ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2015年 03 月号 [雑誌]ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2015年 03 月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2015-02-10

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 多くのサプライヤーが取る対応が、価格の引き下げである。だが実は、このやり方は購買担当マネジャーの仕事を増やすことになりかねない。多くの場合、他の最終候補にも再び声をかけて、彼らにも価格引き下げの機会を提供し、妥当な範囲に価格を再調整する必要があるからだ。

 そうして価格が無事に引き下げられた後、購買担当マネジャーは再度「さらなる何か」を求めることになる。これは不思議なことではない。可能な限り安価で購入することだけが目標であるなら、企業は購買担当マネジャーを置く必要があるだろうか。
(ジェームズ・C・アンダーソン、ジェームズ・A・ナルス、マルク・ウォータース「価格や性能は決め手にならない 法人営業で顧客に最後の最後で選ばれる方法」)
 非戦略的購買、すなわち、企業がそのサプライヤーの製品・サービスを購入しても、自社製品・サービスの競争力強化に直結するとは限らないものの購買に関する論文である。非戦略的購買に関しては、購買担当マネジャーもサプライヤーも、取引を効率的に進めたいと思い、値引きという安易な手段に出やすい。だが、一度価格を下げてしまうと、その価格が次回以降の取引の基準になる。

 私の知り合いで法人営業の研修をやっている人は、価格交渉の罠を避けるためには、商談の主導権を絶対に相手に渡さないことが重要であると言っていた。主導権を渡さないというのは、例えば以下のような行動の積み重ねである。

 ・次回の商談の日程を顧客側に設定させない。こちらから3つ程度の候補を示し、顧客に選択させる。顧客に設定させると、顧客の都合に振り回されてしまい、別の顧客の商談との関係で非効率な営業活動を強いられることになる。

 ・見積書は絶対にこちらから提示せず、顧客側からお願いさせる。「よろしければ見積書だけでも出させていただけないでしょうか?」は禁句である。これを言った瞬間、相手はこちら側の弱気を読み取って、価格交渉に持ち込んでくる。

 その上で、交渉のカードを増やすことが重要であるという話もしていた。言い換えれば、価格以外に妥協可能な選択肢をたくさん持っておく、ということである。具体的には、仕様、数量、納品場所、納期、支払方法、オプション品、サービスなど、価格以外の面で融通を図る。「価格はこれ以上下げられませんが、代わりに納期を2週間短くするのはいかがでしょうか?その分、御社は業務を早く開始できます」といった具合に、相手の注意を価格面から上手に逸らすとよい。
 ある大手害虫駆除会社の食品安全部門が、まさにこうした状況だった。(中略)やっかいなのは、古いリース期間が終了し、新しい契約に切り替わる移行期間に、その部門がリース料を二重に支払わなければならないことだった。これは当該部門の向こう3か月間の業績に悪影響を及ぼし、結果として、業務担当マネジャーのボーナスに響く。

 購買担当マネジャーは、最終候補リストのなかから、自社と特に良好な取引関係にある1社に目星をつけ、「どうすれば、このリース契約期間の重複と二重払いを避けられるだろうか」と持ちかけた。サプライヤーは、36か月払いを33か月払いに統合して、新規リースの支払いを3か月遅らせることを提案してきた。

 その場合、実際に支払う総額は同じだが、同時に2枚の請求書が来ることは避けられ、業務担当マネジャーはボーナスを手にすることができる。
 こういう一工夫で、価格交渉を回避し、受注につなげることができるのである。