③における基本戦略である。アメリカ企業はこの戦略が得意なわけだが、「イノベーターが唯一絶対神と契約を結び、その契約を履行する」という表現で、この戦略を説明したこともあった。

 最近は、プラットフォーム企業が力をつけてきている。元々、【象限③】の製品・サービスは、顧客のニーズを先取りするものであるから、ヒットするかどうかは全く解らない。イノベーターは、次々と新しい製品・サービスを市場に投入する必要がある。すると、やがて「自分がお金を払ってでもよいから、自分のイノベーションを世界に広めたい」と考えるイノベーターが出現する。こうしたイノベーターを束ねて、世界中の顧客と引き合わせるのがプラットフォーム企業である。プラットフォーム企業は、イノベーターと顧客の双方からお金を取るという点で、古典的な卸売・小売業とは異なる。アマゾンはその走りであり、アップルやグーグルも、スマートフォンや検索サービスを超えて、プラットフォーム事業を強化している。

 【象限②】においては、必需品化した製品・サービスに対して顧客のニーズが細分化している。そこで、企業は適切なセグメンテーションを行い、それぞれのセグメントに適した製品・サービスを提供する。図には登場しなかったが、日本の自動車メーカーのほとんどはそのような戦略をとっている。

 また、【象限②】では、業界の川上から川下まで機能分化が進んでいる。最終組立メーカーは、川上から自社に至るまでの企業と協調し、プロセスを最適化して、製品・サービスを最終化しなければならない。さらに、【象限②】の企業は時に競合他社とも水平協業する。自動車メーカーはお互いにライバルであると同時に、部品を供給し合うなど、複雑なコラボレーションを行っている。顧客の多様性、垂直・水平方向の協業が【象限②】の企業の特徴である。私は、日本企業は【象限②】に強いと考えているが、これは日本の多神教文化と無縁ではないと思う。

 これに対して、【象限①】の企業は、【象限③】や【象限②】の企業とは異なり、全世界のマーケットを相手にしない。セグメンテーションを行った結果、特定のセグメントに特化して製品・サービスを提供する。本号で特集されているネスレで言うと、ネスレにとってフィリピンは第8位の市場であるが、フィリピンでは低所得者層向けの製品がほとんどである。中所得者層、高所得者層向けの製品もあるものの、力の入れようが全く違う。

 前述の通り、【象限①】の製品・サービスは各国の文化・風習の違いに影響され、かつ国内でもニーズが細分化されている。そのため、仮に低所得者層などの特定セグメントに特化したとしても、市場ニーズに合わせた多様な製品・サービスを提供しなければならない。したがって、ネスレのようなグローバル企業は、本号でも紹介されているように、経営の現地化を徹底している。ウォルマートは世界共通のウォルマート方式を貫いて大企業に成長したが、近年は進出先の市場に合わせた店舗形態を取り入れるなど、現地化を進めている。

 【象限①】の企業は、特定セグメントの顧客の消費行動を広く押さえようとする。例えば、コーヒーを販売する企業は、コーヒーと関連性のある別の製品を取り扱おうとする。ネスレもそのようにして類似・隣接カテゴリの食品をどんどん追加していった結果、全世界で約200ものブランドを持つことになった。それでも自社でできることには限界がある。自社の事業ドメインを「栄養・健康・ウェルネス」と再定義したネスレは、近年ヘルスケア関連企業との提携を進めているという。【象限②】では業界内でのコラボレーションが主であったが、【象限①】では異業種コラボレーションが成功のカギを握っている。

