こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント・トレーナー)のブログ別館。1,500字程度の読書記録の集まり。

キャリア開発

佐藤厚『ホワイトカラーの世界―仕事とキャリアのスペクトラム』―PDCAサイクルからGDSA(Goal⇒Do⇒Support⇒Assess)サイクルへ


ホワイトカラーの世界―仕事とキャリアのスペクトラム (日本労働研究機構研究双書)ホワイトカラーの世界―仕事とキャリアのスペクトラム (日本労働研究機構研究双書)
佐藤 厚

日本労働研究機構 2001-03-01

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 ホワイトカラーの仕事の実態とキャリアを調査した1冊。タイトルに「スペクトラム」という言葉が入っているように、ホワイトカラーの仕事の多様性に着目している。だが、この本も章によって使われるフレームワークが変更されるため、非常に理解しにくい1冊であった(以前の記事「清家彰敏『顧客組織化のビジネスモデル―小規模事業集団の経営』―「『顧客を組織化する』とはこういうことではないか?」という4形態」でも似たような問題を指摘した)。著者に言わせれば、ホワイトカラーは多様なのだから、分析するフレームワークも多様であってしかるべきだということなのだろう。だが、多様性をありのままに記述するのはジャーナリストの仕事であって、研究者の仕事とは、多様性の背後にある本質的な共通点を見出し、他のカテゴリーに援用可能なヒントを提供することではないかと思う。

 まず、著者はホワイトカラーを①管理職、②専門・技術職、③創造的事務職、④定型的事務職の4つに分類する。創造的事務職とは、主に人事や経営企画部門において、新しい分野(製品・サービス、業態など)を開拓する仕事、複数のテーマが与えられる仕事、プロジェクトチームなど動態的な組織で動く仕事、取引先や他の部署と連携を取る必要がある仕事などに従事する事務職のことを指している。専門・技術職は、異動はするもののキャリアの初期段階から特定の職種に就くことが多いのに対し、創造的事務職は他の職種を経験する異動を繰り返しながら、ある時期から特定の職種に絞られることが多いと指摘されている。

 本書では、専門・技術職として、テレビ局番組制作業務や新聞記者の事例が取り上げられている点が興味深い(ちなみに、以前の記事「川喜多喬、小玉小百合『実証研究 優れた人材のキャリア形成とその支援』―私は修羅場を乗り越えられなかった経験を活かして顧客企業の心に寄り添えるコンサルタントになりたい」で取り上げた書籍では、デザイナーやアナウンサーのキャリアが研究されていた)。創造的事務職に関しては、大企業事務系ホワイトカラーと自動車ディーラーの営業職の比較がなされている。終盤では、中小企業にフォーカスを当て、主にサービス業のホワイトカラーに関する考察を行っている。

 ここからが私の問題意識。まず、ホワイトカラーを前述のように4タイプに分けておきながら、実は管理職と定型的事務職については研究結果が一切記載されていない。この点で、「スペクトラム」はかなりの片手落ちになっていると言わざるを得ない。私なりにホワイトカラーを分類すると図1のようになる。

 ○図1
ホワイトカラーの4分類

 「創造性を発揮する余地が大きいか否か?」と「管理職か否か?」という2つの軸でマトリクスを作り、4つのタイプに分類している。<象限①>は非管理職であり創造性を発揮する余地が小さい仕事に就いている人であるから、本書で言うところの定型的事務職に該当する。<象限②>は創造性を発揮する余地が大きい非管理職であり、本書で言うところの創造的事務職にあたる。

 <象限③>は創造性を発揮する余地が小さい管理職を指している。<象限③>はさらに、部下が創造的な仕事をしているか否かによって2つのタイプに分けることができる。上司も部下も定型的な業務を行っているケースは解りやすい。上司は定型的な業務を行っているが、部下は創造的な業務を行っている例としては、IT導入プロジェクトなどにおいて、管理職がプロジェクトマネジメントの定型業務を担当しているようなケースが考えられる。

 <象限④>は創造性を発揮する余地が大きい管理職であり、これもまた、部下が創造的な仕事をしているか否かによって2つに分かれる。上司も部下も創造的な業務を行っているケースは解りやすい。上司は創造的な業務を行っているが、部下は定型的な業務を行っている例としては、人事部長が人材戦略を立案し採用計画を立てて、部下がその計画に従って採用業務を行うケースがある。

