こぼれ落ちたピース

谷藤友彦(中小企業診断士・コンサルタント)のブログ別館。1,500字程度の読書記録の集まり。

スイス

森田安一『物語 スイスの歴史―知恵ある孤高の小国』


物語 スイスの歴史―知恵ある孤高の小国 (中公新書)物語 スイスの歴史―知恵ある孤高の小国 (中公新書)
森田 安一

中央公論新社 2000-07

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 ブログ本館の記事「千野境子『日本はASEANとどう付き合うか―米中攻防時代の新戦略』―日本はASEANの「ちゃんぽん戦略」に学ぶことができる」などで、「対立する大国に挟まれた小国は『ちゃんぽん戦略』をとるべきだ」と散々書いておきながら具体的な戦略の中身を詰めていなかったのだが(汗)、だんだんと輪郭が見えてきた。「ちゃんぽん戦略」の目的は大きく分けると2つある。

 ①対立する双方の大国のシステムや制度のいいところ取りをして、自国を複雑化させる(INの戦略)。
 ②対立する双方の大国と交流し、利益を与えることで、双方から求められる国となる(OUTの戦略)。

 ちゃんぽん戦略は、政治面、経済面、軍事面という3つの面で展開される。まず、政治面のINの戦略とは、専制主義と民主主義の間をとって、独自の政治システムを構築することである。日本は民主主義を採用しているが、ほとんど自民党の一党独裁状態にあると言える。専制主義と民主主義を混合して、一定の政策の多様性を担保していたのが、派閥という伝統であった(ただし、小泉政権以降は派閥が弱体化しているため、やや心配である)。

 政治面のOUTの戦略とは、いわゆる「八方美人外交」である。インドやベトナムはこれが得意だ(以前の記事「山田剛『知識ゼロからのインド経済入門』」、「福森哲也『ベトナムのことがマンガで3時間でわかる本―中国の隣にチャンスがある!』」を参照)。また、環境問題など地球規模の重要な課題をめぐる意思決定の局面で、キャスティングボートを握ることである(以前の記事「田中義晧『世界の小国―ミニ国家の生き残り戦略』」を参照)。国際政治における小国の1票の価値は相対的に重いため、それを利用して大国を手玉に取ることができる。

 経済面のIN戦略とは、国家主導の市場制度と自由市場主義の間をとって、独自の経済システムを構築することである。日本は建前上は自由市場主義を採用しているものの、かつては護送船団方式と呼ばれる制度が存在した。現在でも、行政が業界団体を通じて企業に影響力を及ぼし、市場における自由を一部制限することがある。経済面のOUT戦略は至ってシンプルであり、対立する双方の大国と貿易を行い、双方に直接投資をすることである。日本の貿易相手国を見ると、輸出・輸入ともにアメリカと中国がツートップである。

 政治・経済面において、小国が対立する大国の双方と深く結びついていれば、大国は小国に対して簡単に手出しができなくなる。仮に一方の大国がもう一方の大国にダメージを与えるために小国を攻撃したとしても、自国も一定の損害を覚悟しなければならない。ここまでは何となく整理できた。問題は軍事面である。

 軍事面のIN戦略とは一体何であろうか?そもそも、軍事面において、政治における専制主義VS民主主義、経済における国家主導の市場制度VS自由市場主義のような対立はあるのだろうか?さらに、軍事面のOUT戦略となると、日米同盟に慣れきってしまった私には想像がつかない。以前の記事「百瀬宏『ヨーロッパ小国の国際政治』」では、デンマークが対ドイツのために軍隊を拡充する一方で、NATOが西からデンマークを経由してドイツを攻撃するのを防ぐ役割も果たし、ドイツに対し安全保障を提供しようとした例(この政策は結局実現しなかった)を紹介した。こういうことが、現在のアジア情勢において可能なのだろうか?