『視座を高める(『致知』2016年5月号)』


致知2016年5月号視座を高める 致知2016年5月号

致知出版社 2016-05


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 防衛やテロ対策、地域紛争処理、災害救助など、ペンタゴンのすべての任務は一歩間違えれば、尊い多くの人命をも巻き込みかねないものばかりです。そこにはただ1つ、「正解」という答えしかあってはならないのです。
(カイゾン・コーテ「ペンタゴンが教える心の鍛え方」)
 私は、アメリカ人というのはどんな分野でも正解は1つしかないと考えているように思える。ブログ本館の記事「『しなやかな交渉術(DHBR2016年5月号)』―「固定型」のアメリカ、「成長型」の日本、他」で述べたように、アメリカは「固定型」の文化である。アメリカ人は、生まれる前に唯一絶対の神から、この世で果たすべき使命を定められており、その使命を達成するのに必要な能力と知識を与えられた状態で生まれてくる。人生とは、その能力や知識が発露する過程である。

 アメリカ人は、成長するにつれて「これこそが私の使命だ」と思えるものにたどり着く。そして、その使命を果たすことを神と約束(契約)する。神の思惑と本人の意図が合致すれば、すなわち1つしかない正解にたどり着くことができれば、その人は大成功を収める。他方で、神が与えた正解に気づかず、間違った使命に向かって進む者は、惨めな人生を送る。たいていは、正解にたどり着くことができた一握りの人たちに搾取される。だから、アメリカでは深刻な経済格差が生じる。

 正解が1つしかない世界は、多くの日本人にとっては非常に息苦しく映るかもしれない。とりわけ、幼少期に受けた詰め込み教育の影響で、正解が1つしかないと聞くだけで、社会に出てからは役に立たないと思い込んでしまう。ただ、私は必ずしもそうではないと言いたい。同じように正解が1つしかなくても、歴史の問題と数学の問題は全くの別物である。そして、数学のような思考方法は、正解が1つしかない世界において非常に有効である。

 歴史の問題は、暗記した用語を回答すれば十分であるケースが多い。一方、数学の場合は、問題文に書かれた状況設定をじっくりと分析し、使えそうな定理や公式を組み合わせて論理的に計算を積み重ね、最終的に1つの解にたどり着く。この作法は、実世界においても何ら変わりがない。まず、神と本人が等しく抱く使命=あるべき世界の姿と、現実の世界の間のギャップを分析する。そして、そのギャップを埋めるために何をすべきか、様々な施策を設計する。施策間の因果関係を厳密に予測することで、正解に到達する可能性を高める。

 「正解が1つしかない数学など社会で役に立たない」と安易に批判する人は、自分が脆弱な論理しか構築できないことを隠して、都合のよい言い訳をしているにすぎない。そういう人は、大して成果を上げることができない(ブログ本館の記事「「必ず解がある数学は、解のない実世界には役立たない」という意見へのちょっとした反論(1)(2)」を参照)。

 アメリカという国家そのものが、自由、平等、基本的人権、民主主義、資本主義といった普遍的価値観=唯一の正解を信奉している。そして、アメリカにとっては、それを世界中に広めることこそが国家の使命である。だから、独裁国家の政権を転覆させて親米政権=民主主義政権を樹立したり、経済システムに介入して閉鎖的な市場を開放させたりする。その手口はほとんど標準化されている。

 一方で、アメリカはインテリジェンスに多大な投資をしている。これは、相手国の現状を深く理解し、アメリカが掲げる理想や標準からどのくらい乖離しているのか?その差を埋めるために何をすべきか?を見極めるためである。ただ、最近はアメリカのインテリジェンスが弱っているらしい。池上彰氏は、イラクが未だに不安定なのは、インテリジェンスが不十分だったからだと指摘する。イラクの現状をよく理解せずに、お仕着せの施策を展開したため、余計に混乱してしまったのだと言う。これはイラクに限らず、アメリカの中東政策全般に言えるかもしれない。