 本書ではホワイトカラーのキャリアの分析にあたって、異動や転職の回数に着目している。前述の通り、創造的事務職は他の職種を経験する異動を繰り返しながら、ある時期から特定の職種に絞られることが多い。確かに、大企業事務系ホワイトカラーを分析した章ではこの点が確認されている。一方、自動車ディーラーの営業職を分析した章では、「人材調達が内部労働市場によるか外部労働市場によるか?」、「異動が多いか否か?」という2軸からなるマトリクスが新たに登場し、ディーラーの営業職は内部労働市場によって調達されるが、異動が少ないという結果が導かれている。これは先ほどの創造的事務職の特徴と矛盾する。

 終盤の中小サービス業のホワイトカラーの章では、「転職回数が多いか否か?」という軸に加えて、新たに「資格を保有しているか否か?」という軸が登場し、また新しいマトリクスが作成される。だが、中小企業についてのみ資格の有無を問題にする理由が不明であり、この点が本書の理解を難しくしている。

 ○図2
外的キャリアを見る視点

 私なら図2のように、「異動が多いか否か?」、「職種変更が多いか否か?」、「転職が多いか否か?」という3軸で8パターンのキャリアを想定し、図1のホワイトカラーの4タイプ(厳密には6タイプ)のそれぞれについて、どのようなキャリアのパターンが多いのかをあぶり出そうとするだろう。そして、例えば<象限②>の創造的事務職の中に複数のキャリアのパターンが認められる場合には、図1を修正して、ホワイトカラーのカテゴライズを見直すと思う。

 本書には管理職についての分析がないものの、著者は、ホワイトカラーの時間管理が弾力化されるに従って、管理職の役割はいよいよ重要になると主張している。今年の国会では「働き方改革」と銘打って裁量労働制の適用拡大が試みられたが、私は裁量労働制を導入したからと言って時間管理をしなくてもよいという考え方には反対である。管理職の仕事の1つは、部下の仕事の生産性をチェックすることである。そして、ホワイトカラーの生産性は、「アウトプット÷労働時間」で算出される。裁量労働制の導入で時間管理をしないということは、管理職はマネジメント業務を放棄したに等しい。これは明らかに愚策である。

 管理職の仕事に関してもう1つ言うならば、部下の裁量が大きくなるに従って、伝統的なPDCAサイクルを見直す必要があるということである。従来は上司が詳細な計画を立て(Plan)、それを部下が忠実に実行する(Do)ように要求していた。そして、部下の仕事に問題がないかを確認し(Check)、改善が必要な場合は必要な措置を取る(Action)というのが今までのPDCAサイクルであった。

 だが、部下の裁量が大きくなると、管理職が詳細な計画を示すことは難しくなる。管理職が部下に示すことができるのは目標(Goal)にとどまる。その目標をどのように達成するかは部下の裁量に委ねられる(Do。もちろん、企業として守るべきルールや価値観、行動規範には従わなければならない)。計画の詳細を知っている管理職ならば、部下が計画から逸脱した場合には即座にチェックを入れることができた。だが、部下に大きな裁量がある場合、管理職にできるのは部下の目標達成を支援(Support)することである。ドラッカー流に言えば、「あなたが目標を達成する上で、管理職である私に何かできることはないか?/管理職である私が阻害要因になっていることはないか?」と部下に尋ねることである。

 部下が仕事を完了したら、管理職は部下の仕事を評価(Assess)する。Assessとは価値を評価するという意味である。部下の仕事の価値、自社にとっての意義を評価するとともに、部下本人の人材価値を評価する。具体的には、部下がどんな能力を伸ばすことができたか、一方でまだ課題がある能力は何かといった点をめぐって、管理職と部下が対話を行う。このように見ていくと、従来のPDCAサイクルは、GDSA(Goal⇒Do⇒Support⇒Assess)へと修正されるだろう。

