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ダイヤモンド社 2015-01-05

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 (1)スイスはデフレ下でも経済成長しているらしい。2014年7~9月期の実質GDPは2.7%の伸びを示したという。日本が同時期にマイナス成長となったのとは対照的である。
 最大の違いは、人口増加にあると思われる。特に生産年齢人口(15~64歳)の差は顕著だ。国連推計では、スイスは1990年から40年までの50年間で36%増加する(日本は28%減少)。現役世代がそれだけ増加すれば住宅需要は常に強く所費も底堅い。

 近年の出生率を見るとスイスは約1.5で日本の約1.4とそう大きくは変わらない。スイスにおける人口増加の秘密は多数の移民受け入れだ。最近の移民純増数は日本の13倍以上だ。(中略)その背景には移民がスイス経済を活性化させてきたという認識が広くあるからだと考えられる。
 そういう歴史があれば、移民を受け入れやすいのかもしれない。移民政策においては、スイスとはどういう国家なのか、その「国家のアイデンティティ」を歴史から紐解き、それに賛同する人をスイス人として受け入れ、国民へと感化していく。

 だが、今の日本はすぐにスイスを真似できない。本家ブログの記事「山本七平『「常識」の研究』―2000年継続する王朝があるのに、「歴史」という概念がない日本」でも書いたように、国家アイデンティティの基礎となる歴史が脆弱すぎる。その都度”日和見主義的”に生き長らえてきた日本には、確たる歴史がない。だから、もし今から何かできるならば、時代ごとに何を社会的な善と定義し、どんな出来事を社会的に重要と位置づけてきたのかを、丁寧に紐解いていくことだ。

 日本では、時代に応じて社会的な善が頻繁に移り変わった分だけ、また、時間だけを見れば2000年以上の歴史があるため、この地道な作業を行えば相当に重層的な歴史ができ上がる。それを拠り所として、現在の日本は何を善とするのかを明確にし、それに対応する歴史を分厚い蓄積から選択することで、初めて国家のアイデンティティが定まる。仮に、過去に参考となる善がないならば、類似の善のパターンから新たな善を構築しなければならない。

 ともかく、そういう作業をせずに、言い換えれば国家アイデンティティを持たないままに、数の問題だけで移民を受け入れれば、日本は間違いなく沈没する。

 (2)特集2は「明日は我が身のサイバー攻撃」であった。2020年には東京五輪が開催されるが、現代のオリンピックは大規模なシステムなしには成立しえない。様々な種目の出場選手情報とその記録を0.01秒単位で管理しなければならない。しかも、それらの情報は世界各国のメディアのシステムと連携している。

 これだけの巨大システムが、ハッカーによる格好の標的とならないわけがない。ゴール地点に設置されているOMEGAの時計に政治的メッセージを表示させたら、ハッカーの勝利だとも言われる。だから、オリンピックのシステムを構築する際には、「ホワイトハッカー」を大量に採用し、考えうる全ての抜け道を潰す。

 現代がIoT(Internet of Things)の時代になっていることが、システムの問題をややこしくしている。インターネットにつながっているのは、パソコンやスマートフォンだけではない。テレビや炊飯器、冷蔵庫、エアコンなど、家電もインターネットにつながっている。パナソニックは、メーカーとしては珍しく、自社システムの脆弱性を報告してもらう「情報受付窓口」を設置している。
 真夏に冷房が暖房に切り替われば人命にも関わる。日本中の当社の炊飯器がペンタゴン(米国防総省)を攻撃し始めたら、しゃれにならない。
とパナソニック関係者は危惧する。ペンタゴンが標的になるくらいだから、オリンピックのシステムが狙われることも十分に考えられる。

 東京五輪の開催が決まって以降、国立競技場の建設が間に合わないのではないか?など、建築面を心配する声はよく耳にする。だが、建築の問題は、実際にはそれほど深刻ではないと思う。あれほど品質の悪い建設業者が集まっている北京でも、何とか建設は間に合い、オリンピックは開催された。

 それよりも、ハッキングの方がよっぽど怖い。大半の日本人はハッキングに疎い(逆に、中国は建設よりハッキングの方が強い)。政府がようやくホワイトハッカーを公務員として採用することを決めたぐらいのレベルである。東京五輪で世界一安心・安全の都市をPRするどころか、システムがハッキングされて、「東京は情報面では全く安全ではない」と赤っ恥をかくのだけは避けたいものだ。