 正解が1つしかない世界は、成功か失敗か、そのどちらかしかない非常に厳しい世界であるかのようにも見える。ただ、冒頭の引用文で紹介したカイゾン・コーテ氏は、同じ記事の中で次のようにも述べている。
 北極でも砂漠でも、真面目で普段は完璧に任務をこなす優秀な部下が途端に全く機能しなくなることがあります。このような問題は人それぞれに条件も症状も異なり、すべて同じ方法で解決できるわけではありません。しかし、私はその解決方法に1つの共通点があることに気づきました。「自らの弱さを受容し、失敗を許す」ということである。
 正解は1つしかないが、失敗はしてもよいのである。具体的には、自分が正しいと思っていた使命が実は間違いだったと気づき、別の使命を設定し直してもよい。あるいは、使命そのものは正しいのだけれども、そこに至る道のりが間違っていたと気づき、途中で軌道修正してもよい。そういう失敗は許容されるし、失敗からの学習は本当の正解に近づくために不可欠である。

 冒頭で書いたブログ本館の参考記事では、ビジネスの世界でイノベーションを起こすには、神と正しい契約を結ぶ必要があると書いた。逆に言えば、神と正しい契約が結べるまでは、何度でも失敗してよい。だから、イノベーションを目指す企業は、社員の失敗に対して寛容にならなければならない。

『負けない知財戦略(『一橋ビジネスレビュー』2016年SPR.63巻4号)』


一橋ビジネスレビュー 2016年 SPR. 63巻4号―負けない知財戦略一橋ビジネスレビュー 2016年 SPR. 63巻4号―負けない知財戦略
一橋大学イノベーション研究センター

東洋経済新報社 2016-03-11

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 (1)荻野誠「日本型プロパテント戦略とJapanese Electronics Paradox」は、アメリカがマーケットリーディング型知財戦略で新しい市場を創出してきたのに、日本は高度経済成長期の成功体験にしがみついて、キャッチアップ型知財戦略ばかり行ってきたのが「失われた20年」の要因である、と分析している。

製品・サービスの4分類(修正)

 またまたこの図(※くどいようだが未完成)を使うことを許していただきたい。アメリカがマーケットリーディング型知財戦略に取り組んだのは左上の象限である。「日本もアメリカのようにこの象限に挑戦すべきだ」とよく言われるが、残念ながら日本は力不足だと私は思っている(というより、世界中を見渡しても、左上の象限のイノベーションを起こせるのはアメリカぐらいである。ここ30年のイノベーションのうち、アメリカ以外で生まれたものをどれだけ挙げられるだろうか?)。

 別の人は、「いやいや、日本企業も左上の象限に挑戦している。iPhoneには日本企業の部品がたくさん採用されているではないか?」と言う。だが、これが一番危険な発想である。アメリカは世界中にイノベーションを安く普及させるため、基本的には新興国の企業とタッグを組む。しかし、その関係は決して対等ではなく、アメリカ企業が新興国企業を使い倒す関係である。アップルは、日本企業を新興国企業と同程度に扱っていることを自覚しなければならない。そして、用が済んだら、日本企業はアップルにポイ捨てされるだろう。

 結局、日本企業は強みであるキャッチアップ型の戦略を捨てられない。日本企業は、左上の象限でアメリカ企業の下請に甘んじるのではなく、アメリカのイノベーション戦略をよく研究して、左上から左下や右下の象限に下りてくる可能性の高い製品・サービスを見極めることが必要だ(どんなイノベーションも最初は必需品ではないが、その中のいくつかは将来的に必需品となる)。左下の象限は低コストを武器とする新興国に任せ、高い品質管理が要求される右下の象限に日本企業は注力する。この象限なら、アメリカと互角かそれ以上に戦える。

 (2)ブログ本館や以前の記事「『FinTech(フィンテック)の正体/福島事故から5年 蠢く原発再編(『週刊ダイヤモンド』2016年3月12日号)』」などで、アメリカ企業は競合他社とあまり協力せず、競合他社を攻撃することに夢中になるのに対し、日本企業は業界団体を通じて競合他社とも積極的に交流し、時に競合他社と共同で製品・技術開発をする、と書いてきた。ただ、これはどうも一面的な見方であるような疑念が自分の中でどうしても拭いきれていない。