 最後にもう1点。本書では異動や転職に注目しており、キャリアの外的側面にフォーカスしていると言える。だが、キャリアには内的側面もある。そして、通常、キャリア開発と言う場合には、組織の視点に立った外的キャリアよりも、個人の視点に立った内的キャリアの方が重要な意味を持つ。なぜならば、結局のところ、キャリアとは働く個人本人の心理的課題であるからだ。内的キャリアを定義することは非常に難しいが、私なりに暫定的に定義すると次のようになる。
 まず、一見バラバラに見える、仕事を中心とした過去の様々な経験について、上司、同僚、部下、その他企業や組織の関係者、さらには友人、家族など多様な人物を登場させつつ、自分なりに意味づけをすることによって筋の通った1つの物語を編纂し、自分は何者なのか(自分はどんな価値観を大切にしているのか、自分には何ができるのか、自分は何をしたいのか)という自己認識を持つこと。

 その上で、企業や組織を取り巻く環境の変化を把握し、周囲から中期的に期待されている役割を理解するとともに、個人的な問題や家族の問題との葛藤が生じた時、そこに自己認識の物語を照射し、納得のいく意思決定を下して、仕事を中心とする人生の中期的なビジョンを構想すること。
 「ホワイトカラーがどのようにして内的キャリアを開発しているのか?」といった点が、今後の重要な研究課題になると思われる。

川喜多喬、小玉小百合『実証研究 優れた人材のキャリア形成とその支援』―私は修羅場を乗り越えられなかった経験を活かして顧客企業の心に寄り添えるコンサルタントになりたい


実証研究 優れた人材のキャリア形成とその支援実証研究 優れた人材のキャリア形成とその支援
川喜多 喬

ナカニシヤ出版 2008-04

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 大企業の経営層人材および経営幹部候補のみならず、デザイナーやアナウンサーのキャリア開発にも着目したユニークな1冊である。それぞれの章ではまず仮説が提示され、それを検証するためのインタビュー調査が記載されて、最後に支持された仮説と、当初の仮説にはなかったが調査の結果明らかになったことが整然と整理されており、非常に読みやすい。

 海外にも幅広く事業展開しているエレクトロニクス企業における経営層人材に着目した章では、彼らの多くが30代前半で海外赴任を含む1回目の修羅場を経験したとされている(2回目は40代~50代で、より上のポジションに立って海外赴任をしたケースが多い)。上司からは突き放されてしまい(彼らはそんな上司を冷静に観察し、反面教師にしている)、上司以外の第三者から助言や支援を受けながら修羅場をくぐり抜けたことが明らかになっている。

 私も前職の組織・人事コンサルティング&教育研修のベンチャー企業に在籍していた20代後半に修羅場を経験した(詳しくはブログ本館の記事「【ベンチャー失敗の教訓(全50回)】記事一覧」を参照)。だが、私の場合はその修羅場を乗り越えられなかった。それから、海外勤務をしないまま29歳で独立したのもよくなかったと後悔している。独立後に海外事業のコンサルティングに携わらせてもらったことが何度かあるが、海外経験のない私は、国内でできるデスクワークに仕事が限定されてしまった(ただ、海外での仕事はまだチャンスがあるかもしれない)。

 ここ2年はオンライン資格学校の講師を務めたが、ここでもまた1つ修羅場があった(事の顛末はブログ本館の記事「『致知』2018年4月号『本気 本腰 本物』―「悪い顧客につかまって900万円の損失を出した」ことを「赦す」という話」を参照)。そして、またしても私はこの修羅場を乗り越えることができなかった。

 この10年を振り返ってみると、この2つの大きな挫折を中心に失敗ばかりで、コンサルティングでもなかなか思うような成果が上げられないことの方が多かったように思う。双極性障害という精神疾患による入院も3回経験している。私よりはるかに稼いでいる中小企業診断士の先生は、例えば「営業成約率が○○%向上した」、「Webでの売上が○○倍になった」といった定量的な成果をいくつもお持ちだが、私にはそういうのがほとんどない(人事領域という、成果が数字に表れにくい分野を専門にしていることの宿命なのかもしれない。ただそれでも、例えば「社員満足度が前年に比べて○○ポイント向上した」、「離職率が○○ポイント改善した」などの成果は上げたいところである)。

