増補版 アメリカから<自由>が消える (扶桑社新書)増補版 アメリカから<自由>が消える (扶桑社新書)
堤 未果

扶桑社 2017-07-02

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 ・金融機関は顧客情報やクレジットカード情報を、通信事業者は通信情報を、医師は患者のカルテを、図書館の司書は利用者の貸し出し記録を、本屋は顧客の購買履歴を、といったように、国内の様々な機関や団体は政府から要請があった時はいつでも個人情報を提出しなければならない。

 ・政府は、テロ容疑者は戦争捕虜に関するジュネーブ条約の対象外であるとし、捕まえた容疑者のほとんどを海外に移送して拷問している。

 ・政府は従軍記者の取材に大幅な規制をかけ、戦争報道支配を開始している。メディアは、軍の許可を受けた情報以外は一切外に出すことができない。さらに、新聞社やテレビ局など組織への介入ではなく、ジャーナリスト個人が直接召喚されるケースも増えている。

 ・政府はインターネットの世界にも介入してくる。近年、政府を批判する記事を書いたブロガーが投獄される事件が増加している。運よく投獄を免れた場合でも、反政府的なHPには政府からアクセス制限がかけられる。

 ・政府や行政は、自らにとって都合のよい政策や法律を議会で通すために、大手広告代理店を利用してメディアで大々的にキャンペーンを展開する。政府や行政のみこしを担ぎ、反政府派を批判するコメンテーターや評論家は、広告代理店を通じて政府や行政から多額の報酬を得ている。

 これは中国の話ではない。アメリカで起きていることである。21世紀で最悪の法律と言われる『愛国者法』(日本の共謀罪のモデルとなった)をはじめ、ありとあらゆる法律を駆使して、アメリカ政府は国民を監視する。当初の目的はテロの防止であったが、だんだんと目的が拡大し、最近では反政府的な動きがないかどうか、国民の一挙手一投足まで細かく監視するようになっている。これはジョージ・オーウェルが小説『1984』で描いた監視社会とまるで同じである。

 私は書籍の大半をAmazonで購入している。ところが、ある人から「Amazonでは買い物をしない方がよい」と言われたことがある。Amazonは顧客の購買履歴を政府に提供しているというのだ。アメリカ政府は、外交の場において、各国の要人がどのような政治的思想の持ち主なのかを調べるために、Amazonの購買履歴を活用しているらしい。もっとも、私はアメリカの外交に関与するほど偉い人間ではないから、そんなことは気にしなくてもいいのだが・・・。

 ブログ本館の記事「マイケル・ピルズベリー『China 2049』―アメリカはわざと敵を作る天才かもしれない」で、かなりざっくりとだが下のような図を作ってみた。

4大国の特徴

 「アメリカ&ドイツ」VS「中国&ロシア」の対立は、冷戦構造の名残である。だが、この対立構造は最近複雑化している。まず、アメリカはEUの盟主であるドイツと覇権を争っている(アメリカによるフォルクスワーゲンの提訴はその一環だと思っている)。中国とロシアは旧共産圏の国であり、お互いを戦略的パートナーと見なしているものの、例えばウクライナ問題をめぐっては微妙に対立している。

 一方で、ドイツとロシアの接近も見られる。両国は第2次世界大戦で激しく戦火を交えたが、戦後は関係深化に努めてきた。現在、両国は経済的に深く結びついている。さらに、ロシアがウクライナ問題で国際社会から非難を受けた時には、ドイツのメルケル首相がロシアのプーチン大統領をロシア語でなだめるという一幕もあった(メルケル首相は旧東ドイツ出身なので、ロシア語も堪能である)。

 アメリカと中国の関係も複雑である。軍事面では対立を見せているものの、経済的には両者は切っても切れない関係にある。また、アメリカが旧ソ連に対抗し、旧ソ連と中国の関係の分断を図って中国に接近したという経緯もあり、アメリカと中国は完全な敵対関係とは言えない。そして、トランプ大統領という予測不可能な指導者が現れたことで、アメリカと中国が突然手を結んで日本のはしごを外す日が来るのではないかと私は内心恐れている(ブログ本館の記事「『小池劇場と不甲斐なき政治家たち/北朝鮮/憲法改正へ 苦渋の決断(『正論』2017年8月号)』―小池都知事は小泉純一郎と民進党の嫡子、他」を参照)。

 本書で書かれているように、アメリカも中国のように全体主義化している。非常に安直な考えかもしれないが、似たもの同士がひょんなことでくっつく可能性はゼロではないと思う。事実、第2次世界大戦では、全体主義国であった日本、ドイツ、イタリアが同盟を組んだという歴史がある。