 スイスは、周囲を大国に囲まれており、戦略的に見て非常に重要な地域であるが、中世の時代から永世中立を貫いている。ただし、本書によると、中世のスイスは、周辺で対立する双方の国に傭兵を派遣し、傭兵同士を戦わせることで、スイス本土には戦火が及ばないようにするなど、結構ダーティーなことをやっていたようだ(もちろん、現在は傭兵は廃止されており、国民皆兵制度となっている)。

 また、スイスはナチスとのつながりも深い。第2次世界大戦の当初、スイスは連合国との貿易を盛んに行っていた。ところが、1940年に「スイス・ドイツ経済協定」を結ぶと、一転して枢軸国との貿易額が増加した。さらに、戦後のスイスは、「ナチス略奪金塊問題」で国際社会から批判を浴びた。この問題は、ナチスがユダヤ人などから略奪した金塊をスイスでロンダリングして、世界各地に販売していたというものである。Amazonで本書を調べると、関連書籍として福原直樹『黒いスイス』(新潮社、2004年)が出てきた。同書はこの辺りに詳しいのだろうか?

黒いスイス (新潮新書)黒いスイス (新潮新書)
福原 直樹

新潮社 2004-03

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『小さくても強い国のイノベーション力(『一橋ビジネスレビュー』2014年WIN.62巻3号)』


一橋ビジネスレビュー 2014年WIN.62巻3号: 特集:小さくても強い国のイノベーション力一橋ビジネスレビュー 2014年WIN.62巻3号: 特集:小さくても強い国のイノベーション力
一橋大学イノベーション研究センター

東洋経済新報社 2014-12-12

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 スイス、シンガポール、デンマーク、オランダ、イスラエルの5か国についての論文が収録されている。その中で、スイスの論文(江藤学「人材能力マネジメントが生み出すスイスのイノベーション能力」)を読んで感じたことをまとめておく。

 (1)
 スイスでは連邦政府による法人税の構成のうち、国税の占める割合がきわめて低く、法人税の納税額のかなりの部分は州が設定する税率に委ねられているため、(中略)ツーク(Zug)州、ルツェルン(Luzern)州などが低税率州として国外企業本社の集積地となっている。(中略)ここで重要な点は、スイスの各州が国外からの誘致をねらっているのは、本社あるいは研究所など、各国外企業の中枢となる組織であるということだ。
 スイスと同じように、法人税率を下げることで世界中から本社機能を集めることに成功しているのがシンガポールである(渡辺千仭「シンガポールのイノベーション力」)。シンガポールは、世界銀行の調査で「世界で最もビジネスがしやすい国」に選ばれている。日本でも、安倍内閣が法人税の実効税率を引き下げて海外企業を誘致しようとしているが、税率を下げれば海外企業がすぐに来てくれるなどという甘い話ではない。

 スイスの場合は、スイスを中心としてEU各国の市場にアクセスすることができる。同様に、シンガポールの場合は、グローバル企業がアジア統括拠点をシンガポールに置いて、中国・インドという2大市場や、インドネシア、マレーシア、タイなど急速に成長するASEAN諸国でビジネスを展開している。

 日本の場合、縮小する日本市場を目当てに進出してくるグローバル企業はほとんどないだろう。では、日本に拠点を置いて、アジアのどの国に進出することができるというのだろうか?こういうメリットがはっきりしていないと、法人税の実効税率の引き下げは何の効果ももたらさないに違いない。最悪の場合、単に法人税収が減るだけで終わってしまう可能性もある。

 (2)
 スイスにおける中小企業政策の基本は、大企業と中小企業とを区別せず、中小企業が大企業と同じ活動ができる環境を実現することである。(中略)スイスにおける連邦政府の産業政策とは、スイス企業を保護したり、資金援助したりすることではなく、「スイス企業をグローバル環境での激しい競争環境下に置くこと」なのである。
 最近、色々な中小企業の経営者とお話をさせていただいているが、「税金をびた一文払いたくない」と公言する経営者は決して少なくない。税引き前当期純利益の額を少なくするために、顧問の税理士を使って、時には粉飾決算にまで手を染める(経営者が意図的にやっている場合と、無意識にやっている場合とがある)。だから、中小企業の決算書を見ると、経常利益率が1%を切っていて、雀の涙程度の利益しか出ていないことがよくある。