 だが、本書の最後には、私にとって一縷の希望となる文章があった。IBMにおける企業内キャリアカウンセリングに関する章の中の文章である。
 企業内キャリアカウンセラーが当該企業の組織風土の中で育ち、さまざまな修羅場を経験し、挫折を克服してきたという「キャリア」そのものが、従業員であるクライアントの悩みを共有し、不安を克服する意欲を醸成し、困難に立ち向かう行動を起こさせる源となるのである。(※太字下線は筆者)
 キャリアカウンセラーとコンサルタントを同列に並べることは乱暴かもしれないが、これを読んで「挫折してもいいのだ」と思った。ただ、挫折をいつまでも引きずるのではなく、そこから何を学んだかが重要になるだろう。その教訓は前掲のリンク先記事である程度まとめたつもりである(記事を書くことで心の傷を癒すのも目的であった)。グローバル企業で海外勤務をし、修羅場を乗り越えた成功体験を持つ経営層人材を相手にしたコンサルティングは、海外経験もなく、修羅場で挫折した自分には無理だと感じている。そういう企業のコンサルティングは、マッキンゼーやボストン・コンサルティング・グループなどに任せておけばよい。

 そのような”強烈な”経営幹部がいる企業は、世の中からすればごく一部だと思う。こういう言い方をすると語弊があるかもしれないが、大半の企業の経営者は、普通に仕事をし、普通に失敗をし、普通に苦しんでいる。私は修羅場で挫折した経験を活かして、経営者の心の傷をさすり、経営者の気持ちに寄り添い、失敗してもいいのだと言えるコンサルタントになりたい。前述のように私は双極性障害を患っているので、「心が壊れる」という現象がどういうものかも解っているつもりである。失敗に伴う気持ちの浮き沈みに対してどのように向き合えばよいのか、そういった点にも理解のあるコンサルタントでありたい。そういうコンサルタントになることができれば、マッキンゼーなどのコンサルタントとは一味違った、差別化されたポジショニングを確立することができるように思える。

沼波正太郎『40歳からのキャリア戦略―図解 あなたの「不安」を展望に変える!』―「転職は危険」と言っておきながら転職を勧めている


40歳からのキャリア戦略―図解 あなたの「不安」を展望に変える!40歳からのキャリア戦略―図解 あなたの「不安」を展望に変える!
沼波 正太郎

新水社 2005-07

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 この本も昨日の記事「楠山精彦『40歳からのキャリアチェンジ―中高年のための求職・転職術』―職務経歴書に「確約」を書く点が斬新」で取り上げた書籍と同様、私が前職の教育研修&経営コンサルティング会社にいた10年ほど前に、ミドル(40代)向けのキャリア研修を開発しようという話になって、ミドルのキャリア開発とはどういうものかを勉強するために買った本である。

 本書は3つの点で矛盾を抱えている。まず、
 これといって「売り」のない一般の求職者の方たちに対して、「もう、何がなんでもという正社員願望は、捨てたほうがいいですよ」と、私はいつも言っています。特に35歳を超えると、求人は一気に激減します。「正社員にこだわればこだわるほど、再就職は難しくなる」という市場原理が働きます。
と言っておきながら、市場価値力=転職・再就職力を磨けとアドバイスしている点がおかしい。特に、40代になったら、人生を一旦リセットして(著者によれば、女性の方がリセット願望が強いらしい)、新しい仕事を探すことを勧めている。

 だが、別の箇所では、
 私の友人に、市場価値測定研究所を主宰している藤田聰さんという人がいます。『あなたの市場価値教えます』(祥伝社刊)などの本も出して、すべてのビジネスパーソンに共通のコアスキルを測定するプログラムを提案していますが、彼によりますと「業種や職種に関係なく、現在の年収を超える市場価値を持った人は、1割にも満たない」そうです。そのくらい「市場価値力」という「売り」を身に付けるのは厳しいことなのです。
とも述べている。つまり、ビジネスパーソンの年収というのは、本人の市場価値に、勤め先企業のネームバリューが加わってかさ上げされている。転職をすれば、せっかくのネームバリューを手放さなければならない。中高年で転職する際、多くの場合において年収がダウンするのはこのためである。だとすればなおさら、40代になってから転職しようと考えるのではなく、まずは今の勤め先でいかにキャリア開発をするべきかという視点が必要であるように思える。

