正論2018年8月号 (在韓米軍撤退の現実味)正論2018年8月号 (在韓米軍撤退の現実味)

日本工業新聞社 2018-06-30

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 7月に岐阜の実家で3週間ほど静養して、久しぶりにTVで昼のワイドショーを観たところ、『バイキング』が日大アメフト問題を未だに毎日のように取り上げているのを見てうんざりした。出演者が「これは日大のガバナンスの問題だ」と連呼するのだが、彼らが「ガバナンス」という言葉の意味を正しく理解しているのかはなはだ不明である。相手チームの選手に負傷を負わせる反則を指示するような内田正人という人間を監督に選任し、その人事の妥当性を事後的にモニタリングする仕組みを欠いていたという意味でガバナンスの問題なのか、それとも内田前監督が日大では強大な人事権を持つ元理事で、彼によって下された人事的な判断が実は日大を運営する上で数々の重大な問題を引き起こしており、それを見過ごしていたという意味でガバナンスの問題なのかが判然としない。

 第一、例えば企業の社員が痴漢や横領で逮捕されたとしても、そういう社員を採用してしまった企業側のガバナンスに問題があると報道するTVはないだろう。日大に限って、たった1試合のあの反則プレーの一件をもって、それを大学全体のガバナンスなどという仰々しい問題に格上げするのは、TVによる偏向的で執拗ないじめと言っても過言ではない。

 TVが報道するべきニュースは他にも山ほどあるのに、こんなしょうもない問題でいつまでも遊んでいるのは、どうやら『正論』の本号で紹介されていた「番組考査」という制度に原因がありそうである(上念司「テレビ局の”番組考査” 笑える実態」)。これは、テレビ局が放送前に、番組制作サイドが作った台本や出演者の発言などについて、放送倫理上問題がないかチェックし、場合によっては削除などの改善を行う制度である。番組の内容の倫理性を検証する制度としては、第三者機関のBPOが存在するが、テレビ局も独自にチェックを行っているというわけだ。だが、その番組考査はあまりに神経質であり、TVは報道すべきニュースを過度に自粛している。その結果、代わりにしょうもない報道が増える。

 DHCテレビが制作し、TOKYO MXが放送した「ニュース女子」は、昨年1月に、沖縄の反米軍基地運動について事実に反する報道を行ったとして、BPOから大目玉を食らった。上念氏によると、それ以降、MXテレビによる番組考査が厳しくなったという。例えば、上念氏が番組の中で「駅前でギャンブル場」と発言したところ、MXテレビ側は「パチンコと想起でき、また法律上は賭博(ギャンブル)ではないので削除ください」とDHCテレビに要求した。確かに、法律上はパチンコはギャンブルではない。しかし、ギャンブル依存症と言う場合のギャンブルにはパチンコも含まれているのだから、上念氏の発言は明らかな事実誤認とは言えない。上念氏は、パチンコ業界を経営しているのは朝鮮系の人たちが多いため、MXテレビ側は民族差別問題にならないか気にしたのかもしれないと考えている。

 さらに、南シナ海の岩礁埋め立てを行い、軍事基地化を進めている中国が、国際仲裁裁判所の違法判断を無視している問題で、「習近平は無視して」と国家主席に呼称をつけずに批判したところ、これも番組考査の対象となった。MXテレビ側は削除を求め、その根拠として、民放連放送基準の(2)「個人・団体の名誉を傷つけるような取り扱いはしない」、(9)「国際親善を害するおそれのある問題は、その取り扱いに注意する」、(84)「企画や演出、司会者の言動などで、出演者や視聴者に対し、礼を失したり、不快な感じを与えてはならない」に抵触すると言ってきた。これは中国に対して過剰なまでに遠慮している証拠である(ちなみに、礼を失してはいけない対象は出演者や視聴者となっており、習近平国家出席は対象外であるから、MXテレビの指摘はおかしい)。