 アメリカでは日本ほど業界団体が協力ではないが、業界の会合は頻繁に開かれている。また、本号の原泰史、長岡貞男、高田直樹、河部秀男、大杉義征「特許を媒介とした知識・資源の組み合わせ」によれば、製薬会社同士が知的財産を上手く融通し合うことで新薬の開発を行っていることが報告されている。

 逆に日本に目を向けると、「競合他社憎し」の行動も少なくない。ある地域に飲食店を出したら、入り口の前に汚物が置かれていた、という話を聞いたことがある。また、先日、商店街支援をしている方から聞いたのだが、商店街の店主同士は仲が悪いことがある(理由を聞くと「小学校でいじめられたから嫌い」らしい)。商店街の足並みが揃わないので、その商店街のアーケードは、アーケードの設置に反対する店を回避するように構築されているという。

 日本の場合、競合他社に対するねちっこい憎悪よりも深刻なのが、異業種から参入してきた企業に対する嫌がらせであろう。水平的な協業を強調する私としては、異業種からの参入を学習の契機として、既存の業界が新製品・サービスの開発や経営のイノベーションに乗り出すのが日本の特徴であると言いたいところなのだが、どうも話はそんなに簡単ではない。

 原泰史氏らの論文で面白かったのは、アメリカ企業も市場の黎明期では競合他社と協調するものの、いざ市場が確立されると、急に競合他社を攻撃し始めるという”変節”を見せることである。デルは標準化団体VESAのメンバーとして、インテルのCPUを使ったPCにおけるローカル・パス規格の開発に参加し、規格策定作業中にその規格が同社の所有する知的財産権を侵害していないと宣言した。にもかかわらず、規格普及後にVESAのメンバーを特許侵害で訴えた。

 また、ラムバスはメモリー技術の標準化活動の場であるJEDECに参加していたが、JEDECは出願中の特許を宣言するルールを明文化していなかった。そのため、ラムバスのホールドアップ(規格が普及した後に、その規格中の特許の使用料を特許権者が請求すること)をめぐり、最高裁まで争うこととなった。こういう事案を見ると、競合他社との協力はポーズにすぎず、自社の都合を優先して競合他社を徹底的に叩くのがアメリカ企業の本性であるようにも感じる。

 (3)
 特許で自らの技術を守ってはいるわけですが、一般的にいって残念ながら、技術はまねされるものです。しかしながら、私のなかには、その時点で次のモデルの構想がありますから、常に一歩先を行く自信があります。あるとき、うちの社員がライバル会社に引き抜かれたことがありました。そのことがわかってすぐ、私たちはより高機能なモデルを投入しました。結局、こうした行為は無駄だということですね。
(中村勝重「ひたすら「よく見る」こと―これこそが、無から有を生み出すものづくりの原点」)
 三鷹光器株式会社の代表取締役社長・中村勝重氏のインタビューである。同社はロケットや衛星に搭載される宇宙観測機器、非接触三次元測定装置などの産業機器を製造しおり、またそれらの技術を応用して医療分野にも進出している。

 私のコンサルティング経歴など大したものではないが、ここ数年、様々な経営者とお話をさせていただいた中で気づいたことの1つが、業績の悪い企業ほど過去の特許侵害の被害を引きずっている、ということである。「昔、展示会に出展したら、○○という会社に真似された。あそこの△△というヤツは絶対に許さない」といった話を1時間でも2時間でもする(社長が自分の業務を止めて、時間も気にせずに話を続ける時点で、その社長の仕事ぶりも想像がつくというものだ)。

 逆に、業績が好調な企業は、特許侵害対策をしっかり考えても被害に遭うものの、それを決して引きずらない。引用文の三鷹光器のように、「他社が真似をしたのならば、我が社はもっといい製品を出せばよい」と前向きに考える。