 2つ目は、キャリアビジョンの描き方についてである。本書も他のキャリア開発関連の書籍と同様、まずは自分の価値観と強みを再確認して、キャリアビジョンを描くというステップを踏んでいる。ところが、本書で紹介されているどの事例を読んでも、価値観・強みとキャリアビジョンの内容が上手く結びついていない。価値観や強みは一応分析するものの、最終的には本人の「これをやりたい」という願望が先行しているように感じる。マーケティングの言葉を借りれば、これはプロダクトアウト的な発想であり、企業や業界が現在あるいは将来的にどのような人材を求めているのかをとらえるというマーケットインの発想が欠けている。

 正直に言って、40代にもなって「これをやりたい」という夢を追いかけているようでは、人生を甘く見ている。本書の事例に登場するどの人も、「何だかふわふわした人生だ」という印象が否めない。40代にもなれば、社会という大きな枠組みの中で、それなりの重責を期待される年齢である。社会からの期待を受け止めて、それに自分の価値観や強みをどうあてはめていくのか、価値観や強みを活用しながらどうやって期待を超える成果を上げるのかを考えなければならない。

 本書では、孔子の「四十にして天命を知る」という言葉が紹介されている。ただ、孔子が生きた時代は人生50年の時代であり、現在は人生80年の時代であるから、40歳×80/50=64歳で天命を知れば十分だとも書かれている。だから著者は、40代ではまだ自分の夢を追いかけていてもよいと考えたのかもしれない。しかし、孔子は72歳まで長生きし、「七十にして矩を超えず」という言葉を残している。よって、「四十にして天命を知る」という言葉は、額面通りに受け取るべきであろう。せいぜい、40歳×80/70=45歳までには天命を知っておきたいものだ。

 3つ目は、次の部分である。
 「最後まであきらめないこと」です。最後まであきらめず、「必ず、夢・ビジョンを実現するぞ」という強い信念を持って、取り組みを継続できる人こそが、「天職」にめぐりあえ、充実した人生を送れるのだと信じています。
 この「頑張れば必ず報われる」という信仰は、未だに日本人の中に根強く残っている。これは、高度経済成長期の遺産である。現代は、企業の寿命が30年ほどに縮み、新規事業の成功確率は10分の1とも100分の1とも言われる時代である。長く努力を続ければ必ず成功するとは限らないのである。こういう時代に必要なキャリア観とは、引用文のようなものではなく、金井壽宏氏(神戸大学大学院経営学研究科教授)が唱える「キャリア・ドリフト」である。つまり、人生の節目ごとに大まかなキャリアビジョンは描くものの、後は時間と環境の変化に身を委ねて、ビジョンを柔軟に変更するという姿勢である。引用文のような硬直的なビジョンにとらわれず、「レジリエンス(再起力)」を鍛えることが重要である。

 ただし、ブログ本館の記事「DHBR2018年2月号『課題設定の力』―「それは本当の課題なのか?」、「それは解決するに値する課題なのか?」、他」でも書いたように、将来の人口ピラミッドを前提として、日本の伝統的な階層組織を維持するならば、20代を底辺とし、60代を頂点とする従来型の組織に加え、40代を底辺とし、70代~80代を頂点とする新しい組織が必要になると私は予測する。これは、厚生労働省が最近打ち出している「人生100年時代構想」とも合致する。

 従来型の組織では、40代になるとポストが不足し、多くの人がそれ以上昇進できなくなる。そのため、新しいタイプの組織を自ら起業するか、新しいタイプの組織に転職するという選択肢を取らなければならない。40代のキャリア開発とは、第一義的にはその企業の中でどのようなキャリアを構築するかを検討するが、合わせて新しいタイプの組織への移行をも視野に入れる必要がある。

 その意味では、本書が40代の転職や起業を勧めている点は一応正しい。とはいえ、「何となく人生をリセットして自分のやりたいことをやる」というぼんやりした見通しではなく、自分は今の企業に残るべきか、外に出るべきか?自分は社会からどのような役割を求められているのか?自分はどうすれば社会に対し十分な貢献をすることができるか?を厳しく問うものでなければならない。

