A&R優秀人材の囲い込み戦略A&R優秀人材の囲い込み戦略
ウイリアム・マーサー社

東洋経済新報社 2001-08

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 本書で紹介されているA&R(Attraction and Retention:優秀人材の囲い込み)施策の一覧。

 ・給与、賞与、ストックオプション
 ・契約金・支度金(サイン・オン・ボーナス)
 ・退職金・年金改革
 ・紹介ボーナス(リファーラル・ボーナス)
 ・リテンション・ボーナス
 ・社内託児所
 ・キャリア女性のためのポジティブ・アクション
 ・キャリア女性のためのメンター・社内ネットワーク
 ・キャリア・パス・プランニング
 ・最先端の仕事
 ・社内フリー・エージェント制(キャリア・オプション)
 ・フリーランス契約(コントラクター)
 ・フレックス勤務、在宅勤務
 ・特別休暇
 ・シック・リーブ(私傷病休暇)
 ・教育環境(コーポレート・ユニバーシティ)
 ・インターネットMBAコース
 ・大学院への短期留学(エグゼクティブ・コース)
 ・学費返還制度
 ・インターンシップ
 ・部下による上司評価(多面評価)
 ・上司への教育
 ・レコグニション(認知)
 ・ポイント累積型カフェテリア・プラン
 ・企業文化の変革
 ・24時間電話カウンセリング
 ・ペット同伴
 ・社員割引価格での自社製品の提供
 ・私用・友人用メールアカウント
 ・コンシェルジュ・サービス
 ・社内マッサージ・サービス

 本書は2001年に出版されたやや古い本である。当時はまだソニーも元気があったので、本書にはソニーの事例がいくつか登場する。
 日本企業でもソニーなどはさすがというべきで、たとえば同社は2001年から従来形式の堅苦しい「入社式」を廃止し、代わってパーティー形式の「入社イベント」を行うことにした。ソニーの新入社員たちは東京臨海副都心のライブ・イベント会場で、出井会長や安藤社長をはじめとする経営陣と語らいながら楽しい時を一緒に過ごす。入社早々にこのような体験をした若者たちが、ソニーをどれだけ愛するか。ソニーで働くことにどれほどの喜びと誇りを感じるか。きっとワクワクする体験だったに違いない。
 ソニーでは、「新しいことを考えて、失敗した人」のほうが「失敗はしなかったが、新しいことも考えなかった人」よりも高い評価を受けるルールが形成されている。それが同社の「リスクを恐れずチャレンジする文化」を生んでいる。
 組織に縛られたくない、独立志向の強い人のなかにはユニークな発想ができたり型破りな行動力を持つ人材が時折いる。そういう人材を企業が獲得・活用するために、あえてフリーの契約社員という形で雇用するというのもひとつの方法だ。(中略)ソニーも1998年からIT技術者を対象に契約社員制度を導入しているし・・・(以下略)
 ソニーも2001年4月、東京本社近くに「ソニー・ユニバーシティ」を開設した。同社は海外グループ企業の管理職に外国人(主に現地人)を多数登用しているが、彼等を将来的に本社の主要ポストに据えることも視野に入れ、日本国内はもちろん、世界中から集まった幹部候補生を対象に教育・研修を行う。一度に500名を集め、2週間程度の研修を年に十数回実施する。授業はもちろん英語だ。実務教育にも力を入れるが、最も重視するのはソニーの企業DNA(遺伝子)の継承だという。
 最近よく使うこの図(まだ不完全だが)に照らし合わせると、ソニーは左上の「必需品ではない&製品・サービスの欠陥が顧客の生命に与えるリスクが小さい」という象限に属すると思う(PSPの大規模ネットワーク障害が起きても、「顧客の生命に与えるリスクが小さい」と言えるかどうかは議論の余地があるだろうが)。

製品・サービスの4分類

 《参考記事(ブログ本館)》
 『一流に学ぶハードワーク(DHBR2014年9月号)』―「失敗すると命にかかわる製品・サービス」とそうでない製品・サービスの戦略的違いについて
 『創造性VS生産性(DHBR2014年11月号)』―創造的な製品・サービスは、敢えて「非効率」や「不自由」を取り込んでみる

 日本企業が元来強いのは右下の象限である。この領域では、市場規模や顧客ニーズを正確に予測し、それに基づいて事業戦略・事業計画を立ててPDCAサイクルを着実に回すという、いわゆる一般的なマネジメントが通用する。

 一方で、左上の象限を得意とするのがアメリカ企業である。この領域は、顧客の好みや文化に大きく左右されるため、需要予測が難しく、流行り廃りが激しい。右下の象限とは異なり、顧客も自分が何を欲しているのかよく解っていない。

 そのため、作り手が強い想いやストーリーを込めた製品・サービスを市場に投入し、それに共感するファンを集めるという手順になる。別の言い方をすると、「私(企業側の開発者)自身が欲しいと思う製品・サービスを作ってみた。きっとあなた(市場・顧客)も気に入るはずだ」というマーケティングを展開することになる。しかも、何がヒットするか事前に予測できないから、企業としては次々と製品・サービスを投入して、市場の反応を見なければならない。

 果たして21世紀のソニーは、こういう経営ができていたのだろうか?ソニー凋落の要因については様々な人が色々と論じているのでここでは詳しく書かないが、私が1つ聞いた話では、EVA(Economic Value Added:経済的付加価値)の導入が、ソニーのイノベーション精神を蝕んだらしい。

 EVAでは、プロジェクトの開始前に将来的な収益を試算し、プロジェクトの取捨選択を行う。ところが、前述のように、左上の象限に属するソニーでは、プロジェクトがヒットするかどうかは「やってみないと解らない」のであって、それを事前に推測するのは困難である。EVAが上がらないからという理由で却下されたプロジェクトの中には、実は大変なお宝があったかもしれない。机上の計算だけで自分のアイデアが却下されてしまうのならば、技術者もやりがいを失うだろう。

 EVAはアメリカのスターンスチュアート社が提唱した概念(同社が商標登録している)であるが、「破壊的イノベーション」で知られるクレイトン・クリステンセンなどは、上記と同じような理由でEVAを批判している。