 ただ、三鷹光器には1つ、大きな潜在的リスクが隠れている。それは、次の文章から読み取れる。中村勝重氏は今年で72歳になる。
 衛星やロケット関連で三鷹光器が手がけた18ほどのプロジェクトの、特に難しい可動部分はほとんど私が考えたといっても過言ではありません。それはどこにも負けない実績だと思っています。

『デザイン思考の進化(DHBR2016年4月号)』


ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2016年 04 月号 [雑誌] (デザイン思考の進化)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2016年 04 月号 [雑誌] (デザイン思考の進化)

ダイヤモンド社 2016-03-10

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 《参考記事(ブログ本館)》
 日本とアメリカの戦略比較試論(前半)(後半)
 『目標達成(DHBR2015年2月号)』―「条件をつけた計画」で計画の実行率を上げる、他
 『稲盛和夫の経営論(DHBR2015年9月号)』―「人間として何が正しいのか?」という判断軸
 森本あんり『反知性主義―アメリカが生んだ「熱病」の正体』―私のアメリカ企業戦略論は反知性主義で大体説明がついた、他

製品・サービスの4分類(修正)

 上記の参考記事で上図(※まだ改良の余地あり)を用い、アメリカ企業は左上の象限におけるイノベーションが、日本企業は右下の象限におけるマーケティングが得意であると書いてきた。イノベーションは世界中の市場を相手にするため需要予測が難しく、また異業種格闘技となり様々な競合他社が入り乱れる。その上、何がヒットするかは予想困難であるから、失敗と解ったら素早くその製品・サービスを市場から引き上げ、新たな製品・サービスを次々と投入しなければならない。DHBR2016年4月号には、次のような記述があった。
 しかしデザインというのは、なかなか予想通りにはいかない。ユーザー体験の向上がどれほど価値を生むのか、あるいは創造性への投資がどれほどリターンを生むのかを、計算によって知ることは不可能とは言わないまでも困難である。
(ジョン・コルコ「シンプルさと人間らしさをもたらすツール デザインの原理を組織に応用する」)
 どんなイノベーションでもそうだが、最初は非必需品としてスタートする。非必需品を顧客が受け入れる基準は、その製品・サービスが「好きか嫌いか」の1点である。すなわち、顧客は極めて感情的に振る舞う。したがって、イノベーターは顧客の”快”に訴えるプロモーションを展開する。ジョン・コルコの論文では、従来のバリュープロポジション(提供価値)は実用性を約束するのに対し、デザインを通じたバリュープロポジションは次のようなものになると述べている。
 デザインを理解している組織は、むしろ感情的な言語(願望、野心、愛着、経験などに関わる言葉)を使って製品やユーザーを説明する。チームメンバーは製品の要件や実用性と同じくらい、バリュープロポジションがユーザーの感情に共鳴するかについても検討する。(同上)
 イノベーターは、他の無数のイノベーションを押しのけて自社のイノベーションを顧客に受け入れてもらおうとする。よって、しばしばそのプロモーションは強引なものとなる(最近は、あるタレントのテレビへの露出が急激に増えると、視聴者は”ごり押し”だと反応する)。他者から”快”を押しつけられて”快”になびく人がいる一方で、強烈な”不快”反応を示す人もいる(だから、タレントのブログが”炎上”する)。逆説的だが、イノベーションは全世界への普及を狙っているにもかかわらず、プロモーションを進めるほどにファンとアンチが真っ二つに分かれる。