楠山精彦『40歳からのキャリアチェンジ―中高年のための求職・転職術』―職務経歴書に「確約」を書く点が斬新


40歳からのキャリアチェンジ―中高年のための求職・転職術40歳からのキャリアチェンジ―中高年のための求職・転職術
楠山 精彦

日本経団連出版 2005-03-01

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 私が前職の教育研修&経営コンサルティング会社にいた10年ほど前に、ミドル(40代)向けのキャリア研修を開発しようという話になって、ミドルのキャリア開発とはどういうものかを勉強するために買った本である。結局、ミドル向けキャリア研修は開発せず、この本もずっと本棚に眠ったままであったのだが、私自身が40歳に近づいてきたこともあって、自分事としてこの本を読んでみることにした。

 本書のユニークな点は2つある。1つ目は、転職サイトなどの求人情報(これを著者は「顕在市場」と呼ぶ)に注目するのではなく、求人情報を出していない企業(これを著者は「潜在市場」と呼ぶ)に直接アプローチするという点である。いくら労働力不足で売り手市場になっているとはいえ、中高年の転職市場に限定すれば、依然として求人情報は限られており、そこで勝負するとレッドオーシャンに巻き込まれる。そうではなく、潜在市場の中にいる企業に対して、「この人材は我が社の即戦力として使えそうだ」と思わせることができれば、激しい競争に巻き込まれずに済むというわけである。

 ただし、求人情報を出していない=人材が必要だとは思っていない企業に対して、自分が必要不可欠な人材だと納得させるためには、それだけの材料が必要である。2つ目のポイントとして、著者は職務経歴書を書く際に、単にこれまでの職歴をつらつらと並べるだけではなく、自分がその企業に転職したらどのような成果を上げることができるのかを「確約(目標)」として書くとよいと述べている。確約の書き方は、例えばこんな具合である。
 学卒後の通算29年の業務体験を通して研鑽蓄積した物流業務全般のプロフェショナルとして、貴社において以下の項目を達成、実現することにより、業績伸長に必ず貢献することをお約束いたします。
 (1)貴社の物流品質の抜本的な向上対策を策定し、推進展開することにより、貴社製品のトータルなイメージアップをはかります。
 (2)確立した独自の物流ノウハウを駆使して異業種との共配プランを策定することにより、貴社の運送経費の大幅な削減(削減目標年間1億円)をはかります。
 (3)貴社の支店、営業所、倉庫に独自の物流管理システムを導入し、大幅な人件費、事務諸経費の削減(削減目標年間2000万円)をはかります。
 多くのキャリア開発の研修や書籍では、まず自分の価値観を見つめ直し、これまでの職務経験から自分の強みを発見して、その価値観と強みを活かして何がしたいかというキャリアビジョンを描くのが一般的である。ただ、このやり方ではややもすると自分勝手なキャリアビジョンになりがちで、労働市場における需要サイドを見ていないという欠点がある。その点、本書の方法は、需要サイドも分析し、自分がこれから応募しようとする企業がどのような人材を必要としているのか、自分はその人材像にあてはまるのかを問うている点で優れていると言える。

 欲を言えば、その需要サイドの分析方法についてもう少し詳しい解説がほしいところであった。転職が決まった後に、
 会社の経営理念、経営方針、事業内容、会社経歴、取り扱い商品などに加え、できれば業界事情、業界動向、取引関係、そして人事制度、組織構成、人間関係などにまで精通すべきです。
とは書かれているが、これらの情報はできるだけ転職活動時に入手すべきであろう。HPから企業理念、企業概要、事業計画、事業内容、製品・サービスの内容、決算書などの情報を入手し、新聞や雑誌でその企業が取り上げられているページを切り抜き、時には多少お金をかけてでも信用調査会社から調査レポートを購入して、これらの情報を基に、応募しようとしている企業がどのような経営・業務課題を抱えているかを推測する方法が紹介されているとなおよかった。
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プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都豊島区を拠点に、東京23区で活動する中小企業診断士(コンサルタント・トレーナー)。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、1,500字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
所属組織など
◆個人事務所
 「シャイン経営研究所」◆ シャイン経営研究所ロゴ

(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)
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