 私は、利益を出さない、税金を支払わないという姿勢には、疑問を感じる。まず、企業が社会の中で事業をすることができるのは、政府や自治体が物理的なインフラを整えたり、公正な競争環境を保つために様々な法律や規制を作ってくれたりしているからである。そのためには税金が必要である。その税金を払わないということは、社会的インフラにタダ乗りしているのと同じだ。

 (1)で法人税について触れたが、昨年、法人税率の引き下げに伴う税収減を、外形標準課税の適用拡大で補うという話があった。この時、中小企業からは強い反発の声が上がり、各種中小企業団体は自民党に要望書を提出した。しかし、本来であれば、赤字であろうと何であろうと、相応の社会的コストは負担するべきだと思う。それが嫌なら、社会の中で企業経営などしてはならない。

 利益を出さないというのは、将来に向けた投資を放棄しているのと同義である。例えば製造業の場合、機械装置は必ず古くなるから、定期的に入れ替える必要がある。そのための原資を、毎年の利益からプールしなければならない。売上高が3億円、機械設備が10台ある企業で、機械設備の更新サイクルが10年であれば、毎年1台はリプレースすることになる。

 機械装置が1台2,000万円、法人税率が35%だとすると、毎年3,000万円以上の利益を上げなければ、設備投資ができない計算になる。経常利益率にすると10%以上だ。ところが、中小製造業の平均経常利益率は1.7%しかない。

 利益を放棄して将来への投資を怠っているため、市場で競争する上で最低限揃えておくべき機械装置が入っていない中小企業は結構あると思う。そして、そういう企業に対して、設備投資のための公的な補助金が出ているという話も聞く。だが、そこまでして中小企業を救済する意味があるのか、首をかしげたくなる。スイスほどでなくても、もっと手厳しくしてもよいのではないだろうか?

『今年こそ!お金を学ぶ/国も企業も個人も標的 明日は我が身のサイバー脅威(『週刊ダイヤモンド』2015年1月10日号)』


週刊ダイヤモンド 2015年1/10号[雑誌]特集1 今年こそ! お金を学ぶ/賢く貯める、殖やす、備える、使う/金融商品の基本の「き」リスクを知る/ホリエモン・藤野英人対談「僕らが考える、おカネの本質」/「ふるさと納税」人気自治体ランキング/特集2 サイバー犯罪の脅威週刊ダイヤモンド 2015年1/10号[雑誌]

ダイヤモンド社 2015-01-05

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 (1)スイスはデフレ下でも経済成長しているらしい。2014年7~9月期の実質GDPは2.7%の伸びを示したという。日本が同時期にマイナス成長となったのとは対照的である。
 最大の違いは、人口増加にあると思われる。特に生産年齢人口(15~64歳)の差は顕著だ。国連推計では、スイスは1990年から40年までの50年間で36%増加する(日本は28%減少)。現役世代がそれだけ増加すれば住宅需要は常に強く所費も底堅い。

 近年の出生率を見るとスイスは約1.5で日本の約1.4とそう大きくは変わらない。スイスにおける人口増加の秘密は多数の移民受け入れだ。最近の移民純増数は日本の13倍以上だ。(中略)その背景には移民がスイス経済を活性化させてきたという認識が広くあるからだと考えられる。
 そういう歴史があれば、移民を受け入れやすいのかもしれない。移民政策においては、スイスとはどういう国家なのか、その「国家のアイデンティティ」を歴史から紐解き、それに賛同する人をスイス人として受け入れ、国民へと感化していく。

 だが、今の日本はすぐにスイスを真似できない。本家ブログの記事「山本七平『「常識」の研究』―2000年継続する王朝があるのに、「歴史」という概念がない日本」でも書いたように、国家アイデンティティの基礎となる歴史が脆弱すぎる。その都度”日和見主義的”に生き長らえてきた日本には、確たる歴史がない。だから、もし今から何かできるならば、時代ごとに何を社会的な善と定義し、どんな出来事を社会的に重要と位置づけてきたのかを、丁寧に紐解いていくことだ。