 本号において、ビジネスデザイナーの濱口秀司氏は、イノベーションの特徴の1つとして「議論を生む(賛成/反対)」を挙げている。
 全員が賛成あるいは反対するものはイノベーションではない。そのアイデアが大好きな人と大嫌いな人が戦う中から絞り込まれるのが、イノベーティブなアイデアの特徴である。
(濱口秀司「真のイノベーションを起こすために 「デザイン思考」を超えるデザイン思考」)
 ペプシコのインドラ・ヌーイCEOは本号のインタビューで、「優れたデザインの定義とは何か?」と尋ねられて、次のように回答している(なお、本インタビューの言葉を借りれば、ペプシコには「健康によい製品」もあるが、主力はコーラに代表されるような「食の喜びを与えてくれる製品」である。そして、「食の喜びを与えてくれる製品」は必ずしも必需品ではなく、上図の左上の象限に位置すると考える)。
 私にとってうまくデザインされた製品とは、消費者が惚れ込む製品、もしくは嫌悪感を抱く製品です。両極端かもしれませんが、何らかの生の反応を引き出すものでなければならないのです。
(インドラ・ヌーイ「【インタビュー】CEOが語るデザイン思考をもとにした企業変革 ペプシコ:戦略にユーザー体験を」)
 左上の象限には、一攫千金を狙って様々な売り手が参入してくる。しかし、どんなイノベーションがヒットするか解らない。売り手は、自分が売り手であるにもかかわらず、こちらがお金を払ってでも自分のイノベーションを買ってほしいと考えるようになる。そういう売り手と世界中の買い手を結びつけるのがプラットフォーム企業である。AppleやGoogleのスマートフォンアプリのプラットフォームや、Amazonの電子書籍のプラットフォームなどはまさにこれである。

 従来の小売業でも、売り手(メーカー)が買い手(小売店)に対してお金を支払うことはある。ただし、いわゆるリベートは法的に規制されていることが多い。一方、プラットフォーム企業は、公然と売り手からお金を徴収する。この点で、古典的なリベートとは全く性質が異なる。3Dプリンタに詳しいリチャード・ダベニーは、21世紀はこうしたプラットフォーム企業の時代になると予測する。
 高度にデジタル化された21世紀型の市場では、プラットフォームこそが最大の特徴である。(中略)1つのプラットフォーム上で、たえず変化する生産量は活発に調整され、設計図は保存されたうえに常時更新され、原材料の供給管理と購入が行われ、顧客からの注文を受け付けるようになる。そうなれば、システムの利用者全員がそのプラットフォームの存続に利害関係を持つようになる。
(リチャード・ダベニー「製造業を根本から変える 3Dプリンティング革命の衝撃」)
 私は、プラットフォーム企業は左上の象限に固有のものだと思っていた。だが、野心的な企業は、左下や右下の象限への進出も狙っているようである。

 最近の流行語(バズワード?)をつなぐと、こんな近未来が出現する。つまり、数年後にはGoogleなどがIoTで世界中のモノからデータを集め、ビッグデータ解析をして顧客のニーズを先読みし、世界中でネットワーク化された3Dプリンタ企業に対して、AIを通じて顧客が求める製品の製造命令を出し、物流は提携する世界中の物流業者の自動運転車とドローンにやらせ、提携先企業の中で資金需要が出てきたらFinTechで自動的に融資する、という未来である。
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プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、1,000字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
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所属組織など
◆個人事務所
 「シャイン経営研究所」◆ シャイン経営研究所ロゴ

(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長、および国際部員を務めています)

NPOビジネスサポート特定非営利活動法人NPOビジネスサポート
(監事を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)

Experian海外企業信用調査 海外企業信用調査(Experian)
(一緒にお仕事をさせていただいている「コンサルビューション株式会社」は、世界最大の信用調査会社Experianの正規代理店です)

中小企業診断士の安い通信講座なら「資格スクエア」資格スクエア
(以下の資格の講師をしています。
 ―ITパスポート
 ―情報セキュリティマネジメント
 ―経営学検定(初級・中級)
 ―中小企業診断士(企業経営理論、経営情報システム、中小企業経営・中小企業政策)
 谷藤友彦と株式会社サイトビジット代表取締役・鬼頭政人氏の対談動画(1)(2)(3)
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