 作家の百田尚樹氏も番組考査の犠牲になった。竹島について「竹島もずっと取られたまま」と発言した部分も番組考査の対象になった。MXテレビ側は、「竹島は日本の領土です。事実誤認だからカットしてください」と指摘した。しかし、百田氏は竹島が日本固有の領土なのに、「ずっと取られたまま」、つまり韓国によってずっと不法占拠されているという、政府見解と合致する事実を改めて指摘したにすぎない。ここでも、韓国に対する過剰な遠慮が見られる。

 この程度の発言でカットされてしまうのならば、私などはとてもテレビに出演できない(もっとも、そんなオファーが来る確率は限りなく低いが)。ブログ本館でも書いたように、北朝鮮が核兵器を開発したのは、単に体制を維持するためだけではない。体制を維持したければ、わざわざ核兵器などという危険な道具でアメリカを刺激する必要がない。周知の通り、朝鮮戦争は終結しておらず、未だ停戦状態のままである。北朝鮮の最終目標は、朝鮮半島を社会主義国家として統一することにある。北朝鮮が韓国に攻め入った時、韓国の同盟国であるアメリカが北朝鮮を核兵器で攻撃しないよう、アメリカを牽制するために核兵器を開発した。

 そして、一度核兵器が完成してしまえば、今度はそれを外交カードとして使い、「核兵器を放棄してほしければ、アメリカは韓国から出ていけ」と迫ることができる。韓国からアメリカさえいなくなれば、北朝鮮が韓国を統一するのはたやすい。北朝鮮は、日本人が思っているよりもずっとクレバーな国である。こんなことを私がTVで発言しようものなら、「朝鮮総連から文句が出るので止めてくれ」と言われて、一発でカットされるだろう。

 甚大な被害を出した西日本豪雨が発生した後、政府は豪雨被害者の救済を議論せず、統合型リゾート(IR)実施法の成立を目指していた。これはやや語弊がある書き方だが、安倍内閣にとっては、豪雨被害者の救済に積極的に乗り出すことは、「モリカケ問題」でじりじりと下がっていた内閣支持率を引き上げる絶好のチャンスだったはずだ。それなのに、安倍首相がそれをしなかったのには、裏があると考えるのが自然である。その裏とは、ずばりアメリカからの圧力である。

 日本にカジノができれば、アメリカ企業が進出してくる。問題は、そのアメリカ企業がユダヤ系であることである。例えば、ラスベガス・サンズ会長兼CEOのシェルドン・アデルソンはユダヤ系である。ユダヤ系アメリカ企業の利益は、必然的にイスラエルに流れる。イスラエルはその利益を軍事に投資するだろう。核兵器の開発にも投入されるかもしれない。その結果、中東の問題はさらに混迷を極める恐れがある。考えが浅い日本の政治家はカジノの経済効果にしか注目しないが、経済の上には政治が乗っかっていることを忘れてはならない。この法律は、日本が中東問題の泥沼化に手を貸してしまう可能性のある危険な法律なのである。だから、TVは政治音痴の日本の政治家と、アメリカそしてイスラエルに対してもっと批判的にならなければならなかった。ところが、TVにはそれができない。こんな発言も、一発で番組考査に引っかかるに違いない。

 メディアたるTVは、権力を監視する権力の番人である。監視の対象となる権力には、日本政府はもちろんのこと、外国の権力も含まれる。ところが、日本のTVは番組考査という制度のせいで内弁慶になっている。日本政府のことはそれなりに批判するのに(もっとも、その批判も「モリカケ問題」に代表されるようにピントがずれている)、外国の権力と対峙すると、途端に権力の犬に成り下がる。日本人は生来的に外国人に対して恐れを抱いているという心理が影響しているのかもしれないが、それにしてもTVの外国権力回避は目に余る。健全な批判のないところに監視は成立しないし、まして本当の意味での信頼も構築されない。TVが外国の権力の言いなりになっているということは、彼らが日本を植民地化しようとしているのに手を貸しているようなものであり、売国行為に他ならない。