 日本では、時代に応じて社会的な善が頻繁に移り変わった分だけ、また、時間だけを見れば2000年以上の歴史があるため、この地道な作業を行えば相当に重層的な歴史ができ上がる。それを拠り所として、現在の日本は何を善とするのかを明確にし、それに対応する歴史を分厚い蓄積から選択することで、初めて国家のアイデンティティが定まる。仮に、過去に参考となる善がないならば、類似の善のパターンから新たな善を構築しなければならない。

 ともかく、そういう作業をせずに、言い換えれば国家アイデンティティを持たないままに、数の問題だけで移民を受け入れれば、日本は間違いなく沈没する。

 (2)特集2は「明日は我が身のサイバー攻撃」であった。2020年には東京五輪が開催されるが、現代のオリンピックは大規模なシステムなしには成立しえない。様々な種目の出場選手情報とその記録を0.01秒単位で管理しなければならない。しかも、それらの情報は世界各国のメディアのシステムと連携している。

 これだけの巨大システムが、ハッカーによる格好の標的とならないわけがない。ゴール地点に設置されているOMEGAの時計に政治的メッセージを表示させたら、ハッカーの勝利だとも言われる。だから、オリンピックのシステムを構築する際には、「ホワイトハッカー」を大量に採用し、考えうる全ての抜け道を潰す。

 現代がIoT(Internet of Things)の時代になっていることが、システムの問題をややこしくしている。インターネットにつながっているのは、パソコンやスマートフォンだけではない。テレビや炊飯器、冷蔵庫、エアコンなど、家電もインターネットにつながっている。パナソニックは、メーカーとしては珍しく、自社システムの脆弱性を報告してもらう「情報受付窓口」を設置している。
 真夏に冷房が暖房に切り替われば人命にも関わる。日本中の当社の炊飯器がペンタゴン(米国防総省)を攻撃し始めたら、しゃれにならない。
とパナソニック関係者は危惧する。ペンタゴンが標的になるくらいだから、オリンピックのシステムが狙われることも十分に考えられる。

 東京五輪の開催が決まって以降、国立競技場の建設が間に合わないのではないか?など、建築面を心配する声はよく耳にする。だが、建築の問題は、実際にはそれほど深刻ではないと思う。あれほど品質の悪い建設業者が集まっている北京でも、何とか建設は間に合い、オリンピックは開催された。

 それよりも、ハッキングの方がよっぽど怖い。大半の日本人はハッキングに疎い(逆に、中国は建設よりハッキングの方が強い)。政府がようやくホワイトハッカーを公務員として採用することを決めたぐらいのレベルである。東京五輪で世界一安心・安全の都市をPRするどころか、システムがハッキングされて、「東京は情報面では全く安全ではない」と赤っ恥をかくのだけは避けたいものだ。
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プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 現ブログ「free to write WHATEVER I like」からはこぼれ落ちてしまった、1,000字程度の短めの書評を中心としたブログ(※なお、本ブログはHUNTER×HUNTERとは一切関係ありません)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~
所属組織など
◆個人事務所
 「シャイン経営研究所」◆ シャイン経営研究所ロゴ

(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長、および国際部員を務めています)

NPOビジネスサポート特定非営利活動法人NPOビジネスサポート
(監事を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)

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(一緒にお仕事をさせていただいている「コンサルビューション株式会社」は、世界最大の信用調査会社Experianの正規代理店です)

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(以下の資格の講師をしています。
 ―ITパスポート
 ―情報セキュリティマネジメント
 ―経営学検定(初級・中級)
 ―中小企業診断士(企業経営理論、経営情報システム、中小企業経営・中小企業政策)
 谷藤友彦と株式会社サイトビジット代表取締役・鬼頭政人氏の対談動画(1)(2)(3)
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